超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

羽里彩は言った。「羽里学園は完璧な学校であり、幸せは生徒として当然の義務です」⑥

エピソードの総文字数=2,966文字

 残り2日。


 生徒会長選挙の立候補受付開始までの残り日数だ。

 召愛と羽里は、少なくとも表面上は、いまだに、ラブラブと言っても良いくらい、仲良しこよしだ。


 例えば、この日の昼休み。

 ポカポカ陽気の芝生で二人は――

「彩、耳垢をコチョコチョとってあげるから、

 私の膝枕に横になってくれ」

「そ、そんなの、わざわざ、あなたにして貰う必要ありません」
「いいから、おいで」

「だ、だから……」

「さあ」
「……」
「おいでー」
「……………は、はい」


    ――コチョコチョ


         ――ニコニコ

 ――という、下手したら、誰かが「キマシタワー!」などと叫びだし、キマシ塔まで、創建されそうな具合である。


 しかし、これが2日後には終わってしまうのだろうか?

 俺にはどうも、そんな未来が、今の二人からは想像できなかった。

 



 そして放課後だ。

 

 クラス全員が、ボランティア部の活動へ行くために、一斉に教室を出て行くのを、俺と召愛は帰り支度をしながら、見送っていた。

 

 そう、残りの0.0024%の生徒とは、俺たち二人のことだ。

「あなたたちも部に入れば良いのに」

「何のために?」

「わたしが名誉部長になってからというもの、まだ一度も部の活動に出席できていません。あなたたちの監督者の仕事を優先しなきゃいけないからです」

「では彩は、部活動を優先したいのか?」

「放課後に何をしようが自由です。

 わたしも三人で遊び回るのも楽しいと思ってる。

 でも、部活動を行えば、それはそれで有意義な時間を過ごせる」

「ボランティアなら部に入らずとも、いつも三人でやってるじゃないか。それに、私はどうも、あの部活とは、そりが合いそうにない」

「どうして?」

「彼らのほとんどは、他者を助けることが目的ではなく、目立つことをして、自分を良く見せ、モテようとしているのだけだ。


 異性にモテたいと思うのは誰でもそうだとしても、他者を助けるべき場で、優先するべきことじゃない。


 だが彼らがしている行動自体は善行だし、全否定するつもりもない。

 が、私の行くべき道とは、違いすぎる」

 実に召愛らしい答えだった。


 こいつの場合は、こういう歯が浮くような台詞を言ってしまっても、ほんとに毎日が天然ボランティアみたいな生活っぷりなわけで、『モテたい』だとか、『尊敬されてチヤホヤされたい』といった見返りも利益も求めないから、たちが悪い。


 理事長からの報償として与えられる特典も、全て断っている有様だ。


 だから、ついつい俺は、からかいたくなってしまう。

「召愛だって、彼氏の一人くらいは欲しくないのか? 

 部に入れば、お前みたいな奴でも、物好きが拾ってくれるかも知れないぞ」

「欲しい」

「――!」

 俺はちょっくらい驚いた。

 自分で訊ねたくせに、なんで……俺は驚いてんだ?

「恋愛には興味がある。

 恋人というのがどんな感じなのか、体験してみたい」

「だったら、入ってみれば良いじゃないか」

「そういうコッペはどうなんだ?

 彼女は欲しくないのか?」

「欲しいさ。決まってるだろ。

 実は俺は何度か、入部届けを出そうともした」

「どうして思い留まったんだ?」

「俺があの部に入ったら、お前は――

 ――そこまで言って、続きの言うのが気恥ずかしくなってしまった。


『俺があの部に入ったら、お前はどうすんだよ。独りぼっちになっちまうだろうが』


 別に深い意味はないだろ。

 戦友なんだ。それくらい気に掛けるのは当然だ。そうだよな?

「お前が独りぼっちになっちまったら、憐れすぎると思ってな。

 戦友のよしみで、気ぃつかってやってるだけだ」

「じゃあ、コッペは三年間ずっと彼女が出来ないかも知れないな」

 ――なんて笑いやがる。

「お前だって笑ってらんないぞ。完全に孤立しちまってる」

「そうか、困ったな。

 高校生のうちに一回くらいは男子と付き合ってみたかった」

「諦めろ。

 ま、どうしてもって言うなら、俺の彼女にしてやらんでもない、という逃げ道は用意しておいてやるぞ」

 いつもの軽口の応酬、そのつもりだった。

 けど、どうしたことか、召愛の奴め――

「……」
 急に真剣な顔になったんだ。

 それから、どこか大人びたような微笑みを浮かべ――

「君がその言葉を真剣に言っていないのはわかってる。

 だから、私もこの場では真剣に答えないでおく。


 でも、はっきりと言っておこう。

 もし君が真剣に、その言葉を言ってくれる時がくるならば、私も真剣に答える用意がある」

 なんだよ……そりゃ。

 どういう意味に取ればいい?

「は、羽里!

 と、とにかく俺たちは、ボランティア部には入らない、ってことだ」

 なにやってんだ俺は……。

 召愛へのリアクションに困って、つい羽里に逃げちまったじゃないか。

「え、えっ?」

 ほら、羽里も困ってやがる。


 つーか、なんか羽里の奴、俺たちの話し聞いてて、顔赤くしてるんだがな……断じてそんなロマンチックっぽい会話ではなかったはずだ。


 あれは、ただの戦友同士が孤立した塹壕の中で、やけっぱち気味のジョークを言い合ってるみたいなもんであって、それ以上でも、それ以下でもない!

「でも、あの、召愛、コッペくん。

 相談なのですが。いいでしょうか」

「なんだ?」

「本当は、全校生徒が、つまり、召愛たちも入部する事を前提に、予定してしまってたのだけど、明後日、豪雨被害のあった地域へ、後片付けと炊き出しのボランティアを、全生徒と職員でしに行こうと考えていました。朝から夕方まで、部活の遠征としてです」

「俺たちが部活に参加しないなら、どうなるんだ?」

「その場合、部活動ではなく、課外授業としてカリキュラムを組み直して行くことになるので、手続き上、保護者への説明会などを開かなければならなくなり、今週中の出発というのが難しくなります。

 

 被災地では、人手を今すぐに必要としています。そこでお願いなのですが、できれば、体験入部という形でも良いので、参加して貰えると、想定通りにやれるのですが」

「そういう事なら、構わない。

 その日、一日だけ私は入部する。それでいいか、コッペ?」

「俺もいいぞ。

 けど……ちょっと心配ではあるな」

「というと?」

「ニュースで見た分には、崖崩れで人死にも出てるし、川の氾濫で多くの人が生活を失ってる。倫理的な意味でシビアな現場だ。


 これまで部がやってたような、河川敷のゴミ拾いなんかの、遊び半分で許される現場とは訳が違う。そうだろ?」

「はい、そうです」

「そこへ、ボランティアを出会い目的のレジャーとしか思ってない奴らを送ったらどうなる。修学旅行気分で行かせるのか?」

「――!」

「確かにその通りです。

 厳重な訓示を行うことで、規律を保たせようと思います。

 くれぐれも浮かれるような事がないようにと」

(だが、俺が本当に心配なのは、むしろ召愛だ。

 ボランティア部を全否定はしないと、言ったが、目の前の不正義に対しては、一切の遠慮をしないのがこいつなわけで……)

 召愛とボランティア部。

 両者が同時に活動をして、何もトラブルが起きない、と楽観的でいるのは、ちょっと難しい。


 もしボランティア部と揉めたりして、敵に回すようなことになってしまえば、それはすなわち、この学校全体を敵に回すことになる。


 そうなれば――。

 召愛は、羽里を、完全に敵にすることになってしまう。

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