勇者の出立

正論にはかなわない

エピソードの総文字数=1,351文字

あたし、ロビンっていうの。あんたは?
メイスって呼ばれてるよ。
 村まで並んで歩く道中、ロビンと名乗る少女はよくしゃべった。
あのね、メイス。「こんなボロい荷車が壊れたぐらいで何だ」って思うかもしれないけどね? これでも、うちにとっては大事な荷車なの。これがなくちゃ仕事にならないのよ。

だから何があろうとどうしても弁償してもらわなくちゃなの。わかってくれる?

あー……それはわかったけど。おれ、金なんか全然持ってないぞ。
お金がない、ですって!? あんた旅人でしょ。一文無しでどうやって旅するのよ。宿屋に泊まるお金だって要るはずでしょ?
だいたい野宿だ。そのへんの鳥とか獣とか捕まえて食ってれば、金も要らない。
 ――嘘ではない。各国の王宮に居候していないときは、たいていそんな感じだ。金があるうちは宿屋に泊まることもあるが、それを使い果たせば野宿生活だ。
野宿!? よくそんなこと続けてられるわね。危ないじゃない! 街道沿いには追い剥ぎも出るのに……。
 ――そういう追い剥ぎを逆に叩きのめして巻き上げた金が、おれたちにとって貴重な旅の資金となるんだ、ってことは黙っといた方がいいだろうな。
金なら、親父が持ってる。
お父さんが……いるんだ……?
ああ。ずっと一緒に旅してたんだが、途中ではぐれちまったんだ。おれは今、親父を探しているところなんだ。
 ――「はぐれた」というのは、「親父の奴が魔物の中におれを置き去りにして一人だけ大量の金貨を持ってずらかった」という意味だが、そこまでは説明しない方がいいだろうな。っていうか、説明したくもない。



 林を抜けると、ちょっとした集落が広がっていた。


 ロビンの家はその集落の外れにあった。今にも朽ち落ちそうな古い木造の農家だ。


 おれはロビンの家の納屋で、半日ぐらいかけて、荷車を修理しようと努力した。


 荷車なんか単純な構造なんだからすぐに直せるだろう、と思っていたが甘かった。それっぽい形に仕上げることはできるが、上に荷物を積んだ途端、重みを支えきれずへしゃげてしまう。どうしても車輪が回ってくれない。


 おれは物を作り出すことに向いてないらしい。あまりそういう経験がないからな。

 ぶっ壊すことなら大得意なんだが。



 いつの間にか、太陽が西に傾き始めていた。


結局……荷車を弁償修理もできないってわけ? (はぁぁぁ。。。)
まあ結論から言うと、そういうことだな。


えーっと、おまえ、誰かぶちのめしてほしい相手とかやっつけてほしい相手とかいない? お詫びに、おれがそいつを退治してきてやるよ。おれ、そういうことしかできねーから。例えば、さっきおまえにからんできてたゴロツキどもはどうだ?

ゴロツキじゃないわよ! あいつ、ジェムは、あれでもあたしの幼なじみなんだからっ!
 えっ、そうなのか。おれがこれまで想像してた「幼なじみ」というものとはずいぶん違ってるな。



 ロビンは両手を腰にあてがい、(薄い)胸を張った。すさまじい気迫を瞳に宿らせ、おれに向かって一歩踏み出してきた。

うち、これから半月ほど農作業がものすごく忙しくなるの。

あんた、その間、うちの仕事を手伝って。荷車がなくなって仕事が増える分、あんたが働いて補って。


その代わり、食事と寝る所はうちで面倒を見てあげるわよ。どう? 悪くない話でしょ?

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