超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

超お人好しに、超無茶ぶりをしてはいけない。本当にそれをやってしまうのだから。⑥

エピソードの総文字数=4,658文字

『桃太郎1943、ロミオとジュリエットとテニスっぽい王子様たちの挽歌の名は。』


 これが映画のタイトルとなり、製作作業が始まった。


 だが、いきなり壁にブチあたった。


 金が掛かりすぎる事が判明したのである。特に、戦艦大和の実物大セットと、イタリア戦線での鬼との戦いを描くCGが必要になる場面だ。


 こればっかりは外注で作る他なかったが、そうなると億単位の金が必要になる。


 文化祭でクラスに割り当てられた予算は100万円きりであり、これを超える分は生徒の持ち出し、ポケットマネーでやるしかない。


 が。

「わたしのポケットマネーから、クラス予算の口座へ500億円ほど、

 持ち出しとして振り込んでおきました」

 詰まらないくらいあっさり問題が解決された。


 さらに羽里商事グループ各社が、映画製作の噂を聞きつけ、スポンサーを名乗りでると、資金はらに100億円ほど膨らんだ。


 合計600億である。

 クラスの割り当て予算の100万円とはなんだったのか……。

 つーか、高校の文化祭とは、いったいなんだったのか、良く分からない規模の金が動き出していた。

「600億もあれば、ハリウッドで超大作が3本は作れる。

 邦画なら200本ほどはいけるわね。

 世の監督が、ハンカチ噛んで羨ましがるんじゃないかしら?」

 つまり

 映画を作る予算としては、無限と言えるレベルになった、ということだ。


 もう一つネックだったのは、製作期間二ヶ月弱という短さだったが、これも遊田いわく。

「映画製作期間の大半は、企画からシナリオ作成、スポンサー集め、監督選定、キャスティング、契約までの作業なのよ。


 これはあたしたちは済んでる。

 こんくらいの規模の映画なら、撮影だけなら最短10日で終わる。


 ただし……。

 あたしらの場合、学生の片手間だから、平日に絵コンテ・衣装・小道具・大道具の調達で、土日にまとめ撮りすることになるだろうから……。

 正直、かなり大変なはずよ。


 でも。

 ラインプロデューサーが無能じゃなければ、二ヶ月あれば、まあギリギリできるんじゃないかしら?」

 ――との事らしく、スケジュール割りなんかのラインプロデューサーの仕事も、遊田に任せる事になったのは言うまでもない。


 この有能Pの起用が大成功だったのだ。

 トントン拍子に、製作が進み出した。


 遊田がまずしたことは――。

「今回は時間が無いし、絵コンテより先に、シーン毎の撮影方法を決め打ちで、切り分けるわ。


 スタジオセットで撮影するシーン

 CG合成用のグリーンバックで撮影するシーン

 ロケで撮影するシーン

 この三つによ。


 召愛、みっちり打ち合わせするから、ちょっと顔貸しなさい」

 どういう風に撮影するかを決めておかないと、小道具や大道具も何を調達すればいいかわからないし、CGを何社くらいに発注して、各社のスケジュールをどのくらい押さえておけば良いかもわからない。


 ロケの撮影許可の申請も、どこで撮るのかを決めないことには始まらない。

 ということらしい。


 打ち合わせの間、遊田は召愛に対して横柄な態度で挑発するような言動をしていたが、逆に召愛は遊田を尊敬し、意見を尊重するわけなので、遊田もすっかり良い気分になったようだ。

「それじゃ、監督はまず、CG合成で撮影するシーンから絵コンテを上げてちょうだい。ロケシーンの絵コンテは、撮影許可の目処が付いてからで良いわ」

 そして他のスタッフには――

「理事長は、絵コンテが決まったところから、CG会社を押さえちゃっておいてね。


 撮影班は、とにかく機材の扱いに慣れておくために、練習を繰り返してね。


 衣装や小道具と大道具班は、使用頻度が多くて使い回しの利く物からリストアップして、調達してちょうだい。


 他に優先するのは、受領まで時間が掛かりそうなオーダーメイド品。

 あとは、必要なアイテムの少ないシーンで使う物よ。

 そういう所から撮影済ませちゃうわ」

 ――こうすると。

 ロケの日時が決まるまでの間にも、スタジオでの撮影がフルにできる、という事らしい。

「あとは、効果音だけど……。

 これは昔の知り合いの監督に業務用のデータベースを借りてくるわ。

 それと、音楽は――」

「それなら拙者にお任せあれ」
 ガチオタ勢エースの岡本くん?

 なぜ彼が音楽をお任せあれと?

「はぁ?」
「拙者、実は『むっちりP』でござる」
なんだそれは……意味がわからん。
「何よそ、それ、むっちりPって……」
 遊田も意味分からんかったようだが――。
「マジかよ。岡本……お前が『むっちりP』だったの?」
「え、岡本、お前、実はすげえ奴じゃん!」
「うそ、超有名人じゃん!」
「人はわからないものだな……」
「知ってるのか召愛?」
「ん、コッペはラジオとかは聞かないのか?」
「さっぱりだな……」
「むっちりPとは、ヴォーカロイドの作曲者の一人だ。

 メジャーデビューして、他バンドにも楽曲提供してる売れっ子だ。

 高校生だとは言われてたが、まさか本人がここに居るとはな」

「なんだそれ、岡本くん、なにげに大物じゃねえかよ!」

 ――主題歌とBGMの製作は、『むっちりP』様に一任されたのは言うまでもない。


 同時並行で、ロケハン隊がイタリアへ出発。羽里の自家用機でだ。

 撮影隊も、撮影許可が下り次第、イタリアへ行くことになる。


 これはもはや修学旅行じゃないのか? という感じだが、どうせ羽里学園では年三回も旅行があるから、一回くらい増えても気にしてはいけない。

 人生は楽しまなきゃ損だ。



 こうして、当初こそ絶望してた超無茶ぶり企画も、本当に奇跡でも起きてるかのように快調に滑りだしたわけだ。


 それぞれの作業工程で、召愛は頻繁にクラスの皆と接することになった。

 最初はまあ、召愛に対して、みんな斜に構えた態度だったよ。


 けど、召愛ときたら、ただでも忙しい監督業務やロミオ役の合間に、他部門の手伝いをするわけだ。


 時には衣装班の女子たちに混じって夜遅くまで裁縫をし、時には大道具の男子に混じってセットの搬入を手伝い。時には皆のために差し入れの買い出しへ行き。


 そうなると、さすがに皆の態度が変わっていった。


 ある日、撮影をしていた昼飯の時のことだ――

「召愛さん、今日、うちらと一緒にお昼ご飯食べない?」
「行ってこい、召愛」
「う、うん。では、よろしく頼む」
「何言ってるの、コッペ君、旦那も一緒に来ないと」
「いや……だからな……」
 なんて事もあるようになり。

 はたまたロミオ役の衣装を着た時などは――

「うわ、召愛。貴族男子の衣装、似合いすぎ!」
「あはは、ほんと、背高くていいな。宝塚の男役みたい!」
「そ、そんなに褒められると、ちょっと照れるのだが」
 なんて、打ち解け始めていた。


 男子たちからの反応はもっと露骨だ。


 どこの学校でもそうだと思うが、男子社会には、女子ランキングというものがある。

 美貌や性格などを、5段階くらいでランク分けし、順位を付けるという人権問題ランキングだが、まあ♂共なんかこんなもん。

 

 それまでクラス内女子ランキングは、羽里が一番で、ついで遊田という二大勢力だったのだが、ここで第三派閥、名座玲派が爆誕。

 しかも遊田人気を追い抜いてしまったのだ。


 そんなおかげか、クラス外にも召愛のポジティブな噂が広まりだし、

実は意外に良い奴らしい』とか

案外まともらしい』とか

男役がめっちゃ格好いい』とか


 評価が良い方へ逆転し始めていた。


 プロモーションのために、撮影現場が一度だけ公開された時には、大勢の生徒が学園内に作られた仮設スタジオに押しかけたものだ。

 召愛が男装で登場するや否や、生徒たちは歓声を上げていたほどだ。


 しかし、そんな状況が気にくわない奴が一人――

「イスカさんも、みんなと一緒にお昼ご飯を食べないか?」
 また別の撮影日、スタジオでの休憩中のことだ。

 隅っこで一人、総菜屋の弁当を食ってた遊田へ、召愛が声をかけた。

「ふん……」
 遊田にしてみれば、本来の目的である、召愛の偽善者メッキを剥がすという目論見が、すべて裏目に出てしまったわけだ。


 アンチ召愛を標榜する奴らが居なくなっていく中、遊田は孤立し始めていたのだ。

「そう……か。

 残念だ。また、明日、声を掛ける」

「勘違いしないで。

 映画を作るのには、全力で協力してるけど、あんたのためじゃない。

 あたしが出演する映画のためよ。

 だから、馴れ馴れしくしないで。


 あたしは、チャンスがあれば、あんたに復讐するって、いつも言ってるでしょうが」

「あ、ああ。すまなかった……。

 だが、その、私は、イスカさんとも仲良くしたいと思っている。

 それは、伝えておきたい……」

 そう言って召愛は立ち去っていったよ。


 遊田は、薄暗いスタジオの隅っこで、また弁当を、美味くなさそうにモソモソ一人で食いだした。

 俺はどうしてか、それが見ていられなかったんだ。

「お前、やっぱ、映画に出るのは好きなんだな」
 なんとなく声を掛けちまった。

 遊田は一瞬うざそうに、俺を見たが――

「そうよ。笑っていいわ。

 文化祭映画の、しかも助演でしか出られなくなった元子役スターが、ここぞとばかりに、活き活き楽しんでる様をね。


 あーあ、ほんと……自分でも痛々しくて、自分を見てらんないわ」

「なあ、遊田……。

 その、なんつーかさ。もう……普通に、映画作るの楽しまないか?

 みんなも、お前を頼りにしてる」

「うるさい。ほっといてよ」
「このままじゃ、お前の方こそ、孤立しちまうぞ?」
「うるさいって言ってんじゃない!」

 ――と、波乱の予感を抱えつつも、遊田はプロフェッショナルに徹し、製作は順調に進んだ。


 そんなある日、俺たちの映画の事を、マスコミが嗅ぎつけたのである。

 こんな感じで、テレビのワイドショーだった――

「こちら、現場の羽里学園のすぐ近くに来ています――」
 おなじみの局アナリポーターだった。

 学校の敷地の外から、戦艦大和の実物大セットを撮影しに来てたんだ。

「視聴者の皆さん、学園の中にある――あの巨大な船が、見えますでしょうか

 実は最近、このご近所では『学校の中で、なぜか戦艦が作られている』という話題で持ちきりなんです」

 この放送が呼び水となって、予算600億の学生映画が作られているという、前代未聞のジョークのような事実が世間に知られると、報道合戦が始まった。


 そこへ羽里がプロモーション映像を、ニュース資料映像として配布したもんだから、どの局もこぞって放映した。


 これが大反響だったのだ。


 プロモーション映像とは、見栄えのするシーンだけを切り貼りしたものだから、本編では隠しようもない素人臭さも誤魔化されていて、その逆に強調されていたのは――


 召愛ロミオや羽里ジュリエットの、演技じゃない素の演技の迫力

 遊田ロレンツァの正気と狂気の境目を見事に表現した表情と、アドリブでの台詞回し

 恐ろしく金の掛かったCG


 戦艦大和が鬼軍との艦隊戦をくぐり抜けて、鬼ヶ島たるシシリー島へ満身創痍で突入する勇姿


 羽里ジュリエットの魔法少女変身シーン

 ミュージカル風に歌いながらのテニスバトルの戦闘シーン


 それらの映像へ、『むっちりP』のキャッチーなBGMや、召愛たちが歌う主題歌が乗せられていたわけだ。


 テレビ局へこんな問い合わせが無数に来たそうだ。

この映画は、いつから、どの劇場で公開予定なのか


 こうして、俺たちの映画への期待は学校の外でも膨らみ、膨らみ、膨らんで、膨らみ続け、文化祭当日を迎えようとしていた――。

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