超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

私はあなたを、これからも友と呼ぶ。真心の全てをあなたに知らせたいからである。

エピソードの総文字数=2,882文字

 親友を、振った。


 その親友が居る寮へ、どんな顔して帰ればいいか、わからなかったんだ。

 あてどもなく、夜の街を歩いたよ。

 明日から、どう遊田へ接すればいいのか、考えながらだ。

 それは出口のない思考の迷路を、さまよい歩いてるようなもので――


 答えなんざ……出るわけがなかった。


 オーケー。

 ならば、こうしよう。ない頭を絞るのは止めだ。真っ向勝負でいくしかない。

 明日からも、親友として居続けたいと、その気持ちだけを、ちゃんと届けられれば、それでいい。

 夜遅く。寮に帰り着いた。
 俺の両腕には、ビニール袋いっぱいのスイーツだ。

 一応、お礼にスイーツくらいは奢ってやると約束したわけだしな。


 小遣い一ヶ月分くらいで、買えるだけ買ってきた。

 バカみたいだ。わかってる。こんな事で、慰められるかなんて、自信はないし、的外れな行動をしてるようにも思える。


 たぶん、大人になったら、あんときゃ随分ガキっぽい事したと笑い話になってしまうんだろう。けど、いいんだ。今の精一杯が、これなんだからな。

 居間に居たのは、召愛と羽里だけだった。

 二人はテーブルにノートPCを持ち込んで、ネトゲをやってたぜ。

 平和な平和な光景が、まだここにはあった。


「おかえり、コッペ。買い物に行ってたのか?」

 どう答えようか迷った。

 鍵の事は、一応は言っておいた方が良いだろう。

「選挙事務所室の鍵を落としちまってな。それを探したついでだ」

「見つかったのですか?」

「ダメだった。

 でも警備室には連絡しておいたし、選挙はもう終ってる。

 お前らは心配することない」

「そうですか。明日に、鍵の取り替えを発注しておきます」

 キッチンの冷蔵庫に、買ってきたケーキやらを詰め込んだ。

 冷蔵庫に物を入れる時は、持ち主の名前を書くルールになっている。

 パッケージには『イスカ』と名前を書いた。 

 こうしとけば、あいつが腹を空かして冷蔵庫を開けた時にでも、発見するだろう。


 それから、俺は二階に上がって、遊田の私室の前に来た。

 何か声を掛けなきゃいけない気がしたが――。

 結局なにも思いつかなかったんだ。



 翌朝。

 登校する準備を終えてから、居間へ下りて行ったら――


 召愛と羽里が、クッションの上で、折り重なるようにして寝てた。

 だらしない格好でだ。

「Zzzzzzz……」
「Zzzzzzz……」

 二人とも口を大きく開けて、涎たらしてな。

 ヘソ出して、両手、両足をおっぴろげてるぜ。


 テーブルのノートPCに、ゲーム画面が開いたままになってるのを見るに、

〝寝落ち〟だ。夜遅くまで二人でプレイしてる途中で居眠りしちまったんだろう。


 いつもなら、みんなで朝飯を食ってる頃なわけで、起きなきゃいかん時間だ。

「おーい、起きろ。起きとけー」

 反応なし。

「おい、次期生徒会長と理事長。

 お前ら揃って遅刻で停学とかになって、選挙無効になったら、笑え過ぎて腸断裂で死ぬかも知れないから、起きてくれ」

 ダメだった。二人ともぴくりともしない。

 だが、俺はネトゲ中毒者を一発で目覚めさせる魔法の呪文を知っている。

「おい、サイサイさん」

『サイサイ』とは羽里のネトゲRPGのキャラ名である。

「お前が寝落ちしたせいで、パーティーが全滅してるぞ。

 早く復帰してデスペナでドロップした装備回収しないと、ギルドメンバーのアイテム全ロストすんぞ」

 すると、羽里はガバっと起きた。


 そして、血走った目をギンギラギンにして、ノートPCに向き合い、画面を食い入るように見たのだが、パーティーが全滅してるどころか、安全な街にキャラが居るのを確認して、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。

「悪い冗談は止めてください。寿命が50年縮みました」

 と、抗議しつつも羽里はPC画面にメール着信がある事に気づいて、それをチェックしてだな。いきなり大きな溜息をついて、悩ましそうに、こめかみを押さえた。

「どうかしたのか?」

「学園のセキュリティシステムが、また不具合で、防犯カメラ等がしばらく使えないようです」

「前にも、寮のシステムがいかれた事あったな。

 ガバガバすぎじゃないか?」

「はい。今年の開校に間に合わせるために、システム構築を外注したのが失敗でした。うちのSEが言うには、プログラムがパスタコードになっているらしく」

「それ言うならスパゲティコードだろ。

 ともかく、羽里、時計見てみろ」

「ひぅっ!」

 羽里は必死に召愛を揺さぶり起こし始めたよ。

 だが、召愛は――

「んー、もっとグリグリしてくれ、彩ぃ……」

 などと寝言をほざいてる次第である。

 俺は飯を食おうと一人でキッチンに行って、冷蔵庫を開けて気づいた。

 昨日、詰め込んでおいたスイーツの大半が無くなってる。


 どうやら、遊田は俺が寝てる間に、大食いしたようだ。

 そういや、あいつの姿は見えないが……一足先に登校したってことだろうか。

 顔合わせるのも、気まずいんだろうな……。












 そんで、俺たち三人が登校して来た時だ。

 こんな張り紙がしてあった。

『防犯カメラなど一部のセキュリティシステムが使用不能になっています。


 なお、セキュリティ会社からの詳細は次の通りです。


[データの記録ルーチンに、致命的な不具合が発生し、これまでの全記録データが初期化され、バックアップにも自動で初期化されたデータが上書きされてしまいました。

 心よりお詫びを申し上げ、一刻も早い復旧を行う事を約束いたします]


                                以上』

 これまでの記録データは初期化――まっさらに消えたってことだ。

 さらに、今は、どんな事をやっても、記録には残らない。

(おい……。これ、ちょっと、不味いんじゃないのか?)
 そして――
「――」
【議員】の一人と目が合った。

 そいつは、昇降口の隅っこでスマホで誰かに電話を掛けながら、俺たちを見てたようだった。が、すぐに目を逸らされた。


 正直、良くない予感がした。

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