超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

自分の義を見られるために人の前で行わないように注意しないと正妻がブチ切れる件 ②

エピソードの総文字数=2,096文字

 召愛へ何か声を掛けようかとも思ったが、結局それも出来ずに、クラスのキッチンテントに戻ってきてしまった。


 クラスの女子のキッチン担当な皆が、中で楽しそうに騒いでたよ。

 羽里の姿は見えない。あいつは自衛隊との調整協議に行っているはずだ。


 で、女子たちが何やってたのかっていうと、スマホで記念撮影大会だ。

「ねえねえ、この写真、ブログに顔出しであげても良い?」

「いいよ、いいよ。私もインスタに投げちゃっていいかな?」

「あー、いいね。これ絶対、映える、映える!」

 なんて、キャピキャピしちゃってまあ。


 大盛況の炊き出し支援の主役となって活躍する彼女たちが、誇らしい気分になって、それを記念に残しておいたり、他人にアピールしたいと思う気持ちはよく分かる。

「そういえば知ってる?

 C組の子がね。芸能事務所からスカウトされたらしいよ。

 その子、ボランティア中の写真をね。SNSにアップしてたら、それ経由で声が掛かったって」

「えー、ほんとに? ほんとに?」

 すっかり盛り上がっちゃってます。

 俺もその噂は聞いたことある。ガチらしい。

 なんせ、羽里学園自体が一種のブームで、その学生はブランド化してしまってる。


 校外の人から見れば、羽里学女子こそが、天上界にまします女神様的なイメージになってるのだ。

 そこに芸能事務所が目を付けるのも、当然なんだろう。

「じゃー、うちらも今日の写真で、スカウトされちゃったりしてね」

「あははー、ないない、ないから」

 なんて言いつつも、みんなキッチンの道具類を使ってポーズ決めちゃったりノリノリですわ。


 このへんの馬鹿さ加減は、男子も女子も変わらないんだなあ、と俺は妙に感心して、はしゃぐ彼女らを眺めちゃったね。


 でも、彼女らは途中で気づいてしまったんだろう。

 自分たちがしているマスク、三角巾、使い捨て手袋という三種の神器が、写真映えしない、ということにだ。

 これじゃたぶん、スカウトの材料にならないだろうと。


 キッチン内では三種の神器を絶対に外してはいけないのが原則。

 民間による炊き出し支援が多くないのは、食中毒が発生した場合の責任問題が致命的だからで、その対策が厳重に求められる。女子たちも最初にそれは教わっている。


 だが結局、俺たち16歳の少年少女というのは、どーしようもない、お馬鹿生物なのだ。


 秘密の花園の天使たちが居れば、鼻の下を五メートルくらい伸ばして、ポワーってしちゃうし。歌って踊れるアイドルに成れるかもと夢想して、3年後に自分で見たら頭抱えるレベルの痛いポーズの写真を、ネットにアップしてしまう。


 今はどうせ、休憩時間みたいなものだし、少しくら良いよね、と女子たちは思ってしまったに違いない。

 最初の一人が三種の神器を――



       ――ポイッ

 とすると、みんなも外し始めてしまった。


 あー、こりゃやばい……。

 今はパティシエが席外してるが、戻って来たら、こっぴどく絞られるぞ。

 それを傍観するのも忍びないし、やんわり冷やかし気味に注意しといてやるか。


 と、思ったんだが。

「君たち!

 食べ物は、扱い方を間違えると、人を殺す。キッチンでの、君たちの行為は毒物テロを企てるに等しい」

「ムッ……!」

 せっかくみんなで楽しんでたのに、女子たちは冷や水をぶっかけられた気分だったろう。


 しかも、相手がクラス内で孤立してる召愛だ。

 そんな奴がどんなに正論を吐いたところで、反発の感情が先に来るに決まってる。

「私たちはアイドルになるために、この場にいるわけじゃない。

 誰のために、ここに来たのか、思い出してくれ。


 私たちの立場は、常に、もっとも困難に際している人々と同じ立ち位置にある。この精神を、忘れないで欲しい」

 完全無欠の正論。
「……」

 だからこそ、完全無欠じゃない俺たちの心を逆撫でる。


 理不尽だが、理不尽こそが、人の世だ。

 女子たちが召愛に向ける目が、明らかに変わった。

 ただの仲間はずれを見る目でなくなり、外敵を睨む眼差し、それになってしまった。

(まったく、お前って奴はなあ……。

 どうして、そうも、損な役回りを買って出ちまうんだ?)

 助け船を出してやりたいが、ここで部外者の男子が召愛を庇ったらどうなる?

 女子たちの苛立ちへ、燃料を追加することにしかならん。

「整理券配布は終わった。次はチラシ配布に行ってくる」

 召愛はチラシの入った紙袋を持って、キッチンテントから立ち去ろうとした。

 その背中へと、女子たちは聞こえるか聞こえないかくらいの声で、罵倒を投げかけた。いくつも、いくつもだ。

「なによあれ……。

 結局、自分こそ、一人だけ格好付けてるだけじゃないの」

「ねー。召愛さんって、なんかいっつも感じ悪いよねえ……」
「あーいうキャラやってて、何が楽しいんだか」
「素でしょ、あれ。ただのコミュ障じゃん」

 俺は何か一言くらいは、召愛に同情の言葉を言ってやろうと思った。

「――!」
「……!」

 けど召愛は俺と目が合うと、すぐに逸らしたんだ。

 そのせいで、俺は声を掛けるタイミングを見失ったよ。


 こうして、俺の被災地での午後は、鬱屈、そんな心持ちから始まってしまった。

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