変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第15話「それはその人のもんでしょうが!! なに勝手に食ってんのよ!!」

エピソードの総文字数=6,746文字

 帰宅した後、篤志は買ってきた弁当を両親に渡す。
 因みに、夕食がコンビニ弁当というのは、似鳥家にとっていつものことだ。
 親は信仰に掛かりきりでほとんど家事をしないし、篤志もそんな両親のために料理を覚えてみたいとは思えなかった。
「ここってさ、本当は日本なんじゃねーの? 日本語が通じるし、日本円だって使えたぞ」
「そうか、さすがは羽音神様の御座す島だな。自らを排斥した賤しい国のものでさえも快く受け入れる度量の広さ……」
「それに比べると、日本という国は本当に小さく、愚かしいわ……」
「…………」
(あー駄目だこれ……)
(やっぱり話になんねーか……)
 食事中、この島について色々尋ねてみたが、結局両親からは有用な情報は得られなかった。
 唯一の収穫といえるのは、この話くらいか。
「偉大なる第五使徒様は、聖地での滞在費として私たちに五十万円をくださった」
「本当にありがたいわ。いつかこの御恩に報わなければ。大切に使わせていただきましょう」
「ふぅん、五十万ね……」
(教団のくせに太っ腹だな……)
(やっぱ何か企んでるんだろうな……)
 考えてみるが、情報が足りなさすぎてどうにもならない。
(つうか、五十万の元手があるのは心強いけど……)
(収入がないまま生活したら、いつかは必ず枯渇するよな……)
「あのさぁ」
「? なんだ?」
「オレらって、就職していいの? 『タツミ一家』の名で履歴書書いても大丈夫なの?」
「何言ってるんだ。せっかく聖地に来たんだぞ? 働いてどうするんだ」
「そうよ、時間が勿体ないわ。そんなことよりお祈りに専念しないと」
「えーっと、じゃあその五十万を使い果たしたらどうすんの? そうなる前に働くとかした方がいいんじゃねえの?」
「ふぅ、篤志はお金の心配ばかりだな」
「いつも言ってるけど、お金よりも大事なことがあるのよ、篤志」
「おまえのそういう考え方は私の両親にそっくりだ」
「そうね、お父様もお母様もいつもお金と仕事の話ばかりしていたわね」
「…………」
(つまり、オレが真っ当ってことだろ……)
 建設的な意見の応酬が出来ないままに、食事の時間が終了する。
 その後はゴージャスなバスルームで何となく落ち着かない入浴を済ませ、自室に戻った。
「…………」
(とにかく、テレビを見よう……)
 夜になってしまったし、情報収集の手段はそれしかない。
 また、暇潰しの娯楽もそれくらいしかなかったりする。
 スマホのパズルゲームはオフラインでは遊べないし、唯一のパソコンは重すぎて話にならないし、妹とトランプをするのだけは勘弁だ。
(つうか、こんなに長いことネットに繋がってないとか何年ぶりだろ……)
 小学生の頃からネットの世界にどっぷりだった篤志なので、ソワソワしないといえば嘘になる。
 いっそのこと、謎のWi-Fi≪UNE-City-FREESPOT≫に繋げてしまおうかとも思うが……それはやはり駄目だろう。
「…………」
 テレビリモコンを手に、チャンネルを色々変えてみる。
 羽音神島のローカルチャンネル四つの中から、一番有用な情報が得られそうなものを探す。
(おっ、ニュースをやってるチャンネルがある……)
『羽音神市立動物園にカーバンクルの赤ちゃんがやってきました。ウネニア王立動物園から寄贈されたこのカーバンクルの赤ちゃんを一目見ようと――』
「…………」
(これ、昼にも聞いたニュースだな……)
 ただし、昼間の五分間ニュースと違って時間に余裕があるようで、この案件についてより深くが語られる。
『第一世界では野生のカーバンクルが見られます。ウネニア王国ではカーバンクルの保護に取り組んでいますが、近年では密猟者による乱獲が相次いでおり、大きな問題となっています』
 映像が切り替わり、異国の風景が映し出された。
(ヨーロッパか……?)
 そう思ったのは、風景の中に西洋風の城郭が見えたからである。
 また映像が切り替わり、金髪碧眼の男性が映し出された。
 画面右部の縦書きテロップには『エドワード王子』とある。
『カーバンクルの額の宝石には強い魔力が込められており、錬金術や魔道具製作の分野で大変重宝されています』
(ふうん、王子か……)
(道理でどことなく気品があるというか……)
『しかし、その貴重な石も、ダンジョンに出現する魔物「マッド・カーバンクル」の額の宝石で代用可能なものです。敢えて野生のカーバンクルを乱獲し、森の生態系を乱す必要はありません』
「…………」
『ウネニア王国では森に棲むカーバンクルを保護するため、法を制定し、国民に理解を求めてきました』
「…………」
『だが残念ながら、ダンジョンでマッド・カーバンクルを捕獲出来ない他国のハンターがこの国に入り込み、一攫千金を目論んでカーバンクルの密猟を行うケースが後を絶ちません。これを何とかするのが今後の課題です』
「…………」
 ニュース番組の後には、スポーツ番組のようなものが始まった。
 昼間のニュースでも言っていたが、もうすぐサッカーの大きな大会があるらしく、それに関する特番のようだ。
『いよいよ始まります、サッカー【異世界リーグ】! 第三世界から選抜された六チーム、また第一世界と第四世界のチームから、注目の選手を紹介していきましょう!』
 この特番の後は、他のチャンネルのドキュメンタリー番組を見ることにした。
 なんでも、羽音神島民の手によって第一世界というところで買われた奴隷が、不法入界?によってこの羽音神島で暮らしているらしい。
『ご主人様は悪くありません! 第一世界で買われていたら私はもっと酷い目にあっていました! ご主人様は私に良くしてくださいました! お願いです、どうかご主人様を助けてください!』
 それは、市が定めた条約的にはアウトなこと。

 だが、買われてきた奴隷は、元いた第一世界では得難いほどの幸せな暮らしをしているとのことだった。
 彼女のご主人様は逮捕され、彼女は第一世界に強制送還されることに決まったそうだが、この結末には救いがないのではないか――そういう内容のドキュメンタリー番組だった。

「…………」
(不法入界、か……)
(オレみたいな場合はどうなるんだろう……?)
(もしお咎めなしで強制送還になるなら、それは願ってもないことだけど……)
 このドキュメンタリーの後はまたニュースを見て、そして第一世界とかいうところの都市を旅する旅番組のようなものを見た。
 その後は、頭の悪い深夜のバラエティ番組、最後はまたテレビショッピング。
 時々休憩を挟みながらも、結局深夜二時過ぎまでテレビ番組を見続けた。
(こんなにテレビ見たの久しぶりだよ……)
 長時間のテレビ視聴により、とりあえず分かったこと。

 ここでいう『世界』には【第一世界】と【第三世界】と【第四世界】があるということだ。

 【第一世界】というのは、篤志の認識でいうところの"RPG的なファンタジー世界"――ダンジョンがあって、冒険者がいて、魔法がある世界。

 【第三世界】というのは、この羽音神島のこと。
 また、この羽音神島では、日本のことを『本土』と呼んでいることもわかった。
 『本土』――これは離島に住む者が本州などを指す時に使う言葉であり、そのことから、この羽音神島では自分たちの所属を日本だと考えていることが読み取れる。

 なお、篤志にとってはここは『羽音神島』だが、ここの住人にとってはここは『羽音神市』らしい。
 多分だが、この島全域が一つの市になっているようだ。

 最後に【第四世界】――
 どうやらそこは、恐らくこの世界より科学技術の発達した、篤志の認識でいうところの"SFのように未来的な世界"らしい。
(オレらは、この第四世界の出身ってことになってるんだよな……)
 わからないのはここよりも先進的な世界の人間が、自分たちの身分を偽って通り名を使ってここで生活しているということだ。
 第四世界のことをもっと知りたかったが、残念ながらもうすぐ始まるサッカーの大会の影響で、現在の第四世界の話題はそれ一色になっている。
(とりあえずそろそろ寝るか……)
(テレビ見すぎてちょっと疲れたし……)


……

…………


 翌日、目を覚ますと昼だった。
(あー……なんかいっぱい寝た……)
 どうのこうので疲れが溜まっていたらしい。
 広くラグジュアリーな部屋にはまだ慣れず「夢じゃなかったんだな……」なんてことを考えながらダイニングの方へ向かう。
 ダイニングテーブルの上に書き置きがあった。
 「三人で会館に行ってきます」というメモの横にはパン屋の袋が置いてある。
 これを朝食にしろということらしい。
(まぁ、ここのパン美味かったからいいんだけどさ……)
(それより『三人』かー……)
 どうやら篤志の起床が遅かったせいで、妹が両親に連行されて教団の施設に向かってしまったらしい。
(染まって帰ってきたらマズイなー……)
(でも、まぁなんとかなるだろ……)
 あんなパープー妹でも、この年になるまでカルトに染まらずにきたのだ。
 たった一回会館に連れて行かれたぐらいで、今更染まるとも思えない。
 妹のことは放っておくことにして、顔を洗ってパンを食べる。
(よし、早速探索に出るか……)
 篤志の私物は『要らないもの』と『すごく大事なもの』のどちらか。
 せっかくなので、名古屋に着て行く予定だった『すごく大事なもの』に属する服を着ることにする。
 ついでに、使う機会があるかどうかはわからないが、ビデオカメラも持っていくことにした。
 玄関に置いてあった合鍵を取り、戸締りをして外に出る。


……

…………

 空は青く、風は爽やか――絶好の散歩日和である。
(さて、どっちに向かおうかな……)
 正直、マンハッタンのような高層ビル群の方に向かうのはまだちょっと怖い。
 とりあえずは、昨日行ったコンビニの方に向かうことにする。
 ついでにコンビニでコーラを買った。
(このコーラ、すごく美味かったんだよな……)
 昨日飲んだ時は、思わず、口をつけてそのまま一気に一本全部飲み干してしまった。
 またコーラだけでなく、弁当や菓子類もどれもこれも異様なまでに美味かった。
(ここってやたらと食い物のレベル高いよな……)
 もっと色んなものを食べてみたい気もするが……まぁ何はともあれ、今はコーラを御伴に少し歩いてみることにする。
「あら、こんにちは」
「あ、ども、こんちは……」
 住宅街を進んで行くと、住民とすれ違うことがある。
 どうやらこの地では顔見知りでなくとも、すれ違えば挨拶を交わすのが習慣のようだ。
 高級住宅街を抜けて、周囲の家屋のグレードが下がってもその風習は変わらない。
 老人や幼い子どもだけでなく、スーツ姿の壮年の男性まで挨拶してくるのが篤志には少し不思議だった。

 元来た道がわからなくならないように気を付けて進んでいく。
 だが、周囲はひたすら住宅街が続くばかりだ。
(なんかこう、商店街みたいな所に行きたいよな……)
(もっと人が多く集まるような場所……)
(でも、道を訊くってのもな……)
(他所者丸出しだから、疑われるきっかけになるかもしれないし……)
 とはいっても、閑静な住宅街ばかり歩いていても情報は収集出来ない。
 せいぜい、わけのわからないものが通りがかるのを見てギョッとするくらいだ。
 魔物めいた生き物を連れて散歩する人や、浮遊するサーフボード?に乗って飛ぶ人や、馬に騎乗して駆けていく人。
 空を見上げれば、箒に乗って飛ぶ人や、やたらと大きな鳥に乗って飛んでいる人もいる。
(頭がおかしくなりそうだ……)
 やがて、大きく立派な建物が見えてきた。
 少し気になって「何の建物だろう?」と思いながら歩いていると、門のところに【羽音神市立桜町高等学校】と書いてあった。
(マジかよ、これが学校なのか?)
(すげーオシャレ……)
(つうか、この高校って……)

(妹が通ってる設定の高校になってなかったか、確か……?)

 そんなことを考えつつ、高校の横を通り過ぎて更に歩いていく。
 そして午後三時過ぎ、ついに目的にしていた商業エリアに辿りついた。
(【桜町商店街】……)
(これって、昨日のテレビに出てたお好み焼き屋のある所か……?)
 早速、アーケードに入ってみる。
 かなり賑わっているようだが、おかしな恰好をした人も多い。
 髪の色は言わずもがな、ファンタジー世界の住人のような恰好をした人か結構いるのだ。
 あと、彼らに比べれば平凡な恰好ながら、金曜日の午後三時という時間のわりにスーツ姿の人間が目立つのが気になる。
(おまえら仕事はどうしたんだよ……)
 そんなことを考えながら、篤志は人混みに紛れていく。
 おかしな恰好の人がいても、誰もそれを気にしている様子がない。
 『GOOSE DUDE』のTシャツに『Lye』のジーンズ、『chambion』のジャケットに『MIKE』のスニーカー――ごく普通の格好をしている篤志など、彼らに比べれば全く目立ちはしない。

 飲食店、衣料品店、生活用品店、雑貨店――
 そういった普通の店の他に、白魔術専門店、妖精魔法専門店、魔道具専門店、魔導書専門店といった、いかにもファンタジックな店がある。
 また、武器屋や防具屋といったゲームの中でしか見たことがないような店もある。
(すっげー気になるけど……)
(先々が不安だからあまり金は使いたくねーんだよな……)
 また、買う気がないのにじろじろ見るのに少し躊躇いがあるので、基本的に店の中には入らない。
 それでも、珍しすぎる商店街は見て歩いているだけで楽しく、つい時間を忘れてしまう。


……

…………


「……ん?」
 ふと、良い匂いがしてきて……その店を覗き込んだ。
 弁当屋――いや、肉屋からだ。
 たまたま店先に出てきていたハゲ頭の店員とふと目が合う。
「兄ちゃん、弁当どう? 安くしとくよ」
(あー……)
(言われてみたら、そろそろ腹減ったよな……)
 肉屋の弁当は美味いと相場が決まっている。
 あまり金を使わずにいたかったが、夕飯ぐらいなら買ってもいいだろうと篤志は肉屋に入ることにした。
「今日のおすすめは焼肉弁当だよ」
「じゃあそれ一つ」
「毎度あり。つうか、兄ちゃん見ない顔だね」
「あ、その、最近引っ越してきて……」
「そっか、じゃあこれオマケしとくよ」
 気前の良いことに、店員はパック詰めの唐揚げをサービスしてくれた。
 結局、焼肉弁当一つとパックサラダを一つ、単品のコロッケを一つ、ペットボトルのお茶を一本購入。

 それにおまけでもらったパックの唐揚げを袋に詰めてもらい、店を出た。
 この店の隣『黒魔術専門店』と看板の掛かった、なんとも不気味な店の横を足早に通り過ぎる。

(まずいな……)
(結構暗くなってきてる……)
 とはいえ、あまり危機感は感じない。
 これまで歩いてきて、篤志は何となく感じていた。
 ここは治安が悪い土地ではなさそうだ。

 きっと、少しぐらい遅くなっても恐らく大丈夫だろう。

(家に帰って食ったら冷めるよな……)
(どっかの公園とか行って食おうかな……)
 そんなことを考えてアーケードを歩いていたら、

≪桜町ふれあい公園→≫

 と書かれた看板を見つけた。
(ちょうどいいな……)
(よし、そこで弁当食うか……)
……

…………


 公園まではわりとすぐだったが、ベンチのある丁度良い場所というのがなかなか見つからず、公園の中をしばらく歩いた。
(このあたりでいいかな……)
 早速ベンチに腰掛けて、ビニール袋の中から温かい焼肉弁当のパックを取り出した。
 しかし、蓋を開ける時にうっかり中に入っていたデザートのりんごを地面に落としてしまう。
「――あっ!」
 うさぎの形に飾り切りされたリンゴが芝生の上に転がった。
「あー……」
 勿体ないが……落としてしまったからには諦めるしかない。

 篤志は気を取り直して割り箸を割る。
 そこで、弾丸のような勢いで"何か"が篤志の足下に駆け込んできた。

「!?!?」
 "何か"は脇目も振らずに篤志の落としたリンゴに飛びかかっていく。
 恐る恐る確認すると、どうやらそれはうさぎのようだった。
 茶色いうさぎである。
(う、うさぎ!?)
 うさぎを追って、一人の少女がこちらに掛け寄って来る。
「こらあっ! なにやってんのよ、あんた! それはその人のもんでしょうが!! なに勝手に食ってんのよ!!」
「…………」
「わけわからんわ! なにが『つまり』よ! 落ちてもこの人のものであることには変わりないでしょ!」
「…………」
「ふざけんな! こら、食うなっつーの! やめなさい! この人に返しなさいよ!!」
「…………」
 ギャーギャー騒ぐ少女と、鳴き声一つ上げないうさぎ。
 篤志は顔を引き攣らせて言った。
「いや、いいよ、別に。落としたヤツだし……」

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