【トーク版】二年少女~ギャラクシー・ファンタジア・オンライン~

第16話「古代遺跡サナト・クマラ」

エピソードの総文字数=4,790文字

 蒸気急行列車の止まったキングスポートの街は、大陸に大きく食い込んだ湾と、そこからすぐにそそり立つレムリア山脈との間にある。

 行商人の中継地として栄え、やがて近隣の島々に点在する洞窟や、山の麓にぽっかりと口を開ける巨大な鍾乳洞、そして古代遺跡の財宝を求めて冒険者が集まるようになった、大陸でも一二を争う大きな街だ。


 赤レンガの壁に真鍮製の屋根のキングスポート駅に降り立ったもえたちは、一瞬も立ち止まらずに町の北側にある[古代遺跡サナト・クマラ]へと歩を進める。

 街から遺跡までは急ぎ足で20分ほど。

 遅くとも7時20分発のウェストエンド行き蒸気急行列車に乗らなければ、あつもりの予告した時間には間に合わない。

 攻略のために使える時間は正味1時間と少ししか無かった。

なので……中央の道を……
屋根の上はー?
確か一部は狙撃ポイントとして使えるはずです。

 作戦を列車の中で何度も確認する。

 作戦と言っても地図や出現モンスターについては、もえがリリースまでにネットや雑誌で確認した記憶が頼りで、お世辞にも万全とはいえなかったが、それでも思い出せる限りの情報をメモに書き付け、2人で何度も話し合った。


 話し合いの最中、不意にもえは楽しさを感じている自分に気づいた。

 あんなに楽しいと思っていたGFOだったが、いつの間にか誰かが確立した攻略法に則って効率的に動くだけのゲームになっていた、最初の頃は攻略のために情報をかき集め、仲間と協力して新しい何かに立ち向かうのが楽しくてゲームを続けていたんだと、もえは改めて感じていたのだった。


 2人の立てた作戦は、情報の少なさから非常に大雑把だったが、それでも満足するしか無い。

 古代遺跡の入り口は一つしか存在せず、そこから外周を回る左右2つのルートと、中央を進む大通りのルートの3つに大きく別れる。

 今回は大通りルートのゲートキーパーが財宝群の中に持っているはずの[アーティファクト・ボスガキタ]が目的なので、必然的に最短距離かつ最高難度の大通りルートを進むことになった。

 とは言え馬鹿正直に中央突破をする訳ではない。周辺に散在する裏道に身を隠しながら、敵を避けて進むのだ。

 理想はワンダリングモンスターとのエンカウントは0で進みたいというのが、彼女たちの望みだった。


 ゲートキーパーを発見したら、ヘンリエッタが前面で攻撃を仕掛け、その間にもえが財宝室から[ボスガキタ]を奪う。

 ゲートキーパーはゴーレムのような外見のモンスターで、なにか特殊攻撃は持っているのだろうが、基本的に動きはそこまで速くなく、一撃のダメージとスタミナが障害となる中ボスクラスといったところだ。

 この作戦にはうってつけの相手だといえるだろう。


 そうして[ボスガキタ]を奪った後の作戦はそれこそ無いと言ってもいい。

 ゲートキーパーとの戦いで周りの注意を引きつけてしまえば、隠れて撤退するのは難しい。

 それならば中央通りを一気に出口まで駆け抜けるのが一番生還率が高そうだと言うのが2人の見解だった。


  ◇  ◇  ◇


 馬も通れないような細い獣道の隙間から、そそり立つ城壁が姿を現すまでに、やはり20分弱の時間が必要だった。

 20mほどもある巨大な一枚岩を並べた城壁には登るための足がかりすら存在せず、ショートカットも出来そうにない。

 やはり一つしか無い入り口から攻略せざるを得ないようだった。


 2人は無言でゴーグルを装備し、開け放たれた城門に背中を付ける。

 息を整え5秒ほど中の様子を探ったもえが、ヘンリエッタに視線を送ると、ヘンリエッタは無言で頷いた。

 もえの手が銃の形を作り、前方へと倒される。そのハンドサインを合図に、2人は朝もやの立ち込める朽ちた建物の群れの中へ、音も無く吸い込まれていった。


  ◇  ◇  ◇


 朝もやの中を徘徊していた2頭の鎧を着たトカゲのような生物が、何かに気づき静かに警戒の唸り声をあげる。

 瞬間、空気の切り裂かれる音とともに1頭の頭部が爆ぜた。

 驚くもう1頭が湾曲した剣を鞘走らせた瞬間、素早い小柄な影がぶつかって打ち倒す。

 刃物が並んだような凶悪な顎を下から突き上げて押さえ込み、胸部に銃を深く突き刺すと「ビスビスビスッ」とくぐもった銃声が3発続けて響き、トカゲは動きを止めた。

 トカゲの死体から身を起こし、もえは肩で荒い息をする。2軒先の廃墟の影から紫煙を上げる銃を手に現れたのはヘンリエッタだった。

(ここまでは順調……と言って良いかもしれない)

 周囲を警戒し、もえは頬を伝う血と汗の混じったものを拭う。

 息を整えようと深呼吸をしたもえは、急にめまいを感じ、ガクリと膝をついた。

ひっ……ぅぎぃ……

 今の組み合いで斬られたのだろう、脇腹には深くえぐられた刀傷があり、赤を通り越して真っ黒な傷口から白い肋骨が覗いていた。

 悲鳴を上げたくなるほどの痛みをこらえてポーションを一本飲み、傷が消えるのを見守る。

 衣服とともに溶けて消えた傷に、もえは食いしばっていた口から小さく息を吐いた。

(……くそっ! やっぱり一撃一撃のダメージはデカい。ザコでこれだと、ボスクラスの攻撃食らったら一撃で動けなくなっちまうんじゃねぇか? オーバーキルのクソゲームバランスだな)

 思った以上にワンダリングモンスターの数が多く、避けながら進むという当初の目的は半分も達成できていなかった。

 しかし、濃い朝もやが遮蔽物の役目は果たしてくれている。

 おかげで、やり過ごせない敵でも不意打ちで片付けながら進むのにずいぶん役に立った。


 [射撃手]のヘンリエッタにはサイレントキルのスキルがあり、初撃をほぼ無音で打ち込めるのも大きい。

 もえにはそんなスキルはないが、現在装備している[レアリティ7]双機関銃ツヴァイハウント・クルツは元々銃身にサイレンサーが内蔵されたモデルで、アイアン・メイデンのように独自SEも無く音は小さい。

 それでも響く射撃音を相手の体に銃身をめり込ませて消音し、トリガーの調整で3点バースト射撃を行う事で補っていた。

(今ので6……7匹か? ヘッドショットや急所への射撃を正確に決めれば、本当に元のダメージがどうでも即死してくれるから何とかここまで来れたが、逆に言えばこっちも急所に食らったら即死だもんな……。3点バーストで撃ってたから弾は十分だが、ポーションの残りも半分切ってるし、結局はゲートキーパー戦次第か)

 呼吸を整えた2人は銃を構え直し、頷き合うと次の角へ向かって真っ直ぐ走りだす。

 朝もやの中に見え隠れしている巨大な黒い影を目指して進む二人の頭上へ、城壁の上まで登ってきた太陽が朝の光の束を注ぎ、もやを払った。


 二重の巨大なゲートの中央に、城壁そのものの様に膝をついているゲートキーパーが姿を表す。


 頭の先まで7~8mはあるだろうか。


 ゲームではよく見かける大型ボスの類だが、実際に物理的な質量を伴ったそれは畏怖の念を抱かせるに十分な姿だった。

 身震いして足がすくむもえの肩をぽんと叩き、振り返るもえに微笑みを向けると、ヘンリエッタは大通りの中央まで駆け出し、巨大な岩の怪物と対峙する。

さぁてー、やりますかー

 [レアリティ7]シュツルム・ゲーヴェル762のスイッチをフルオートに切り替えると、ヘンリエッタはゲートキーパーの頭部へ向け、正確な射撃を開始した。

 何十と言う弾丸が、頭部に握り拳ほども有るくぼみを作る。

 しかしそれは、ゲートキーパーが動き出すきっかけを与えたに過ぎなかった。


 突進するゲートキーパーの動きは見た目の鈍重さとはかけ離れた速さだ。

 それは巨大なトレーラーが真っ直ぐ突っ込んでくるのに等しい。

 しかしその分旋回能力は低く、ヘンリエッタは廃墟の瓦礫を利用して、なんとか距離をとって戦うことができていた。

(これなら! 今なら行ける! 頼む、ヘンリエッタ!)
 ゲートキーパーが離れた隙を狙ってゲートの中にある倉庫へ入り込もうと移動するもえの背中に、ヘンリエッタの悲鳴と、肉の潰れる嫌な音が聞こえた。
ヘンリエッタさん?

 思わず声を出して振り向いたもえの目に飛び込んできたのは、輪の一つ一つが子供用の浮き輪ほどの大きさがある金属製の長い鎖。

 ゲートキーパーの右腕から長く伸びるその鎖の先には、左足を潰されたヘンリエッタの姿があった。

(中距離攻撃だと?! ヘンリエッタ!)

 ゲートキーパーは、地鳴りのような音をたてて鎖をたぐり寄せ、もう一度振りかぶる。

 左半身の腰から下がズタズタに潰されていたヘンリエッタは、避けることも出来なかった。

 鎖に吹き飛ばされたヘンリエッタの肉塊が地面にボタボタと転がり落ちる。

ひぃっ!
 情けない叫び声を上げるもえの目の前で、肉塊の中心に真っ白な十字の光が立ち昇ると、まるで逆回しのフィルムを見るように肉塊が元の場所に戻り、光の中にヘンリエッタの姿を作り出した。
ぎゃぁっ! うううっ! がはっ!

 [復活のロザリオ]が効果を表し、蘇ったヘンリエッタは地面に転がる。

 しかし、その復活は死の痛みを消してはくれないようだった。

 弱々しく持ち上げた腕でそれでも銃を撃つヘンリエッタに、ゲートキーパーは突進の予備行動を行う。

(だめだ! いくら復活するって言ったって、一人じゃ連続攻撃の的にされて殺され続けるだけじゃねぇか!)

 落ち着いて狙いを付けることも、作戦を考えることも出来ず、もえはただフルオートで銃のトリガーを握り続けた。

 ゲートキーパーの背中に新たなくぼみがたくさん出来たが、それは大したダメージを与えることは出来ていない。

 それでもなんとか突進を止め、ゲートキーパーはうるさそうに鎖を持ち上げると、もえの足元をかすめ、壁を吹き飛ばした。

 吹き飛んだ壁の破片が体に突き刺さる。

 直撃を受けたわけでもない。ただ攻撃の余波を受けた、それだけで、もえの体は傷だらけになった。

っくっ! ごめんヘンリエッタさん! 作戦変更です!
 少しでも避けやすい場所を求めて走りながら、もえは空になった弾倉を交換する。
コイツ倒しちゃいましょう! 2人で帰るんです!

 銃創が出来ていると言うことはノーダメージではないのだと自分に言い聞かせながら、もえはとにかく盲滅法に銃を撃った。

 ヘンリエッタも死の衝撃から立ち直り、愚直にヘッドショットを狙い続ける。


 岩の巨人の周りで舞い踊る、淑やかなドレスを纏った少女たち。


 命をかけたその戦いは、傍目にはそんな幻想的な光景に見えた。


 走る。避ける。撃つ。弾倉を交換する。回復する。

 もうどれくらい続けていたのだろう、何分か、何時間か、もしかしたら数秒しか経過していなかったのかもしれない。

 何十発目かのヘンリエッタのヘッドショットがゲートキーパーの額に大きく穴を穿つ。

 現れたのは何か文字のようなものの書かれた山吹色のプレートだった。

もえちゃーん! あれー!

 鎖を避けて地面に転がり、両膝に血をにじませながらヘンリエッタが叫ぶ。

 もえもそのプレートに気づき、とっさにプレートへ向けて砲火を集中させた。

 プレートから響く金属音と飛び散る光が、確かに大きなダメージを与えていると言う確信をもたらす。


 しかし、もえは命中精度に気を使いすぎ、対象との距離感を誤った。

 気付いた時にはすでに遅く、ゲートキーパーの巨大な手は、もえの華奢な体を捉えていた。

っぐうううう! ああああああ!

体中の骨を砕かれるようなその圧力に耐えながら、もえは尚もプレートに銃弾を浴びせ続ける。

 更に数回の金属音を響かせたプレートから、まばゆい光が溢れ出した。

ヘンリエッタさん! 逃げて!
もえちゃん! あぶない!

 お互いの身を案じるその声はお互いの耳まで届かない。


 もえも、ヘンリエッタも、音も無いただ真っ白な世界へと飲み込まれていった。

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