超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

遊田イスカは言った。「本当の愛って……ただの本能?」

エピソードの総文字数=1,619文字

 そんなわけで、漫画喫茶へ行き、遊田お勧めの劇場版ドラえもんトップ3+最新作のDVDを持って来て、ペアシートで見始めたわけだ。


 晩飯代わりに、ジャンクフードを注文しながらね。

 遊田はチーズハムサンドイッチが大好きらしく、そればっか食ってたな。


 遊田はドラえもんを見てる間ずっと――。

「危ない、ドラえもん。後ろから敵が来てる!」
 とか、小さな子供みたいに、騒いじゃってですね。
「あちゃー、これだから、のび太はのび太って言われるのよぉ……」
 とか。
「それ、今がチャンスよ。みんなでドラえもんを助けるの!」
 なんて風に、物語への入りこみ方が半端ない。
「リルルぅうー!

 消えちゃダメー!

 あ……。あっー!


 う……ヒック、ヒック。

 うん、大丈夫、大丈夫だからね。

 あんたが生まれ変わったら……。

 あたしが、あたしが、友だちになってあげるからね!」

 なんて泣きだしたと思えば――最後には。
「…………はあ」
 笑顔になって、しばらく、余韻にひたってらっしゃるご様子でした。

 そんなにまで真剣になって、ドラえもんを見ている遊田を眺めてて、俺は確信したよ。


ジャイアンがのび太を思いやって、手を差し伸べる世界


 遊田が心の奥底で望んでいるのは、やはり、そういう事なんだろう、と。





「あー、最高だったわね」

 漫画喫茶を出た直後に、遊田は大きく背伸びをした。


 桜木町の街はすっかり夜更け。

 人通りも多くなく、走っている車はタクシーばかり。

 俺は遊田の後について、海側へと歩いていった。駅とは反対側だ。 

「満足したか?

 そろそろお開きにしようぜ」

 目がチカチカしてたよ。文化祭で映写技師をやったあとで、

 さらに6時間くらいぶっ続けで、あれだからね。

「なに言ってるのよ。

 まだデートらしいこと何もしてないじゃない」

「動物園行ったじゃないか。

 乙女ゲーだったら、安定して相手の好感度が+2になるくらい、定番のデートコースだろう?」

「あれはデートじゃなくて、動物園浴。

 あたしの精神的な健康法よ」

「ペアシートで映画も見ただろう?

 あれ一応、カップルルームっていう、

 こそばゆいネーミングだったんだぞ」

「劇場版ドラえもんは礼拝行為だもん」

「宗教なのか、あれは……」

「ええ、そうよ。ドラえもんこそが神だわ。

 あんたも信者よね。じゃ、あたしが教祖でいいわね。

 言わずもがな、教祖の言うことには絶対服従よ」

「はいはい。

 んで、教祖様は、次はどこ行きたいんだ」

「やっぱ、最後くらいはちゃんとデートらしい事したいわよね?」

「強制連行されてる俺に、それを聞くのか?」

「なんだかんだ、自分の意思で来たんじゃない。

 ほんとは、あたしとデートしたかったんじゃないの?」

 もし、そういう分かり易い動機なら、最初の時点で、ラブホに直行してたろうよ。

 けどだ。

 実際、なんで、俺はこいつに付き合って、こんな時間まで、ここに居るのかと問われると、答えに困る。


 一つ言えることは、動物園で、本当の遊田を知ってしまったことだ。

 クズクズしい女子高生ではなく、元子役スターでもなく――。

 ただ、誰かから本当の愛を向けてもらいたいと願う、そういう女の子としての遊田だ。

「どうせ、俺が何を言ったところで、聞きゃあしないだろ。

 お前に付き合ってる理由については、好きなように解釈しとけ」

「じゃ、決まり。コッペはあたしとデートがしたかった」

「ああ、勝手にそうしとけ。で、行き先は?」

 俺たちは日本郵船博物館の近くの、万国橋の手前まで来ていた。

 この先にあるのは、『みなとみらい』と呼ばれる一角で、赤煉瓦倉庫や、ミニ遊園地コスモワールドなんかがある。

「やっぱ、横浜の夜のデートと言ったら、あれでしょ」

 遊田が指さしたのは、夜の横浜にそびえ立つ、光の大時計。

『大観覧車コスモクロック21』だった。



「スーパーロマンチックなムードで、あんたをメロメロにして、召愛をぎゃふんと言わせてやるわ」

「はいはい。せいぜい、がんばれ」

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