超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

体育倉庫でして欲しいと望んでいた事が、人からそのとおりにされたら大惨事な件

エピソードの総文字数=5,920文字

 理事長室から教室への帰り道。


 召愛は妙に俺のことを気にしながら、歩いたよ。

 こっちを伺うようにチラチラ見ながらだ。

「どうかしたのか?」

「う、ううん。

 ただ、コッペには迷惑を掛けっぱなしで、世話になりっぱなしだと思ってただけだ。私一人では、立候補すら危うかったかも知れない」

「いまさら何言ってんだ。

 お前と出会ったせいで、俺の青春はわりと台無し気味だぞ。


 初日から、お前の方向音痴のせいで、退学予備軍になっちまったし。

 クラスでは変人の弟子扱い。

 おまけに不本意な夫妻認定ときたもんだ。


 ノーパンで登校したのは、一生忘れない。

 昨日は、ホーリーエンジェルとの運命的な出会いを邪魔された。

 そして今や、全生徒の敵にされちまってる」

 もちろん軽口で言ったんだが。

 冷静に思い返してみると、

 ほんとーーーーーーーーーーーーーに

 ろくでもない目にばかり遭ってるのは、気のせいじゃないだろう。


 だからか、召愛の奴め、シリアスに受け取っちまったのか。

「本当に、コッペを巻き込んでしまって、済まないと思ってる」

「おいおい、冗談で言ったんだぞ。笑っておけ。

 俺が、『お前のせいやろ!』ってエセ関西弁でつっこんで、チョップしてやるから」

「これが笑えるものか。

 私は君を不幸にしてしまってるんだぞ……!」

「もう一度、言っとくぞ。気にするな」

「私は、全ての人々を救いたいと願ってる。

 なのに、コッペにだけは、どうしてか、私のせいで、どんどん重荷を背負わせてしまってる……。


 なぜ、さっきイジメだと明言しなかった。

 君にはその権利がある。そうすべきだった」

「お前、あれをやった奴らも救いたいって言ってただろ」

「私の主義主張が成就される事など、コッペになんの利益にもならないだろう?」

「俺は、あの瞬間、そうしたいと思ったからした。

 何か問題が?」

「……!」

 召愛は立ち止まり、俺の目を覗き込んでたよ。

 俺も立ち止まって目を逸らさず見返した。

「わかった……。

 コッペがそこまで私に献身してくれるなら――

 私とて君の真心に応え、誠心誠意、献身しなければならないだろう」

 大げさな奴だ。

 けどまあ――

(明日から弁当のおかずが一品増えたりするお礼なら、嬉しいけどな)





 が。


 リアル聖人がガチで恩を感じてしまうと、おかずを一品増やすくらいでは、済まない事を、俺は思い知る。






 放課後。

 帰るために召愛と教室を出たところで、だった。

「コッペ、ちょっと一緒に来て欲しい」

 どんな用だか知らないが、まあ、召愛に付いていった。

 だが、ひたすら学校の中をグルグル回るだけで、一向に目的地らしき所に辿り着かない。

 俺は馬鹿か、こいつに先導をさせていけないのを、いい加減、学ぶべきだ。

「おい、召愛、また迷ってるよな」

「そんな事はない。なかなか行きたい場所に行けないだけだ」

「どこに行きたいんだ?」

「体育館だ」

「体育館なんて、どうするんだ?」

「今は黙って付いてきて欲しい」

 何やら、召愛は変に緊張してる顔で言ったよ。

 そんな顔されれば、言われる通りにするしかないよな。

 事情があるのだろうし。


「いや、お前が俺に付いてこなきゃいけないんだけどな」

「そうとも言う」








 で、俺は体育館まで召愛を案内したよ。


 普通の学校なら、放課後の体育館と言えば部活で賑わってるんだろうが、羽里学園に部活はボランティア部しかない。誰も居ない貸し切り状態だ。


 召愛はその中に入って行って、何をするのかと思えば、倉庫に行ってだな。

 その重々しい扉をガラガラ開けて、入ったよ。


 中には跳び箱やら、ボール籠、マットでいっぱいだ。

「さあ、コッペも来てくれ」

(なんなんだよ、いったい……)

 妙に思いながらも、中に入った。体育倉庫特有の埃っぽい臭いがしたね。

 召愛は倉庫の扉を閉めた。薄暗くなった。

 明かり取りの小さな窓からだけ、午後の日差しが僅かに差し込んできてる。


 積み重ねられたマットに召愛は腰掛けた。

 で、そのすぐ隣を、手でポンポンと叩いてだな。

 俺に座れと言いたいみたいだ。

 とりあえず、そこに座ってみた。

 持って来たペットボトルのお茶を飲みながらね。

 で、召愛はと言えば、何か言い出そうとしてるようだけど、


 急にあたふたしだしてだな――

「…………!」
「――」
「……」

 言葉をどうにか探そうとしてるみたいだけど、上手く見つからないようで、何度も口を開け、喋り出そうとするものの、その都度、声を飲み込んでしまってる。


 おい……なんだよこれ。

 まさか、このシチュエーションってアレじゃないだろうな。

 こいつ、このタイミングで、告白、とかするつもりじゃないだろうな。


 止めとけよ、まかり間違っても、俺たちはそういう関係じゃなかったし、発展する予感も、予定も無かっただろ。


 今、そんな事言われても、俺だって、

 不意打ちすぎて、どうすりゃいいかわからないぞ……?

「コッペ……。コッペ!」

 どうにか、それだけ召愛は言ったよ。

 声が完全に裏返ってて、緊張がMAXな感じになっちまってるじゃないか。

「な、なんだ?」

「あのだな、そのだな、つまり、ええと、うんと――」

 意を決した。とばかりに、召愛は俺へとズイッと身を乗り出し、言った。

「――私を好きにしてくれ!」

「は?」

「私のを好きにしてくれていい!」


   ブーッ!!

 ――ってお茶吹いた。

 吹くだろそりゃ、余裕で吹くさ。


 つーか、待て。今のは、さすがに聞き間違えか、空耳だろう?

「な、なんて言ったんだ。お前、今……?」

「さ、三度もこんな恥ずかしい事を言わせるな!」

 召愛さん、すげえ顔真っ赤です。

「私を、

 君の恋人と思って、

 好きにしてくれて構わない

 なぜ、そうなった。

 なんで、こう、こいつは常に斜め上を行くのか!

「待てよ。いきなりすぎて、意味がわからん」

「わ、私は、君の青春を台無しにしてしまったんだぞ。

 君は私のせいで停学予備軍になり。

 夫妻呼ばわりされるせいで、クラスでは孤立し。


 私を気の毒に思うせいで、ボランティア部に入らず、時流に乗り遅れ。

 昨日は、ホーリーエンジェル氏との出会いを妨害してしまった。


 そして、今日は、私の主義主張に付き合わせて、君に苦難を背負わせてしまった」

 そういやこいつ。


『コッペがそこまで私に献身してくれるなら――私とて、君の真心に応え、誠心誠意、献身しなければならないだろう』


 とか曰ってたが、それでこれなのか?

 なんという斜め上っぷりよ!

「確かにな。

 お前が今言ったことの半分くらいは、不本意に巻き込まれたのもある。けど、もう半分は俺の意思で決めたんだ」

「だからこそだ!

 私は償いや報償をしようとしているのではない。


 だって君は何らかの見返りを求めて、私と共に歩んでくれているわけではない。ならば、主義主張が私と同じだから共にあるのか?


 それも違う。君は私の主義主張など、『どうでもいい』とすら言う。

 私と共にある理由がまるで無いじゃないか」

「理由がなきゃ、誰かと一緒に居ちゃいけないのか?」

 しょうもない奴だな、と思って、出来るだけ気楽に笑ってみたよ。

 でも、それがこいつの場合は逆効果だったみたいだ。


 当社比で最高に出来の良い俺の笑顔を見ていた召愛は、申し訳なさそうな顔で、泣きそうになってしまったんだ。

「君のその真心が、私を責める。

 私は、君を苦しめることしか出来ていない……」

「だからって、ぶっ飛びすぎだ。

 こういうのが許されるのは、エロゲーかAVか、男子高校生の妄想の中だけだ。

 なんだって、こんな発想をしちまうんだよ」

「コッペは以前……。

 か、彼女が欲しいと言っていただろう。

 そのためにボランティア部に、入部届けを何度か出そうとしたとか」

「あ、ああ」

「それと。君はとても、スケベエだろう?」

 この紳士に向かって、なんて失礼な。

 だが、事実だから仕方ない。

「覚えておけ召愛。

 16歳の紳士はみんなスケベエだ。例外はない」

「コッペは特にそうなのだと私は考えてたんだ。

 だって、寮で君の私室の前を通りかかると、頻繁に部屋の中から卑猥な音声が聞こえてくる。


こんな体育倉庫の中だなんでイヤ~ん』とか、

制服のままなんて……。あ、ダメ、汚れちゃうぅ』とか。


 そのような同じ台詞が聞こえてくる事が多い」


     ブーッ!!

 ――ってお茶吹いた

 吹くわそりゃ、吹きますとも!


 畜生……。これだから集団生活は嫌なんだ。

 おい、羽里商事グループ、こんだけ設備に金かける余裕有るなら、防音も完璧にしてください。繊細な男子高生のために!

「あれがつまり、コッペの言う、エロゲーやAVの音声で。

 あの音声が鳴るシーンがお気に入りで、何回も繰り返し視聴していたと、私は考えていたのだが合っているだろうか?」


     ブーッ!!

 ――ってお茶吹いた

 吹くぞ、吹かざるをえん!


 そういうのはな、召愛さん。

 わかってても、黙っててあげるのが、マナーというか、優しさというか。


 男子の特に繊細な部分だから、ノータッチだ、ノータッチ!

「あ、合ってるぞ。100%合ってる……」

「だから、その、つまり……」

 なんて言いながら、恥ずかしそうに目を伏せ、制服のミニスカートの裾を直したりするわけだ。体育倉庫、そして、マットの上という、黄金律シチュエーションでだ。

「私は――

 君が私にして貰って、

 一番嬉しいと思うことを、しようとしてる……つもりだ」

 そう来たかぁ……。このリアル聖人めぇえ!

 理路整然かつ道徳的に、平然と斜め上のエロゲー展開へ、ぶっ飛んで行きやがる。

「待てまてまて!

 俺がいつ、〝お前に〟そんな事して欲しいと言った」

「一応は、コッペのニーズに、不足はないと自負している。

 私は、身だしなみには気をつけているし。

 容姿も、男子が敬遠するほど悪く見られるものでもないと、思うし。


 もっとも君の好みに合うかは自信が――」

「――!」

「――あ、やはり、これは、私のおごりだっただろうか。

 以前に、コッペはこうも言っていた。

 私には女性としての魅力を一切感じない、と」

 それは恋愛対象にならない、という意味だ。

 健康な16歳の少年が、女の子からこんなシチュエーションで迫られたら、相手が誰だろうが、返答は一つ。


『ありがたく頂戴致します』


 これが包み隠さぬ本音という奴だ。

 オスの本能だ。もしこれにクレームがあるなら、製造責任者に以下略って奴だ。


 だから、これは、俺にとっては本来、とんでもなく美味しいプレゼントになるはずだ。

 なのに、なんで召愛をいさめようとしてしまってる……?

「となると、ははは……。

 私は、コッペがまるで要らない物を、押しつけただけみたいだ」

 落胆した召愛の横顔が、なんでか見ていられなかった。

「そ、そうでもないぞ。

 でも、お前。今みたいなこと言い出したのってさ。


 俺に対して申し訳ないっていう義務感からだろ。

 で、お情けで恋人になってやるって」

「私は、お情けなんて、つもりは」

「じゃあ、訊くぞ。

 お前はそんな風に、誰かからの義務感によって、誰かと恋人になりたいと思うのか? お前が、誰かと恋人になりたい時、どういう風になりたいか、言ってみろ」

「それは……やはり、義務感ではなく、自分の事を本気で好きになってもらいたい」

「俺だって同じだよ」

 そうか……。

 たぶん。これなんだ。これが、俺のもう一つの本音。

 これだから、俺は召愛をいさめようとしてしまってる。

「つまり、こ、コッペにとって、私は……。

 本気で好きになってもらいたい相手、という事なのだろうか?」

「な……」

 何を言い出すんだこいつは。

 でも、そうじゃねえか。

 さっきの俺の台詞を素直に解釈すりゃそうなっちまう。


 いや……そんなわけない!


 相手は召愛だぞ? これはきっと間違い。言葉のあや、そう例えば。

「ち、違うだろ。あ、あ、ああああ、あれだよ、

 ほら、一般論、あくまで一般論としてだ!」

 なんて言いながら、俺は、自分の顔が、どんどん熱くなっていくのを感じたよ。

 たぶん、茹で蛸みたいになっちまってるんだろう。不覚すぎる。

「そ、そう、なのだろうな。あはは。

 おかしな事を訊いてしまった。気にしないでくれ」

「お、おう。ぜってー、気にしない。

 ぜってー、気にしないからな。俺は一ミリ足りとも、気にしない」

 お互い顔を逸らし合って、そんな事言い合ったわけだ。

 座ってる距離は二十センチも空いていないのに、相手の匂いまで感じられてしまう距離なのに。その妙に甘く感じてしまう匂いのせいで、嫌でも意識してしまうのに。


 ひどい沈黙が続いた。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 経験した中で、一番長い沈黙だった。

 しかも、ソワソワ感MAX、むずむず感MAX。


 だというのに、不思議と、この状態が不快だと感じられない。

 むしろ、このままで居たいと思ってしまってる。

「な、なあ、召愛、とりあえずだな」

「う、うん。なんだろう」

「お前が何かしなきゃ、気が済まないってなら、

 一つだけ、してもらいたい事をリクエストしとく。

 どうだ。それでお互いにイーブンって事にしようぜ」 

「うん。やはり……そうなるな。

 そうするべきだ。

 けど、あまり技術的に難しい事でなければ良いのだけど」

「大丈夫だ。お前がわりと得意な事だしな」

「え……コッペは、私をそういう風に見てたのか?」

「見てたもなにも、実際、そうなんじゃないかと思ってるぞ」

「それは誤解だ。

 その、私も……したことがないから、一応、休み時間にその手の無料動画で、君のために予習はしたし、見よう見まねなら、できるかと思うのだが……。


 期待されると肩すかしになってしまう!」

 何を想定して、何を言い出したんだこいつは……!

「お前な、俺が何をリクエストすると思ってんだ……?」

「き、決まっている


制服のままなんて……。あ、ダメ、汚れちゃうぅ


 的なものだろう」

 俺はチョップした。デシッ! と脳天唐竹割りだ。

「じゃ、じゃあ、コッペは何を望もうとしている?」

「明日からの弁当、一品だけ増やしてくれ」

「そ、そんな事で……いいのか?」

「俺は……好きなんだ――

 ――お前の弁当が、俺は、大好きだ。

 お前の作ってくれる弁当が、超好きだ。

 これからも、いっぱい食いたい。だから、それでいい!」

 俺は、マットから立ち上がったよ。

 倉庫を出るために、扉を開けようとした。

「わかった、コッペ。そうする」

 そう言った召愛に振り向いてみたよ。

 パーフェクトなスマイルだった。


 その笑顔を見て、反射的に思い出してしまったんだ。

 それは――俺がかつて、こいつに恋をしてしまった、あの瞬間の感情をだ。

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