黄昏のクレイドリア

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エピソードの総文字数=1,841文字

<騎士団詰所>


…………。
…………。
一台の長机と4脚の椅子、
そして大き目のチェスト以外
めぼしいものがない小さな空間で、
騎士の青年は扉横から
座して窓の外へと見遣るカノンを注視していた。
(隊長はこいつに

 助けを求めたらしいが、

 本当に、この女一人で……

 事態を打開することができるのか?)

(剣を提げてはいるが、

 振れるかどうかも怪しい、

 華奢な体躯じゃないか)

……何?
えっ
女が剣引っ提げてるのが

珍しいのはわかるけど、

何か文句があるなら直接言ったらどう?

いや……
鋭い視線と棘の含んだ語調で釘をさされ、

青年はカノンから視線を外す。


沈黙が再び場を支配したが、

騎士の男が扉を開いた音でそれは破られた。

いやはや、お待たせ致しました。

わざわざご足労頂いておきながら、申し訳ない。

いえ、仕事ですから。
とんでもない。
貴女はかつて、
我々を勝利に導いた英雄です。
本来ならば本国で
貴族として迎えられるべきだ。
…………、
買い被りですよ。レイモンド卿。

貴族なんて性に合わないですし。


それにあたしは所詮、あなたたちの軍の……、
将軍の采配によって、脚光を浴びただけにすぎませんから。

…………。
そんなあたしの
助けが必要だと言うんです、
先ほど女性の命を奪った炎は……
アーティファクトを
手にした魔術師によるものですね?
その通りです。
男は青年に目配せすると、
合図を受け取った青年は
人相書きをテーブルに広げた。
彼はネイト=ライザー。魔術師です。

この町の外れにある、彼の別荘で暮らしています。

我々にこの町の騎士団より
救援要請が入ったのは2週間前。


一か月前までは、父親との不仲から

館に引きこもりがちなこと以外、

別段悪い噂はなかったようです。

むしろ、この町にふさわしい、

花を愛する人物だったとか。

でも、2週間前あたりから、

魔術師の様子がおかしくなった?

カノンの言葉にうなずくと、
騎士の男は言葉を続ける。
町で町民が突然火だるまになるという怪事件が発生している。

自力で調査したところ、ネイトが犯人であることは突き止めたが、彼の扱う魔術が手に負えない。


そう本国に報が入り、私を含めた5名は

1週間前にこの町に派遣されました。

そして我々は、件の屋敷に向かい、

まずは3人を彼のもとへ訪ねさせた。

しかし……

……返り討ちにあったのね。
……3人の部下と、
案内をしてくれた使用人が、
炎の餌食となりました。
未だに息のあった使用人を連れ、
我々は撤退しました。
そして、絶命する前に
使用人はこう口にしたのです。

"主人は悪魔の宝石に魅入られた"

……と。
(魅入られた……ね。)

以降も、屋敷の使用人に

怪しげな術式を施しているのか、

彼らを火だるまにしています。

まるで、火遊びを覚えた子供のように。


現在、町の領主……ネイトの父君が

不在であることもその一因かもしれません。

…………なるほど。

聞き手に徹していたカノンは、

話が終えたことを読み取ると、

大きく伸びをしてから男に向き直った。

大体事情は把握したわ。

明日にでも屋敷に向かって、

さっさとケリをつけに行きましょう。

!!

おぉ……!!

感謝いたします、カノン殿!

カノンの言葉を受けて表情を明るくすると、

レイモンドは用意していた革袋を

カノンへと手渡した。

こちらが前金となります。

本日はこれで宿をとって、

英気を養ってください。

どうも。

どれどれ……
(なっ……)

レイモンドから受け取った革袋を開け、

カノンは中身を確認する。

それを横から見ていたユーリは、

中に金貨があることに気が付くと、

声に出しそうになったところを

必死に押しとどめた。


というのも、一般的な労働者と比べれば、

給金がいいとされている騎士団でも、

金貨など、そうそう

お目にかかれるものではなかったからだ。

確かに。

それじゃ、お言葉に甘えてあたしはこれで。

カノンは硬貨をしまいこむと、

席を立って小さく一礼してから

部屋を後にした。

…………隊長!
なんだ。

あの女が本当に、

常勝の女神なのですか?

名を騙るだけの

不届き者だったらどうするんです?!

彼女は本物だ。

私は戦場で、白き衣を纏った

彼女を見たのだから。

白き衣って……。

彼女はそんなものを、

身に着けていなかったのに。


納得はできなかったが、

逡巡なく、まっすぐに見据えて

言い放たれた上司の言葉に、

青年はそれ以上、

疑問を口にすることはできなかった。


おれ……私は、

ダンたちと同じようになるのは

ごめんですよ

かつて共に、この事件を収束させようと

馳せ参じたかつての仲間の名を、

絞りだすのが精一杯だった。

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