変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第14話「ねぇねぇ、お兄ちゃん、チョコ買ってー」

エピソードの総文字数=5,421文字

 結局、篤志は最後までテレビショッピングを視聴した。
 その後も、三秒以内に氷が作れる急速冷凍庫や、使用者の思念を解析して温度調節をするエアコン、失くしたら夢に出て来て所在を告げてくれる火炎属性のネックレス、塗って一晩放置するだけでフサフサになれる育毛剤など、夢のようなアイテムの数々が紹介された。
 篤志が一番欲しいと思ったのは、最大十二台の衛星カメラ(サテライト)を制御出来る高性能ビデオカメラである。
 衛星カメラ(サテライト)はコードレスで、ピンポン玉より小さく宙に浮く。
 これを使うことによって、撮影者が一人しかいなくとも最大十二のアングルからシーンを撮影することが出来るのだという。
 しかも、衛星カメラ(サテライト)は定点固定でなく、ある程度は撮影者の思念によって触れずに動かすことが可能らしい。
 尚且つ、この衛星カメラ(サテライト)は別のカメラによって補足されることがない――つまり不格好に映り込むことはないのだという。
(すっげぇ、これファン●ルだ……)
 画質、保存容量、連続使用時間、本体重量といったスペックも嘘のように優秀で、yowtuberの端くれとしては惹かれずにはいられない。
 問題は、149万9,800円という価格であるが……
(この機能がマジだとしたら149万9,800円でも安すぎだろ……)
 とはいえ149万9,800円もの手持ちがあるはずもなく、諦めるしかない。
「最初のキャリーケースが良かったなー。ねぇ、お兄ちゃん、買ってよー」
「は? ふざけんな」
「お兄ちゃん、前からアイラに何か買ってあげたいって思ってたでしょー?」
 妹が自撮り棒?をくるくる回す。
 篤志は自分の中の記憶を辿り、何となくそんなことを考えていたことを思い出した。
「確かにな。でも、よく考えてみたらそれ単なる気の迷いだったわ。今はおまえごときのために一円たりとも金を使いたくないと思ってる」
「……おっかしいなぁ???」


……

…………


 その後、色々とチャンネルを切り替えて分かったことだが、どうやらこの羽音神島には四つのローカルチャンネルがあるらしい。
 その他は普通に日本のテレビ放送が見れたり、海外の国営放送が見れたりする。
(もしかして、ここって日本なのかも……)
 いつしか、篤志はそんなふうに考えるようになっていた。


 両親は『亡命』と言っていた。
 エルフやケルベロス犬は確かにこの目で見た。
 通販番組でも"異世界アイテム"としか思えない、わけのわからないものを売っていた。

(でも、日本語は通じる……)
(通貨だって『円』みたいだし……)
 羽音神島の四つのローカルチャンネルの中から、ワイドショー的な情報番組を選んで見ることにした。
『本日ご紹介するのはこちら! 話題沸騰中のお好み焼き屋さんです!』
 飲食店の紹介をするコーナーのようだが、その店は西区の【桜町商店街】とかいう場所にあるらしい。
 店舗周辺の様子が映るが、どこからどうみても日本の商店街だ。
 とても外国の風景には見えない。
(つうか、お好み焼きって、完全に日本の食い物じゃねーか……)

(さっきチョココロネに感じたオレの哀愁を返せよ……)

 ――ここは外国?


 ――それとも日本?

『私には“キャベツを意のままにする能力“があるんですよ。まず、こうやって手をかざすことで、キャベツの水分量や栄養価、そして旨味を変化させます』
『えっ、それだけでしょうもないキャベツが甘くて瑞々しいキャベツになるんですか?』
『しょうもないってなんやw』
『あはは、はい、そうですw しょうもないキャベツがこれで美味しいキャベツになりますw その後はこうやってまた手をかざして隅々まで洗浄します。さらに――』
『おおっ! 千切りになった!』
『すごい! 千切りも手ぇかざすだけなんですね!』
「…………」
 わけのわからないお好み焼き屋の紹介が終わったところで、篤志はテレビを消して立ち上がる。
「あれ? お兄ちゃんどうしたの?」
「ちょっと、外を歩いてくるわ」
 時計は五時半を少し回ったところ。
 窓の外はほんのり茜色に染まっているが、日が暮れるにはまだあと一時間ほどかかるだろう。
 さすがに夜間に未知の土地を歩くのは抵抗があるが、日没までの一時間をリミットと考えればあまり遠くにも行けないし、散歩の規模としてちょうどいいはずだ。
「じゃあアイラも行く!」
 妹は当然のようにそう言ってきた。
 ウザいとは思ったが、特に邪険にする理由もないので連れていくことにした。


……

…………

 先程、挨拶回りで歩いたところを更に先に進んでみる。
 どこに何があるかなんてさっぱりわからないので、完全に勘頼りだ。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんってカノジョいるの?」
「は? …………」
 唐突に妹に問い掛けられ、「それって兄妹が今更交わす会話か?」と思いつつも……その答えに詰まる。
("カノジョ"はいねーよな……)
 オフパコした女は多いが、付き合う約束は一度もしたことがない。
 “彼氏彼女“という関係には「めんどくさそう」という負のイメージしかないし、出来れば避けたいと思っている。
 家出先として選んだ名古屋の女にしたって、別に恋愛感情があったわけではない。
(つうか、こんなことになっちまって、あの女には本当に悪いことしたな……)

 名古屋の女は、比較的『まとも』な女だった。

 だからこそ余計に、申し訳なく思う。

 せめて一報入れて謝罪するくらいの礼儀は通したいが、スマホは相変わらず圏外だし、現状ではそれも難しい。

(つうか、こっちは今や『密入国&不法滞在』の犯罪者なんだよな……)
 それだけならまだしも『タツミ一家』の境遇によっては、もっと重い犯罪の渦中にいるかもしれない。
(いっそ、連絡しない方がいいのかも……)
 自分との接触で、彼女を変なことに巻き込んでしまう可能性もないわけではない。
 礼儀を通せば、篤志は自身の価値観に基づいた良識に沿うことで自己満足を得ることが出来るが……
 本当に彼女のことを考えるなら「なんなの、あの男! 同棲の約束してたのにいきなり音信不通になって最低!」と思われようとも、このまま接点を持たずにおくべきなのかもしれない。
「ねぇねぇ、どうなの? カノジョいるの?」
「ウッゼェなぁ……いねーよ」
「ホント!? えへへ、そっかぁ、いないんだ♪」
「なんだよ、その反応。ウッゼェなぁ……」
 自分の返答に嬉しそうにする妹の鬱陶しさに辟易しているうちに、この高級住宅街において他の建物と毛色の違う建物が見えてきた。
 どこからどう見てもコンビニエンスストアだった。
(ふぅん、コンビニか……)
(でも、この屋号は見たことねーな……)
 グリーンの看板に【UnelyMart】と書かれている。
 少しだけ躊躇ったが……建物の造りがまんま日本のコンビニだったこともあり、足を踏み入れてみることにした。
「いらっしゃいませー」
 店員の爽やかな挨拶に少々戸惑いつつも、顔には出さずに店内の様子を伺う。
 店員は二人で、客は自分たちを含めて六人。
 右手側に雑誌コーナーと日用品コーナー、その奥にはトイレがある。
 左手側にはコピー機があり、コーヒーの販売機やレストコーナーもある。
 店内レイアウトは完全に日本のコンビニと同じで、コンビニでバイトしていた去年までのことを思い出して懐かしさを覚えるほどだ。
(雑誌の立ち読みはオッケーだよな……?)
 恐らく大丈夫だとは思うが、他の客で立ち読みをしている者がいないのでとりあえず保留にして、日用品コーナーを見る。
(化粧品、歯ブラシ、ティッシュ……)
 定番のものが揃っている。
 取り立てて変わったものはないように見える。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、チョコ買ってー」
 日用品の品定めをしていると、上目遣いの妹がぶりっ子然とした仕草でトレーナーの袖をクイクイ引っ張ってきた。
 その手には、菓子コーナーから取ってきたと思われるチョコレートの小箱がある。
「……バカ、戻してこい」
 心もち小声でそう言ったのは、手持ちの日本円がここで使えない可能性があるからだ。
 先程のテレビ通販を見る限り、ここでの通貨は『円』のようだが……
 しかし、それが日本で使っていた『円』と同一のものであるとは限らない。

 篤志には何かを購入する気はない。
 ここに入ったのは「コンビニならば何も買わずに出たとしてもそれほど目立つことはない」と考えたからでもある。
(買い物は親に通貨のことを確認してからだな……)
(あいつらが知ってるかわかんねーけど……)
 そう考え、篤志は店舗奥――ペットボトルの飲料が並ぶ大きな冷蔵庫の前に立った。
(お茶、コーヒー、ジュース……)
(色々あるけど、見たことない銘柄ばっかだな……)
 むしろ知った銘柄の定番品が一つもない。
 そのくせ、商品ラベルの文字には日本語が使われている。
 ビールや缶チューハイの方も見てみたがそちらも変わらなかったので、次はアイスクリームの並ぶ冷凍庫前に移動する。
(こっちはアイス……)
(そっちは冷凍食品で、向こうの棚はケーキにプリン……)
(うーん……)
(どれもこれもすげー美味そうだよな……)
 そこで、頬を膨らませた妹が側にやって来た。
「お兄ちゃんが買ってくれないし、しょうがないから自分でチョコ買ったよ」
「――!?」
(な、なんだと!?)
 ギョッとして、レジの方に視線をやったが、店員の様子は別に普通である。
 篤志は小声で妹に尋ねた。
「金はどうした?」
「だから、アイラが自分で出したよ。ぷぅ、お兄ちゃんのケチ!」
 ほっぺたを膨らませる妹の頭を<ベシン!>としばく。
「いたぁい!」
「うるせぇ、そうじゃねえだろ!」
 イラッとして思わず大きくなってしまった声を、ハッとしてまた潜める。
「日本円を使ったのかって聞いてんだよ?」
「にほんえん?」
 バカな妹が小首を傾げる。
「アイラはね、千円札で買ったんだよ」
「千円札?」
「チョコはね、三百円だったの。それで七百円のお釣りを貰ったよ」
「マジかよ? それで買えたのか?」
「??? 買えたよ? だって金額足りてるもん」
 イマイチ会話が噛み合っていないが、そんなことはどうでもいい。
「よし、その貰ったお釣りを見せろ」
「え、なんで?」
「うるせぇ、いいから見せろ!」
 妹は不思議そうな顔をしながらも、クソみたいな"くまさんポシェット"からピンクの財布を取り出した。
 篤志はそれを横から奪い取る。
「あっ、アイラのお財布!」
「…………」
(おっ、レシートが残ってるな……)
(チョコが三百円で、千円支払って、釣り銭が七百円……)
 チョコレートの代金に端数が出ていないことを少し不思議に思ったが……内容は妹の話と一致する。
 財布のコイン入れを覗くと、五百円玉が一枚、百円玉が三枚入っている。
「…………」 

(この五百円玉は釣り銭で貰った分だな……)

(百円玉は元々持っていたのが一枚と、釣り銭で貰った分が二枚……)


 まずは五百円玉を取り出してよく観察する。
 そして次に百円玉を三枚出してそれぞれよく見比べてみた。
「…………」 
(同じに見えるな……)
(つうか、同じなんじゃねえの???)


……

…………


 結局、篤志は手持ちの日本円で買い物をすることにした。
 そろそろ夕飯時なので、家族全員分の弁当と飲み物、それから自分用に菓子を買うことにする。
「アイラはチョコがいい! チョコ買ってよ、お兄ちゃん!」
「は? チョコはもう自分で買ったんだろ?」
「もう一個買って!」
「なんでオレが。欲しけりゃもう一個も自分で買えよ」
「ケチ!」
 菓子を見繕う最中ずっと隣で妹がうるさかったが、篤志は妥協することなく自分の分だけの菓子を選んだ。
「ぷぅ! チョコ一つ買ってくれないなんて、お兄ちゃんは優しくないよ」
「なんでオレがおまえなんかに優しくしねーとなんねーんだよ。つうか、弁当と飲み物は買ってやるだろ? まずはそのことに感謝しろよ」
 篤志の差し出した千円札を見ても、レジの店員におかしな反応はない。
「お弁当は温めますか?」
「はい、お願いします」
 会計の流れは日本と全く同じだったが、弁当の温めが"杖でコンコン"の一瞬で終わったのはファンタジック・アイランドならではだった。
 商品をビニール袋に詰めてもらい、コンビニを後にする。
「ありがとうございましたー」
 店から出ると、外は少し暗くなりかけていた。
 思ったより遠くには行けなかったが、コンビニの中を長く見回っていたので思ったよりも時間を食ってしまったらしい。
 荷物もあるし、このまままっすぐ家に帰ることにする。
「ほら、おまえも荷物持て」
「えー……アイラが?」
「は? 当たり前だろ、なに言ってんだおまえ」
「むぅー……」
 どうやら妹の中には「欲しいものはねだれば買ってもらえる」「荷物は自分が持つものではなく人に持たせるもの」というクズな価値観があるらしい。
(オレが甘やかしてきたのがいけないんだろうな……)
 これまで妹を大事にするあまり、厳しいことも言わずに猫可愛がりしてきた。
 そういう記憶が篤志の中にはある。
(なんで自分がそうしてきたのかは謎だけど……)
(何にせよ、こいつがこんなクズになっちまったのはオレのせいだよな……)
(今からでも遅くない……)
(オレは兄として、こいつを真っ当な人間に変えねーと……)
 篤志は妹のクズな価値観を矯正すべく、帰り道をずっと説教に費やした。
「ふぇーん……」

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