超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

人が一人で居るのは良くない。彼のために相応しいメインヒロインを造ろう。

エピソードの総文字数=6,813文字

 で。


 俺たちが学校に着いた時には、すっかり入学式は終わってて、

 各クラスでのホームルームが始まってしまっている有様だった。

 二人で教室へ向かったよ。なんと奇遇なことに、同じクラスだったんだ。


 教室の扉の前まで来ると、中からクラスメイトたちの声が聞こえてきた。

 自己紹介をしてるようだ。入学初日の定番イベントって奴だ。


 しかしなんだ……。

 入学式すっぽかした上で、みんなが自己紹介してる中に飛び込んで、自分も自己紹介せにゃならんわけか。

 これ、すげえ難易度高くね?


 俺は正直、怖じ気づいて、扉を開けて中に入る勇気が、湧いてくれなかった

 けど、大変人の彼女はまったく違った。


                キリッ!

 と、しちゃってね。

 物怖じゼロ。扉に手をかけるや、ガラガラと開き、中に入った。

 俺も……続いたよ。

 教室にいる全ての人間が一斉に視線を向けてきた。

 男子の一人が自己紹介の途中だったのだが、その彼は何事かと中断してしまった。


 が、彼女は――


            すまない、続けてくれ

 と無言で訴え、彼へと軽く手をかざした。

 威風堂々たる振る舞い。大物政治家みたいだったよ。


 そこで俺は気づいたんだ。

 商店街でもそうだったが、こいつが大勢の人の前に立つと、どういうわけか、存在感とでも言うべきものが、半端なく高まってしまう。

 スポットライトを一身に浴びるような雰囲気が出てしまうんだ。


 なぜそんな事が起こるのか……たぶん、可憐な容姿でありながらも、威厳たっぷりな仕草。子供っぽい無邪気な表情でありながらも、大人びた迷いの無い目つき。

 そういったギャップが、計り知れない奥深さを、感じさせてしまうのかも知れない。


 自己紹介の途中だった男子は、彼女が突然に〝舞台〟に上がってきたせいで、自分が何を言おうとしてたのか、忘れてしまったようで。


「え、えっと、それじゃ、皆さん、よろしくお願いします……」

 とだけ言って着席してしまった。

 教室が静まりかえった。


 教師ですら、大変人な彼女の無言の存在感に圧倒されてるようだった。

 担任の教師は、もうじき定年なんじゃないかという歳の、ちょっと濃い顔のダンディーなじいさんだ。


「……」
「先生。他の生徒の自己紹介が終わったのでしたら、私たちのを、してもよろしいでしょうか」
「あ、ああ、良いが。でも、君たち、あれ、だよな……。

 来なかったよな。入学式に」

「はい、時間に遅れたことについては、私の方から、彼の分まで謝罪をします。申し訳ありませんでした」

「行事のサボりはな、半年間の停学に……なっちゃうんだが、知ってるのか?」

(半年停学……? 式に出なかっただけで?

 留年すんだろ……重すぎねえか?

 つーか、入学初日からそれとか、冗談じゃねえぞ……)

「なるほど」

 と、彼女は頷いて、黒板の前へと歩いて行き、そこへ立った。

 俺もなんとなく、そうしなきゃいけない気がして、横に並んだよ。

 ただし、俺の方は内心オドオドしながらだ。


「先生。あなたは、私たちが、不可抗力による遅刻ではなく、故意のサボりである可能性がある、と、こう仰りたいわけですね」
「疑ってかかりたいわけじゃない。でも、それを確認するのも、仕事なんだ。学校の規則でもそうなってる」

「規則ですか? 

 結構なことです。ですが、規則へ教条主義的に従うあまり、その規則が作られた精神を見失っては、元も子もない。そこで、先生に問います。入学式において、もっとも大切な事は、なんでしょうか?」

 こいつ、またなんか言い出したぞ……。

「――!?」
 担任は面食らった様子だ。

 長年の教師生活でも、こんなおかしな生徒は見たことない――みたいな眼差しで彼女を見ている。

「それは、やはり、そうだな。生徒たちが、これから三年間、それぞれの目標に向かって、決意を新たにする。

 そして、教師はその達成へ最大限の支援することを、誓い合う。

 これが、入学式の主旨だろう」

「おお!」
 彼女は、すんごい感心したみたいに拍手しだした。
「なんと立派な。あなたは教師の鑑だ。

 どうした、クラスの皆、拍手をするべきだ。さあ」

 いきなり言われても、クラスメイトは戸惑うばかりで、お互いに顔を見合わせてる。


 そんな様子が、居たたまれなくて、俺は拍手してやったよ。

 するとだ。

 それに釣られたみたいに、クラスメイトもパラパラと拍手しだし、だんだんとクラス中に広まっていき、最後には全員が拍手してた。

「先生、私も全面的に同意です。

 入学式とは、生徒と、教師が、心で手を取り合うことが本質だと思う。では、ここで改めて問います。心で手を取り合うと事に、場所や、時間は、重要なのでしょうか?」

「それはだな――」
 そこで彼女は軽く手をかざし、担任の言葉を制した。
「結構、仰らなくてもわかります。

 なぜなら、私と先生は、同じことを考えているのだから。


 心で手を取り合う事に、場所や時間など関係ない。


 だって、先生、あなたが今、厳しいことを仰りながらも、心の手を差し伸べてくださっているのが、私には見えます」

「――!」
 担任はハッとしたみたいにして、自分の胸に手を当てたよ。

「先生、あなたが差し出している心の手を、今、この場で取っても、よろしいでしょうか」


            ――コクリ

 と頷いた。

 担任、頷いちゃった。

 なんかこう、感動しちゃってる感じの目でね。

「では、これが、この場が――私たちの入学式ですね。ありがとうございます。先生」

 キラキラした瞳でぺこりとお辞儀した彼女。

 それを見詰める担任は、『ああ、教師やってて良かった』みたいな満足げな表情で、何度も何度も頷いてた。

「ああ。良いぞ。何も心配する事ないからな。お前は今、確かに、入学式を完了した。僕がそれを保証する」

 す、すげえ。

 だって、今の一連の流れって、あれだよな。


 遅刻して、入学式すっぽかした開き直りを、なんとなく壮大っぽくした詭弁じゃん?

 それをなんかもう、普通に美談っぽくしちゃいやがった。


 いや……違うのか?

 こいつは、たぶん言い訳をしたわけじゃない。

 本心からの言葉を、正直に話しただけだ。

 それが自然に美談になってしまうのならば、もはや言い訳じゃない。

 ただの、本当の、美談だ。

 こいつ、やっぱ、ただ者じゃない。


「それでは、私からの自己紹介に移らせていただいても?」
「もちろんだ。やっちまえ」

 彼女は一歩だけ前へ出た。

 教室はもう、完全に彼女のための舞台と化してしまっているようで、全員が物音一つたてず、自己紹介の第一声を待ちわびているように見える。


 でも彼女はすぐには喋り出さず、クラスメイトの一人ひとりと、順番に目を合わせて、微笑みかけていった。

 そうして時間が過ぎるごとに、彼女の自己紹介への期待が、膨らんでいっていたのだと思う。


 そして、ついに、彼女は口を開いた。

「私の名は、名座玲(なざれ)召愛(めしあ)、




       イエス・キリストの生まれ変わりだ」

 ……?

 今、こいつ、なんて言った。

「私の名は、名座玲 召愛」

 彼女はもう一度言ったよ。

 大事なことなので二度言いましたというよりも、教室中がポカーンとしちゃってて、ノーリアクションだったからだと思う。


 うん、名前はまあいい。そこは理解できる。

 名座玲は、この辺の町名だし、地元民なら有り触れた名字。

 メシアってのも、かなりキラキラしちゃってるネームではあるが、愛を招くという意味を持たされてるんだろうし、良い名前ではある。


 だが、問題はそこじゃない。

「はっきりと、もう一度言う。私は

 イエス・キリスト

                       の生まれ変わりだ」

 言いやがった。

 冗談でもなんでもなく、真顔でだ。


 おい、召愛、ちょっと見ろ。みんなの顔、見てみろ。

 すんげえ複雑な顔しちゃってるぞ……。


 お前、さっきまで、なんかすごい奴だと一目置かれてたのに、今は、みんなからどう思われてるか、わかるか。

 わからないんだろうな、お前は……!


 よし、じゃあ、俺が教える。評価を下してやる。

 お前言ってたもんな。

『何をするかで、何者であるかが決まる』と。

 うん、俺もそう思うぞ。


 でだ。今の行動によって決定してしまった。お前が何者なのかがだ。

(超絶大変人)

 これだ。どうだ。すごいだろ。

 パワーアップしちゃったぞ。喜べ。いや、喜ぶなよ。

 俺は、お前の事を心配してやってるんだからな?


 商店街の演説でもそうだったが、お前は途中までは、すごく格好良く決めてるのに、なんでこう、クライマックスの決め台詞で、斜め上をブッコいて台無しにしちまうんだ。


 残念すぎる。ほんとーに残念すぎる!

 すまんけどな、俺、今回は徹底して、他人の振りさせてもらうからな。

 お前と俺は一切関係ない。怨むなよ?


「次に、私の弟子を紹介しよう」

「――!」

 What?

   弟子? ワット、イズ、デシ?

 それはなんだ。これはペンですか?

 いいえ、ジョンです。ジョンはリンゴですか?

 メアリーがリンゴで、ボブがチェアーで――


 まずい、激しく混乱している。落ち着け、俺。

 深呼吸しろ。だが、このとてつもない嫌な予感はなんだ?

 弟子なんて初耳だぞ。お前に居たのかそんなもんが?


 ん?



       ――チラッ

 こっち見てらっしゃるうぅ……!

 しかも、キラキラの澄んだ瞳でぇ……!

(見るな!

 こっち見んな!)

 なんだ、なんで、弟子を紹介しようと言って、俺を見る?

 そこにいるのか弟子が? いないぞ。俺の隣には何もいない。

 てことは、なんだ。

 俺の悪い予感がバッチリ当たっちゃうんじゃないのか……。


 待て、待ってくれ、それだけは止めてくれ。

 お前のような大変人に弟子認定されたら、俺も大変人扱いされて、高校生活が初日から終わる、つーか、青春が終わる!


 お願いだ。神様、仏様。

 今まで神社やお寺でお賽銭とかしたことないし、教会でお祈りとかもしたことない無神論者だけど、都合良く助けてくださいお願いします。


 この罰当たりな超絶変人に天罰をば、覿面を!


「こちらが弟子の――」

 召愛は俺を手で指し示して言ったよ。

「コッペパン。通称、コッペだ」

 無慈悲ぃー! 


 こんな血も涙もない横暴が許されるのか?

 やっぱこの世に神も仏もあったもんじゃねえ。

 ていうかだな。

「コッペパンと俺を紹介したあとで、通称コッペはおかしいだろ!

 それじゃ、俺の本名がコッペパンだと、みんな思っちまう!」

 そこか?

 つっこむべきはそこなのか俺?

 落ち着け。もっと根本的な部分を否定しなきゃダメだろ

「似合ってるから、いいのではないか?」

「なんだそりゃ、安っぽい顔してるってことか。

            公式アイコンなめんなよ!」

「そうじゃない。

 君は、何ものにも染まっていない、プレーンで公平な人間の顔をしている。その公平な心で、私の側で、私が何をするかを見て、何者であるのかを見極めてほしい」

「意味わかんねえよ。

 だいたいな、俺はお前の弟子に成った覚えなんざない。

 今日、さっき、出会ったばかりの、あかの、他人だ!」

「絆に、時間など関係ない。

 私は商店街で、君を災難から身をもって救った。


 その後の、つかの間の休息では、君がなけなしの小遣いで、買ってくれたペットボトルを、分け合って飲んだ。


 そして、行くべき道を見失った困難に際しては、逆に君が私の手を取り、導き、窮地を脱した。


 最後には、桜舞い散る桃源郷のような川辺を、身を寄せ合い、語らいながら歩いたではないか」

 ドタバタ劇を、なんかラブコメ系のときめき話しっぽくしちゃいやがって……。

 こいつのこの、無限の詭弁力はいったい、どこから来るんだ?

「どうだ、コッペ、これがあかの他人か? 

 君とは運命で繋がっている。だから今、弟子にした」

「いや、俺は弟子じゃない。あかの他人だ」

「いいや、君は弟子だ」

「違うって言ってんだろうが、俺はだな――!」

「よーし。じゃあ、君らの自己紹介はそこまでだ。

        ――夫婦漫才は休み時間でやるように」

 締めくくりとばかりに、担任がニッコリしながらそう言うと、クラス中がドッと笑ったよ。
「夫婦とは、参ったな」
 あっけらかんと言ってきた召愛へ、俺は全力スルーで肩を竦めるしかなかった。
「……」
「君らの席はあっちだぞ」

 担任が指さした先を見てみて、俺はちょっくら戦慄ってもんを味わってしまった。

 俺と召愛の席が前後で並んでいた。

 俺が前で、召愛が後ろだ。

 

 席へ歩きながら、俺は考えちゃったよ。

 なんだこのラブコメ時空は? とだ。


 運命で繋がっている?

 そんなん信じるつもりはないが、もし運命すら司る神様が、本当に居るとしたら、きっとそいつは学園ラブコメ王道展開が大好きなんだろうよ。

 さすがは、エデンの園で、アダムがボッチ過ぎて寂しそうだからと、わざわざイブを作り出した奴と言ったところか。


 ああ、そうかい、お前の趣味はよーくわかった、神様野郎。

 しかしな、俺と召愛を、全力で、くっつけにきやがってるなら、頼むからやめてくれないか……。


 あのな、こりゃあ、どう考えても、メインヒロインの著しい配役ミスだ。

「ちょっといいか、コッペ」
 席に着くや否や、召愛は後ろから俺の肩をつついてきた。
「今日から、本格的に人間を救う活動を始めようと思う。

 まずは、アメリカ大統領と面会して、全ての戦争行為を止めさせる説得をする。

 次に中国へ行き、人権弾圧を行わないよう確約させる。

 あとはロシアに健全な民主化を約束させる。

 ついでに北朝鮮で説教して核開発を停止させる。


 その後に、国連で10時間ほど演説したい。

 それらの事務作業が弟子の仕事になる。

 トランプと、習近平と、プーチンと、金正恩にアポを取っておいてもらえないか」

 ほら神様よ。わかったか。

 ラブコメのヒロインとは、こんな事を言い出す奴ではいけない。

 こういうのが許されるのは、メインヒロインではなく、脇役の色物キャラだけだ。

「いいぞ――」
 と、俺は極めて投げやりに安請け合いした。
「――じゃ、まずはそいつら四人の電話番号、教えろよ」

 もちろん、冗談のつもりだ。

 でも召愛といえば。

「ちょっと待ってて。今調べる」

 なんて、スマホで何かを検索し始めちゃうわけだ。

 真剣な顔の、キラキラした澄んだ瞳でだ。

 真面目に全人類を救おうと考えちゃってるんだろう。


 こういう時に、常識人たる俺が取るべき態度は、本人に見えないよう、苦笑いでもすることだ。


 だから、召愛から顔を逸らして、窓の外へ目を向けたよ。

 四月の青空に向かって苦笑いをしようとした。

 でもだった。

 俺の苦笑いは、苦笑いというより、微笑みに近くなってしまったような気がした。

 どういうわけか、俺には、こいつを憎めそうにないらしい。

 

 そして、思ってしまったわけだ。

『誰でもいいから教えてくれ』とだ。

 運命の神様的なものが、どんな悪戯なのか知らないが、大変人と俺とを、全力でくっつけに掛かってきたら、どうすればいいのか?


 全力で逃げるべきか?

 それとも、運命に身を委ねてしまってもいいのか?


 がらにもなく、そんなファンタジックな事を一瞬考えてしまったわけでな。

 もし、何か間違いで、こいつと付き合うことになったりしたら、どんだけ壮絶な生活が待ってんだろうと、ろくでもない妄想すら、しそうになった。


 だが、それだけは絶対にありえない。

 なんせ、俺のこいつに対する恋愛ゲージは、マイナス値のままなんだから。

「そういえば、コッペの商店街の事での加罰はどうなったんだろう?」
 俺にとっては、人類の救済より、そっちのがよっぽど重大事だった。

「帰る前あたり、俺が呼び出されんじゃん?

 というか……。それだけじゃなくてだな。

 入学式に出なかった事を、羽里の奴が知ったら……。

 ほんとに停学にされちまうんじゃないか?」


      ――ギクッ!

「だ、大丈夫だ。任せてくれ。私の説得スキルはA+だ」

「説得しようとして、斜め上に暴投するスキルがS+の間違いだろう。

 いいか召愛。もし、入学式のことで羽里から言われたらだぞ。

 俺から事情を説明する。お前は黙ってるんだ」

「な、なんだと――」

 召愛は不満そうにゴチャゴチャ文句を言い出したぜ。


 しかしだな……。

 俺の場合は、式の欠席に合わせて、商店街での危険行為の罰も加算されるわけだ。

 式欠席だけで、半年停学させられるってことは、危険行為の罰も、相応に厳しいものなんだろうし……。


 あれ……なんか、俺、すげえやばんじゃないか、これ?

 いきなり1年間くらい停学になったりしないよな?

 むしろ、初日に退学……とか、さすがにない、よな?


 いやあ、ないだろ。

 退学はないって。うん

 常識的に、そんなんあるわけがない。

 あるわけがない!

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