超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

全日本クズしみ深い女子高生金メダリスト遊田イスカは言った。「だって人間だもの」

エピソードの総文字数=6,230文字

 そして、生活相談室からの帰り道。

 昼休み真っ最中の渡り廊下を歩きながら、俺は遊田に言ったよ。

「助かった。遊田が来てくれて良かったよ」

「別に。あたしは、あたしのために行動しただけだもの」

 召愛への復讐ねえ……。

「なあ、今さらだけどさ。そこまで召愛が嫌いなのか?」

「ええ、嫌いきらい、大っ嫌い。この世で三番目に嫌いだわ」

 こんだけ嫌ってても三番目なのか。

 なら、一番と二番はどんくらい憎まれてんだ。

「ちなみに、一番と二番は誰なんだ?」

「そうねえ。その二人に順位を付けるのは難しいわね。

 同率一位にしとこうかしら」

「ほー?」

「両親よ。両方、大っ嫌い」

 まあ、親が嫌いなんて言い出す奴は珍しくない。

 大概は、他人が訊けば笑い話になるような理由で嫌ってたりするものだ。

「実際、中学生の時に、殺す計画立てて、実行したこともあるのよ。

 母親の脚を刺したところで、父親に取り押さえられちゃったけど」

 これはかなり珍しいし、笑い話でも済ませられそうにない。

 教室へ戻る道すがらの廊下で、話題にする内容でもなさそうだが……。

「なんでそんな事したんだ、とか訊かないわけ?」

「好奇心で訊いて良い話題じゃないと思っただけだ」

「なに紳士ぶってんのよ。

 あたしの側の人間だって、あんた自分で言ったじゃない。

 人を殺し損ねた話しに、好奇心を感じちゃうクズなんでしょ?」

「そうなんだろうな。

 正直、ワイドショー的には盛り上がりそうな話題だとは思ったよ」

「内々で処理したから、警察のお世話になったりしなかったし、ワイドショーでも取り上げられなかったわね。

 ほら、早く訊きなさい。なんで刺したんだって」

 俺は溜息を吐いたよ。

 こいつという奴がどこまで本気なのかわからない。

「遊田はなんで親を殺そうとしたんだ?」

「コッペは、あたしが子役を引退した経緯、知ってる?」

「さっぱりだ。

 子役として一流だったわけだよな?」

「いいえ、超一流よ」

「普通はそのまま女優になるだろ?」

「あたしもそう望んでた。お芝居は好きよ。

 本来は人間が一つしかもてない人生という物を、画面の中でいくつも持つことが出来る。これは役者の特権だわ。


 あたしは役者としての人生が最高に気に入ってた。

 でもね、親が、辞めさせたの。ねえ、コッペ、最高の人生を他人に潰された気持ちって、どんなのかわかる?」

 俺は首を振ったよ。


 自分の人生をそこまで良い物だと考えたことがない俺には、想像しにくい話しだが、理解はできる。


 俺も炊き出しの時に、ホーリーエンジェル・ルートにやっと入ったところを、召愛に邪魔された時にはぶち切れたわけだ。


 遊田も、悔しかっただろうな。

 悔しいだなんて言葉では、とてもとても足りないくらいに。

「けど、なんだって遊田の親はそうしたんだ。

 自分の子供が女優になるなんて、嬉しいと思うんだが」

「その時、あたしがドラマでやってた役柄が、両親の教義に反するからって、テレビ局と揉めたのよ。


 シナリオ変えろって無茶言ったりで、結局その企画は途中でおじゃん。

 で、あたしの所属事務所とも大喧嘩して、うちは大量の違約金を背負い込まされて、家計は火の車。あたしは芸能界追放って感じよ」

「そりゃ、災難だったな。

 一応言っておくが、本気で同情してるからな」

「あらそ、ありがと」

「教義に反するってことは、あれか。

 遊田の家は、なんか厳しい宗教でもやってたのか」

「クリスチャンよ、キリスト教。

 あたしも小学生までは日曜に教会に行かされてたわ。


 そこでやるのは、聖書とかいうファンタジー小説の解説を、糞牧師だか糞神父から聞かされるのよ。岡田斗司夫が漫画やアニメをオタク語りするみたいな解説をね。延々と。


 大ッ嫌いだった。せっかくの日曜日に、なんで友だちと遊ぶ時間を潰して、オタキング語りを聞かなきゃいけないわけ。

 おかげで、十字架を見ると吐き気すら感じるようになったもんよ」

 まあ、どんなにありがたい話しでも、子供にとっちゃ、どうでも良いだろうしな。

 友だちが自由に遊んでる時間に、自分だけ拘束されてたら、そうもなるんだろう。

「で、両親はと言えば、教会では真面目ぶってるくせに、プライベートじゃ互いに愛人作って、浮気三昧。でも世間体を気にして離婚はできずっていうね。


 そんな外見だけ取り繕うスーパー偽善者どもが、あたしの人生を台無しにする権利があると思う? 

 親という肩書きがあるだけのクズ中のクズがよ?」

「俺でも同じ状況に置かれたら、同じ事をしてた可能性は――

 否定はまあ、しておかない事にする。それが、正しい行動かどうかは、別としてだ。

〝理解〟は、できなくもない」

「正しいに決まってる。

 両親は信仰に殉じるっていう自分の欲望を満たすためだけに、あたしの人生を破壊したんだもの。


 変態性欲者が、欲望を満たすために、あたしをレイプして殺すのと、なんら変わらないわ。


 そのくせ、両親はまったく悪びれることもなく、あたしを正しい道に導いたとか、本気でぬかしてた。自分が悪者だって自覚してるだけレイプ魔のほうが、千倍道徳的でしょうね」

 遊田の怒りは本物だ。

 人通りの多い廊下でも、まったく気にする様子もなく、喋る声がどんどん大きくなっている。


 こいつにとって、これは、済んだ事、ではなく、現在進行形の怨念なのだ。

「だから、あたしはキリスト教徒が大嫌い。

 奴らは自分たちが正しい事をしてる振りをして、他人を不幸にするわ。炊き出しの時の召愛みたいにね」

「あー、それなんだがな……遊田」

「なによ?」

「召愛はクリスチャンじゃないぞ」

「はぁ……? だってあいつ、言ってたじゃない。

 自分はイエスの生まれ代わりだって」

「聞いて驚け、あいつは、聖書を一ページすら読んだことがない。

 究極の罰当たりなんだ。

 たぶんキリスト教の知識は、一応は教会に行ってたお前の方が100倍はあるぞ」

「で、でも……。

 でもあいつ、うちの両親と行動パターンが、ほとんど同じよ?」

「召愛の行動原理は、『自分がされたら嬉しいことを他人にする』っていう小学校のお花畑的朝礼のこれだけだ。


 その結果、たまたま、お前の両親と重なる部分が、いくつかあるんだろうな」

「迷惑な話ね。自分がされて嬉しいことが、他人もされて嬉しいかなんて、エスパーでもなければ、わかるわけないのに。ただの独善の押しつけだわ」

「まあ、そこは相手の立場をどこまで思いやれるかで、変わってくるんじゃないのか。察しと思いやりって奴だ。


 察しも思いやりもなく、ただ自分が良いと思う事を相手に押しつけたら、単なる独善的なジャイアニズムになっちまう」

「ただのジャイアニズムよ。召愛も両親も同じ。だから、ちょー大嫌いなの」

「で、召愛もきっとスーパー偽善者なんだろうから、それを暴いてやると、こういうこったな?」

「理解していただき光栄だわ。

 けど、コッペって、変わってるわね」

「いきなりなんだよ」

「だって普通、あたしがこういう話ししたら、ドン引きされるもの」

「まあ……少なくとも将来、お前の結婚式の時に、同級生からのスピーチで盛り込むネタではないだろうな。


『新婦イスカは高校生の時に、両親を殺害しようとした事を、面白おかしく語りました』とかだ」

「あはは、それ最高よ。

 決めた。将来、コッペはあたしの結婚式に呼んであげる。そのスピーチをやって頂戴」

「おいおい、式場で、新郎に逃げられるぞ」

「それはないわ。だって、あたしはね。

 両親を殺そうとした話しをしても、ドン引きしない相手としか付き合わないって決めてるの」

「婚活サイトでその条件で、恋人募集の書き込みしたら、すげえ目立つだろうな……」

「でも、価値観を共有できるかどうかは、とっても大事だと思わない?

 互いに独善を押しつけず、相手の個性を尊重しあえる関係って素敵だわ。

 というか、これこそが、人間関係の基本で、全てだと思うの」

「お前にしては、まともな事言うじゃないか」

「でも、コッペだって、そう思うでしょ?」

 と、問われて、俺はふと思ってしまった。

 お互いに尊重する、というのはつまり、


『自分が尊重されたいなら、相手も尊重する』


          ↓


『自分がされたら嬉しいと思うことを他人にする』


 という事に他ならないんじゃないのか、とだ。

 こいつも、本当は、召愛と言ってることが同じなのは、気づいているのだろうか?

「そりゃな。そう思う」

「あたしたち、気が合うわね」

 とか笑顔で言われるとだな。

 この人格破綻者と気が合うと言われて、喜んで良いのか微妙なところだ。


 が、一つ言えることがある。

 俺自身も遊田と話すのは、えらく気楽だと言うことだ。


 召愛のような超良い子ちゃんでもなく、羽里のような優等生でもなく、遊田とは等身大未満のダメな16歳同士、距離感のようなものを感じない。


 自分とまったく同じ立場にある存在、それがこいつなんだろう。

「ああ。そこは残念ながら否定しようがない」

「ねえ、コッペ。召愛から、あたしに乗り換えてみない?」

 なんてだ。遊田は自分の唇に指先を当てるセクシーポーズをしながら言ってきたわけだ。もちろん、冗談のつもりなんだろうが、俺は頭が痛くなった。

「どっからつっこむべきか迷うけどな。

 俺は召愛と、付き合ってるわけじゃない」

「コッペはそのつもりでも、召愛の方はどうかしらね?」

「さあな」

「ほら、どうするの、乗り換える?」

 まともに取り合うのも馬鹿らしい。

「乗り換えるメリットはなんだ?

 スマホでも、他社から乗り換えすると、特典あるだろ」

「そりゃもちろん。あたしの方が可愛い。

 愛らしい。プリティー。ラブリー。檄萌え。ね、五つも特典がある」

「全部、似たような意味じゃねえか。誇大広告はJAROに訴えるぞ」

「ノンノン。甘いわね。なんと今なら、もう一つ特典が」

「テレビショッピングの商品か、お前は」

「今、コッペがあたしに乗り換えれば、もれなく召愛が死ぬほど悔しがって、悲むという、あたしを大いに喜ばせられる、超ビック特典が付いてくるのよ」

「結局、召愛への復讐が目的なのかよ……」

「当然じゃない。

 コッペパンごときが、普通にあたしの恋人になれるわけないでしょ。

 せいぜい、クロワッサン程度になってから、夢を見ることね」

 なんて遊田がケラケラ笑い出したところで、やっと教室に到着した。


 俺が自分の席に戻ると、召愛が丁度、弁当を食べ終わってたとこだった。 

「おや、コッペ。姿が見えなかったから、先に食べてしまったぞ」

「ああ、構わない」

 俺は椅子に座って、弁当だして食おうとしたよ。

「イスカさんと、どこに行ってたんだ?」

 と、召愛が訊いてきた時だ。

「決まってんじゃなーい」

 なんつって遊田が横から割り込んで来てだ。

 いきなり俺の膝の上に座って、首に抱きついてきてだな。

「あたしたちは、秘密のラブラブ行為をしてきたのよ~?」

 こいつめ……。そうくるか。

「おい遊田……。

 お前はまったく、スポーツマンシップを感じるほど清々しいクズクズしみ深い奴だな。ひっつくな、離れろ」

 俺の肩に頬を寄せてくる遊田の頭をギューギュー押し返したぜ。

 けどね、接着剤でくっつけたみたいに、離れやがらねえ! 

「ダーリン酷いわ。

 でも、これはツンデレ的な愛情表現だと受け取っておくわね」

 畜生め……。

「なっ……。

 秘密のラブラブ行為とは、もしかして、体育倉庫でだろうか。

 あとコッペはツンデレなのか、前からそんな感じはしていたが!」

「おい召愛、もう少し、人を疑う事を覚えようぜ……。

 どう考えても遊田のこの行動は不自然極まるだろうし、俺はツンデレじゃない」

「体育倉庫?」

 と、遊田は何のことか良く分からない様子で俺を見たよ。

「そうだ。コッペは体育倉庫で、制服のまま性行為をするAVやエロゲームが大好きなんだ。彼の私室からその手の音声が、たびたび漏れ聞こえてくる」

(おーい……召愛さん。

 男子のもっとも触れられたくない部分を、

 教室でぶっちゃけるの止めてくれませんかねえ……。


 しかも、女子相手に、しかも、クズクズしい奴相手に)

「へぇ……」

 とか遊田が生暖かい目で俺を見てやがるぜ。

「ええ、そうよ。

 体育倉庫で、制服のままで、あーんな事や、こーんな事をしてたわ」

「き、君たちが行った、あーんな事や、こーんな事とは、

ああ~ん、制服が汚れちゃう~ん

 的な物なのだろうか!」

「もちろんよ。ダーリンったら、とっても激しいから、汚れないようにするのが大変だったわ」

「おい召愛。遊田の言うことを信じるなよ。

 こいつは、お前を貶めようとしてる張本人にして、全日本クズ選手権の金メダリストだ」

 だが、だった。

 召愛さんってば――


   ムスッ――

 ――としてから俺の弁当箱をひったくったと思ったら、それを開けて、すんげえ勢いで食い始めた。

 ばっくばっくと一気にかき込んだ。

 ハムスターが頬の餌袋にひまわりの種を貯めるみたいにしてだ。それをごっくんだ。


 ほんの十秒ほどで、弁当箱は空になったね……。

「お……俺の昼飯が」

「勘違いするなコッペ。

 それは私が作った弁当であり、私がどうしようが勝手だろう。

 コッペは、コッペパンでも食べてればいい」

(ひでえ……)

「まあ、可愛そうなダーリン。

 優しいあたしが、お昼ご飯を、分けてあげる」

 なんつって、遊田の奴、はにかむ顔を演技で作ってだな、いつの間に俺の机に持って来てたのか、総菜屋で買ってきた風の弁当から唐揚げをフォークで刺してだな。

「はい、あーんして」

 とか差し出してくるわけだ。俺は当然、それをブロック。

 だが遊田も諦めずに、笑顔で全体重をフォークに掛けて、死にものぐるいで俺の口へ突っ込もうとしてくる。


 ニコニコ――

「待て遊田……まてまてまてまてまて!」

 なんて俺は連呼したよ。

 そこでふと思ってしまった。


 そういや、ノルマンディー上陸作戦を扱った映画、プライベートライアンでも、ラストの戦闘シーンで似たような場面があったなとだ。


 ドイツ兵が一度は命を助けられたアメリカ兵と成り行きで格闘戦になり、全体重を掛けて銃剣を突き刺すという悲しいシーンだ。


 くっそう、なんでこうなった。こんなことなら、遊田を助けるべきじゃなかったんだ! とか、押しつけられてくるフィークを必死に押し止めなががら、絶望してたらだ。


 なんかね。丁度、羽里が教室に戻ってきたのが見えた。


 で、優等生羽里、俺たちの騒動にさっそく目をとめたと思うと、すんげえ怖い顔になってだな。

「――!」

 なぜか遊田じゃなくて、俺を怖い顔で睨み付けたと思えば、こう、ズンズン歩み寄ってくるわけだ。

 ちっちゃい体のくせに、表情がめっちゃ怖いせいで、人食い巨人が迫って来てるような迫力すら覚えた。


 で、羽里は俺たちの真ん前に仁王立ちになってだな。

「コッペ君、あなたには、召愛という人がありながら……」

(お前まで、そう〝認定〟してくるのか!)

 俺はちょっくらびびっちゃって、フォークを押しとどめる力が抜けちゃったんだ。


 そしたら。

 ブスッ! と。

「あ」
 刺さった。

 うん、刺さった

 唐揚げを貫通したフォークの先がね、ほっぺたの外側にちょっぴり刺さった

「痛てえ!」

 と俺が叫ぶのと同時。


 羽里が、手の平を振り上げたと思えば。

「この色事師がー!」

 バッシーン!


 はい、ビンタ頂きました。今時、色事師とか絶対聞かない台詞と共に頂きました! 

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ