変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第33話「元十郎様、『ウェーイ感』とは何ですか?」

エピソードの総文字数=5,121文字

「ねぇねぇ! お願いよ、元十郎! あたしとセックスして!!」
 アンコウ――
 もとい、竹沢由美子という女子高生にそう言われて、元十郎は思わず喉を震わせた。
「ヒイイイィィィィイイイィィッ!!」
 あまりのおぞましさに腰を抜かしそうになり、後ろによろめいたところで……
 背中に、何か硬質なものが当たる感触がした。
(――!?)
 いつの間にか背後に移動していた恭介が、小声で耳打ちしてくる。
「了承した場合、撃つ」
「――!?」
 背中に当てられているのが、第四世界製の小銃であることに気付き、元十郎は息を呑んだ。
「悪いが、これもおまえに正気を取り戻させるためだ」
「正気です! 私は正気ですぞ!!」
「だったら、色香に惑わされるな」
「どこに色香があるというのですか、どこに!?」
「いいか? 欲望を抑え、断固として拒絶しろ」
「端から、断固として拒絶することしか考えておりません!!」
 もはや遠慮もなく、彼女の眼前でそんなやり取りをし――
(しかし、それはそうとして……)
(いささかショックだな……)
(いくら相手が若といえども……)
(この私が、こうも簡単に背後を取られるとは……)

 最盛期を過ぎた自覚はあるが、それでも元十郎は自分の忍びとしての腕には自信がある。
 少なくとも、天野家の人間を除く雨の里の上忍の中では、自分が一番強いと思っている。

 さて、少々落ち込みつつも……元十郎は竹沢由美子に向き直った。

 断固として拒絶する以外の選択肢はないが、さすがに断るにしても言葉は選ばなければならない。

「た、大変申し訳ございませんが、私は妻子ある身でして……」
「知ってるわ。妾も二人いるんでしょ?」
「――!? え、ええまぁ……」
(何故、この娘がそれを知っているのだろう……)
 自分の知らないうちに、マスコミの報道があったのだろうか?
 それとも、ネット上にそういう情報が上がっているのだろうか?
「いいじゃん、別に。妻子のことなんかいつも気にしてないんだから」
「――へっ?」
「あんた、南区の遊郭に週一で顔出してるでしょ? 昨日も行ったわよね?」
「――!?」
「あと、第一世界の娼館にもよく行ってるわよね? こっちはさすがに月一くらいの頻度だけど」
「――!?!?」
(な、何故、知っている!?)
 遊郭・娼館通いの指摘くらいなら、当てずっぽうも有り得るが……
 『週一』『月一』という、頻度に関しての言及があったことにギョッとする。
(…………)

 しかし、よくよく考えてみれば、人伝に話を聞いた以外にこの娘がそれを知り得る術はない。

 恐らく彼女には、花街の情報に明るい知り合いでもいるのだろう。

(うーむ……)
(こうも情報が筒抜けというのは、守秘義務的にどうかと思うが……)
 何はともあれ、元十郎は改めて言葉を選ぶ。
「いや、まぁ、その通りなのですが……しかし、由美子殿は私の娘より年若いので、それはさすがに……」
「いやいや、先月十二日の夜、あんた第一世界の娼館で十六の女の子買ったでしょ? あたしも十六だっつーの!」
「!?!?」
 日時までずばり当てられて、元十郎は目を大きく見開く。
「マジかよ……」
「十六ですか……」
 下忍たちがニヤニヤしながらこっちを見ている。
 その様にイラッとしたが……それはこの際どうでもいい。
(な、何故、この娘がそれを知っている?)
(あの時の十六の娼婦と知り合いなのか???)
「まぁ、でも、別にいっか。どのみち、あたしとヤリたくないって思ってることには変わりないものね」
 そう言って、彼女はガックリと肩を落とした。
「ふぅ、処女喪失への道はやっぱり険しいわねー。あーあ、若杉元十郎とヤッてみたかったなー……」
 独り言のようにそう零した後、彼女はパチンと指を鳴らした。
「……――ん?」
 話の途中だったにも関らず、少々ぼんやりしていたらしい。
(いかんいかん! 私としたことが……)
(ええと、何の話をしていたのだった?)
(ああ、そうそう――)
「我々一同、由美子殿には深く感謝しております。何か御礼をさせてください」
「じゃあね、あたし、若杉元十郎と一緒に写真を撮りたいわ」
「? 写真、ですか???」
「そうよ。あたし、元十郎のファンだもの。一緒に写った写真とさっきのサイン入り手ぬぐい、みんなに見せびらかして自慢したいわ!」
 そう言って、竹沢由美子はニヒヒと笑う。
「? それって、自慢になりますかね?」
「女子高生で元十郎様の名を知る者はどれほどいるのですか?」
「!? どういう意味だ、どういう!」
 失礼なことを言う下忍たちを一喝した後、元十郎は竹沢由美子に顔を向けて頷いた。
「私などでよろしければ」
「えっ、マジ!? いいの!? やったあ!!」
 勢いよくベンチから立ち上がり、彼女はガッツポーズをする。
 それから「わぁい!」と言ってピョンピョン跳ねた。
「…………」
(さっきのサイン入り手ぬぐいもそうだが……)
(たかが写真くらいで、ここまで喜んでもらえるとは……)
 季戦のテレビ中継は、忍軍内でも賛否両論が分かれる案件だが……
 こういう娘が、テレビで季戦を見て自分を応援してくれるのなら、それは本当にありがたいことである。
(しかし、それにしても、謝礼として写真撮影を求めてくるとは……)

(なんとも無欲な娘だ……)

(まぁ、後程、涼介殿とも話し合って……)

(恐らく、里からも天野家からも謝礼金を渡すという流れにはなるのだろうが……)

「ねぇ、そこのあんた、ちょっと撮ってくれる?」
「…………」
 ショートパンツのポケットからスマートフォンを取り出した後、竹沢由美子は元十郎の後ろに立つ恭介の方に目を向けた。
 恭介が頷いたので、元十郎は中継役を買って出ることにした。
 竹沢由美子の手からスマートフォンを取り、後ろの恭介に手渡そうとする。

 と、その時――
 恭介が、何故か小銃を握っていることに気付いた。

 小声で事情を聞く。

「? 銃など抜いて、どうかなさいましたか?」
「いや、いつの間にか抜いていた。恐らく、アサシンへの警戒が高じて無意識に抜いてしまったのだろう」
「ほう、そうですか」
「そんなことより……彼女は撮影のどさくさに紛れて、おまえに肌を寄せるなどして誘惑を仕掛けてくるかもしれない。絶対に魅了されないよう気を張っておけ」
「されません! 絶対にされませんから!!」
 元十郎は力一杯そう答えて、恭介にスマートフォンを押し付けた。
「うーん、そうねぇ、じゃあ、あっちの噴水をバックにしましょうか。あ、ねえ、あんたたちも一緒に写りましょうよ?」
「えっ、我々も?」
「いいのですか?」
「うん、いいわよ! こっちこっち!」
 由美子が下忍二人を手招きした。
 こうして、中央に由美子と元十郎、両サイドに下忍たちが立ち、撮影の準備が整った。
「オッケー! これでいいわ、さぁ撮って!」
(ううむ、しかし……)
(なんだか申し訳ない気もするな……)
 こう見えて、この竹沢由美子も若い娘である。
(どうせ写真を撮るのなら……)
(私などより、若と一緒が良かっだろうに……)

 そんなことを思いながら、元十郎は恭介の方に目を向ける。

 恭介は、由美子のスマートフォンを手に、シャッターボタンの位置を確認していた。

「…………」
 今は地味な下忍に姿を変えているが、天野恭介はその見目麗しさから婦女子に大人気である。

忍軍が資金集めの一環として経営している【忍軍ショップ】でのブロマイドの売上も上々で、マスコミからの取材依頼も多い。

(まぁ、性格の方はちょっとアレ(・・)だが……)

 しかし、写真をどうこうする分には性格はあまり関係ないはずだ。

 例えば、天野恭介のブロマイドを買っている若い娘たちとて、別に天野恭介と付き合いたいなどと考えているわけではないだろう。

(うーむ……)
 恭介にシャッター役を任せ、自分が被写体の側にいるということが、元十郎にはどうにもしっくりこない。

<パシャッ!>


 その時、不意に恭介が無言でシャッターを切った。

「!? ちょっと! 『はい、チーズ』とか言って撮ってよ!」
「? 『はい、チーズ』」
 疑問符付きの棒読みでそう言った後、再度シャッターを切るカメラマン恭介。
「なんか微妙だわ! もっとこう、撮影の時の声掛けって、ほら、もっとなんかあるでしょ!? 」
 竹沢由美子が具体性のない抗議をする。
 だが、恭介は素っ気ない。
「声掛けなんて何でもいいだろう。写真なら撮れた。これでいいか?」
 恭介にスマートフォンを渡された由美子が、写真の出来を確認する。
「うーん、そうねぇ……まぁ、これでもいいけど――」
「だったらこれで終わりだ。早く事情聴取の続きをしよう」
「えー……でも、もっと『ウェーイ感』が欲しいような気がするわ」
「ウェーイ感?」
「そうよ、これじゃただの集合写真って感じだし、もっと『ウェーイ感』が欲しいわ!」
「…………」
 しばし考え込んだ後、恭介が問い掛けてくる。
「元十郎様、『ウェーイ感』とは何ですか?」
「えっ? ああ……」
 恭介の「元十郎様」で思い出す。
(そう言えば……)
(若は今、私の部下の下忍という設定だったな……)
「ふむ、そうだな……『ウェーイ感』というのはつまり、高揚感のことだな。こう、ワイワイとした賑やかな、テンション高く、盛り上がった――」
「高揚感ですか」
 元十郎の説明を繰り返しつつも、恭介はどこか解っていない様子である。
「…………」
(若は、もしかして……)
(人と一緒に写真を撮ったことがないのだろうか?)
(いや、きっとないのだろうな……)
(あるとしても、ブロマイドの撮影くらいか……)
(…………)
 何となく……
 それを寂しいことだと思ってしまった元十郎は、由美子の方を向く。
「由美子殿、私との写真もよろしいですが、うちの里頭と一緒に写真を撮ってみたくありませんか?」
「? うちの里頭って――ええと、天野恭介?」
「はい、そうです。うちの里頭は若い娘に人気がありましてな、もしよろしければ後日にでも、一緒に写真撮影をしてみませんか? うちの里頭と一緒に写真を撮る機会などそうそうあるものではありませんよ?」
「うーん、天野恭介と撮影かぁ……」
 由美子は少し考え込み、
「別にいらないわ。あたし、天野恭介ってあんまり好きじゃないし」
「――へっ!?」
 惜しみもなく辞してきた。
「あいつさぁ、なんか戦い方がチャラチャラしてるでしょ? あたしは元十郎みたいな実直な戦い方が好きだわ」
「そ、そ、そうですか……」

 「若い娘なら天野恭介が好きに違いない」と思い込み、気を回して申し出たものの……

 完全に裏目に出てしまったらしい。

(うおおっ!)
(申し訳ございません! 若!!)
「あいつが無駄にカッコつけるせいで、季戦のテレビ中継もやたらあいつばっか映すしさー。もっと元十郎を映してくれたらいいのになー」
「元十郎様を映すより、里頭を映した方が視聴率が上がるんですよ」
「そうですよ、テレビ局がそうするのにはちゃんと理由があるんです」
 調子をこいたことを言う下忍二人を、元十郎はギロリと睨みつける。
「あっ、でも! さっきのあの子が助かったのは、天野恭介がすごい薬を使わせてくれたからなのよね?」
「はい、そうです。里頭の判断らしいですよ」
「じゃあ、いいヤツではあるんじゃないの?、天野恭介。まぁ、カッコつけだけど」
「…………」
 元十郎は、気まずさに顔を顰めつつ、恐る恐る恭介の表情を窺う。
「…………」
 恭介は相変わらずの真顔だった。
「まぁ、写真はこれでいいわ。今の話で思ったの。あたしは元十郎の渋くて格好良いところが好きだから、やっぱり『ウェーイ感』は要らないわ」
「そ、そうですか……」
「さてと、そんじゃ、さっきの変態の話に戻りましょうか。あ、もう一回動画見る? だったらさっきの場所の方がいいわよね」
 そう言って彼女は、先程の園内マップの立看板の方へ向かって歩いていく。
 その後ろを下忍たちが続き、元十郎はその後につく。
「元十郎」
 途中、恭介に小声で呼び掛けられ、元十郎は顔を強張らせる。
「お、おお、若……先程は大変申し訳な――」
「俺の戦い方はチャラチャラしているのか?」
「…………」
「…………」

 特に怒っている様子は見られないが……

 この感情の薄いこの若頭もさすがに『チャラチャラしている』と言われたことが気になるようだった。

「い、いえ、別にチャラチャラはしておりません」
「と言うか、そもそも『チャラチャラした戦い方』とはどんな戦い方だ?」
「ええと、それは、例えば若のような――」
「…………」
「あっ、いえ! 違いますね! そうではなく……」
「…………」
 若杉が上手く返せないうちに、一行は立看板の裏側まで戻ってきた。

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