超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

俺は言った。「救いがない」

エピソードの総文字数=3,616文字

 羽里に繋がった電話で、遊田の事情を洗いざらい話した。


 頭の硬い羽里が、家出人の受け入れなんざ了承してくれないだろうなと、懸念しながらだ。


 だが――

【では家出人保護規定による入寮の手続きを行うことにします】


 と、電話口であっさり言われて、拍子抜けした。
「い、いいのか?」
【寮は、家出人の受け入れ場所としても、制度設計がなされています。


 未成年者が巻き込まれる犯罪は、家出を原因として発生する事が多いので。我が校としてはその対策をとってあるのです】

ほんと、こういう所に関しては、この学校は至れりつくせりなんだがな……。

アホみたいなブラック校則さえなきゃ、最高の学校だとは思う。

【では法務部を通じて、遊田さんと保護者に連絡を入れさせますので】

「問題は、遊田の親が、納得してくれるか、だろうな」

【家出というのは、両親が納得しようがしまいが、防止が不可能です。強引に連れ戻しても、監禁するくらいじゃないと、また飛び出します】

「原因を解決しない限りは、か?」

【だから、その間、子供が安全に暮らせる避難所が、両親にとっても必要になる】

「なるほど。夜遅くすまんかった。それじゃ、おやすみな」
【あの、コッペ君。代休開けの翌日には大討論会、さらに翌々日には投票日です。

 だから召愛に伝えてください。


 万全の体制で、わたしに討論を挑んできて欲しいと。

 互いに全身全霊で戦おうと。そう、お願いします】

「ああ、わかった。

 なあ、羽里。早く選挙なんか終わらせちまってさ。

 お前もまた、一緒に住めるようになったら、楽しいだろうな。


 そしたらさ。みんなでどっか遊び行こう。

 どこ行きたい?

 あ、聞くまでもないな。お前の場合は、やっぱネトゲでレベル上げだろう。四人でパーティ組んで、まったりプレイするのも、絶対面白い」

【――!】

 羽里は……なぜか絶句してしまった。

「どうか……したのか?」
【……】

 俺はその羽里の沈黙でやっと理解した。


 とてつもなく重大な誤解をだ。


 俺は漠然と、選挙さえ終われば――召愛が勝てば、何もかもが解決されると思ってしまっていた気がする。


 だが、それはとんでもない、間違いなのではないだろうか?


 確かに、召愛が勝てば校則は今よりもマシになり、

 本当の意味での楽園、

『わたしのかんがえた、さいきょうのがっこう』は出来あがるかも知れない。


 だが、羽里はどうなる?

 それで自分の考えを曲げ、召愛に迎合するようになるのだろうか……?

 

 

 否。

 であってしまうのだろう。

 この羽里の沈黙の意味はそれだ。


 羽里は選挙に負けたとしても、その後、三年間、ずっと生徒会長に返り咲くことを目指すはずだ。


 召愛が勝ってしまえば、羽里との対決状態が、終わらず、永続するということだ。


 

 ならば、逆に召愛が負けた場合はどうなる?

 同じだ。

 召愛は召愛自身の在り方を、絶対に変えようとしない。

 やはり、羽里との対決状態は、終わらない。



 つまり、選挙の結果がどうあれ。

 もう、二度と、召愛と羽里が、仲良く暮らしていた日々は戻って来ない。


 それでも、二人は自分の道を信じ、親友を打ち負かし、前へ向かって進み続けるしかない。

 お互いが共に居ることを望んでいるはずなのに。

 別々の道を行くしかない。



 そんなのって……ありか?


 羽里は何のために、この学校を作った?

 召愛と友だちに戻るためだったんじゃないのか?


 召愛は何のために、この学校に入った?

 羽里と、一緒に居るためだったんじゃないのか?


 二人にとって、本当の『わたしのかんがえた、さいきょうのがっこう』

 それは。

 二人が一緒に居られる学校、だったはずなのに――。



 救いがない。なさすぎる。

 これじゃ……。二人の努力も……何の意味もないじゃないか!

「なあ……羽里。

 どうにか……ならないものなのか?」

【……】
【今は、何も……言わないでください……。

 目の前の勝負に、集中しなければ】

 電話は切れた。

 羽里の最後の言葉は、泣きそうで声が震えていた気がする。


 救いがないと分かっていても、前進するしかない。

 なんで、お前たちは、そんなに、バカなんだ!









「ああ~ん、体育倉庫の中でなんか、いや~ん」


      ――!?!?

 な……なんだ?

 いかにも最終回目前っていう感じのシリアスな雰囲気になってたのに、

 一気にそれをぶち壊すようなこの音声は……?


 二階から……聞こえたような気がしたが……。

「制服のままだなんて、あん、汚れちゃう~ん」
(俺のお気に入りなエロDVDの音声じゃねえか……。


 てことは、なんだよ。まさか、朝、寮を出るとき、リピート再生にしっぱなしで、ドア開けっ放しで出かけちゃったりしたのか、俺?)

 ダッシュしたね。

 死にものぐるいで、自室へ走った。


 そしたらだ。案の定、ドアが開けっぱになっててだな。

 そっこから、あはーん、うふーんと音声が、漏れ続けてたわけだ。

(やっべえ、俺なにやってんだ!

 いや……でも、普通、ドア開けっぱ&エロDVD再生しっぱ、で出かけたら、気づくよな? なんかおかしくないか?)

 慌てて、自室へ飛び込もうとしたらだ。

 なんかね。

 部屋の中に、居た――

「あら、コッペ。どうしたの、慌てて?」
 遊田がだな。

 なんか、モニターの前で、ジーッとエロDVDを鑑賞なさってました。

「って、お前こそ何やってんだ。勝手に人の部屋で!」
「学生証キーカードが、居間のテーブルの上に落ちてたから、今のうちに、あんたの弱みでも握っておこうと、忍び込んだら、面白そうなDVDがあったから、鑑賞してただけよ?」
「落ちてたって、それ俺が置いておいた、俺のカードキーだろうが!」
「お前の物は、俺の物。俺の物は、俺の物」
「ジャイアニズムェ……っていうかだな。

 俺が通報したら、ふつうに窃盗と不法侵入で退学だぞ?」

心の友はそんな事しないわ?」
「ご都合主義的ジャイアニズムェ……!

 つーか、なんで、心の友が弱みを握ろうとしてんだ。コラ?」

 さっさと追い出したいところだが、警備のシステム上、私室に二人以上が入ると警報が鳴って、警備員が駆けつけてきてしまうようになってるから、中に入れんっていうね。


 そこで――


 ――ドタドタドタドタ!

 ――ドタドタドタドタ!

 

 と、人が走ってくる音が聞こえて――

「な、何をしてるんだ。君たちは!」

 んで、召愛さん急いで部屋の中を覗き込んだぜ。

「そ、その聞こえてくる音声は、いつもコッペが繰り返し見ていたそれなのだろうか!

 イスカさん、どんな感じだ?」

 そこに興味津々なのかよ!

「そうね。こういうの、ちゃんと見たことなかったし、かなり新鮮よ。

 大変興味深く、そして人生の参考になるわね」

「ずるい、私も見たい。

 ずっと音声だけしか聞けなくて、映像が気になってたんだ!」

 召愛さん、冷静じゃないらしくだな。

 なんと俺の部屋に入ろうとしてしまって。

「あ、おい、バカ――」

 召愛さんってば、足を踏みこんじまったわけだ。

 鳴ったぜ。警報。


 いやあ、うるさいったら、ありゃしない。

 すぐに警備員のおっさんが駆けつけてきた。


 そして、お馬鹿な学生の、お馬鹿な悪戯からの、お馬鹿なトラブルとわかるや、戻って行こうとした。


 が、部屋の警報が、一人で部屋に入った時でも、鳴り出すという不具合が発生してしまったんだ。

 しかも全ての私室がだ。

 警備員のおっさんが、警備システム会社に問い合わせたところ。

「セキュリティシステムの更新作業中で、それに付随する不具合の可能性が高いとの、システムエンジニアからの報告です」

 最新鋭のセキュリティってわりには、ガバガバだな……。

「でも、これ、どうすりゃいいんです。

 うるさくて、部屋で寝られない」

「今日は、居間などの、共有スペースで寝て頂くしか……」 

 まあ、そうなるわな……。


 警備員のおっさんが帰ったあと、召愛さんは、ぺこり、と俺たちに頭を下げました。

「ごめんなさい。ついつい、やってしまった」

「というわけで、召愛も、すんごい気になってるみたいだし。

 明日は文化祭の代休だし、

 居間でコッペのDVDコレクションの鑑賞会をしましょう」

 とか言って、いつの間に持ち出してきたのか、俺の秘蔵DVDたちを両手で、ズバッと掲げてみせてだな。


 それは男子にとって、自分の恥部である性癖を、衆目に曝されるという行為そのものであり。


 男友達相手ならともかく、女子にはけして見せたくないものであり。

 俺は内心をえぐられる思いであり。

 血を吐きそうであり。

 これは立派なセクハラなんじゃないだろうかであり。

「け、けしからん。

 そ、そんなけしからん事、許されるされるわけないだろう!

 召愛もなんか言って、説教してやれ!」

「うむ……!」
 と、召愛さん、すんごい気合い入れました。
「――よし、ぜひ鑑賞会をしよう、イスカさん!


       徹夜でだ。

 俺は精神的に吐血した。


▁▂▃▅▆▇█▓▒ ぐほぉ!

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