超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

羽里彩は言った。「羽里学園は完璧な学校であり、幸せは生徒として当然の義務です」①

エピソードの総文字数=3,372文字

 放課後。


 午後の授業も巧みな戦術で乗り越えた俺たちは、今日の戦闘を終え、帰路につこうとしていた。


 しかし、こう、あれだ。

 今日は、ほんと……きつかった。

 千以上あるブラック校則の中の軽い違反ですら、一発即死、ってのはマジで人間には無理なレベルだぜ……。

 他の生徒なら、注意とかだけで済むところを、俺たちは停学や退学だからな……。


 全ての気力が燃え尽きた俺たちは、真っ白な灰になった気分だった。

 クラスメイトたちが帰って行った教室に残り、自分の席で『あしたのジョー』の最終回で死んだジョーのごとく、座ったままでいた。


 これで一日、乗り越えたという、達成感と。

 これが、三年間続くのかという、絶望。

 その狭間で、俺たちの心は、ポキリと折れにそうになっていたのだ。

「あー……、召愛。そろそろ帰るか」

「うー……、そうしよう」

 俺たちは昇降口を出て、大勢の帰宅する生徒たちで賑わうグランド脇の遊歩道を、校門へ向けて歩いた。

 ゾンビのようにだ。


 校則による消耗とは別に、召愛は相変わらず浮かないままだった。

 羽里から昼食をキャンセルされたことで、ずっと落ち込んでるのだ。


 そん時だった。

 後ろから誰かが走ってくる足音が近づいて来た。

 その誰かは、俺たちの真後ろで立ち止まり。

 遠慮がちで、緊張したような声で、こう言った。

「ちょっと待って、あなたたち。

 帰る前に……お茶でも、どうでしょうか」

 俺たちは振り向いたよ。

 羽里が息を切らしてた。


 大きな書類袋を持っていて、よく見れば大手銀行の店名がプリントされている。つ

 まり、羽里は銀行の用事とやらから帰ったばかりで、俺たちの姿が見えたから駆けつけてきた、といったとこなんだろう。


 昼食をキャンセルしたことを、よっぽど気にしてたのかも知れない。

「う、う……うん!」

 召愛さん、なんとまあ、泣きそうになって、頷いちゃったよ。

「良かったな、召愛」

 俺は二人に手を振り、一人で帰ろうとした。

「コッペくんにも話しがあります。一緒に来て貰えますか」

「俺? なんでだ」

「あなたたち、午前の授業中、とんでもない事してましたね」

「心あたりが多すぎて、どれだかわからん」

「防犯カメラの映像を、あとから見せられて、頭を抱えました」

「そこは、笑ってくれた方が、当事者にとっては救いになる。

 ぜひ、笑ってくれ」

「嫌です。心底、嫌。

 首を紐で繋ぐのを禁止する条項を、くわえるべきだったと後悔しました。あれは人間のするべき事ではない」

「なんで予めそういう校則を作らなかった?」

「この世に、あんな事をしでかす生物が、二匹以上存在するという想像力が、わたしに無かったからです。

 とにかく、一緒に来て。いいですね?」









 というわけで連行された。


 お茶というくらいだから、お嬢様的な物価の喫茶店に連れて行かれるのかと思って、財布の中身的にヒヤヒヤしていた。


 が、そんな事はなかった。


 学園の応接室に連れて行かれた。

 給湯室も整ってるし、冷蔵庫などもある。来客が使ってない空き時間には、生徒たちも申請すれば使うことができるのだそうだ。


 俺たちはそこのソファーセットに羽里と向かい合って座った。

 英国式アフタヌーンティーという奴で、それを出してくれたのはメイド。歴戦の風格があるおばちゃんメイドだ。ファンタジーにしか存在しないと思ってたそれが、目の前でお茶を注いでくれた姿に、俺は感動してしまった。


 ケーキも出してくれたのだが、これまた格別で、俺が今まで食ってきたケーキと呼ばれる物体は、食器洗いスポンジに、白い泡を乗せただけの物だったんじゃないのか? と真剣に考えてしまうくらいだ。

 召愛も目をキラキラさせて貪り食ってるよ。

「なあ、羽里。こういうお菓子って、お嬢様的には、贔屓の店とかやっぱあるのか?」

「いいえ、これは、自宅のパティシエに作らせて、先ほど空輸させたものです」

「……」



(桁が違いすぎて、どんなリアクションすればいいかわからねえレベルだぜ。輸送費だけで、どんだけ掛かってるのか想像したくない。

 すまん、羽里商事グループの跡取りを、なめてました……。)

「とんでもない贅沢をしていると思われてしまっているでしょうが、そうではありません。健全な経済を維持するためには、マクロでの通貨の流動性を保つ必要がある。


 日本経済の一翼を担うこの身であれば、私財はため込まずに、人々に還元するべきです。これが、『贅沢は我が敵なれど世の味方』当家の家訓です」

「そりゃ、ご立派なことだ。

 でも、普通に寄付をすりゃいいんじゃないのか」

「毎年、所得の10%を寄付もしていますが、乗数効果を計算したところ、寄付よりも、浪費のほうが社会へ好影響をもたらすと、シンクタンクが結論を出しています。

 なのでさらに+で10%を、浪費するのが、羽里家の方針です」

「慈善活動としての、浪費ってのもあるんだな……。

 それはそうとして、話しってのはなんだ」

「そうだぞ、彩。

 私たちは、たった一つと言えども、校則違反はしてない」

「まさに、その事についてです。


 あなたたちが、校則を守ろうとする姿勢は、評価しています――が。首を紐で繋ぐだとか、椅子に体を縛り付けるだとか、するくせに、なんで、要被重監督者制度の申請をしないのですか?」

「よう、ひ、じゅう、かんとくしゃ……?」

「なんだ、そりゃ……?」

「あなたたち、まさか、この制度……知らないのですか?」

「……」
「……しらん」

「学校説明会でも話しがあったはずですし、

 校則全書の最初にも書いてあるでしょう?」

 学校の説明会なんざ、学生にとっちゃ、せいぜい校舎を見に行くのが目的だ。

 まともに説明会を聞いてる学生が居ると思ってんのか?

 あー、こういう優等生には、そーいう感覚がわからんのだろうなあ……。


 けど、高校全書の最初の方に書かれてたってなら、召愛の担当のはずだが。

 いったい、どうなってるんだ?

「……」

「……………」

「…………………」

「校則とは関係ない文章だと思って、読み飛ばしてしまってた!」

「おい、召愛、チョップしてもいいか」

「止めておきなさい、コッペくん。退学になりますよ」


「はぁ……


 仕方がないですね……。

 説明します。

 要被重監督者制度、というのは、今、コッペくんのチョップを止めさせたみたいな物です」

 いまいちピンと来ない。

「重度の執行猶予を背負ってしまった生徒が、うっかりミスで、停学や、退学をしなくて済むように、校則の知識が豊富な職員を側に付けて、生活する権利が保証されている。

 これが、要被重監督者制度です」

「なんだそりゃ、至れり尽くせりじゃねえか!」

「校則を守ろうとする意思がある限りは、

 全力でサポートするのが我が校の方針です」

「おお、なんて素晴らしい。もう、スースーしなくて済むんだな!」

「スースー、とはなんのこと?」

「気にするな羽里。我々の業界用語だ」

 しかし、この制度、もしかしないでも、毎朝、パンツの色まで、監督者職員のおっさんや、おばさんにチェックされんのか……。

 さすがに嫌だが、背に腹は代えられん。

「よし、コッペ、申請しよう」

「むろんだ。卒業するには、どう考えてもこれしかねえぜ」

 羽里が書類をテーブルの上に置いたよ。


「では、二人とも、その申請書の詳細に、よーく目を通した上で、サインをして貰えば、申請は完了します。

 わたしは席を外して、電話をしてこないといけないので、質問がある場合は、あとでお願いします」

 そう言って羽里は応接室を出て行った。

 俺たちは速攻でサインしたね。


 詳細事項には、小さな文字で何十行も小難しい法律用語なんかが並べてあって、読む気がしなかったし、どうせこういうのって、スマホアプリのエンドユーザーライセンスみたいなもんで、どうでも良いと思ってね。

 羽里が戻って来た時には、俺たちはお菓子食いまくってた。

 たぶん、もう一生、こんな美味い物食えないんだろうなって分かってたからな。

「質問は、無いようですね。

 わたしは手続きを終わらせてきます。

 グループホーム寮は、30分後には用意が出来てるはずなので、少しゆっくりしてから、行ってください」

 それだけ言うと、羽里は再び応接室を出て行ってしまった。


 ていうか。

 今、なんて言った……。

「……?」
(グループホーム……寮、だと?)

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