超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

――ゴッ!

エピソードの総文字数=1,975文字

 遊田の家は、桜木町から近くの高級住宅街にあった。

 俺たちは観覧車を降りたあとから、ずっと会話らしい会話をしていない。

 

 家の門まで歩いて来た時、遊田はやっと口を開いた。

「コッペ、あんたを、あたしの心の友として認定してあげる」

 冗談をいう口調でもなく、シリアス過ぎる表情でもなく、何気なくそう言った。

「そりゃ、光栄だ。じゃあ、また明日な」

 立ち去ろうとしたらだ。


 また袖を掴まれた。

「あんたも、あたしを心の友として認定してから帰りなさい。

 これは強制命令よ」

「強制なら拒否する」

「な、なんですって……」

「強制じゃないなら、認定してやる」

「……………」


 数秒だけむくれて遊田は考えてから、俺に真っ直ぐ目を向けて来た。

「しょーがないわね。じゃ、命令は撤回してあげるわ」

「いいぞ。なら、お前を心の友として認定する」

「――♪」

 遊田は満足そうに笑ったよ。

「じゃ、おやすみなさい」

「ああ」

 と、俺たちは家の門の前で別れた。

 そして、俺は深夜の住宅街を歩き出そうとした。

 遊田が家のドアを開ける音を、聞きながらだ。


 が、俺が十数メートルほど歩いた時だ。









「――――何時だと思ってるんだ!」

 凄まじい男性の剣幕が聞こえた。

 外国語訛りのあるイントネーションでだ。


 何事かと思って、遊田の家に振り向いたよ。

 そしたらだ。

 玄関先に白人の中年男性が居て、遊田へと激しく怒鳴り散らしてた。

 たぶん――あれが遊田の父親だ。

 怒りのあまりか、声が興奮しすぎていて、何を言ってるか聞き取り難い。

「――――いったい何をしていた!」

「ふん!」

 遊田は問い詰められても、ウザそうに顔をしかめてるだけで、答えようとしてない。

(こりゃ……。

 俺がちゃんと親御さんに事情を説明したほうが良いのか?)

 だが、ここで、〝ボーイフレンド〟が顔なんか出したら、火に油どころか、原子炉に濃縮ウラン、しかも制御棒を全抜き状態でメルトダウン必至、チェルノブイリ級のレベル7災害が発生しかねない。


 下手に介入するのはどう考えても下策。

「答えなさい、イスカ。お前は何をしていた!」

「教えて欲しいなら、教えてやるわ。ほら、これ見なさいよ!」

 遊田はいきなりスマホの画面を突きつけた。

 どんな画像を見せたのかは、俺からは見えないが。


 あいつが、今日撮ってた写真は、あれだ。

 俺を脅迫するつもりで、ラブホテルの前でひっついてた、アレだ……。

「――!!!!!」

 売り言葉に、買い言葉も過ぎる。いくらなんでも、やりすぎだ遊田。

 俺は、頭を抱えたくなったよ。


 だが、遊田の父親は、頭を抱えるだけじゃ済まなかったらしい。

 固く握りしめた拳を、振り上げ――それで、殴りつけた、娘を。


 ――ゴッ!

 静かな住宅街に、硬い拳が、人間の顔を打った音が、やけに大きく響いた。

「――ッ!」

 遊田は悲鳴の一つもあげずに、その場に尻餅をついた。

 それでも、少し蹌踉めきながら立ち上がり、父親を睨んで、叫んだ。

「あたしは、あんたのじゃない!」

「――!!!」

 父親が再び拳を硬く握りしめるのが見えたよ。

 俺は、見ていられなかった。レベル7災害? それがどうした。

 駆けだしてた。

 門を開け、遊田と父親の間に立ちはだかった。

「――!」
「お前は? そうか、お前がイスカを……!」

 そこで、だった。


 近所の家々に灯り点いて、住人たちが何事かとカーテンの隙間から外を覗きだした。

「……!」

 それに気づいた彼は、遊田の胸ぐらを掴んで、玄関の中へ強引に引きずり込んだ。


 俺の前で、ドアが勢いよく閉められた。

 鍵が二つ掛けられる冷たい音が、鳴った。 

「早く帰れ」

 ドアを通して父親の声が聞こえた。

「でなければ警察に通報するぞ」

「大丈夫よ、帰ってコッペ」

 遊田の声もした。

「こんなのいつもだもん。ほんと、この馬鹿、早く死なないかしら」

「また、そんな口を!」


 ――ゴッ!

「――あッ!」

 続いて、人間が床の上で引きずられていく物音が聞こえて来た。

 そして、それが遠ざかると――


 何も聞こえなくなった。

(おいおい……。

 これで、『帰って大丈夫』とか言われてもな……)

 じゃあ、どうすんだ。

 窓でも叩き壊して、乱入するか?

 それこそ、俺が逮捕されるだけで、遊田をどうにか、してやれるわけでもない。



 とりあえず、門を出てたよ。

 ご近所さんからガン見されてたし、本当に通報されかねない。


 駅の方向へ少しだけ歩いてから、立ち止まった。

 そこから遊田の家を見ていたよ。

 端から見れば、まるっきり変質者。


 職質待ったなしな感じだが。

 どうにも心配で仕方がなかった。

 



 でだ。


 そんな風にしてたら、遊田の家の、二階の窓が開いたのが見えた。


 そっから、何かバッグのようなものが、二つほど庭へと放り投げられ、

 続いて、人が、窓からぶら下がる形で、芝生へと舞い降りた。ひらりとだ。

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