超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

右の頬を打たれたら、左の頬も相手に向けて、「Hurry! Hurry!」と叫べ。

エピソードの総文字数=6,837文字

 そして、十二時。

 授業終了のチャイムが鳴ると同時、俺たちは歓声を上げ、ハイタッチ、勢いでハグまでしてしまった。


 たった半日、学校に出席していただけなのに、なんという達成感。

 俺たちは無理ゲーをなんとか、乗り切ったのだ。

 これを人類の英知と呼ばずしてなんと呼ぼう。

「よーし、さっそく彩のとこに行ってくる」
 ニコニコ笑顔の召愛は、二つの弁当箱を鞄から取り出したよ。
「あいつの分まで弁当持って来てたのか?」
「うん、私の手作りだぞ」
「断られるかも知れんかったのに?」

「私は彩を信じていた。

 そういえば、コッペは留守番でも、大丈夫か? 一緒に行くか?」

 できれば常にツーマンセルで行動して、援護し合いたいとこだが、

 元親友同士で積もる話しもあるだろうし、邪魔はしたくない。

「心配するな。ここでじっとしてるさ」

「万全を期すならトイレの個室だ。

 あそこが一番、校則が適応される数が少ない」

 さすがにそれはどうなんだ……。

 入学二日目で便所飯?

 さらに休み時間終わるまで籠もってるとか、普通に人生止めたくなりそうで嫌だぞ。

「わかったわかった。

 お前は早く行ってこい。せっかくの時間が無くなっちまうぞ」

 召愛はヒラヒラと手を振って教室を出て行こうとしたよ。


 俺はまあ、適当な野郎どもに混じって、知り合いでも作っておこうと考えたね。

 昨日からというもの、クラスで絡んだのが召愛という変人だけで、まともな知り合いが居ないのは、青春的にまずい気がする。


 教室の中を見回して、一緒に飯に行けそうな野郎を探したよ

 でも、だった。

 なんかね。俺が男子と目を合わせると、みんなこう一瞬で目を逸らすんだけど、気のせいか。


 いや、気のせいじゃない。

 明らかに、『クラスメイト』というカテゴリー以外の何かを見る目で見られてる。

 もし、宇宙人なんかがこの場に居たら、こんな目を向けられるんじゃないかっていう、感じのだ。

 

 あ、はい……。

 理解しました。理解しちゃいました。

 これはつまり、あれですね。

 俺も立派な変人認定されちゃったんですね。

 首を紐で繋いだり、椅子に体を固定したりしちゃってたから。


 終わった……。俺の青春、完全におわた……。

 これ……。

 召愛の弟子としての色物ルートシナリオに入っちまったんじゃないか?

 もうノーマルなルートに戻れないんじゃないのか。

 バッドエンドな未来しか見えねえぞ!


 どうすんだよ。いったいどこで選択肢を間違えた?

 そこでセーブちゃんとしておいたか?

(ああもう、ロードしてやり直してえ……!)

 そして、ふと見えたんだ。

 黒服の執事が廊下を歩いてきてるのが。

「……」

 んで、執事は、召愛が教室を出て、すぐのところで呼び止めた。

 いったいなんだ?

 と思って俺は近づいてみたよ。

 そしたら聞こえて来た話しは、こんなだった。

「彩お嬢様から、名座玲様へ伝言です。

『取引先銀行の関連で、急を要する仕事ができたために、申し訳ないが、昼食の予定をキャンセルさせてもらう』とのことです」

「――!?」

「そう、か。



 彩は忙しいんだな。

 わかりました。伝言をありがとうございます。

 彩に伝えてください。がんばりすぎて、無理をしないようにと」

「かしこまりました。お伝えいたします」

 黒服のボディガードが去って行くのを、召愛は呆然とした様子で見送っていた。

 両手の弁当箱が、とてもとても虚しい物に見えてしまった。


 それから彼女は、教室へ戻ろうと振り向いたよ。

 俺と目が合った。

「残念、だったな……」

「私も振られてしまったようだ」

「そうじゃないだろ。

 なんせガチで楽園を作ろうとしてる学校責任者だぜ。

 本当に仕事が多いんだ」

「……」

 召愛は何も言わず、自分の席に歩いて行ってしまった。

 一人で弁当を広げて、食べ始めようとしてる。

 ひどく落胆した顔のままでだ。

「……」

 俺も自分の席に戻って、朝に買ってきてたパンを食い始めようとしたよ。

 クリームパンとたこ焼きパンをだ。


 本当はコッペパンにバターが、とてつもなく好きなのだが、コッペパンと呼ばれる事への反抗心が、俺にクリームパンとたこ焼きパンを選択させる、という行動をさせてしまったのだ。


 気づけば昼休みの教室は、ガラガラになっていた。

 俺たちの他に弁当を食ってる奴らが、二組程度しか残ってない。

 学食に行った奴も居るだろうし、この良い天気だ。

 外へ食いに行った奴も多いと思う。

「なあ召愛――


 弁当の二個目、もし食い切れないなら。俺が一緒に食ってやるぞ」

 窓の外からはヒバリの鳴き声が聞こえてきてたよ。

 日差しも暑くなく、丁度いいくらいで、実にのどかな春の昼下がりって奴だ。


 もし後ろの席で一人で弁当食ってる奴が、浮かない顔をせずに、昼休みを満喫できるならば、どんなに良いだろう。


 そんな事を考えてしまうほどに、少なくとも俺の半径五十メートルの世界は善良で、心地良さそうなものに見えた。

 それだけの事だ。

「君は――」

 そう言った召愛の声は、お節介を焼かれてることに嫌がってる風でもなかった。

 むしろ、彼女自身の惨めな有様を、自嘲してるかのような、寂しい声色だった。

「そうだな。残しても勿体ない。食べてくれ」

「ああ」

 俺は自分の椅子を180度後ろに向け、召愛の席と向き合わせた。

 そして、羽里の分だった弁当を、食べ始めたよ。


 超絶変人さんの手料理は、意外なほどに美味かった。

「中学一年までは……。毎日こんな風に二人で食べてたんだ」

「羽里と、だよな」

「友だちは彩だけだ」

 とりあえず召愛と二日間絡んでみて、波瀾万丈な人生を歩んでしまって、思い知った事がある。


 それは、こいつと数年間も親友をやるという生活が、いったいどんなに壮絶かつ、悲劇的、あるいは喜劇的な物になるのか、想像できないってことだ。


 二日目にして、良い意味でも悪い意味でも、お腹いっぱい気味の俺からしてみると、羽里こそが、仏の生まれ代わりのような、広い心の持ち主な気がしなくもない。

「コッペ。

 君は今、何かとてつもなく、失礼な事を考えてる顔をしている」

「よく分かったな」

「私だってわかってはいるんだ。

 自分が人からどう見られているか。

 そういう私の友人であることが、他人からどう見られる事であるのかも、わかってる……。


 だから、たまに不安になってたんだ。

 こんな私と、どうして友だちで居てくれたのだろうと」

 たぶん召愛は、昔から、自分の有り様に自信はなかったのだろう。

 だから、それでも友人で居てくれた羽里に対して、強い親しみを感じていた。

 でも、今はその羽里と対立してしまったわけだ。

「そもそも。

 あんなリアルお嬢様と、どうやって知り合ったんだよ」

 そこにヒントがある気がしたんだ。

 再び召愛と羽里を親友に戻してやれるような、道筋が見えてくるかも知れない。

「そうだな……。君なら話してもいい。

 ちょっと長くなるけど、聞いてくれるか――

 ――それは、小学四年生の頃だったそうだ。


 小学四年生、どれほどの高校生が、その頃、自分がどんな奴だったか、覚えてるだろうか?


 たぶん多くの人の場合、自分が別の生き物だったように感じるのではないだろうか。

 高校生にとっての小学生時代とはそういうもので、つまり、かなり昔のこと、なのだ。


 だが召愛の場合は、今と大差なかったと言う。

 まあこいつの場合は特殊だから仕方ない。


 そんなリトル召愛ちゃんが、リアルプリンセスに遭遇したのは、ある良く晴れた三月の日、朝の通学路でだった。

 召愛が住宅街の道を歩いていると、曲がり角の出会い頭で――そう、アレをしちゃったわけだ。


 パンをくわえて走って来た羽里と衝突した。

 しかも、羽里は牛乳パックまで持参していた。

「彩はあの頃から、ちびっちゃくて、背が低いのを気にしていたから、いっぱい牛乳を飲んでいたんだ」

 ――とのことで、あえなく二人は牛乳を顔に浴びることになってしまった。


 羽里は妙に怯えた様子だったという。

 そりゃ朝っぱらから、他人の顔を白濁の液体塗れにしてしまったら、怒られると怯えるだろうが、召愛は羽里のおどおどした態度に違和感があったそうだ。

「ごめんなさい、ごめんなさい!」


                    *羽里彩(小学生当時)

 と何度も必死に謝り、ハンカチやティッシュを使い果たすと、自分の髪を使って、召愛の靴まで拭ってくれたというから、確かに違和感を感じる。

 

 さらには、怯えながら召愛の頬を――


  ぺろぺろぺろ

 ――とまでして、綺麗にしてくれたと言う。


 だから、召愛は、羽里の怯えっぷりを、可愛そうに思い、こう言った。

「あなたは私をペロペロしてくれた。あなたの罪は赦された」


                     *召愛(小学生当時)

 きっと召愛は、キラキラした澄んだ瞳で、そう言っちゃったんだろう。

 しかも、気休めや気遣いではなく、本気で心から赦してしまう。

 そういったオーラをダダ漏れさせて言ったのであろう。

「ほっ……」
 と、羽里は小さく溜息を吐いたそうだ。

 二人が一緒に小学校へ向かう道すがら、羽里は召愛へ打ち明けた。

「わたし……前の学校でイジメられてて、それで転校してきたの」

 なぜ、羽里ほどの優等生っぽい、良い子がイジメられたのだろう?

 高校生になった今の召愛いわく、その答えは――

「――結局のところ、嫉妬だ。

 眩しすぎるものを人は皆、畏れる」

 例えばこういう事だったそうだ。

 召愛と同じクラスに転校してきた羽里だったが、ホワイトデーの日のことだ――。

クラスの男子A「彩ちゃん、俺のキャンディー受け取って!」
クラスの男子B「僕のも!」
クラスの男子C「お前ら抜け駆けするなよ、お、俺のも!」
クラスの男子D「ワイのも、忘れんといてや」
クラスの男子E「三ヶ月分のお小遣いためて、これ買いました!」
 と、こんな風に、羽里はちっちゃくて可愛すぎて、転校してきてすぐに、クラスの男子ほぼ全員から、お菓子を貰ってしまったらしく。

 こうなれば、まあ……。女子からはやっかみを受けてしまうものだ。

 嫌がらせを受けるようになった。


 羽里がもし、もっと器用な性格で、そういった女子たちと同じレベルまで降りていって、打ち解けられるようであれば、違ったかも知れない。

 

 が、あいつの我の強さは一級品。

 イジメられながらも、けして迎合や屈服はせずに、反発し続けたのだろう。

(周りの人たちが、馬鹿で、野蛮なだけ……

 なんでもっと、他人を思いやったりできないの。

 まともなのは、わたしと召愛だけじゃない。

 本当に、世の中の人間というのは……)

 その結果どうなったかと言えば、男子から見れば小さくて可愛い女の子、だが女子から見れば、お高く止まって自分たちと打ち解けようとしない上に、優等生で、しかも良いところのお嬢様。


 すっかり『女子の共通の敵』になりやすいキャラに育ってしまったわけだ。



 だが、羽里が我を張り続けることが出来たのは、生来の強い性格だけでじゃない。

 召愛の存在が大きい。

 だって、召愛が、いじめられっ子街道をばく進しまくる奴のすぐ側に居たらどうなる?


 かばいまくる。『かばう』アビリティ発動率100%だ。

 羽里が嫌がらせを受けると、いつでも召愛が救ったそうだ。

「待たせたな! 今助けるぞ、彩!」
 とか。
「召愛、見参!」
 とか。
「弱い者イジメはやめないか!」

 と、こんな風にだ。


 時には取っ組み合いになり、召愛が殴られ鼻血ブーになったこともあるそうで、流血沙汰に怯んだイジメっ子たちを前に、召愛はこうしたらしい。


 まだ流血していない左の鼻の穴を指さしてみせ、それを相手へと差し出すようにしたのだそうだ。

 これは俺も知っている。


『右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ』という奴だ。


 鼻血を口元まで垂らして迫り来る召愛は、荒ぶるドラキュラ伯爵が血を吸ったばかりのような、他人に見せられない禍々しい形相だったそうで、そんな怖い顔でこう叫んだ。

「どうした君たち。

 まだ右の穴から鼻血が出ただけだぞ。かかってこい!

 左が残ってるし、君たちの罪を見とがめるこの目を潰さなくていいのか。

 君たちの罪を数えるこの舌を抜けばいい。

 それでもなお、君たちの罪を赦そうとする、私を心を暴力とやらで砕いてみせろ!

 

 さあ、説教はこれからだ。

 怯えていないで反撃したらどうだ。


 早く早く早く早く早く早く!

 イジメっこたちは、泣きながら逃げていったそうで。

 召愛が斜め上に大暴投するのも、今と同じだったようだ。

(まあ、こんな風に助けられれば、親友になるに決まってる。

『こんな私と、どうして友だちで居てくれたのだろう』だと?

 そんな疑問は窓から投げ捨てちまえ。お前は超弩級の良い奴だ。)

 ――そうして、二人の固い友情は、中学一年で強制的に引き離されるまで続くことになったそうだ。


 羽里が養子へ出ることが決められようとしていたのだ。


 俺みたいな、The庶民では想像し難いが、ガチ旧財閥のガチ名家というのは、今でも厳格なガチ習わしが残ってる。


 それは、例えば、

『中学校までは、庶民的な公立学校へ行かせ、社会感覚を身につけさせる』とか

『本家に跡継ぎに成れるような子供が生まれない場合は、分家から養子を出す』とか

 だったりするわけだ。



 羽里本人も生まれた時から、将来は養子に出されると言い聞かせられて育てられた。

 いざその時が来ると、大人たちの間では、あっという間に、事が決まってしまった。


 それらの決定事項の中には、召愛と決別させることも、含まれていたのは想像に難しくない。

 あのような変人を友人にしておくのは教育上よろしくない、と考えたわけだ。


 だが、たった一人の親友と離ればなれになる事を、どうして納得できる?

 羽里は抵抗した。

 生まれて初めて、大人たちへ逆らった。


 だけど、同時に、羽里は、糞真面目で責任感が強い。

 自分にしか出来ない、跡継ぎになるという立場。

 羽里商事グループ傘下、数十万人の生活に影響を及ぼしてしまう立場を誰よりも自覚してたのだろう。


 最後に、大人たちへ一つだけ条件を飲ませ、養子へ行くことを承諾したそうだ。

 その条件とは――

「自分の学校を作ること、この運営に関しては自由にやらせること、だ」

 と、召愛は弁当を食べ終わると同時に言った。
「お別れした日に、彩は言っていた――

『私や召愛みたいな存在でも、誰でも、どんな人でも、苦しまなくて良い、悩まなくて良い、怯えなくても良い世界を作りたい。


 これからは一切、連絡が取れなくなってしまうけど、もし、高校生になった時まで、わたしの事を友だちだと思っていてくれるなら、その時は、わたしの作る学校に――』


「――こうして、次に再開したのが、昨日の商店街だったと言うわけだ」

 ならば、俺は断言できる。

 この学校は、羽里が、親友のために、作り上げようとしていた楽園だ。


 厳格な校則は、楽園を維持するためには必然で、これによって生徒たちは守られる。

 誰もが穏やかに暮らせる小さな世界。羽里はそう考えていた。


 その完璧なはずの楽園を、当の召愛に再会した初日から否定されてしまえば、どうなる?


 まあ、羽里じゃなくても素直な態度は取れなくなってしまうだろう。

 我の強い羽里では、なおさらだ。


 でも、二人は憎みあってるわけじゃない。

 互いを思い合うあまりに、対立してしまうだけだ。

 羽里は自分のしていることを、召愛に理解してもらいたいし、召愛は羽里に今の学園のような状況を続けて欲しくない。


 そこが悲劇だし、希望、でもあると思う。

「ところで、コッペ。

 そのたこ焼きが挟んであるようなパンはなんだ?」

 俺が今まさに、たこ焼きパンを口に入れようとしてるとこで、召愛が言ってきた。

「たこ焼きパンだ」

「危ない!」

 いきなり俺の手から、たこ焼きパンを取り上げると、召愛はガタガタ震える手で、それを包装のビニール袋に入れ直し、机の中に突っ込んだ。

「な、なんだよ……?」

「君は馬鹿か、私が小学校のころ、

 タコや貝が大嫌いだったと言っただろう」

「あ、ああ……。

 そういや、給食に禁止する条項を作ったとか言ってたな。

 まさか、そんなもんも、本当にあるのか?」

「基本条項1条。

 給食または弁当など学校で行う食事について、海産物で鱗を持つ生物以外、とりわけグニャグニャした物を、食べる、または食べさせようとしてはいけない。


 違反した場合は、市中引き回しの上、職員は懲戒免職、生徒は執行猶予なしの退学とする」

「それが1条かよ!

 っていうか、処分が厳し過ぎるだろうが

 つーか、市中引き回しってなんだよ?」

「小学生の頃の私は、タコや貝を撲滅したかったんだ……」

「謝れ、漁師さんたちに謝っておけ。

 つーか、パン返してくれ、帰りに学校の外で食う」

「うーん……。

 やはり、この学校の校則は、どうにかしなければならないな」

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