超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

羽里彩は言った。「羽里学園は完璧な学校であり、幸せは生徒として当然の義務です」⑤

エピソードの総文字数=2,583文字

 一方。

 その一ヶ月で、羽里学園をとりまく環境に大きな変化が起こっていた。


 それは、とてもとても劇的なものだったが、羽里が意図したとおりの展開だった。

 こう考えてみるとよく分かる。


『ある学校が存在する。

 その校則は極めてブラックであるが、一方で守っていれば聖人に成れてしまうような高潔なもので、守らなければ停学や退学になってしまうから、生徒たち皆が必死に守ろうとしちゃったら、どうなるのか?』



 こうなった。


 その日は雨が一昨日から降り続けてるような日で、ニュースではどこかの県で川が氾濫したり、崖が崩れたりで大きな被害が出たと言っていたが、横浜は平和そのものだった。


 そんな放課後、雨が上がって晴れたところを、俺がちょっとした用事で、実家に帰ろうと駅に行った時のことだ。


 いきなりテレビカメラを持った取材班が俺に近づいてきたよ。

 んで局アナっぽいワイドショーのレポーターがこう訊いてきた。

「あの、羽里学園の生徒さんですよね。

 今日は何か良い事をされましたか?」

「……?」

 俺が意味わからなくてポカーンとしていると、

 生放送だったからなのか、リポーターが焦ってフォローを入れてきた――

「最近、この名座玲町では、羽里学園の生徒さんたちが、慈善的な活動をされているという事で、日本国内だけではなく、世界でも評判になっているのですが」

 そうなのか……。

 つーか、あの校則をガチで守らにゃならんわけだし、そうなるのか?


 だから、こいつらは、校章付けた俺に、いきなり取材をしてきたってわけか。


 周りをよく見てみれば、駅前大通りでは、いっぱい取材陣が居たよ。

 そいつらみんな、帰宅する羽里学生を捕まえてインタビューしてたんだ。

「えーと、まあ。さっき道ばたに落ちてた吸い殻を拾って捨てたけど。

 あ、あと歩きタバコしてる人を注意もした、かな」

 めんどくさいが、やらなきゃ退学だしな。

 羽里学生になってしばらく経ったが、強制的に召愛のクローンにされちまった気分だ。

「おお、それは感心ですね。

 羽里学園では、そういった善行によって、自治体などから表彰されると、単位が優遇されたりと、プレゼントが貰えたりといった報償があると訊いたのですが、お友達などで実際に貰った方っていますか?」

 俺にお友達と呼べる存在が、未だに召愛と羽里しか居ないのはなんでだろうな……。

「クラスメイトにも、わりと居ますよ。

 確か本が好きな奴で、豪華版のドストエフスキー全集とか、学校から貰ってた気がします」


「さすが羽里学生ですね。

 高校生でドストエフスキーですか、私なんか、未だに読んだことありません」

(んな大げさなもんか?)

「最後の質問ですが、羽里学園の校章を付けてたり、制服を着てるだけでモテモテになるそうですが、実感ありますか?」

 アホくさ。

 雑誌の通販コーナーの、開運水晶みたいな胡散臭さじゃねえか。

 宝くじに当たりましたとか、癌が治りました、とか言い出すのも時間の問題だな。

「いや……ないですね」

「それじゃ、彼女さんとかは居ないんですか?」

「居ないっす」

「でも、周りに女の子がいっぱい寄ってきたりしないんですか?」

 しつこいもんだ。

 けど、周りに女の子と言われて、召愛と羽里の顔が浮かんじまった。


「えーと……。

 そうだな。

 

 アメリカ大使館に『キリストの生まれ変わりですが、トランプ大統領に会わせてくれませんか』と昨日に電話した奴と、


 朝から晩まで中学時代のジャージ着て、PCに囓りついて、百億課金するネトゲ廃人なら、まあ寄ってきてるというか、居るというか……。


 こいつらを女の子とやらに換算していいなら、ですがね……」










 が。



 世の中にはなんと羨ましいことに、本当に羽里学生であるという理由で、モテモテになる奴らもいたのだった。


『ボランティア部』である。


 その名の通り、放課後や休日にボランティアを行うという主旨だ。


 これがテレビのニュースショーの特集で、格好良く編集されて取り挙げられるや否や、中心メンバーは一躍ヒーローとなり、ボランティア部に所属していることが、一種のステータスになってしまった。


 この影響で近隣他校にもボランティア部が設立され、複数校で集まって共同活動なんかを始めちゃったりもして、毎度の活動が終わったあとの打ち上げの場は、

 さながら合コンだ。


 そんな中では、有名ボランティア部である羽里学生の人気が高く、多くのカップルが成立してしまったのだ。


 そうなると――

「ボランティア部とかってさあ。

 なんか、良い子ぶってる感じで、自分でやろうとは思わないよなあ。

 だいたい、やってる奴らだって、99%、報償目当てだろ?」

とか、かつては言ってたような奴や――

「やりたきゃ、やってればって感じだけど、そこまでして理事長にご褒美もらうメリットは、さすがにないって言うか……」

――なんて言ってた奴も。
「――え、ボランティア部に入ると、カップル成立率が6割以上?

 やっべ、今日から入部するわ」

「――うそ、羽里女子ってだけで、彼氏選び放題?

       ちょ、ちょっと入部届けだしてくる」

――と、こんな感じでみんなが飛びつき始めた。

 

 思春期の♂と♀にとって、これ以上に、魅力ある話しがあるわけなかったわけだ。


 そして、なんと全校生徒の9割以上が、ボランティア部という、たった一つの部活に所属してしまうという珍事が起こった。


 残りの者も、部に入っていないと仲間はずれ状態になってしまうので、なし崩し的に加入の流れとなった。 


 さらに、部からの要請で、羽里本人が名誉部長として就任した。

「ボランティア部の皆さん。

 名誉部長にさせて頂いた、羽里彩です。


 皆さんは、まさに正義の体現者たる羽里学園生徒に相応しい、理想的な生徒です。

 これからも、なお一層、皆さんの活躍にしたいと思います。

 

 わたしも、与えられた栄職に報いられるよう、全力で取り組みます。

 まずは、その第一弾として、大規模な被災地派遣のボランティア遠征を、企画中であることを、お知らせ致します」


 こうして、全生徒の99.9976%がボランティア部員となったのだ。


 ボランティア部こそが、羽里学園の理想の体現であり、羽里学園はボランティア部のために存在すると言っても良かった。


 では、残りの0.0024%の生徒は?

 それは誰で、どうしてたのか――?

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