古代イスラエルにキリストとして転生した俺  そして12使徒が全員美少女!?

20・どうやって対抗を?

エピソードの総文字数=2,799文字

神殿を後にし、帰り道を急ぎながら俺は考えていた。
恐ろしく合理的だ。

始めは小さな捧げものから始まり、
大きな捧げものをすればするほど信心が満たされ賞賛を受け、実際の利益としても返ってくる。
そして熱狂、興奮…。
きっと一歩足を踏み入れたら、あとは転がるように。

恐らく、教団からも礼金が出るのかも知れない。
そういう事なら金のために他人の子供を誘拐してモレクに捧げようとする人間だって。

まるで効率的に人間性を破壊するよう仕組まれてるみたいだ。
何か目的でもあるのだろうか…?

…それに、あの男は神なんて信じちゃいない気がする。
なぜそう感じるのかはわからない。
まぁ、それはある意味俺も同じなのかも知れないけど…。

「あの」

俺は、その時後ろから声をかけられて振り返った。

「あ、ああ、あなたは」
「先ほどは、どうも…」

その腕には見覚えのある赤ちゃんが抱かれていた。
さっきの儀式でモレクに赤ちゃんを捧げようとしていた女の人だ…。

「ありがとうございます、止めて頂いて」
「え、いえそんな…」

良かった…。やっぱり、まともな人だったんだ。

「一体、どうしてあんな事をしようとしたんですか?」
「…それは」

女の人は、一瞬ためらった後に語り始めた。

「お金が、必要だったんです」
「お金…?」
「ええ。主人が病気で倒れて、他にたくさんの子を養わなくては…」

…そうか。
やむにやまれず、あんな狂った儀式に自分の子供を…。

「信者の人に勧められて…。けど、目が覚めました。お金のために私の赤ちゃんをなんて」
「ええ…」
「本当に、私、どうかして…うっ…」

人の貧しさ、弱さ、無知…。
そういったこの時代のマイナスの面が、
あんな狂った宗教の広まる下地になっているのかも…。

「あ、あのこれを」
「え?そ、そんな」

俺は、その時持っていたありったけの金を女の人に渡した。
これで、当分は大丈夫なはずだ。

「俺、ナザレのイエスって言います。ガリラヤ辺りで布教をしてる者です」
「ナザレの、イエス…」
「ええ。困ったらいつでも俺のとこに来て下さい。何とかしますから」
「ありがとうございます、ありがとうございます…」

利益をもたらし不安をあおり、どんな神も頼るこの時代の人を取り込む。
そして強烈なインパクトの儀式。
この時代では逆らいがたいほど誘惑的だろう。
そしてどっぷりはまった人を赤ちゃんを喜んで殺すような人間へと変えてしまう。

人を、心を持たない獣に変える生贄を行う邪教。
史実の通りキリスト教が広がらなければ、これが代わってここらに広まって…。
ああ、神よ、イエスキリストよ。
俺は、こんな悪魔みたいな邪教に一体どうやって対抗したらいいんだ…?





「神の教えにそむく異教は、信じるべきではないのです」

その日から、俺の布教活動の内容は少し変わった。
ただ信者を集めるのではなく、集まった聴衆にとりあえず
人を生贄にする異教がいかに危険であるかを話すようになった。

「異教は皆を殺人、姦淫に染めようとするからです」
「ああ、十戒か。異教は戒律やモーゼの十戒を破らせようとするんだな」
「モーゼの時代も、皆が教えにそむいて神が怒ったんだよな」

十戒…。そう言えばそうだ。不思議な偶然か、悪魔のようなモレクが広めるのは
小さい頃聞いた神がモーゼに授けた教え、十戒とはまるで逆だ。
汝殺すなかれ、姦淫するなかれ…。あと何だっけ。

「ええ、昔から教えにそむく異教が流行った国は滅んだと伝えられています」
「そうだな。子供の頃よく聞かされた。異教を祀ったソロモン王の話とか」
「あんなに栄えたソロモンの王国も、結局滅んじまったって話だしな」
「やっぱり、神の教えにそむいたら大変な事になるんだ。神は見てるんだ…」

伝承では殺すなかれ、姦淫するなかれという神の教えにそむく異教が流行り、
何度も民族の危機を迎えたり国が滅んだりしている。
十戒や神の教えには、皆を守る不思議な作用でもあるんだろうか…?

まぁ、国中の人間が喜んで赤ちゃんや他人を殺し姦淫にふけるようになって
国がガタガタになっていったって事なのかも知れないけど…。
でもまぁ助かった。これはわかりやすく皆に伝えやすい。

「ええ。神の教え、十戒に反する宗教が広がれば、皆は本当に滅ぶのです」
「じゃあ、モレクだけじゃなくバァルもそうか…?」
「あと、ダゴン、ケモシ、アシュタロテも流行ったら大変な事に?」
「やはり、異教はろくでもない物だ。おお、主よ…」

どうやら、人を生贄にしたり姦淫の儀式を行う宗教は昔から多数存在していたようだ。
というか、宗教とはそういう物だったらしい。
やれやれ、古代の宗教って何でこう毒々しんだ…?
もしかして十戒は、イスラエルの民がそれに染まらないよう本当に神が下した教えなのかもね…。

「そうです。教えにそむく異教が広がれば、神が皆に罰を与えます!」

ちょっと不安をあおり過ぎかも知れないけど、俺は思い切って言った。
合理的な説明じゃ、この時代の人達の心には届かない。
一旦は納得しても、モレクを信じなければ災いが…とかなればきっとぐらついてしまう。

まぁ、向こうが殺人、姦淫を人々に広める神ならば、
こっちは人をまともな道から踏み外さないように教える神。
神には神で対抗するんだ。

「神を信じ教えを守れば救われます」

「神の教えにそむく異教を信じ広めるのは滅びへの道です、許してはいけません!」
「ああ。あんたの言うの通りだ!」
「そうだな。異教を許しちゃいけない、神にそむく異教を!」
「おお主よ!我らを救いたまえ…」

聴衆が情熱的な様子で声をあげ、賛同してくれる。
過激に異教を攻撃する話は、わかりやすく受けがいいようだ。

「い、イエス様、迫力ありますね…」
「何だか、話に力が入ってきたね!」
「おう、神の教えは守らなきゃな!」
「イエスさま、良かった」
「…なかなかの熱の入り方…」
「ああイエス先生、何て力強いお話…」

「よしみんな、次の町に行くぞ」
「はい!」
「神の教え、皆に広めなきゃね!」
「そう、そんでみんなを救うんだ!」
「がんばるぞー!」
「…みんなを悪から救うんだね…」
「ええ。神のご加護のあるイエス先生なら、きっと皆を…」

とにかく、異教が広まれば大変な事になるという事を皆に教え込まなければ。
もしかして、こんな風にはるか昔のモーゼの時代から、
人を堕落に誘う邪教と神との戦いはずっと続いてきたのかも知れない…。


「…」
「ん?」

その時、向こうに見覚えのある赤ちゃんを抱いた女の人が見えた。
ああ、昨日のあの人だ。
その人は、少し遠くから、はにかんだように俺に向かって頭を下げた…。

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