超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

アンラッキー

エピソードの総文字数=2,865文字

『XXしてはならない』


 この言葉が出て来た後、必ず人間はそれをやる。


 俺たちの場合は、こうだ――

 午後の最後の授業は物理だった。


 実験でバスケットボール三つを使ったのだが、終わった後で、日直だった俺と遊田が、これを体育館の倉庫に戻してくる事になった。

「そういえば、コッペの秘蔵エロDVDで、

 体育倉庫の中でやるのあったわよね」

 体育館への道すがら、遊田はそんな事を言い出した。

 なぜ女子というのはこうも、男子から女子へは切り出し難い話題を、朗らかに切り出してくるのか……。


「ああ……」

「ああいうのって、この学校でヤったら校則違反になるのかしら?」

「直接的に性行為を禁止する校則は、なかったが――」

 俺は二つ持ってたボールを一つ、遊田に渡してから、

 ミニ校則全書をパラパラと片手でめくった。

「しいて間接的に該当しそうなのだと。これだな。


『基本条項7条。浮気の禁止。

 恋人同士であると双方で認識している相手がいる場合。その信頼を裏切るような行為をする事を禁じる。これに違反した場合は退学とする』


 すげえ重罪だな」

「あはは、そんなのまで校則で決められてるのね」

「他には、もっと笑えるのもある。派生条項810条だ。


『浮気行為の放任の禁止。

 恋愛交際をしていると他者から見なされている者は、

 交際相手の浮気を放任せずに、告発しなければならない。


 これは、複数人と乱れた交際を行う者がいると他者に想像させ、劣情を促さないようにするためである。違反した場合は、退学とする』


 だそうだ。

 脂ぎったおっさんが、妄想で作った臭いがプンプンするよな?」

「あはははははっ、バッカみたいな校則ね。

 高校野球が大好きそうな教師が書いてそうよね、そーゆーのって」

「それはさすがに、高校野球への偏見だ。

 全国の丸刈り野球少年と、熱血コーチに謝っておけ。

 ああいう、ストイックな青春ってのも、それはそれで憧れるぞ?」

 そんな馬鹿話をしてる間に、体育館の中にある倉庫に着いた。

 俺はボール籠に向かって、ボール二個を、放り投げて入れたよ。

「ほーんとコッペらしい、つまんない平凡なシュートねえ。

 見てなさい、あたしがお手本みせて上げるから――」

 なんつって遊田はドヤ顔でだな。

「――それ! 天井反射スリーポイントシュートよ!」

 なんつって、高くジャンプして、

 ボールを天井へ目がけて思いっきりブン投げたわけだ。


 体育倉庫は天井が低いから、反射させて籠に入れる大技(笑)が出来ると思ったんだろう。


 が。

 へたくそすぎた。


 ボールは天井の梁の部分にぶつかってだな。


 遊田本人に向かって反射してきてだな。

 ジャンプしてた遊田が着地した瞬間にだな。

 おでこに直撃してだな。

「へぶっ!」

 と、間抜けな声を上げてだな。

「ぎゃはは――

 俺は大声で笑い出しそうになったんだが――


 遊田の奴め、クリティカルヒットだったらしく、そのまま、ボクサーがノックアウトされたように、クラ~っと真後ろへ倒れそうになってだな。


  ――クラ~……

 遊田が倒れていこうとしているのは、硬い床の上。

「お、おい!」

 俺は慌てて遊田を支えようとしたが、倒れていく人間を、咄嗟に支えるなんてことは、現実ではドラマみたいに格好良くできない。


 遊田の体を掴んだは良かったが、加速度に引っ張られて、俺も転んでしまったんだ。

             

             ドスン、とね。

 こういう時、人間ってのは反射的に目を閉じるものらしい。

 俺はすぐに、目を開けて起き上がろうとした。


 そしたらだ。

 なんつーかあれだ。

 遊田の顔が目の前にあった。








 いや、目の前というかもう、俺と遊田の顔は、密着してしまっていてだな……。

 そしてこう、唇に、温かで柔らかで、湿った感触を感じて。

 まさか、これは――!

 慌てて上体を起こした。


 一方の遊田は、まるで失神したように、目を閉じてしまった。

 まるで――じゃない。

 失神したんだ。

 なんでって、そりゃ、倒れて頭を打ったからだ。


 で、俺は気づいた。


 俺の左手は遊田の胸を鷲づかみ的な感じになっていて、

 右手は、遊田の半分まくれてるスカートの中へ入り込んでて。

 エッチなラブコメ漫画にありそうな、ラッキースケベ展開というかだな……!

 慌てて体ごと離れた。


 つーか、おい、しっかりしろ俺。

 ラッキースケベ展開がどうこうって場合じゃない。


 遊田は後頭部から、すっころんじまった。

 普通に考えて、非常に不味い状況だ。


 どうすればいい。救急車呼んでおくか?


 馬鹿か、落ち着け俺。保健室に運んだ方が早い。

 この学校の保健室は、まんま病院。MRIまで完備されてる。


 ならば早く、保健室に電話だ。担架を持って来て貰わないと。

 と、ポケットに手を入れて気づいた。

 しまった。スマホは教室で充電してた。

「やったぞ!!

 ちゃんと今の撮ってたか?」

 不意に、そんな声が体育倉庫の入り口から聞こえた。

 声の主は――

「ばっちりよ。これで退学確定!」
 デジカメを持った女子の【議員】と――
「よくやった!!」
「これで、羽里学園は救われる!」
 その他、合わせて20名ほどの【議員】たちが、

 ひどく興奮気味に歓喜の声を上げていた。


 つーか、退学確定? どういうことだ。

 まさか、今のラッキースケベで俺の浮気とか、そういう事か?


 ああ、そういう、事なんだろう……。

 奴らからすれば、何時間も獲物を追跡して、ようやくその隙を突いて仕留めることが出来たわけだ。


 そりゃ嬉しかろう。

「早く、バックアップをとりに行こう!」
「ヤッホー!」
「こんな、あっさりやれるなんてね♪」

 そんな風に【議員】たちは、狂喜乱舞と言っていいくらいの騒ぎようで、立ち去ろうとしたんだ。


「待て、待ってくれ!」

「ははは、待つわけなかろう?」


「ふふふ、自業自得よ」

【議員】たちは、いい気味だとばかりに大声で笑いながら、手を振って、立ち去ろうとしている。

「そうじゃない。

 保健室に連絡してくれるだけでいい!」

 が、【議員】たちは、そのまま浮かれて体育館を出て行ってしまった。

(こうなりゃ、仕方ねえな……)

 俺は遊田を負ぶったよ。

 自分で保健室に運ぼうと思ったんだ。

 アホみたいに広い校内を走って、担架を取ってくるより、その方が早い。


 遊田の体は、俺が今まで持ち上げたどんな物よりも重かった。

 いくら女子とはいえ、体重が50キロくらいはある。

 ペットボトルの2リットルの水が、25本分くらいだ。

「くぅ……。女優様も、クソ重いじゃねえか……!」

 そんな事をぼやきながら、頭を揺らさないようにゆっくりと、校舎へ続く渡り廊下を歩いた。


 途中で誰かに出会ったら、手伝って貰おうと思ってたんだが、この学校は無駄に広すぎて、人口密度が薄い。

 放課後となれば、なおさらだ。


 結局、誰とも遭遇できず、保健室に辿り付くまで一人で運ぶことになってしまった。

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