レイルモデラーズ

第1話 KATO車両ケース(10-215)をお求めのお客様

エピソードの総文字数=8,053文字

 ♪さあ行くんだ、その顔を上げて〜
 男の渋い声の鼻歌が、工具やパーツで雑然とした工房から上がっている。
「ストーップ! その鼻歌ストーップ!」
 そう止める女の子の声がちょっとキラキラとした張りのある声である。
「いいじゃないか。これ、いい歌だぞ。古いけど」
 そう言いながら弁当箱の中に鉄道模型のナローゲージのレールを敷いているのは、流沢叶三郎。この天の川鉄道模型社のマスターである。
「でもそれ以上歌詞使ったらJASRACに申請してお金払わないといけなくなるんですよ!」
 怒っているのは照月メイ。二十歳寸前のこの店のマスコットガール、だろうか。メイド服に近いユニフォームを着ているが、この店は飲食店でもバーでもない。鉄道模型店である。並んだ精密な鉄道模型車両と、それぞれに空気感を持つジオラマの展示ケースがその証拠だ。
 とはいえなぜかその手前には椅子とテーブルのしゃれたカフェのようなスペースがあったり、アニメフィギュアがどっさり飾られた飾り棚もあるのだが。
「誰が払うの? だいたい『天の川鉄道模型社御中』ってJASRACから請求書来たらビックリだよ。それはそれで見てみたい気もするけど」
 そう話しながらマスターは弁当箱の仕切りのところに岩肌を表現するための紙粘土を型で整形している。
「それはうちの著者さんが払うんです! でもうちの著者、ビンボーで払えないから、いきなりこの話、冒頭からお蔵入り必至ですよ! こんないきなりのメタ展開ひどいっ! 読者さん初っ端からドン引きですよ!」
「あ、ホントだ。引いてる引いてる。すげえ引いてる」
 そのとき、この店で飼っているオスの三毛猫のテツローが物音に振り向いて、こんな馬鹿なやりとりをしていた二人も、ようやく気付いた。
「あのー」
 その視線の先、この店の入り口のガラスドアの前で30代ぐらいのスーツの男性が声を出している。
「あ! いらっしゃいませ!」
 メイがすぐに慌ててお茶を出す準備をする。
「ここ、鉄道模型のお店、なんですか?」
「そうでございます!」
 メイはにっこりとスマイル0円で答える。
「でも、鉄道模型って、どういうものなんでしょう?」
 うっ、とメイはたじろいだ。
 いきなりこれ? これ、案外難しい、『燃えやすい』質問だよう!
 定義するの案外難しいのよね……鉄道模型って。
 メイは救いを求めて工房の座椅子に座っているマスターに振り返った。
 ひどい! 作業して露骨に忙しい振りしてる!
 さっきまで暇そうだったのに!
「マスター!」
 すごくひどい! 呼んだのに聞こえないふりもしてる!
「マスター、鉄道模型って何か、ご説明お願いします!」
 もうメイは諦めて音を上げた。
「突然の深遠な問いにおじさん不意を突かれてビックリしちゃったよー」
 ようやくマスターは頭をかきながら振り返る。
「デスヨネー」
 メイも続いて振り返る。息ぴったりのそのコミカルな仕草に、彼は苦笑した。
「あ、いや、そんなつもりじゃなかったんです。だって、私、鉄道模型を昔、小さい頃やってましたし」
 彼はそして恐縮している。
「そうなんですか?」
 メイは愛想良く首をかしげる。その仕草がアイドル並みに計算尽くであざとい。
 だいたいメイは甘い目尻で二十歳寸前なのに高校生以下に見えて、しかもご立派な胸と来てるからなかなか凶悪なのだ。
「いつの頃ですか?」
 きらきらと目を輝かせて聞くメイ。ほんとにあざとい。
「小学校の頃かなあ。クリスマスに親に買って貰ったと思う」
 彼は懐かしむ声になった。
「ステキですね」
 メイも思わず微笑む。
「ステキじゃないです」
「え?」
 さらに不意を突かれて、メイの眼がクエスチョンマークになる。
「だって、そのクリスマスプレゼント、ぼくは息子にあげられないんだから」
 彼は少し苦しげな声になった。
 えええっ、それって……。
「せっかくなんで、お席におかけください」
 メイが『まさか』と言いかける前に、マスターがいつの間にか座椅子から立って、コーヒー片手に側でそう促していた。

「そういえばクリスマスの準備、はじまってますもんね」
 メイはつとめて明るく接しようとする。
「息子さん、何歳ですか?」
 マスターが聞く。
「10歳です」
「小学4年生ですね」
「ええ。今年も夏休みに鉄道旅行に連れて行ったんです。今年は土合行きたいっていうから」
「今有名ですもんね。上越線。話題性もあるし」
「ええ。でも……そのとき、もう嫁とは離婚の話してて」
 嗚呼、やっぱり。
「鉄道旅行も私と息子だけていくことになってしまって。可哀想なことしてしまっている」
「そうですか」
 マスターは静かに聞いていた。
 そしてどうするのかとメイが見ていると、なんと、そのまままた工房の小上がりの座椅子に戻って、黙って作業を再開してしまった!
 えええ! 二十歳にもなってなくて結婚どころか恋愛経験もネトゲとか深夜アニメにハマったりしてるせいでほとんどない私には、離婚の話題はあまりにも重すぎるよう!
 内心メイはそう泣きそうになっていた。
「あ、あの、奥さんは」
「ちょっと年下で……ぼくは彼女を愛していました」
 というか、メイはもういつ爆発する分からない地雷を除去する作業のようにドキドキしてしまっていた。いや、穏やかそうな男性なので爆発はしないと思うけど……。
 でも他人のこういう傷に触れるのはすごくおそろしいことだってのはメイにもわかることだった。
「これ、紙粘土でないとだめなんだよな。木粉粘土でやろうとしちゃったよ」
 マスターはそんな独り言を言いながら作業を続けている。ほんと、それどころじゃなーい!
「あ、こんなこと聴いてもらってもすまないですね」
「え、ええ、いいんですよ!」
「でもこのお店、普通の鉄道模型店とは随分違いますね。このブラス製の蒸気機関車は?」
「あ、これはマスターの友人さんが『好きな値段で売っていいから』ってマスターに預けたものです」
「すごいボイラのパイピングが精密で、そのうえ水平垂直出てますね。これはいいもの拝見しました。ぼくもNゲージやってたんですよ」
「ナローだけでなく、Nもございますよ。大手チェーンのように多くなくて、カスタム品と少しの消耗品ぐらいですが。こちらです」
「フルカスタムですね、これ」
「はい。DCC対応品もございますが、この機関車は」
「これは何かのアニメに出てきたような」
「はい。それに登場する武装機関車です。アナログ方式で走らせてもちゃんと回路駆動させて屋根上の識別用回転灯が付きますよ」
「そうですか。アナログだと車両に届く電圧がかわっちゃうから、回路動かすのはムズカシイと聞きました」
「そうです。普通はDCCでギミックをやったほうがシンプルなんですが」
 そう応対しながらメイは『マスターたすけて!』と叫びたかった。それだけ彼が思い詰めた表情を隠して鉄道模型の話をしてくれているからだった。
「あ、でも車両ケースもある。これだと10両入りますね」
「ええ。KATOのブックケースおいてあるんですよ。TOMIXやマイクロエースのケースはプラのところが最終的には弱いので。でもこんなのもございますよ」
「おおー。ゼロハリのアタッシュケースみたいだ。カッコいい。でも高そうですね」
「それが、な、なんと! ご覧のお客様限定で! 今すぐお電話の方に限り!」
「TVショッピングじゃないですかそれじゃあ。ははは」
 やっと彼は笑ってくれた。よかった!
「これでバラバラにしまってある車両も、ひとまとめにきれいに収めて幸せ模型生活!」
 そうはしゃぎ終えたメイは、その瞬間、あれほど恐れながら除去しようとしていた地雷を思いっきりトルネードスピンで踏んでしまったのを悟った。
「幸せ、ですね」
 彼はすっかり落ち込んでいる。
「ああ、そんな」
「ぼくには、幸福追求権なんてないんです」
「……なぜ」
 メイはもう踏んでしまった地雷なので、思い切って聞くことにした。毒を食らわば皿まで、ってのはこういうときに使う言葉なんだなといまさら理解するのでもあった。
「仕事がメチャメチャ忙しくて、始発で出て帰りは終電。寝にだけ家に帰る生活。それでも休日は息子の鉄道趣味に付き合って出掛けたり工作したり。でも……そのなかで、嫁さんのことが抜け落ちていた」
 メイは息を呑んで聞いている。でもマスターは座椅子に座って黙々と紙粘土で作った岩肌を、弁当箱ベースのパイクに立てた壁に貼るのに集中している。
「そして、嫁さんが、嘘をついていることを知ってしまった。パートに出てるはずの嫁が、偶然、他の男とデートしていたのを見てしまった」
 マスターは黙って座椅子を回し、今度は何か別の工具を探している。
「ぼくがいけないんだと思った。ちゃんと嫁と話もできない私が悪い。でも、カードの引き落しの額を見てたら、ぼく、なんでこんな額のお金を、よその男と嫁さんのデートのために稼いでいるんだろう、って思えて」
 彼は悲痛な声になってきた。
「でも、息子がいるから離婚なんてできない。息子がかわいそうだ。これからの学校のこともある。別れるなんて出来ない。嫁さんも変わらず愛しているし」
 彼はもう言葉が止められない。
「なぜこうなったのか、どこでボタンが掛け違い始めたのか。考えているうちに、気がついたら駅のホームの端で」
 ひいいい!! メイは目を覆いそうになった。
「その時は思いとどまった。でももう胸が苦しくなって、狂いそうで、それで離婚しよう、って言っちゃったんです。苦し紛れだったけれど」
 彼の独白は続く。
「嫁も、鉄道模型も含めて、そういうサブカルが好きなかわいい嫁でした。まだ幼稚園の息子と3人で鉄道博物館に泊りがけで行ったこともあります。絶対D51シミュレーターやるんだ、って。だから理解があるはずでした。でも仕事も忙しくなって。でもそれは嫁さんとの時間を作るために稼がないといけないから、と思ったし、会社も今稼がないと大変な状況にあるし。思えば、私に選択肢なんてなかった。でも、私のどこが悪かったんだろう、ってずっと考えてしまって」
 メイは聞きながら、その彼の幸せだった日々を想像していた。きっと素敵な家族だったのだ。
 それが切り裂かれる。
 そんなの、かわいそうで、やってられない!
「なんとか元に戻れないでしょうか」
「戻れるなら戻りたい」
 彼はため息をついた。
「離婚する手続きしようとして、虚しくなる。これから失う方向に一生懸命にならなくちゃいけないことがこんなに辛いことなのかと。でも、嫁の浮気を許そうとしても、身体が動かない。虚しくて脱力してしまう」
「そんな……」
「息子とも別れることになる。それも辛い。私が辛いよりも、息子がどんなに辛い思いをし、悲しむか。それを考えると、言葉も浮かばない」
「その浮気相手って、本当に浮気相手なんですか」
「それはぼくも何度も疑った。そうであって欲しいと願った。でも、ダメだった。ここでは言えないような事実で、すっかり打ちのめされてしまいました」
「でも……でも……」
「ごめんね。こんな話してしまって」
 彼はまた自分を責めている。
「嫁さんと息子を幸せに出来ないぼくに、幸福追求権などあるはずもない」
 マスターはまだ模型を作っている。
「すみません、ほんと!」
 メイは謝った。
「謝ることじゃないですよ」
 彼は思い詰めている。まるでこのまま駅で線路に身投げしかねないイキオイで思い詰めている。
 マスター、なんとかして!
 メイはそう視線を送るが、マスターは模型づくりに集中している。
「じゃ、何も買わずにすみません」
 ああ、もう止められない!
 そのときだった。
「あ、せっかくだからうちの店の会員証作っていきませんか?」
 マスター、それどころじゃないです! メイはもう泣く寸前だった。
「メイちゃん、会員証の記入用紙を」
 そんな……。
「用紙を」
 マスターは繰り返した。
「あ、……はい」
 メイはカウンター裏から用紙を取り出して、ボールペンとともに、カフェコーナーのテーブルの上に用意した。
 彼は戸惑っていた。そりゃそうでしょう、それどころじゃないもの。マスター、何考えてるの?
 でも、彼はボールペンを取った。
 そして住所氏名連絡先を記入している。
 そうか! マスター、これを元に裏付け調べたりしてこの人の悲しい離婚を防いでくれるんだ! マスターには魔法みたいなそういう力があるから! 実際そういう解決したこともあった気がするし!
 メイは救われたような気がした。
「これで」
「あ、あと来月初めにちょっとしたいいものが入荷するかも知れないので、それにあわせてセールやろうと思ってます。いらしてください。せっかく会員証作ったんですから」
 マスター、すごいっ!
 メイは嬉しくなった。
「……はい」
 彼はまだ思い詰めている。
 マスター、次の一手は?
 きっと続く手がありますよね!
 ところが、マスターはまた作業に戻ってしまった。
 ええええ! 投げっぱなし!?
「じゃ、失礼します」
 うわ、彼、帰っちゃう! マジヤバいって!
「じゃあ、お気をつけて」
 ホントに帰しちゃうの?
「ほら、メイちゃんも」
「あ、は、はい! お気をつけて!」

 彼は帰っていった。

「マスター、次の作戦は?」
 見送ったあと、メイは言い出した。
「え、作戦?」
「顧客離婚悲劇絶対阻止浮気相手撃滅大作戦! でもこれじゃ長いから、ええと、もふもふ作戦! それでその決行日はいつです?」
「メイ、お前頭沸いてないか?」
「え、じゃあ、あのまま?」
「あのままも何も、俺たちはただの鉄道模型店だぜ。これ以上できる事なんてないよ。それとも探偵みたいによその人のプライバシーに介入する? そんなの危なくて仕方がない。第一下手に介入して刃物でも出てきたらこっちも大変だ」
「でも……彼、あのまま駅で」
「ああ、その心配?」
 マスターはまだ模型を作っている。
「よし、これで岩山の位置決め完了」
 だからそれどころじゃなーい!
「彼、また来るよ。極めてフツーに」
「なんで! それって憶測と希望的観測です! 先の大戦ではそのせいで」
「まあた映画の台詞の下手な真似を」
「そうじゃなくて!」
「じゃあどうなの?」
「それは……」
「でしょ」
「でしょ、って」
 メイはむっとしている。
「たぶん、彼、次は車両ケース買いに来るよ。在庫ちょっと増やしておこう」
「なんですかそれ」
「いいからいいから」
「よくありません!」

 そんなこんなで、その日は暮れて、マスターとメイは、店の戸締まりをしてSECOMのスイッチを入れ、それぞれの住処へ帰ったのだった。

 そして次の日。店を開けてから。
「彼、来ませんね」
「そんなすぐは来ないだろ。当然」
 またマスターは注文された仕掛品を作っている。
「マスター」
「なに?」
「ヒマ」
「じゃあ掃除しといて」
「もー。私は召使いじゃありません!」
「でもメイ、君のこと預かってる以上は、そこそこいろいろ身につけないと。いつまでもここでケータイのネトゲさせてるわけにも行かないし」
「預かって、って」
「でなきゃ、メイ、君は家事手伝い、あるいはそのまんまニートじゃないか。せめて何かで捕まったときに無職にならないように、ちゃんと掃除ぐらいしようよ」
「ヒドい。何で私が逮捕される用意するのよ。それに私だって模型のこと」
「え? 何か言った? この前鉄骨造りのストラクチャー作ったら、どんな災害被災したの? ってほど柱がことごとく曲がってたメイの模型のこと?」
「ヒドいわ!」
「だって水平垂直でてないんだもの。あとで垂直の出し方教えるから、その前に店の前の掃除して」
 そりゃ、マスターの模型のワザにはかなわないの知ってるけど……。
 メイがそう思いながらちり取りとホウキを持って店の前に出たら、
 彼がいた。

「マスター!」

 彼はやってきて、溜息をついていた。
 結局あれから何もできなかったなあ、とメイは思っていた。
 その時だった。
「離婚届、出してきました」
 ええええええええ!!!
「そんな!」
「その市役所に行ってきた帰りです」
「だって、お嫁さんのこと」
「嫁には悪いことしたな、と思ってます。ぼくの思い切りが悪いせいで、好きな人が変わってしまったのに無理にぼくと一緒にいることになってしまって」
「そんな」
「でも、一番ハッとさせられたのは、息子の言葉でした。『お父さん、お父さんとお母さんが無理してるの見てるの、ぼくのほうが辛いよ』って。息子の方が私より大人でした。思っていたよりどんどん大きくなってるし」
「いい息子さんですね」
 マスターが微笑む。
「自慢の息子です。これからも月一で会う条件出したし、それに嫁、ケータイの清算とかは離婚するんでも二人でケータイのショップ行かないとできないことがわかって。それも行ってきました。嫁、すごくビビってたけど、手続きおわったらぼろ泣きしてました。泣くんだったらなんでよそに男作るんだよ、と思いましたけど」
 彼は吹っ切れた、すがすがしい顔になっていた。
「で、これから息子と私で鉄道模型買おうと思ったんです。息子、どうしてもやりたいっていうし、ぼくもまたこれきっかけに息子と乗った列車買おうかなと。それで、息子が少し持ってた車両にケース揃えてやりたいなと。あとぼく用にアタッシュケース形の車両ケースも。月一の面会の時レンタルレイアウト行こう、って約束しちゃいましたし」
 メイは唖然としている。そんなことって……。
「息子に言われちゃいました。『お父さんもこれでやっと一人前だね』って。そうかも知れません」
 彼は照れていた。
「男ってどうしても子供ですからねえ。私もそれこじらせてこの店やってるようなものですから」
 マスターがそう答える。
「じゃ、メイちゃん、KATOのケースとアタッシュケース包んで」
 これでいいの?
「ほら!」
「……はい」
「いいんですよ」
 彼は言った。
「ゲームオーバーがあるから、またやり直せるってことです。私たち、私も嫁も、もう一度やり直しです。息子のためにも、ぼくらのためにも」

 彼は支払いをし、包みを持って駅の方に去って行った。
 とてもすがすがしく、前向きな顔で。

「でも、少しもわかんない!」
 メイは腹を立てていた。
「あれ、ホントなの?」
「そういう事もあるさ」
「しかも注文当てるとか。マスター、何か裏でこそこそ何かしたんじゃない?」
「してないさ。ちょっとした推理はしたけど」
「え、当てずっぽうじゃなかったの?」
「こんなの運だけで当てられたら今頃宝くじ当てて『四季島』でも貸し切ってるかもしれん」
「ヒドい」
「まあ、メイはまだこういう男女とか夫婦ののことはわかんなくても仕方がない。好きな人と一緒になるって事の決意の重みを。彼はそれが怖かったのさ。だから、息子さんにそれ見抜かれちゃったんだよ。良い結婚は、決意によってはじまり、決意によってどちらかが力尽きるときまで続き、それゆえにステキなんだよ」
「だからわかんないってば!」
「それより掃除途中だろ。やったら模型の垂直の出し方教えるから」
「もーっ! だからマスターなんか大嫌い!」
「そもそも好いてくれと頼んでねーし」
「ひどい!」

 そしてこの模型店のいつもの馬鹿なやりとりを、ネコのテツローが、これまたいつものように見下ろしているのであった。
〈続く〉

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