リバイアさんとネフシュたん ~へブル人への手紙を護る者~

屋上での出会いと契約

エピソードの総文字数=9,431文字

 ここはとある地方都市の半公立の高等学校。
 彼はいつものように、緩やかな日差しが差し込む渡り廊下を歩いて屋上へ通じる階段の踊り場へと向かっていた。誰とも顔を合わせず一人でゆっくりと昼休みを過ごすためだ。
 彼はこの高校に通う普通科の3年生だ。
 外見は中肉中背、やや猫背。学習成績概評E、趣味はお座敷シューティング、その他特記事項なしといった具合の人物だ。一見ありふれたどこでもいる男子高校生のようだが、実は最近では珍しい高校留年生だ。もともと理数科にいたのだが、適性不良で転科を余儀なくされたのだ。
 彼の片手にはランチボックス、そしてもう片方にはゲーセンでゲットした景品のバック、そしてその中には年季の入った携帯ゲームとその予備電池3個、そして一冊の小さな古びた聖書が入っていた。
 あまり人づきあいがいい方とは言えない彼にも、ゲーム仲間がいるにはいた。けれどもそうした数少ない同学年の学友は去年卒業してしまい、親しい話し相手は今は誰もいない。
 彼がいつも一人で過ごしているのはそういうわけだ。

 この校舎の一角は、一般教室もなく、用具倉庫と改装前のトイレしかないために、生徒も教員も滅多に来ない。そのため、ここは彼にとってのお気に入りの場所の一つだった。
 最上階の踊り場にやってきた彼は腰を据えながら、バッグを床にそっと置いた。そしてランチボックスから、いつものメニューをおもむろに取り出した。近所の個人商店から買ってきたハムサンドと安売り店の特売ドクペだ。プラ容器の中から小さく刻まれたハムサンドを器用に箸でつまんでは口に運び入れ、ドクペを間に挟んで飲んでは流し込む。
 彼のもしゃもしゃごくごくと咀嚼する音が階段を伝って階下の廊下にまでに響き渡るが、気にする必要は全くない。時折、窓の外から小鳥が物欲しげに顔をのぞかせることがあるが、来客といえばその程度だ。
 一頻り食べて、ある程度満腹したら、次に携帯ゲームを取り出してシューティングゲーム(もちろん体験版)のプレイに興じるのが彼の昼休みだ。まさに至福の時である。
 だが、今日のお気に入りの場所はいつもと少し様子が違っていた。

「風?」

 上の方から何やら風がそわりそわりと吹き込んできていた。不思議に思ってのぞき込んでみると、いつもはカギのかかっている屋上へのドアが今日は施錠されていないことに気が付いた。

「卒アル撮影か?でも、まだそんな時期じゃないしな」

 そっと屋上階へのドアを開けてみると、通風孔の向こう側にプレハブのような建物が彼の視界に入った。

――――屋上作業用のプレハブにしては少し様子が変だ。

 そう感じた彼は、プレハブの窓に視線を移した。
 すると、プレハブの窓から、うっすらと中の様子が見える。窓際に女子の制服らしき衣服がつり下がり、ペットボトルやら本やらが、雑然と置かれている。

「人がいる?」

 裸眼視力0.07、矯正視力0.9の目を凝らしてみていると、入り口前には何やら部活動のような張り紙が貼ってあるのが見えた。
「こんなところに部室なんてあったっけな。そもそもここは屋上なんだが……」
 彼は訝しながらゆっくりと、ドア前のその貼り紙の文字が読めるまでの距離まで近づいていった。

『探しモノお手伝いします!RE:SEARCH部
対象:人、物品、思い出、なんでも探します。
報酬:交換制です。まずは相談ください
部員も同時募集中! 
入部条件:ちょっと特殊です。まずはご相談ください』

「探しモノ……」

 彼はこの言葉に気を取られた。なぜなら彼には探しモノがあったのだ。
 かつては都市郊外の田舎町に住んでいた彼には小学生の頃からの幼馴染がいた。
 その幼馴染とは駅から遠くにある教会の日曜学校で知り合った。
 そこでは小さい子供らが集まって、お菓子を食べながらみんなで遊んだりした後に聖書を読んで、み言葉を学ぶ、ということが行われていた。
 彼の目当てはもちろんお菓子と遊びだったが、幼馴染は一生懸命、聖書の言葉を健気に覚えていた。ある日、彼は幼馴染の聖書を借りたのだが、その後二人は、些細なことがきっかけとなり疎遠になってしまった。
 そしてまもなくして彼の家族は急遽引っ越しすることなり、それきりになってしまった。ゲーセンでゲットした景品のバックの中にある古びた小さな聖書は、その彼女のものだったのだ。
 彼女はどうしているのか、あの教会にまだ通っているのかどうか、彼は今日の今までずっと気になっていたのだった。
 彼は無意識のうちにバッグの中からその聖書を取り出して、彼女の名前があることを確認した。

 もう一度だけ、彼女に会いたい。そしてこの聖書を返したい。

 そういう気持ちが彼の中から、再び沸々と湧き上がってきた。
 すると突然後ろから、覇気のある元気な声が聞こえてきた。
 
「入部しますか?」
「え?」
声をする方に振り向くと、そこには見慣れない型の制服を着たツインテの小柄な女の子が立っていた。
「興味なければこんなところで立ち止まらないでしょ。どうせ昼休みなんだから入ってよ」
 彼女は、勢いよく彼の背中をグイグイと押してきた。
「ちょ、ちょっと……」

 無理やり部室に入れられた彼の目の前には、ブラウス姿のもう一人の女子生徒が中央の簡易机に座っていた。
 長髪に眼鏡をかけている様は、典型的なクラスの委員長風そのものだった。

「あら、いらっしゃい」

 出迎えるように彼の前に並んで立っているいかにも姉妹風の凸凹コンビという感じの二人は、なぜか同じ赤虹色の眼鏡をかけていた。
 凸の方は、彼と同じくらいの背の高さでお姉さん風、凹の方は145㎝の妹風というキャラ風味だった。ローファーパンプスにニーソックス、テープで短く裾上げされたスカートを着用したその出で立ちは、明らかに他校の生徒然としていた。
 突然の成り行きに憤慨しないまでも訝しく思った彼は、最初の一言として何を言うべきか、一瞬頭を巡らせたが、何も言わないわけにもいかないので、とりあえず無難な質問を繰り出した。

「窓際にかけてある制服は君の?」
「そうよ」
「制服が、ここと違うんだけど」
「確かに私はこの学校の生徒じゃないわ。シルエットはブレザー風の仕立てなのに襟元はセーラーカラーなんてデザインはこの辺りじゃあまり見ないでしょ」
「他校の生徒がどうしてこんな場所に部室を?」
「まあ、そこは気にしないで。高校間交流促進事業の一環としてやってるの。この部は大学でいうところのインカレみたいなもんだと思って」
「部室があるってことは公認?」
「もちろんよ」
「顧問の先生は誰?」
「一応、自分らの学校の先生の名前で申請してる。この学校の教職員じゃないわ」
「ふーん、まあ、それで許可が下りてるんなら、いいんだろうけど……」
 ある程度会話をしたおかげで少し気持ちの余裕が出た彼は、改めて部屋の中を目線だけで見回してみた。
 変な部屋だな……北側から入ったのに、部屋から見える景色が同じ北側ってどういうことだ?
 ドアも変だ。入るときは開き戸なのに、内側から見ると片引き戸になってる。
 ……多分これ、やばいやつ。絶対におかしい。ここから即時退室しなければいけないような気がしてきたぞ。
 彼は、徐々に焦燥感が高まってきたが、彼女らの声が聞こえてきた瞬間、その焦りはいったん止まった。

「自己紹介遅れてごめんね。私の名は、リバイア」
「自分はね、レビアっていうの」
「はい?」
「私のことはリバイアさんって呼んでね。一応貴方と同じ学年だし」
「自分はレビヤたんでいいよ。チミより学年二つ下だし。身長はもっと下だし」
 唐突なハンドルネームの紹介に戸惑いながらも、焦る気持ちは少し抑えられ、若干の冷静さを取り戻せた彼は、さらに淡々と会話を続けた。

「リバイアさんとレビヤたん、だね。これからそのハンネで呼ばせてもらうよ。ただ、僕の学年はリバイアさんと同じだけど、留年しているんで歳は僕が一つ上。それだけ知っておいてもらえるかな(余計なこと言わんでいいぞ)」
「高校で留年て、珍しいわね。普段から真面目に勉強してたの?それとも、こっちの方の問題かしら?」
 リバイアは、自分の胸のあたりに長くて細い人差し指を向けた。
「そっちも問題なくはないけど、どっちかってというとやっぱり成績だね」
 彼は自分の頭の方を指さした。
「本気出せば勉強しなくても80点は取れるとずっと思ってたのがよくなかったのかな。
気が付いたら赤点ばかりになって……(だから余計なこと言わんでいいって)」
「それは大変そうね。だったら、こんなとこいていいの?放課後特別授業とかあるんでしょ?」
「今日はお休みなんだ」
「そうなの」
「僕のやる気がね」
「それじゃ、留年もするわけだ。でも、それなら少し時間はあるようね」

 リバイアとレビアの二人は、話の傍ら冷蔵庫と戸棚からお茶菓子と飲み物を用意してテーブルの上に置き始めた。
「まあ、座って頂戴。お茶でもいかがかしら?」
「どうも」
 彼は言われるままに折り畳みのパイプ椅子にゆっくりと腰かけた。
「これは、オリーブ茶。そっちの茶請けは乾燥イチジクのシロップ煮。どっちもあまり見たことないでしょ」
「ありがたくいただきます」
 口に含んだ瞬間、日本茶に似たほのかな苦みとオリーブの風味が舌の上に広がった。それは彼にとって、まさに地中海を思わせる異国の味だった。
「お口に合うかしらね」
「嫌いな味じゃないかな」
「それはよかったわ。お代わりあるからよかったらもう一杯いかが」

 お互い少し打ち解け始めた雰囲気に乗じて彼はもう少し切り込んだ質問を投げかけてみた。
「ところでここは部員は何人いるの?」
「今のところ、この二人だけ、部長と副部長よ」
「少ないね」
「まあ、今日ここに部室をかまえたばっかりだから立ち上げ部員しかいないのよ」
「部として申請する場合は、非公認でも最低部員4名いなきゃいけないでしょ。もう、先に部室作って大丈夫なの?」
「そう、だからあと1人いるのよね」
「あと、2人では?」
「あなた、部員希望じゃないの?」
「ま、まさか。僕はただ勝手に押し込まれてきただけで、君らの部活動には興味ないよ。そもそも、今だって帰宅部だし」
「あまり、部活なんかで他人と関わりあうのは苦手な方なのかしら」
「そんなことはないけど、積極的な人付きあいはあまり好きじゃないね。分かり合える者同士でつるむのは嫌いじゃないけど……って、そんなことは君らと関係ないだろ!」
「じゃあ、依頼者ってことでいいかしら」
「だから、部員希望でも依頼希望でもないって言ってるでしょ!」

「それでは改めて、いらっしゃいませ」
 リバイアは、手慣れた様子で即座に電子ペン付きタブレットを卓上に取り出して事務手続きに取り掛かった。
「いらっしゃいませって……依頼者じゃないと言っているのに……」
 相手の態度から伝わってくる何かの企みを直感的に感じた彼は、とりあえずここは素直に従った方が無難であると判断した。そして何かを依頼することにして、条件が折り合わずに結果断る、という流れでこの部屋から出ようと画策した。
「それじゃ貴方の名前は何にしましょうか」
「何にするとは?」
「ここで自分の名を名乗れるのは部員だけ。依頼者だったら、仮名。それが決まりなんですの」
「そうですか……まあ、確かに個人情報に関わることですからね。仮名の方がいろいろと便利でしょう。でもいきなり仮名といっても思いつかないな」
「では、こちらで任意に決めてもよいですか?」
「どうぞ」
「とりあえず、ボーって呼んでもいいでしょうか?」
「ど、どうぞ。(何語なんだ?)」
「分かりました。ボー。で、あなたは何をお探しですか?」
「え……と、とりあえず……」
 何かを依頼することにして退室するというところまでは考えていたものの、いざその依頼内容を言うとなると、何を言えばよいのか、彼は言葉を選ぶのに時間を要した。
「私の方から言いましょうか?」
 な、なんだ。この自信ありげな眼は……まさか、心の中を読めるとか。いやそんなわけはないだろう。はったりに違いない。探し物がないなんていう奴はこの世の中にいないはず。
 そう、確かに僕にはずっと昔から探そうとして探すことができなかったものが一つだけある。だが、それは容易に見つけ出すことはできないものだ。これなら話は成立しないだろう。彼はそう踏んだ。

「……人を探しています」

 彼は、初対面の彼女らに事情の概要を簡単に説明した。
 この時すでにオリーブ茶は二杯目になっていて、それも残りが少なくなっていた。

「なるほど、昔疎遠になってしまった幼馴染の行方ですか。よくある依頼です。やれないことはないですね」
「え?探せるんですか?」
 彼はこの意外な答えに大きな関心を持ち、早々にここから退散する気は突然希薄になった。
「でも、人探しというものは、名前以外の手掛かりがないとなるとネットが発達した現代でもなかなか難しいことなんですよ」
「最近は個人情報がどうとかで、むしろ昔の方がやりやすかったくらいなんだ」
レビアが二人のやり取りの間に補足するように口をはさんだ。

「昔って、貴方らいつから部活動してるんですか?」
「ほんとにさいしょっからだとね……」
得意げに説明しようとするレビアの口をリバイアが押さえた。

「ま、まあ昔って言っても入学してからなんで、1、2年てとこよ」
 あんたは私が指示するまで黙ってなさい!リバイアはレビアに静かに目で伝えた。
 それからリバイアは、斜めになったタブレットをもとの位置に戻しながら、説明をつづけた。

「で、報酬なんですが、逆にこちらの依頼を聞いていただくということになっています」
「交換条件てこと?」
「そういうことです。そのように張り紙にも書いてあったかと思います」
リバイアは念を押すような表情で強調した。

「そちらの依頼は簡単ですか?」
「人によります」
「ではとりあえず交換条件となるそっちの依頼内容の説明だけ先にお願いします」
「わかりました。それではいくつか質問させていただきます」
「どうぞ」
「まず趣味についてうかがいます。貴方は歴史とか、ファンタジーにお詳しいですか?」
「まあ、結構その手のアニメとかゲームとかは趣味にしてます」
「FPSゲームはお得意?」
「まあ、たまにネカフェのPCなんかでやったりはしますね。自宅のだとちょっとグラボが古いんで」
「現代戦とか?」
「それもやりますし、ホラー系とか、ジャンル関係なくいろいろやったことあります」
「なるほど、人並み以上にシューティング系ゲームのセオリーはよく知っていると……」
いきなり趣味の質問、それもゲーム関連の質問に当惑したが、とりあえず全ての質問にきちんと冷静に答える心の準備を彼は整えた。
「映画なんかはよく見ますか?」
「アニメからドキュメンタリーまで満遍なく見る方だと思います」
「映画館にはよく行く方ですか?」
「はい。サービスデーなんかに」
「一人だけで?」
「まあ、そうですね……」
「ボッチ鑑賞?」
「はい。ボッチ鑑賞(という言い方があるのか?)です」
「それだと、感想を言い合ったりできないから、ちょっと物足りなくないですか?」
「何か感想を言いたくなったらSNSで言うことにしています。ある程度の距離感がある方が言いたいことを自由に言えますから」
「なるほど、さすがデジタルネイティブ世代ね」
「デジタルネイ……?なんて言いましたか?」
「いえ、こっちの話です。気にしないで。では、次の質問。本はよく読みますか?ライトノベルや漫画も含めて」
「まあ、読書は好きなのでいろんなジャンルの本を読みます。ただ現国とか古文の成績に反映してないですけどね」
「まあ、物言いが最近の高校生とは違う雰囲気なのは、本好きの物知りさんてことかしらね……」
 リバイアは独り言のような感想を言い放ちつつ、電子ペンを走らせ、次々と項目にチェックを入れていった。

「次の質問、あなたのキャラ属性は?」
「キャラ属性?」
「最近よく陰キャとか陽キャとかいいますよね。昔なんかだとネクラネアカとか言ってたみたいですが」
「魔導士タイプとか、剣士タイプとかそういうのとかじゃなくてそっちのキャラ属性ですか」
「はい、そっちのキャラ属性です」
「まあ、どちらかというと陰キャですかね」
「なるほど、見た目通り……と」
 リバイアは電子ペンを走らせ、次々と項目にチェックを入れていくだけでなく何やらメモも書き入れていた。
「わかりました。では次の質問です。頭はいいが成績がのびないタイプと人からよく言われますか?」
「人から言われたことはないですけど、地頭がよければいいなとは思っています。実際成績悪いんで」
「一人会話は得意ですか?」
「一人会話?」
「幻聴や幻覚に反応して話をする独語症のような会話ではなく、相手はおらず自分一人であることを自覚して二人分の会話の応答を一人で行うような行為です」
「独り言とか自問自答ようなものですか」
「とりあえず、今はそのように理解しても結構です」
「……それならまあ、得意です」
「でしょうね」
 相手のプライドぎりぎりを攻めてくる質問群と、その相手のつぶやき染みた返答に彼は、憤慨寸前だったが、次の意外な質問にその気持ちは破砕した。

「聖書は知っていますか?」
「聖書……ですか?」
 
 意外な質問もさることながら、彼は当惑した。なぜなら、今それは自分が手を伸ばせば届く場所にあるからだ。さすがにこの質問には彼も慎重にならざるを得なかった。
 彼は、思案をした。どう答えればいいのだろうか。いや、そもそもこの質問にどういう意味と意図があるのか、そしてなぜ今このタイミングなのか、彼は皆目つかめないでいた。
 しかし、積年の願いが叶えられる可能性が、もしここに少しでもあるならと思い、彼は自分自身でも意外に思えるほど、即応して答えた。
「持っています」
 もはや彼は一縷の望みを、得体のしれないこの二人の他校の女子学生に託す気になっていた。
「持っていることと、知っていることは全く別の話だとは思いますが……とりあえず今はその回答でもよいことにしましょう」

 なんだこの上から目線的な物言いは、と彼は思うか思わないかのタイミングでリバイアからの回答が聞こえた。
「わかりました。では直入にいいます。交換条件は次の通り。
 貴方に依頼したいことは、ある手紙を敵から守り、無事それが届けられるのを確認すること。時代は紀元65年、場所はパレスチナ地方のイスラエル周辺地域、貴方は対物ライフルを携行し、手紙を奪取しようとする敵を狙撃し、これを排除・無力化すること。
 スポッターとして強化学習エンジンを搭載した美少女型機動AIネフシュ、それに支援兵力として機動AI歩兵が6体随伴する。いかがかしら?」

「わかりました。やりましょう」

「即答だって。ほんとにやるの!?」
 小さな体躯にも関わらずレビヤたんが声大きなをあげた

「そっちが驚いてどうするんですか」
「普通はもっといろいろ質問するでしょう?」
「確かに、最初はこのサークル部のことを訝しいとは思いましたよ。でももう、いろいろと詮索する気は失せました。
全部自分が納得することなんて多分ないし、それに、敵を遠距離から狙い撃ちにすることなら僕でもなんとかできそうです。
今はとにかくこの聖書を彼女に渡してあげたい。それだけです」
「なるほど。そういう心情なのですね。私らもあなたの期待に応えるように誠心誠意頑張りたいと思います」
「思いまつ」
「では、ここに読める字でサインをお願いします。私たちの契約内容履行義務は、ボーがこちらの依頼内容を達成した時点から発生します」
「わかりました」
「何かご質問はありますか」
「プレイにあたって僕のアカウント設定はありますか?それとも自分で初期設定しなければなりませんか?」
「アカウント?そんなものありませんよ」
「アカウントがないと課金したり、パワーアップしたりできないでしょ?」
「貴方、何を言っているんですか?」
「なにいってるんでつか?」
「これは、ヒストリカルFPSオンゲの代理プレイの話じゃないんですか?
「違いますよ。リアルで現実の話です」
「でつ」
「リアル?だって2000年も前の西アジアで魔物を倒す設定なんですよね。現実も何もないでしょうが?」
「もう契約にはサインがあるので、断ることはできません」
「はあ?」
「具体的なミッションブリーフィングは、ネフシュからさせていただきますので、とりあえずボーは先に現地へ向かってください」
「さあ、出てった、出てった」
 レビアは部室に入ってきた時と同じように彼の背中を押し出した。その力は彼女の体躯からは思いもよらない怪力だった。
 彼は、レビアからずりずりと押し出されるように部室のドアから室外へなす術もなく出て行った。
「ちょ、ちょっと……」

 リバイアはすました顔で彼に言い放った。
「ご心配なく、学校には長期欠席届、自宅には宿泊補習勉強会と言っておきますから」
「せ、せめて、その手紙がどんなものくらいかは教えてもらえないのか」
「そうね、作戦上重要な目標だから、それだけ今のうちに教えておくわ。その手紙は
『へブル人への手紙』と言うものよ。忘れないでね」

 すると屋上の周囲に光が渦巻き、ストップモーションアニメのようにあらゆる動きが離散的に変異しはじめ、轟音とともに時間の経過がスクラッチされていった。
「へ、ヘブル……」
 彼の声が聞こえるかどうかの間際に、ついに彼は屋上から消え去った。
 そして辺りは再び静寂になり、何事もなかったかのように、いつもの昼休みが終わろうとしていた。

「……たぶん、やれるでしょ」
 リバイアは彼の時空転送処理を見届けると、電子ペンを胸ポケットに入れて静かにタブレットの電源を落とし、再び自分の椅子に着座した。

 ほどなく意識を取り戻したボーが後ろを振り向くと、そこには校舎の屋上はなかった。その代わりにどこまでも乾いた荒れ野とそこにぽつぽつと寂しく点在する枯草、幾重にも重なる岩山とそれに対になすようにどこまでも広がる蒼穹が、彼のまんまるに大きくなった瞳に映されていた。
「ここは、どこなんだぁあ――――」
 最初は勢いのあった彼の声も、徐々に小さくなり、周囲の山々の合間に残響して、ついには静かに途絶えた。土塊と乾いた大地から巻き上がる砂塵が彼の髪の毛の中にまとわりついた。彼は髪の毛をかきあげながら、もう一度叫ぼうとしたが、とりやめた。
 空腹であることに気が付いたからだ。
「昼飯、まだ途中だったな……」
 彼のうつろな眼は、グーグルアースでさえ見たことない静寂と共に広がる果てしない茫漠たる荒野を呆然ととらえていた。

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