超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

受難 ②

エピソードの総文字数=4,114文字

 捜査班の取調室――

 事情聴取って奴だった。


 ニュースなんかで良く聞く言葉だが、それを我が身で体験することになった。

 根掘り葉掘りと、昨日から今日に掛けての事を聞き出されたわけだ。


 俺はその中で、一つだけ言うべきかどうか、迷った物事がある。

 昨日の夕方、遊田と二人で学校に居た事についてだ。喋りずらいことではあったが、誤魔化したりして、遊田に変な疑いが行っちゃ不味いと思い、全部話してしまった。


 一連の話しを終えたあとで、俺と羽里は解放された。

 だが、召愛と遊田はその後も、警備室に身柄を置かれることになった。




 そして、真昼の12時すぎ。

 羽里に理事長室へ呼び出された。

「召愛の喫煙や援助交際の写真ですが、合成である可能性も十分にある、という調査結果がでました」

「なんだその煮えきれない結果は。

 真偽が、ハッキリしないってことか?」

「はい。画像が修正された痕跡は見つかっているのですが、その修正が合成を隠すためなのか、それとも、カメラのファームウェアの仕様によるものなのかが、切り分けられないそうです。


 次にこちらです――」

 一枚のUSBメモリが机の上に置かれた。

 それにはプリントラベルで、タイトルらしきものが書かれている。


『次期生徒会長、喫煙の瞬間の動画』とだ。

「つい先ほど、発見されたものです。

 これと同じ物が、いくつも校内に置かれていたそうです。

 中身を再生します」

 羽里のPCで動画が映し出された。

 

 映像は、選挙事務所室の窓の外から撮影されたものだった。

 ブラインドの隙間越しに召愛の姿が見える。

 でも、どうやって、三階にある選挙事務所室の窓の外から撮影を?

「ドローンでの空撮と思われます。ブラインドが半分閉まった状態でしたので、召愛は気づかなかったのでしょう」

 動画は、召愛が火の付いたタバコを持っている状態から始まった。


 そして、選挙事務所室の扉が開けられ、遊田が顔を見せる。

 召愛は、それと同時に、タバコをもみ消しだす。

 そこで、映像は終わった。


 なんというか……これだけを見たら、召愛がこっそりタバコを吸おうとしていて、急に人が来たから、慌てて火を消しているようにも見えてしまう……。

「ドローンまで投入して、妨害工作とはな……」
「はい。状況的には、工作以外ありえないのですが……。

 この映像自体は事実であると召愛も認めています。ですので、捜査班も、召愛が単純に、喫煙しようと火を付けた線も捨てきれずにいます。知っての通り、タバコは吸わずとも、火を付けただけで違反になります。


 さらに、所持品検査で、召愛の机から、同じ銘柄のタバコが発見されてしまいました」

「机なんか、誰でも、物を入れられるだろ!

 だいたい、んな無防備な場所にタバコ置いておくかよ?」

「選挙事務所室の遺留品――火の付いたタバコや灰皿、ライターですが、召愛以外の指紋はありませんでした。その他、手がかりになりそうなものは、何も発見されていません」
「工作だったら、指紋なんて残すわけない。

 だいたい召愛が本当に火を付けたって、証拠は何もないんだろ?」

「問題は、その逆に、工作である事を決定付ける証拠も見つかっていないことです。ゆえに、召愛への疑いを晴らすことが、難しくなってしまいました。


 そこで、捜査班は、遊田さんが不審な行動をしていた点から、突破口を見つけようとしています」

「遊田が、不審な……行動?」

「遊田さんは早朝から登校したそうです。

 普段は、遅刻ギリギリなのにです。


 そして、校内を、不自然にうろついてたのが、多数目撃されています。何をしているのかを、尋ねた生徒が居ましたが、はぐらかしていた、そうです」

 確かに、それだと怪しまれるのだろうが……。

「うろついてた理由について、遊田は、なんて言ってるんだ?」

「黙秘です。他の事については、素直に答えているそうですが……。

 なので、コッペ君に、心当たりがないか、確認したいのですが」

 そう聞かれると、俺も答えようがない。

 一応、あいつはボランティア部の所属だが、幽霊部員だし、早朝の自主校内清掃なんてやるようなタマでもない。

「俺も、さっぱりだ」

「さらに、捜査班が注目しているのは昨日の夕方の事なのですが……。

 コッペ君と遊田さんの間であった事が……引き金になったと」

「つまり、遊田が嫉妬から、召愛を退学に追い込もうとしたと、捜査班は考えてるのか?」
「はい……。しかし単独犯では不可能ですので、【議員】たちと結託して召愛を追い込もうとしたのでは、と考えているようです」
 ああ、くそ。

 なあ、遊田。

 お前は、やってない。そうだよな……?

 

 でも……。

 それなら、なんで、お前は黙秘なんかしてるんだ?

 後ろめたいことが無いなら、話しちまえば、いいじゃないか。

 そうだろ?

「その【議員】たちの方には、怪しい動きとかはなかったのか?」
「目立った行動は目撃されていません。スマートフォン等の、任意閲覧を求めたところ、拒否された事くらいです」
「そりゃ、十分怪しいんじゃないのか?」
「他人にスマートフォンを洗いざらい見せたい人など居ません。あくまで任意ですので、八割以上の生徒が拒否していますから、むしろ普通の反応です」

「となると、〝誰がやったか〟の証拠は何も出てなくて、捜査がお手上げになっているように……聞こえるんだが?」

「お手上げです。

 遊田さんが、うろついていた理由の供述待ちが、せいぜいです」

 そこで羽里の電話が鳴り出した。
「本家から……緊急連絡のようです。少々、お待ちを」
 羽里が電話に出ると、大人の女性の声が漏れ聞こえてきた。

 無音の理事長室の中では、ハッキリ聞き取れる。

【――彩。学校でのトラブルは聞きました。

 やはり言った通りでは、ありませんでしたか。

 あのような、おかしな娘と、あなたを再会させるべきではなかった】

「待ってください、お母様。

 召愛が本当に喫煙や売春をしていたかは、明らかになっていません」

 電話をかけてきたは、羽里の母親のようだ。

 羽里本人は、分家から本家へ養子に出された身だから、産みの親ではなく、

〝法律上の親〟ということになる。

「あなたに学校の運営を任せるのは、あなたに悪影響がない限りにおいて、という、私とあなたの契約があったのを覚えていますか?」
「もちろんです。わたしは何も悪影響など受けていない」
「もし、なんらかの悪影響が見られたら、ただちに、あなたから運営権を剥奪し、学校法人の解散を含む処置を執るとも、言っておいたのは覚えていますね?」
「はい」
「今回の事は看過できません。

 喫煙や売春を行う者が、あなたの友人であるというのは、それ自体が、重大な悪影響です。速やかに、名座玲召愛を退学にし、縁を切りなさい。永久にです。

 さもなくば、学校法人の解散を申請します」

「この学校を――潰すというのですか?」
「名座玲召愛を退学にしないならば、そうします」
「もし、そんな事をするなら、わたしにだって考えがある。

 羽里家の跡取りなど、やっていられるものですか。


 あなたが、この学校を潰したら、わたしは、あなたの跡をついでやらない。羽里家など消滅すればいい!」

「先週に大阪の分家で、お孫さんが生まれたのを知っていますか?

 その子を養子にとって、跡取りにしてもいい。

 羽里家に相応しい行動をできないというならば、あなたは不要です」

「なっ……!

 でも、急に学校を閉鎖するなんてことをしたら、訴えられますよ?」

「入学者全員がサインした契約書を読んでいないのですか?

 そこには、『運営側の都合により、突如として学校が閉鎖される場合があることを、事前に了承する』と、書いてある」

「……!」
「それでは、良い知らせを待っています――」
「待ってくださいお母様!」
「まだなにか?」
「お母様は、あくまで召愛が非行行為をした前提でいる。

 そうですね?」

「そうです」
「では、その前提が崩れたとしたら――?

 真犯人が見つかり、工作であった事が明らかになり、召愛は無実であったら、退学にする理由はなくなる。そうですね?」

「そうなるでしょうね」
「ならば、約束していただけませんか。

 真犯人が見つかったら、以降、この件については不問に処すと」

「……………………」
「いいでしょう。ただし、今日の下校時間までに、です。

 その条件であれば、約束しましょう」

「今日の……下校時間……?

 そんな、今日は投票日だから、午後3時が下校時間にしてあります。

 あと3時間しかない。あまりに無茶すぎる!」

「さあ、どうするのです、彩。

『下校時間までに、真犯人を見つけるか、名座玲召愛を、どうにか退学させる。

 それが出来なければ、羽里学園の解散』


 この条件で良ければ、約束します」

「くっ…………」
「…………

 …………………………

 ……………………………………………

「わかり……ました。それしか、ない。

 ただし、確実に約束は守って頂きたい」

「羽里家の人間は、契約を必ず守る。

 当主であるこの身であれば、言わずもがなです。

 彩、あなたこそ、二言はありませんね?」

「あるものですか。


    それでは――」

 羽里は、電話を切った。

 そして、俺へと目を向けて来た。

「聞こえて……ましたね?」
「ああ、真犯人を捜すったって、どうするつもりだ?」
「手がかりがあるとしたら、遊田さんの黙秘を破ることだけです」
「やっぱり……そうなっちまうのか……?」
「先に謝っておきます……。

 わたしは遊田さんが真犯人の一人だと思ってしまっている。

 そこで……心苦しいのですが、コッペ君に頼み事があります」

「なんだ?」
「遊田さんから、早朝にうろついていた理由を聞き出して貰えませんか? あなた相手であれば、彼女も話すかも知れない」
 つまり。

 俺が遊田を追い詰めろってことか……?

 しかも、信頼を利用して……喋らせてか?


 そりゃ……確かにな。

 本当に、遊田がこれをやっちまったってなら、あいつは相応の罰は受けなきゃならないんだろう。

 それは、わかる……。わかるけどさ。

「お願いです。コッペ君。

 この学校を救えるのは――召愛を救えるのは。

 もはや……あなたしか居ない」

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