いかに主は導きたまうか。

3.3 Invasion 脱線、東京グルメ。

エピソードの総文字数=1,929文字

  東京の上中里、東京への転勤で住まいしたマンションの形は変わっていた。名は「西ヶ原ペアシティ」。壁面がアールになっているのだ。部屋の周りも曲面になっている。室内に、えらくデカイ円柱の柱もありこれは邪魔に思ったものだ。道路を隔てて前には滝野川消防署がある。車の出入りにはサイレンが鳴り響く。「なんでこんなところを買うのだろう?」とボクには理解ができなかった。母は、不動産への信仰もあった。誰かの真似だろう...。このマンションは勝手、父母が東京に出るときに使っていたものであった。別途、人形町にもマンションがある。これは前に東京の出張時には毎度使っていた。社員のホテル代りだった。

  人形町のマンションの並びにの和菓子屋さん「清寿軒」は素晴らしいお店だ。本当の和菓子を拵(こしらえ)えられる。ここを知るまで、和菓子があんなにも美味しいものだとは思わなかった。ご贈答で、どこへお出ししても安心であった。ランチもやられていたので、ボクは、これをとてもありがたく頂いた。「なんたる雅な贅沢であろうか」と。思い返せば、この幸運な出会いは、父の在命のころの話だ。まだすべては地に足がついた、幸せな時が備えられていたのだと思う。しかし、東京へ島流しになった時節は、また世界が違う。ボクは「宙ぶらりん」であることをいつも感じていた。結婚して間もない妻も、『何か...非現実な...』との感想を生活には感じていたと後日こぼす。

 上中里のマンションから少し、南へ歩くいて下ると「しもふり商店街」がある。昭和15年ごろからのものらしく、かなりの歴史のある商店街である。それなりに鄙(ひな)びた趣があった。休日などは、妻とこちらに降り、焼き鳥屋の前のシートで、串を平らげたりしていた。しかし、正直ボクには、そこは「何か空々しい所」に感じられてしょうがなかった。まるで映画の書割りのように感じてしまう...。それは幼き頃より、大阪は今里/鶴橋の商店街に慣れ親しんでいたことが理由なのかもしれない。「これは急造のセットではないのか?...」。こう言ったことは、この頃のボクの心理状態の影響の所為だとは思う。もしくは、実際そうだったのかも知れない...。

  宙ぶらりんの思い、非現実感の思いのまま、土日には初めての東京の生活をそれなりに妻と楽しんだ。大阪からカローラを持ってきていたのでドライブもあの大都市で色々した。池袋と新宿が主な時間をつぶす場だった。*主は、それなりの、気晴らしとしての楽しみも備えてくださっていた訳だ...。
  大阪では、ボクは阪神阪急が、妻は大丸がご贔屓である。ここ東京の池袋では、妻は東武、ボクは西部をと同じく好みは別れる。二人の重なりは、かなり少ないものなのだ。その分、お互いは別々の守備範囲を持っている。これらを足すと、カバーは広いものになる。これをメリットとせざるを得ないと感じていた。(伏線だから...)

  やがて、ボクは大阪に戻るのだが、その時になって初めて、いかに東京での生活が異常な緊張感の中で送られていたのかがよく分かった。「もう、あそこでの生活は無理」との思いが込み上げてきたのだ。緊張感の原因は、あの人の数の多さにあったと思う。都市を行けば、人が溢れ返っていた。そこもかしこも人だらけ。「シャイ」な「洗練に縁のない」自分には「あそこは無理」だと後になってから思い知ったのであった。

追記:

銀座の会社、工事部の人間を何回か銀座で接待したことがある。ボクからすれば、大変な背伸びである。この相手の人は東武への売り込みを成功してくれた人だった。ボクが飛び込みで選んだのは、六丁目の『クラブのーす』。ここのママさんはボクが人生で出会った人間の中で、最も高い注意力の持ち主だと思う。信じられないくらいのレベルだった。嫋(たお)やかなムードの中にいて、何一つとして客の動きを見過ごさない。すべては至極自然に、絶妙のタイミングで対応される。ボクは、この方のあり姿を拝見できるだけで満足だった。お年は、ボクより17近くは上だと思う。とてつもない別嬪ママさん。娘さんがおられると言われれていた。一度など、ボクの膝の上に座られてきた事もあった。おふざけであった訳だが。恐れ多過ぎた...。月刊ランティエ2005年11月号特集「銀座遊民記」の中にママの写真とお店の紹介がある。今も大切にこの雑誌は持っております。時化(しけ)た客でしかなかったのに、帰る時には、わざわざ階段を上がって地上でお見送りをして下さった。シブチンかつマナー知らずの客でご免なさいでした。
『渡辺まり殿、
 本当にありがとうございました。遠き空の下より。』

  

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