変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第26話「なるほど、いつもの恋愛脳ね!」

エピソードの総文字数=6,965文字

 西区・桜町商店街の一角にある、黒魔術専門店【黒猫堂】――

 蜥蜴や蜘蛛が蠢き、魔界植物が「ギエェ~」と呻きを漏らす不気味な店内で、客が来ないのをいいことに二人の女子高生がお喋りに興じていた。
 喋るだけなら住居部のソファでも店の中でも同じではないかということで、ここに移動してきた友子と由美子である。
 二人はカウンター内の椅子に腰掛け、ついでに黒猫のクロはカウンターの上に寝そべっている。
「そういやさ、あたし、さっき本土人に会ったのよ」
「本土人?」
「うん。そこのふれあい公園でお弁当食べてたの」
「え、本土人が? っていうか、なんで本土人だって判ったの?」
「気付いたのはアルタソよ。なんか、そいつの持っていたビデオカメラで判ったらしいわ。本土メーカーのビデオカメラだったから判ったとかなんとか」
「へぇ、すごいね、アルくん。さすがは名探偵!」
「まぁ、あいつは昔、お兄ちゃんの助手だったらしいから、それなりにね。ほら、『昔取ったキモヅラ』っていうじゃん?」
「キモヅラ?」
「ええ、キモい顏のことよ」
「へぇ~」
 そこでクロが「ハン」と鼻を鳴らして由美子に蔑みの視線を向けた。
『バカが、それを言うなら『昔取った杵柄』だろーが。"キモい顔"はてめーだよw』
「!? なんですって!?」
 怒る由美子を無視して、クロは今度は友子の方を見る。
『おまえも「へぇ~」じゃねーよ。その反応から見るに、おまえもこの慣用句知らなかったんだろ? バーカw』
「うう……」
『ホントにおまえらは無知蒙昧だな』
「なによ、アルタソみたいなこと言いやがって! ったく、ホントに動物ってムカつくわね!」
「そうだよね、いっつも人のことバカにしてさ、腹立つよねー!」
『しょうがねーだろ。おまえらはバカなんだから、バカにされて然るべきなんだよ。うさぎにも劣るとか、恥を知れよw』
「ハァッ!? 劣ってないわよ!」
『劣ってんだろーが。おまえ、もも肉の部下なんだろ? あんな肉に顎で使われるとかw』
「ムッ! 確かに、あいつは所長であたしはヒラだけど……でも、あんなクソうさぎ、すぐに追い越してやるわ! あたしの探偵の才能もそろそろ開花する頃だろうし!」
「由美子の探偵の才能……」
(それ、きっと永遠に開花しないんだろうなぁ……)
 友子がそう思って口にはしなかったことを、クロが平気で言葉に表す。
『んなもん、永遠に開花しねーよw』
「なんだとー!?」
 その後、由美子とクロの言い争いが始まった。
 クロに散々にバカにされ、ついにはキレた由美子が力技に出る。
『――っ!? や、やめろよ!』
「このクソ猫がぁ!!」
「ニャッ! ニャアァァ~!『クッ、や、やめろって! くふぅっ!』」
 腹部をこちょこちょされて、黒猫が情けない声を上げる。
「ったく、もう、この猫! 生意気なんだから!」
「ニャ、ニャアァ~……『や、やめ! くふぅぅ……』」
「そうそう、それで本土人の話よ。その本土人さ、転移でこっちに来たらしいの」
「えっ、転移!? それって大変だよね、可哀想に……ちゃんと市役所に行くように勧めた?」
「ニャア~……『くうぅっ! ふぅぅっ……』」
「ふふふ、抜かりないわ。行く場所ないだろうから『うちに来る?』とも訊いたわ」
「じゃあ、その本土人、今は由美子の家にいるの?」
 クロを許す気になったらしく、由美子がクロの腹部から手を退いた。
 今度は背側に手を回し、美しい黒毛をモサモサ撫で始めた。
「フウゥ……『…………』」
 クロは不貞腐れた顔をしつつも、無抵抗に撫でられている。
「ううん。なんか妹と一緒に転移してきたらしくってさ、妹を迎えに行っちゃったのよ。うちの住所は教えといたから、そのうち訪ねてくるかもね」
「へぇ、そっかぁ、妹さんと一緒……その本土人、どんな人なの?」
「名前は田中正男って言ってたわ。歳はあたしらと同じか、それよりちょっと上って感じかな」
「へぇ、男の人かぁ」
「ええ、非童貞だったわ」
「――!? そ、そういう情報は要らないから!」
 友子の顔が一瞬で赤くなった。
 由美子はそれを見てゲス顔になると、可笑しそうに笑う。
「ゲッヒャッヒャ! 友ちゃんは本当に下ネタが好きねー」
「ち、違うよ! 好きなのは由美子でしょ!」
 そう言って、下ネタが続くのを阻止するために、友子は慌てて話題を替えた。
「と、ところで! もうすぐ始まるよね、異世界リーグ!」
「ああ、そうね。あたし、ウェストモンクスに賭けたわよ」
「えっ、ホント!?」
 西区に拠点を持つ【ウェストモンクス】は、西区在住の友子にとって"地元のチーム"――
 桜町商店街にもウェストモンクスののぼりがたくさん立っているし、"黒猫堂の看板娘"と云われる友子はもちろんこのチームを応援している。
「ウェストモンクスには最強のディフェンダーが揃ってるもの。あと、キーパーだってすごいヤツばっかなんだから! 第四世界のチームでもあの鉄壁の守りを突破するのは難しいんじゃないかしら」
「初戦は明後日の夜だよね?」
「そうよ、相手は第一世界の『ヴァンビレ・マジックナイツ』――司令塔が切れ者でユーティリティープレイヤーが多い攻守に優れたチームらしいけど、あたしにはただの器用貧乏にしか見えないのよねー」
「勝てるかな? きっと勝つよね! えへへ、楽しみだなぁ♪」
「友ちゃん、サッカー好き?」
「うーん……サッカーが好きっていうか――ほら、ウェストモンクスの試合なら、澤田くんも絶対に観るでしょ?」
「は? 哲也? まぁ、あいつは観るでしょうねー」
 澤田哲也(さわだてつや)――二人と同じ中学出身で、今は同じクラスの男子である。
 中学時代はサッカー部のキャプテンを務めており、学業成績も優秀で人当たりの良い人気者だ。
 アイドルグループの真ん中に立っていそうな爽やか系イケメンなので、当然女子には大人気である。
 友子にとっても、三年越しの片思いの相手だ。
「澤田くんと同じ時間に、澤田くんが見てるのと同じ試合を観て、澤田くんと同じチームを応援するの。えへへ、なんかドキドキしちゃう……♥」
 澤田哲也もまた西区在住。
 中学時代からウェストモンクスのサポーターであると公言していたので、異世界リーグの初戦はまず間違いなく万難を排して観戦するだろう。
 想像してうっとりする友子に対し、由美子は首を傾げている。
「? えっ、それどういう意味?」
「ほら、同じ時間に同じ試合を観るとさ、なんか一緒に観戦してるみたいじゃない?」
「??? え、なに? 友ちゃん、哲也と一緒に試合観る約束したの?」
「!? そ、そんなの出来るわけないよ! 澤田くんに話し掛けるとか絶対に無理だから! 恥ずかしいもん!!」
「えっ? 約束したわけじゃないのに一緒に観るの???」
 理解出来ずに首を捻る由美子にクロが言う。
『深く考えなくていいよ。いつもの恋愛脳だ。大した意味はねーから』
「なるほど、いつもの恋愛脳ね!」
 パァッと表情を明るくして、由美子が納得した様子で頷く。
 クロが示した『恋愛脳』という言葉に、揶揄するようなニュアンスを感じ取った友子はすかさず抗議した。
「いつもの恋愛脳ってなに!? ひどいよ!」
『フン、本当のことだろw』
 クロに鼻で笑われて、友子はムッとする。
(バカにされる意味がわかんないよ……)
(片思い中の女の子なら、誰でも考えることだよね?)
 好きな人が「好き」という歌手の曲を聴いてみたり。
 好きな人がハマっているドラマを観てみたり。
 好きな人のいつも飲んでる飲み物を買ってみたり。

 それらは、恋する乙女にとっては当たり前の行動のはずだ。
 哲也(好きな人)の感じているものを感じたくて――友子がウェストモンクスの試合を観るのはそんなにおかしなことだろうか?
「別にクロに迷惑掛けるわけじゃないんだからいいじゃん!」
『ハァッ? 迷惑に決まってんだろ! そういう浮ついた気持ちで、オレの隣で試合観るんじゃねーよ! ウェストモンクスの正ゴールキーパーはこの異世界リーグが故障明けの復帰戦なんだぞ!?』
「はぁっ!? 意味わかんない! それと私が試合を観ることと何の関係があるの!?」
「そうなのよねー。まずは初戦のスタメンに選ばれるかどうかよねー」
『事の重大性もわかんねーヤツが、チャラチャラと試合観んじゃねーよ!』
「なにそれ!?」
「まあまあ、二人とも」
 兄妹(きょうだい)喧嘩が始まったので、由美子が仲裁に入る。
「真剣だろうと、浮ついていようと、ウェストモンクスへの声援であることには変わりないわ。選手の力になるんだったらどっちでもいいじゃない?」
『よくねーよ! オレが選手だったら、浮ついた声援送ってくるこういう女の顔面にドライブシュート決めてやりたいね』
「うう……ひどいよ! ただの乙女心じゃん! どうしてそんなに悪く言うの!?」
『ハァッ? 乙女心? いいように言ってんじゃねーよ。単に頭に花が咲いてるだけだろうがw』
「お花畑ってやつね」
 クロに追従して頷く由美子に、友子はギョッとする。
「!? 由美子は私の敵なの!?」
 由美子は胸を張って答えた。
「あたしはウェストモンクスの味方よ」
『オレもだよ』
「わ、私――」
『テメーは違うよ! テメーは澤田がマジックナイツの応援してたら、マジックナイツの応援するんだろうが!?』
「!? マジで!? 友ちゃん、それは売国奴よ! 許されないわ!」
「ええーっ!? そんなぁ!」
 友子が嘆いたところで、店のドアがギイィィィ……と開く。
 ハッとして、接客モードで立ち上がった。
「――い、いらっしゃいませ!」
「蝋燭あります? 仏壇にも置けるやつがいいんですけど」
「あ、はい、ございますよ! こちらです!」
 結局、客は蝋燭だけ買って去っていった。
 ドアが完全に閉まると、友子は接客モードを解き、クロと由美子にジト目を向ける。
「ていうかさ、クロはともかく、せめて由美子には解って欲しいよ」
「? え、何を?」
「乙女心だよ。好きな人が観る試合だったら一緒に観たい――それって普通だと思うの」
「いや、そりゃそうかもしんないけど、友ちゃんは哲也と一緒に試合観る約束したわけじゃないんでしょ? それなのに一緒に観るってどうやんの? どういうトリックなの???」
「!? トリックじゃなくて!」
 由美子は根本的な部分から理解出来ていないらしく、友子はどう説明したものかと悩む。

 クロはまたバカにしたように鼻を鳴らした。

『つうか、乙女心とか、由美子にそんなモンが解るわけねーだろ。おまえ、由美子と何年の付き合いだよw』
「ムッ! その言い方はその言い方でムカつくわね! あたしだって乙女だっつーの!」
『どこがだよw』
「なんですってー!?」
 いきり立つ由美子に、友子は問い掛けた。
「ねぇ、由美子って本当に好きな人いないの? 一度もそういう話聞いたことないんだけど、少しくらい気になる人とかいないの?」
「友ちゃん。あたしはね、そんな悠長なことは言ってられないのよ」
「えっ?」
「実は来週、魔族祭があってさぁ、それまでにどうしても処女を喪失しないといけないのよ!」
「…………」
『…………」
「…………」
「……なんかさ、それ去年も聞いたような気がする」
『……一昨年も言ってたよな。来年も言う予定か?w』
「言わんわ! 今年が最後よ! 今年こそ、あたしは何が何でも処女喪失して魔族祭に行くのよ!」
「でも、しょ……しつするって、相手は?」
「え!? 友ちゃん聞こえなーい!」
 小声でしか言えなかった友子を、すかさず由美子がからかってきた。
 由美子は友子にいやらしい言葉を言わせるのが大好きなのだ。
「うう……そういうのはいいから! で、相手は? お目当ての人とかいるの?」
「フッ、それがね……いるのよ!」
「えっ!? そうなの!?」
『マジかよ!?』
 驚いた友子とクロは思わず視線を交わした。
 由美子は不敵に笑っている。
「フフフ、なんでもそいつはあたしのことが好きみたいなのよ」
「えええっ!? そうなんだ!?」
『そんなヤツ存在すんのかよ……』
「ねぇ、友ちゃん。この店には"動物を人間に変身させる薬"があったりするんじゃないの?」
「えっ? ああ、あるけど?」
「その薬をクロに使うわ。クロはあたしのことが好きだそうだから、きっとあたしとセックスしてくれるはずよ!」
『!? ヒイイイイィィィィィッ!!』
 カウンターに寝そべっていたクロが、目を見開いて飛び起きた。
「さぁ、クロ!」
「ニャアアアアアァァァァッ!!」
 刹那、クロは住居部の方へと逃げ去った。
 魔界猫らしい、目にもとまらぬ速さだった。
「あっ! 逃げやがった! 待て! ヤラせろ! クローッ!!」
「ゆ、由美子……」
 由美子は立ち上がってクロを追おうとするが、既にクロの姿は見えない。
「ちょっと友ちゃん! どういうことよ!? 友ちゃん言ったじゃん!? クロはあたしのこと好きだって!」
「す、好きっていっても、そういうんじゃないと思うよ……?」
「ぐぬぬ……」
 唸り声をあげ、由美子がドスッと着席する。
「ていうかさ、やっぱ私はどうかと思うんだよね……」
「? なにが?」
「サッキュバスの事情はよくわかんないけど、でも、そういうことは――特に"初めて"は、やっぱり好きな人としなきゃ意味がないと思うんだよね……」
「『そういうこと』って?」
「~~っ、そういうのはいいから!」
 恥ずかしがる友子を見て、由美子が笑う。
「友ちゃん、そりゃあたしだって、ヤレるもんなら好きなヤツと初パコしてみたいわよ?」
「初……そうなの?」
「でもね? 現実はそんなに甘くなかったのよ」
「…………」
「恋愛感情とか入り込む余地もなかったわ」
「…………」
「どいつもこいつも、あたしが誘うと逃げていきやがる……クソッ!」
「う、うーん……」
 由美子はモテない。
 清々しいほどモテない。
 処女喪失したくとも、その相手が見つからないのだ。

「…………」
(ま、まぁ、由美子には悪いけど……)
(モテないよね……)
 残酷なのは解っているが、親友として友子はそう結論を出さざるを得ない。
 由美子がモテない原因は二つ。
 外面的なものと内面的なものだ。

 まず、外面的な理由。
 由美子はサッキュバスの血を継いでいるはずなのだが、容姿の方はあまりぱっとしない。
 女子は気を遣って言わないが、男子は無遠慮にはっきり「ブス」と言い切る。
 由美子の気安い性格もあって、
「なんだよブス」
「誰がブスよ、この粗チン野郎!」
 という軽快な掛け合いが成立してしまうので、男子の間では由美子はすっかり"ブスキャラ"として定着してしまっているのだ。
 実際、由美子の顔は普通レベルだし、容姿にあまり拘りのない男子だっているだろう。
 だが、キャラクターとして完全に固まってしまっているのはちょっと挽回が難しい。
(まあ、でも外見のことはともかくとして……)
(問題なのは、やっぱ性格なんだよね……)
 内面的な理由。
 こっちの方が致命的のような気がする。

 由美子はいちいち言動が下品なのだ。
 それこそ、男子がドン引きするようなレベルで――……
「やっほー友ちゃん♪ あ、今から便所行くの? ちょうどいいわ。あたしも行こうと思ってたのよね。連れションしましょ!」
 何の恥じらいもなくそういうことを平然と言ってくる由美子。
 ついでにトイレから出た後はスッキリした顔で「あぁ~ぶっといの出たわ~」とか言ったりする。
 更に、手を洗った後は友子のスカートで濡れた手を拭こうとする。
 まったくもって女子力の欠片もない。
「…………」
(あれじゃ――モテないよね……)
 何かとあれば「これって卑猥な形してるわね~」などとコメントし、下ネタトークが始まれば全力で飛びついて「ゲッヒャッヒャッヒャ!」と下卑た笑い声をあげて猿のように手を叩く。

 由美子の日頃の言動アレコレを思い返し、ズーンと重い気分になる友子だった。
「あたしの何がダメなのかしら???」
「えっとね、色々あるけど、たぶん"女の子らしさ"が足りないんだと思うよ?」
「うーん、女の子らしさか……」
「とりあえずはさ、笑い方から変えてみよ? いつもの『ゲヒャヒャヒャヒャ!』はやめてみない? あれ、あんまり女の子らしくないし……」
「なるほどね! 女の子らしく『オホホホホ!』かしら?」
「うーん? それもちょっとどうかと思うけど……まぁ、『ゲヒャヒャヒャヒャ!』よりはマシかなぁ???」
「よしきた! これからは『オホホホホ!』って笑うことにするわ!」
「うん、それじゃいくよ?」
 友子は両手を前に出し、由美子の脇腹を両端からキュッと摘み上げて、こちょこちょした。
「ウッホ!? ウホッ、ウホホホホホホホホ!!」
「由美子、完全にゴリラだよ、それ……」
 顔を引き攣らせる友子を睨み、
「くぅ~っ! よくもやりやがったな、このアマ!」
 由美子はお返しとばかりに友子の脇腹を摘み上げてくる。
「きゃあぁぁっ! ひゃっ、やめてって! きゃははっ!」
「ほれほれ~♪ 『ゲヒャヒャヒャヒャ!』って笑ってみなさい! そしたらやめてあげるわ!」
「やあっ、ダメだって――キャヒャヒャヒャヒャ!」
「違うでしょ、『ゲヒャヒャヒャヒャ!』でしょ!」
「やぁーん! やめ……キャハハハハ!」

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