勇者の出立

暗がりで光る刃

エピソードの総文字数=2,121文字

 ツェーナさんが隣村に買物に行って、とんでもない噂を聞きつけてきた。
あのねえ、少し前に、お城に勇者の偽物が現れたらしいわよ。

 夕食の席だった。おれは思わず食事を吹き出しそうになった。


 ツェーナさんは喜々として語った。

魔王にさらわれたカティア様を助けてやると嘘をついて、お金をだまし取った上、お城の財宝を盗み出して姿を消したんですって。本物の勇者なら、そんな事するはずないものね。

王様はカンカンに怒って、ニセ勇者の首に懸賞金をかけたの。


……それがねえ、その男、つい最近、マチネの町で財宝をお金に換えようとして通報されたんですって!

マチネといえば、すぐ近くじゃない!
案外その辺に隠れてるかも!
 ロビンとピノは盛り上がっていたが、おれは頭を抱え込みたいのを懸命に我慢していた。


 ――親父のやつ、城の財宝にまで手を出していたのか。そこまでやるか、普通!?

 それから数日後の夕方のことだった。農具を片づけようと納屋に入ったおれは、何者かの気配を感じて身構えた。
誰だ、そこにいるのは……?
 収穫したばかりの芋の箱の陰で、大きな丸い人影がうごめいている。そいつは哀れっぽい声をあげた。
頼む、見逃してくれっ! 金ならいくらでもやるから……!
なんだ、親父か?

 薄暗い納屋の中で、親父とおれは顔を合わせた。ほぼ三か月ぶりの親子の対面だった。


 この前最後に親父を見たのは、おれを置き去りにして逃げて行く後ろ姿だったよな……。そう思うと忘れかけていた怒りが猛然とよみがえり、おれは熊手をぐいと親父の喉元に突きつけた。

ここで会ったが百年目……こないだは、よくもやってくれたな、おやじ~~~。どーだ、おれがまだ生きてるのを見て、びっくりしたか?
そ、そんな……。おまえなら、あれぐらいの魔物、ちょちょいっと倒せるかと思って……と言うか、わしは、逃げるつもりじゃなかったんだ。逃げたのは、この足。この足が悪いんだ。めっ!!
そーか。じゃあその足を切り落としてやるよ。その上で城に引き渡したら、王様が喜ぶだろうな。なんたって懸賞金までかかってるそうじゃないか?
 怯えていた親父の目に、ふとずるそうな光が浮かんだ。

城に近づくとまずいのは、おまえの方じゃないのかな、息子よ? あの美しいカティア姫がおまえにご執心だそうだ。『私の騎士様♡♡♡』とか言っちゃって……。王様も、婿候補としておまえの行方を血眼で探してる。おまえを城に引き渡したら褒美がもらえるだろうな……わしの首の賞金も免除してくれるかも知れん。


 よく考えたら、何もわしが姫と結婚しなくても、おまえを結婚させれば一生遊んで暮らせるんだよな♪

ぐっ……!
 王女の顔を思い出して、おれはひるんだ。その隙を逃さず、親父は懐から、盗賊などがよく使う刃の反った短剣を抜き放った。
おまえとは一度決着をつけなきゃならんと思ってたんだ。。。
ほー、やる気か? 上等じゃねーか!

 おれたちは殺意をこめて睨み合った。急速に暗くなってきた納屋の中で、親父のナイフがぎらりと不吉に光った。


 伝説の勇者だか何だか知らないが、このおれに勝てるとでも思ってるのか……


 しかし、目の前の親父のくたびれた顔を見てると、本気を出したのが急にアホらしくなってきた。親父も短剣を収めた。

不毛な争いはよそうじゃないか、息子よ。お互い城には近寄らぬにこしたことはない。
そーだな。で、ここで何してる?
 親父は南へ逃げようとしたのだが、国境は王の差し向けた兵団によってすでに厳重に封鎖されていて、ラットの這い出る隙もなかったんだそうだ。で、仕方なく引き返して、近くの人家に隠れていた。それが偶然にもここだったわけだ。
おまえに会えたのは天の助けだ。おまえの浮遊魔法があれば、奴らの頭上をひょいっと飛び越えて国外へ逃げられる。
甘いな。人間一人を抱えて、そんなに高く飛べるかよ。見つかって弓矢で撃ち落とされるの、おれ、いやだぜ?


おれはほとぼりが冷めるまでここに隠れてる。この家で、まあまあうまくやってるところなんだ。あんたはあんたで勝手に隠れ家を見つけろよ。城から盗んだ財宝を持ってるんだろ? 金の力で何とかしろ。

わしを……このわしを見捨てるつもりか。この世にたった一人しかいない、血を分けた父親を……!
親父だって、おれを見捨てて逃げただろーがっ。お互い様だ。
もし、わしが王の兵士に捕えられたら……わしはおまえの居場所を王に教えるぞ。そうするより他に、わしの命が助かる方法はないからな。それでもいいのか?
 くそっ、脅しかよ。悪党め。



 どうしようもなかった。おれは親父と一緒にこの村を出ることに決めた。

 王がおれたちを追うのをあきらめ、国境の警備をゆるめるまで、何とか逃げ切るのだ。もし運悪く追っ手に発見されたら、実力行使で血路を開くことになるだろう(親父がおれを連れて行きたがるのはそれが理由だ。おれに戦わせるつもりなんだ)。


 兵士に追われるのはこれが初めてじゃない。こういうロクでもない暮らしをしていると、権力者を敵に回すことはしょっちゅうだ。





 ――ロビンやツェーナさんやピノとも、これでお別れか……


 え、何だこの気持ち。まさか「少し寂しい」なんて感じてるのか、このおれが?

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