超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

自分の義を見られるために人の前で行わないように注意しないと正妻がブチ切れる件 ④

エピソードの総文字数=3,715文字

 帰りのヘリの中は、最悪に重苦しい空気だった。


 エンジン音で、まともに会話できないせいで、二人が言い合うような事は無かったが、気が滅入ったよ。


 そして、二人と共に寮の玄関に入り、ドアを閉めた途端から、だった。

「彩。まずは、釈明を聞きたい」

「おい、せめて風呂で体を温めてからに、したらどうだ」

 俺たちは少なからず体を濡らしていた。


 でも、羽里も、退くつもりはない。

 レインコートを脱ぎ捨てて、召愛の正面に立ったよ。

 身長差が十センチ以上あるにも関わらず、堂々とした立ち姿だった。

「あれらテレビ局を呼んだのは、間違いなく、わたしです。

 不適切な取材が行なわれたのは、遺憾だと思っている。

 わたしが責を問われるなら、何も言い訳しない」

「テレビ局を呼べば、あのような輩が来る来ないに関わらず、被災者に迷惑を掛けるのは、目に見えていたはずだ。


 なぜなら、民放テレビ局は、被災者を助ける目的で来るわけではなく、視聴率を稼ぐために来る。なのに、どうして」

 やれやれ、ついに……。

 ついに……破滅の黙示録が始まっちまった。


 せめて、暖かいココアでも煎れてやるか、と思って、俺は台所に向かったよ。

 その間にも、大声で言い合う声が玄関から響いてきた。

「あれらは、生徒たちのモチベーションを保つため、必要だと考えています」

「あんなのが、必要だと。

 本気で彩はそう思っているのか?」

「そうです。ボランティア活動に充実感を与えてやるのが、わたしの仕事です。自分たちの行動がテレビで取り上げられれば、生徒たちは誇りを持てる。

 

 マスコミを使って学校のブランドイメージを高めたのだって、わたしの戦略。そうして世間から評価されると実感させてあげれば、より積極的に行動するようになる。そうでしょ召愛?」

俺は牛乳をマグカップ二つに注いで、電子レンジで温めたよ。

「だが、生徒たちがやっている事を見ろ。ほとんどの皆が、助ける相手の事を考えているわけではなく、自分たちの事しか考えていない。

 

 男子たちは、現地の女子高生にうつつを抜かしたあげくに、不正を行い。女子は衛生管理を放棄して、SNSにアップロードする写真の構図にしか興味がない。


 異性に関心があるのは当然だし、アイドルの夢を見るのもいい。

 けど、あの場では、被災者より優先することではない」

「それくらいの利益が個人に無ければ、

 これほどの参加率は見込めません!」

 暖まった牛乳に、ココアパウダーを入れた。

 甘い香りが漂って、俺は思わず溜息を吐いた。

「ならば、彩、君の学校がやっている事は、いったいなんだ。

 あのテレビ局の輩が言っていた通りじゃないか。

 偽善だ。偽善者の集団だ。

 悪人らしく振る舞っていたあの輩の方が、まだマシだ!」

「だとしても、実際に、わたしたちがやっている事を見てみなさい。

 他のどんな学校もやっていない。善行をしている。


 粗はあるでしょう。でもわたしたちは人間なの。

 粗がある生き物なの。

 だったら、その粗も良い方向へ利用し、良き道へ導けばいい。


 そのように他者を導く努力をせずに、自身の清廉潔白さだけを追求する事を説くなら、召愛、あなたこそ自分に酔ってるだけの


 偽善者です!」

「だが、彩。今日の、あれが……。

 もし自分が被災者となってしまった時に、して貰いたい事か?」

「粗があったのは認めてる。でも、召愛、あなたみたいに行動できる人間は、生徒の一割、24人も居ないでしょう。


 だったら、わたしはこう考える。

 パーフェクトな100%の善行を24人でしかやらず、2400%の結果しか残せないならば、

 わたしは90%の善行を240人でやり、22000%の結果を残します」

「私とて……。本当は、それしか無いのかも知れないとも、思う。

 だけど、そこで止まってはいけない。

 

 私が目指すのは、100%の善行を24人でやることでも、

 90%の善行を240人でやることでもない。

 100%を70六億人、全人類でやれる時が来るまで、私は前へ進み続けたい」

 俺は二人の間に立って、湯気をたてるココアを差し出したよ。

 でも、二人の間に緊張感がバチバチ火花を散らしてるせいで、マグカップを受け取ってくれない。

「コッペ君は、どちらに付くつもり?」

「俺?」

 正直、二人が目指しているものが、やはり同じゴールにしか見えなかった。


 でもゴールへ辿り着くまでのルートは、一見とても近い場所を通っているように見えても、けして交わることがない。


 二人がもし他人同士なら、それぞれ違う道を行けばいいじゃないか、で済む話しなんだが、こいつらは生憎と親友でいらっしゃるわけだ。


 互いが互いのためを思って、正しいと思う道へ、手を引っ張っていこうとしている。

 友情が麗しすぎて、ほっとけないのだ。因果なものだ。

「俺はだな。ぶっちゃけ、どっちでもいい」

 ほんとに、身も蓋もなくぶっちゃけちまった。

 なんか、二人が睨んでくるぜ……。

「むっ……!」
「むー……!」

 なんつーか、共通の敵認定されちまった感すらあるが、両者の間のバチバチが弱まった気がしたよ。


 んで、召愛も羽里も、マグカップを受け取って、美味そうに飲んでくれた。

 甘味はいつでも人の心を和らげる。

「どっちでも良いわけないでしょう。真面目に聞いてるのです」

「だから、真面目に答えた。

 俺はお前らみたいな聖人君子キャラじゃない。

 ただの16歳の男子高生でだな。


 一応は美少女に分類される生物二匹が、喧嘩してる光景よりも、シンクで体を洗い合うのを夢見る少年だ。


 そんな奴にどんな意見を求めてる?


 もう一度言うぞ。どっちでもいい。

 俺は、お前らが仲良く服を脱がし合う日を、再び到来させる方法はないか。それを必死に、考えてる。それ以外に興味はない」

「コッペ……。君という男は……」
「……へ、へんたい」

 とか言って羽里はだな。

 恥ずかしそうに顔を赤くして、胸を隠すような仕草で俺へ背を向けつつ、睨んで来たよ。あの日に服を脱がされた時のポーズそのままだ。

(大丈夫、お前には隠すほどのものは、胸部に付属してない)

 などと、とてもとてもとても失礼な事を思ってしまったが、紳士な俺は口に出さず、あの日に見た白いレースの紐を回想するだけ留めた。

 

 あれはあれで可愛かったぞ。きっとそういう需要もいっぱいあるからな。

 安心しろ、羽里。

「さ、先にお風呂入らせてもらいます」

 羽里は逃げるみたいに、行こうとしたよ。

「もちろん、シンクではなく、普通の湯船でね」

 俺への当てつけも、しっかり忘れてなかった。

「それと召愛。明日のわたしの分のお弁当は要らない」

「どうしてだ……?」

「昼休みから立候補受付けが始まるから、理事長室で準備をしなければ。ゆっくり食べている暇がありません」

 羽里がそう言うならば、本当に時間がないから要らないと言っているのだろう。

 けど――。

「わかった……」

 と召愛は見るからに、しょげてる様子で、羽里が去って行く後ろ姿を見送った。


 後には俺と召愛だけが、廊下に残された。

 召愛は何を見詰めるでもなく、ただ、前を向いていたよ。

「……」

 時折、ココアのマグカップを口に運んでいた。

 彼女の目はきっと、自分の行くべき未来を見据えていたのだと思う。

「本当に、立候補しちまうのか」

「当然だ」

「羽里に勝てると思うのか?」

「勝てる勝てないではない。

 やらなければならない」

「羽里と衝突し続けることになってもか?」

「それが使命であれば、仕方がないだろう」

「その使命とやらは錯覚だ。

 お前はイエスの生まれ代わりじゃない。

 ただの、人格がリアル聖人なだけの、孤独な女子高生だ」

「イエスとて、最初は人格がリアル聖人なだけの、ただの土木作業員だと他人から思われていたのでは?」

「召愛に必要なのは、友だちであって、お前の道とやらを行くことじゃない」

「なぜ、コッペが私に必要な事を決める?」

「お前が不幸になるのを見たくないからだ。

 お前が、毎日を楽しく過ごせる姿を、俺は……」

 そこまで言ってから、自分で思った。

 なんで、俺はこんなに、こいつに思い入れてる?

「……!」
「……………」

「お、俺は、お前が羽里を強引に脱がせたり、シンクで洗うのを見たいだけだ」

 なぜか、つい、寒い冗談で言い直して、誤魔化してしまったよ。

 すると、召愛は笑った。俺を馬鹿にするような笑いではない。

「私も、君の事をとても大切に感じている」

「――!」

 いきなり、召愛はそんな事を言い出した。笑顔でだ。

「君も、私のことを大切に思ってくれるならば、お願いだ。

 この事に関しては、私の思うように、させて貰えないだろうか」

 その笑顔が、あまりにも屈託がなさすぎて、俺は、否定する言葉を、考えつけなかった。


 だから。

「馬鹿野郎……」

「ありがとう」

「俺は絶対、選挙を手伝ったりしないからな」

「わかった。

 でも、これからもココアくらいは煎れて欲しい。

 とても美味しかった」












 その夜中、冷蔵庫にお茶を取りに行くために居間を通った時だ。

 いつも居間で二人で寝ていた召愛と羽里の姿が無かった。

   私室で一人で眠っているのだろう。


 寮生活をして以来、初めての事だった。


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