変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第40話「フン、ご指名だよ。楽しませてやりな」

エピソードの総文字数=7,014文字

 リボンとリースで飾られた、少女趣味なピンクのワンピース。
 ふんわりしたパフスリーブが、雄々しいいかり肩をより強剛に見せていた。
 ラメ入りの赤いマニキュアで彩られた手指はゴツく、白いニーハイソックスに包まれた内股気味の脚は筋肉の筋が浮き出していて逞しい。
(竹沢教授が……)
(まさか、そんな……)
 密かに尊敬していた師の変貌っぷりに大きなショックを受ける恭介だが……それを表に出すことはない。
 また、仮にそれを表に出したところで、何がどうなるわけでもない。
 今の恭介は一介の下忍を装っており、竹沢教授?がここにいる下忍と天野恭介であると気付くことはないのだ。

 さて、竹沢教授?は、自分を紹介した由美子を濃いアイメイクの施された目でキッと睨みつける。
「ちょっとォッ! 前から何度も何度も言ってるでしょッ!? アタシのことは『お父さん』じゃなくて『ママ』って呼んでちょうだいッ!」
「あーゴメンゴメン、つい忘れちゃうのよねー」
 全く悪びれる様子のない由美子を、竹沢教授?は更に強く睨みつける。
「『竹沢和雅』は世を忍ぶ仮の姿なのッ! 本物のアタシは『竹沢雅美子(たけざわまみこ)』! 今のこのアタシこそが本当のアタシなのよッ!!」
 由美子は竹沢教授?のヒステリックな叫びを軽く流して、こちらに向かって申し訳なさそうな顔を向けてきた。
「いやーゴメンね? ウチのお父さん、いっつもこんな感じで面倒臭いことばっか言うのよね。本当の自分がどうたらこうたら。何て言うのかしら? いわゆる厨二病ってヤツ?」
「…………」
 スラングにはあまり詳しくない恭介だが、今の『厨二病』が誤用であることは何となくわかった。
「あと、お父さんはぶりっ子が過ぎる上にキモくて陰険だから、この近辺の女装子たちからは嫌われてるの。みんな言ってるわ。『雅美子ちゃんと一緒と思われるのはイヤ!』って」
「…………」
(た、竹沢教授……)
「フンッ、あの子たちはアタシの可愛さに嫉妬してるだけよッ! それよりッ『お父さん』じゃなくて『ママ』だって言ってるでしょッ!」
「あーはいはい『ママ』『ママ』」
 由美子の返事は露骨に面倒臭そうだったが、竹沢教授?は納得したらしい。
 再び、にこやかな顔を元十郎に向けて、キャピキャピと騒ぎ出した。
「うふふ、若杉元十郎ォ♥♥♥」
「…………」
 直立不動の元十郎に熱い視線を向けながら、恥ずかしそうにイヤンイヤンする竹沢教授?……
「…………」
(いや、これは竹沢教授ではない……)
(別の"何か"だ……)
 いよいよ耐えられなくなって、恭介はそう結論付ける。
 「竹沢教授≠この不気味なオカマ」――自分に言って聞かせた。
「あァン、生の元十郎はテレビで見るよりずっと素敵ィィン!!♥♥」
「…………」
 竹沢教授?――もとい竹沢父にくねくねされて、元十郎は生気のない顔で石のように固まっている。
 由美子がドヤ顔で言った。
「ふふん、いいでしょう? あたし、元十郎からサインもらって写真も一緒に撮ってもらったのよ!」
「やっだァ、なにそれェッ!? 由美子のくせに生意気だわァン!」
「なによ、『由美子のくせに』って!」
「お黙りなさいッ、このチンパンジーがッ!」
「!? 誰がチンパンジーよ! ウキィーッ!」
 猿そのものの所作でいきり立つ由美子を無視し、竹沢父は元十郎に詰め寄る。
「ねェン、元十郎! アタシにもサインちょうだいィ!! サインサイン!!」
「そ、それは……ま、まぁ、構いませんが……」
「じゃあねェン、アタシの下着に書いてちょうだァい?」
「は、下……?」
「そうよォン、下・着♥」
 そう言うと竹沢父は、いきなり元十郎に背を向け、その場に四つん這いになった。
 いや四足の状態で上半身を伏せ、下半身だけを高く上に掲げた状態だ。
 そして、自らの手でワンピースのスカートをペロリと捲り上げる。
 露わになった下着は女性用だった。
 レースで縁取られた純白のものだが、生地が薄いために肌の色がうっすらと透けている。
「ヒイィィィイイィィィィッ!!」
 甲高い声を上げて、元十郎が飛び上がった。
「うふふ、おしりのところに書いてねェン?」
 竹沢父はそう言うが……
「…………」
 元十郎は完全に恐慌状態に陥っており、白目を剥いて硬直している。
「…………」
 恭介もまた、わけのわからない展開についていけず……
 気持ち悪いものから目を逸らしながら、状況が推移するのを呆然と待つことしか出来ない。
 その中において、竹沢由美子だけが冷静だった。
「お父さん、ダメよ。ペンがないわ」
「だったらアンタが持ってきてよォン! まったく、アンタときたら本当に気の利かないクソ娘ねッ!」
「えー、めんどくさいしー」
「それに、また『お父さん』って呼んだわねッ!? 『ママ』だって何度も言ってるでしょうがッ! ちょっとは知能を伸ばしなさいよッ、この低能チンパンッ!!」
「だから、あたしはチンパンじゃないっつーの! ウキィーッ!」
 父に言い返した後、猿――いや、竹沢由美子は「おっ、そう言えば!」と声を上げた。
「あたしの分のサインする時、確か元十郎は田中さんからペンを借りてたわよね? ねぇ、田中さん、元十郎にペンを貸してあげてよ!」
 笑顔で恐ろしいことを言ってくる由美子。
「…………」
 この気持ちの悪い尻を覆う布切れに自分のペンで何かを書かれるのだと思うと……嫌悪感しかない。

 断固として、ペンの貸し出しを拒否しようと思った恭介。
 その時、開けっぱなしのままだったドアから、もう一人誰かが入って来た。
「あーもう、やめなよ! 気持ち悪い!」
 思わず見とれてしまうほど美麗でありつつも、同時に不躾な視線を向けることを躊躇してしまう、何とも貫禄ある女性……

 登場したのは、竹沢家の母・竹沢芙美子であった。
 彼女はずかずかとこちらにやって来て、腰を高く掲げた状態の竹沢父の尻を無遠慮に蹴り飛ばす。

「キャアアァァン!!」
 体勢を崩された竹沢父は、高い悲鳴を上げながら斜め前方に<ビターン!>と転ぶ。
「おおっ、さすがはおかーさん! 容赦のない蹴りね!」
「フン、汚いものがあったから我慢出来なかったのさ」
「でも、ちょっとだけ可哀想かな。お父さんだってサインが欲しいのよ。お父さん、前から元十郎の大ファンだもの」
「ふぅん、そうかい」
 どうでもよさそうにそう言って、彼女……竹沢芙美子がちらりとこちらに視線を向ける。
「へぇ、なるほど……若杉元十郎は確かにいい男だねぇ」
 ……と言いつつ――
 彼女は何故か元十郎ではなくこちら……恭介の方を見ているような気がする。
「……?」
 その視線には、どこか凄みのようなものがあり……
 ただ見られているだけで、何となく居心地が悪いというか……背筋がゾッとする、
「あんた、ペン持ってるのかい? ちょっと貸しな」
「…………」
 渡したくないのに、何故か彼女の要求が拒めない。
 恭介はついつい、言われるがままに手持ちのペンを彼女に渡してしまった!
「…………」
 因みに、このペン――
 一見はどこにでもありそうな"ただのペン"だが、実は第四世界製のハイテク品である。
 設定を切り替えるだけで、これ一本が鉛筆、シャープペンシル、ボールペン、水性マジックペン、油性マジックペン、カラーマーカー、筆ペン、製図ペン、クレヨン、チョーク、スプレー、ペン消しゴムに早変わりする。
 カラーは288色、線の太さは0.01mm刻みで、0.01~30mmまで指定可能。
 また『コピー&ペースト機能』を搭載しており、原文をペン先でなぞってコピーした後、白紙をなぞることで原文の字体ごとそっくりそのままペーストすることが出来る。
 他にも『翻訳機能』があるので、ウネニア語の原書をなぞった後に白紙をなぞることで、日本語や第四世界語に翻訳された文を書き出すことが出来る。
 他にも製図を補助する各種機能や、ボイスレコーダー機能、紛失防止機能などがついている。
 本体は人間工学に基づいたデザインを採用し、持ち手の部分に特殊なシリコンを使っているため「誰の手にもよく馴染む」と評判がいい。
 また軸の部分の質感及びカラーリングをその時の気分で簡単に変更出来るため、長期間使用しても飽きが来ない。
 使用時には魔石の嵌め込みが必須だが、魔石の使用効率が良く、白魔石の欠片でも一年以上の連続使用に堪える。
 というわけで、このペンの市場価格は90万円なり。
「ククク……そんなに欲しいのかい?」
「欲しいわァン! 欲しい欲しいィィン!!」
 いじらしく体勢を元に戻して、ごつい尻を左右に振りながらオカマが叫ぶ。
 竹沢芙美子はニヤリと笑い、突き出された大きな臀部の中央――窄まりと膨らみの真ん中にペンの柄を<グイッ>と捻り込んだ。
「ふわあァァァンッ!!」
「ほらほら、欲しかったんだろう? 良かったねぇ」
「…………」
「…………」
(お、俺のペンが……)
「…………」
 何とも言えない気持ちで、眼前の痴戯をポカーンと見つめる恭介と元十郎。
「ああァン、あああァンッ♥ ッ、元十郎ッ♥ アタシ、元十郎にグリグリされたいのォッ!!」
 ペンでグリグリ責められながら、竹沢父は嬉しそうに身を捩って甲高い裏声で叫ぶ。
「フン、ご指名だよ。楽しませてやりな」
 そう言って、竹沢芙美子は元十郎の方を見るが……
「…………」
 元十郎はあたかも気を失っているかのように、無言で直立不動を保っている。
 元十郎が何も言わないので、竹沢芙美子は恭介の方に視線を向けてきた。
 底冷えのするその目の光に、また背筋が冷たくなる。
「じゃあ、代わりにあんたがやるかい?」
「え……え、遠慮しておく……」
 思わず、声が震えてしまった。
「みんな、お茶が入ったわよ」
 このわけのわからない状況に特に何も思うことはないらしく、姉・留美子が優雅に微笑みながら湯呑の載った盆を持ってダイニングにやってきた。
「茶菓子はないの?」
「羊羹があったから切ってみたわ」
「わぁい、羊羹♪ あたし、一番分厚いヤツがいいな!」
「あらあら、由美子ちゃんったら。どれも同じよ」
 姉妹が暢気な会話をしていると、家政婦の女性が切り分けられた羊羹の乗った皿を盆に載せてパタパタやって来た。
「ちょっと先輩たち! お客様が来られてるんですから自重してください!」
 彼女は慌ただしくテーブルの上に盆を置くと、すぐさま竹沢夫妻の変態的な行為を止めに入った。
 家政婦としてこの家にいる彼女には、恐らく竹沢家との血縁はないだろう。
 そのためなのか、彼女の感性は至極まともなようだった。
「フン、客って言ったって、別にあたしが招いたわけでもないしねぇ」
 手慰みのようにペンの柄でグリグリと雄尻をこじりながら、竹沢芙美子がだるそうに応える。
「ああァンッ♥ イイッ♥ イイわァン!! そこが気持ちイイのおォンッ!!」
 でかい尻をブルブル震わせる竹沢父。
「でも、大事なお話があるらしいわ。ねぇ、お母さん、こっちに来て、一緒にお話を聞きましょう?」
「えー……めんどくさいねぇ」
 グリグリしながら、竹沢芙美子が溜め息を吐く。
「みんなの分はお茶だけど、お母さんの分はお酒を用意したわ」
「おお、酒!」
 たちまち態度を翻し、竹沢芙美子はペンを放り出した。
「やァン! やめちゃいやァァン!! 最後までしてくださいィッ、芙美子さまあァッ!!」
 中途半端に火を点けられた竹沢父は切なさに身をくねらせて懇願するが、竹沢芙美子の関心はもはやそっちにはない。
 そそくさと席に着いて、早速グラスに口をつけている。
「…………」
「…………」
 恭介は放心状態の元十郎の小脇を突いて、元十郎に正気を取り戻させた。
『大丈夫ですか?』
『あ……は、はい、大丈夫です……』
 まだ戻り切れていないようで、今の恭介が自分の部下であるという設定を忘れているようだが……
 何とか心に平穏を取り戻した元十郎と共に、恭介は再び腰を下ろす。
 そこで、竹沢由美子がトテテと、恭介の側にやって来た。
「田中さん!」
 由美子に呼び掛けられ、恭介の眉間に縦皺が刻まれた。
「はいこれ。田中さんのでしょ?」
 由美子が差し出してきたのは、恭介のペンだった。
「…………」
 さっきまでオカマの股間をぐりぐりするのに使われていたものである。
「…………」
(何の嫌がらせだ……)
 とも思ったが、由美子は無邪気な顔でこちらを見ている。
 含むところなど全くなく、ただ落ちていたから届けに来ただけなのだろう。
「……いらない」
「えっ? いらないって、あんたのでしょ?」
「……いや、もういらない」
「えっ? でも、さっきの元十郎のサイン見た感じ、まだインクは残ってるっぽかったわよ???」

 アホの由美子が首を傾げる。

 恐らく彼女はアホすぎて、恭介が何を厭っているのか理解出来ないのだろう。

 このアホとこれ以上言葉を交わすのもまた嫌なので、恭介は手っ取り早く会話を打ち切れる言葉を選ぶ。

「それはおまえにやる」
「えっ、マジ!? いいの!?」
「ああ」
「わぁい、ありがとう!」
 由美子は素直に喜んでいる。
「…………」
(馬鹿な奴だ……)
 さて、恭介が汚いペンを無事に手放せてほっとしたところで、ようやく竹沢家のリビングダイニングに全員が集まった。
 変態行為の中断に未だ不貞腐れている父・竹沢和雅。
 供された酒に夢中になっている母・竹沢芙美子。
 母に酒の銘柄について説明している姉・竹沢留美子。
 一番分厚い羊羹を物色している妹・竹沢由美子。
 由美子に「どれも同じですよ」と言う家政婦の女性。
 ぴょこぴょことこちらに寄って来るペットの茶色いうさぎ。

 そして、正気に戻った若杉元十郎とその部下である下忍(=恭介)――
「さぁ、それじゃあ話を始めるわよ! みんな、こっちに注目!!」
 意地汚く自分の分の羊羹を選び終えた由美子は<パンパン!>と大きく手を打ち鳴らした。
 全員の視線が集まる。
「改めて紹介するわ。雨の里の若杉元十郎と、その部下の田中さんよ!」
「……どうも」
「…………」
 紹介に合わせて元十郎共々、一応軽く頭を下げておく。
「あたしね、さっき桜町ふれあい公園で変態に襲われてた忍軍の子を助けたの!」
 彼女の言葉に室内各所から「えェッ、またァ?」「またかい!」「あら、またなの?」「また?」「またですか?」『Oh,またか!』と呆れ混じりの声が上がる。
「……?」
(――あれ? 気のせいか、今……)
 聞こえた声の数と、この場にいる人数が合わない気がした。
(うさぎの声か?)
(いや、それを含めても一つ多かったような……)
「それで変態が逆恨みして、あたしに復讐しようとしてるみたいなのよ!」
 だが、彼女が説明を続けたことでそちらに意識が向き、この疑問はさらりと流された。
「ふん、どうせまた金玉蹴飛ばしてウンコ漏らさせたんだろう?」
 竹沢芙美子が面倒臭そうに鼻を鳴らす。
「いやァンッ! 野蛮だわァンッ! 由美子ったら怖ァいッ!」
 ごついオカマが、くねくねしながらイヤンイヤンする。
 その姿を見ると何となく力が抜けてしまうので、恭介は極力そっちを見ないようにした。
「それで? タマはちゃんと潰したのかい?」
「ううん、潰れてはなかったわ」
「ハッ、手ぬるいねぇ」
「もおォッ! ダメよォッ! 男の子にとっては大事なところなんだからァ、簡単に『潰す』なんて言わないでェンッ!」
「しょーがないじゃん。あたしには金的しか出来ないんだから」
「それにしても、由美子ちゃんっていつも人助けばかりしてるわね」
「? そうかな?」
「お姉ちゃん、由美子ちゃんには警察官の適性があると思うの」
「ほう、警察官かー」
「ねぇ、チセさんはどう思う?」
「いいですね! 私も由美子さんには似合うと思います、警察官!」
「うん、オレも似合うと思うよ!」
「なるほど、ミニスカポリスってやつね!」
「あら、素敵だわ」
「別にスカートが短い必要はないと思いますけど……」
 女三人の会話を切るようにして、竹沢家のペットてある茶色のうさぎが質問を挟んでくる。
『犯人の復讐が問題になっているということは、犯人は現在逃亡中なんだな?』
「そうよ」
『Oh,それは厄介なんだぞ』
 そう言って、茶色のうさぎは後ろ足でカリカリと耳の裏を掻いた。
 腹の肉がぽよんぽよん揺れている。
(美味そうだな……)
『忍軍が既に動いている中、由美子の金的をまともに食らったにも関わらず、未だに捕まらない犯人……ただ者ではないんだ』
「ええ」
『暗殺者guildのassassinか』
「……!」
 核心を突いたうさぎの言葉に、恭介は僅かに目を見開く。
「へぇ、アルタソ。よくわかったわね?」
『単純な推測なんだぞ。おまえが助けたのは「変態に襲われてた忍軍の子」なんだろ? 忍軍に属する者なら襲われたところでそう簡単に「助けられる」ほどのpinchにはならないんだ。そうなると襲った相手もかなりの手練れと考えられるし、その上で「変態」とくれば、まぁ普通に考えて相手は暗殺者guildのassassinだろ?』
「なるほどね!」
『まぁ、引っ掛かるところもあるんだぞ。暗殺者guildのassassinが市内に現れたなんて事件は過去に聞いたことがないんだ』
 絨毯の上にちょこんと座り、茶色いうさぎがこちらを見上げてくる。
 つぶらな瞳に深い知性の色が見えた。
(賢いうさぎだな……)
(普通のうさぎではなさそうだ……)

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