古代イスラエルにキリストとして転生した俺  そして12使徒が全員美少女!?

18・モレクの儀式

エピソードの総文字数=6,460文字

「みなさまー、救いの御子、イエス様のお言葉が聴けますよー?」

「不思議な力を持つ、正真正銘の奇跡の人イエス!話を聞いてかないと損するよ!」

「お、おう!未来がわかったり、水をワインに変えたりとか、色々…」

「みんな、寄っておいでー!」

ペテロとアンデレ、ヤコブとヨハネが元気に呼び込みをかける。

「…いいお話、聞けるよー?…」

「イエス先生のお言葉、聞けばあなたも必ず感銘を受けるでしょう」

新たに加わったフィリポとバルトロマイの二人の弟子も、頑張ってくれている。

「救いの御子イエスだって?」
「ああ、噂に聞いたぞ、水をワインに変えたって!」
「そいつぁ凄い、ぜひ話を聞いていこう!」

呼び込みの声に応じて、俺の周りにざっと100人以上の人が集まった。
ちょっと呼び込みをしただけで、以前の3倍以上の人が集まった計算だ。
俺が不思議な力を持っているという噂が広まったようで、
俺はちょっとした有名人になっていた。

「病気なんかも不思議な力で治したりできるらしいぞ?」
「ああ、えらい人の子供の病気を見もしないで治したりとか」
「あと38年も病気で寝たきりの男を起き上がらせたって聞いたぞ?」

あのカナでの結婚式から、5日ほど経っていた。
その間に俺の噂を聞きつけた地元のえらい役人から
病気で死にそうになってる息子を治してくれと泣きつかれたり、
みんなでエルサレムの祭見物に行った時に
38年間も病気で伏せっているという男を起き上がらせたりもした。

何のことはない。
えらい役人の子供の病気というのはちょっとした風邪のようだったし、
38年病気で伏せってる男というのは単なるニートだった。
役人には心配しないで家に帰るように伝え、
ニートの男にはとっとと起きるよう叱りつけて起き上がらせた。
小冊子には、これが何だかイエスキリストの起こした
奇跡のような形で載ってるけど…。

「へぇー、不思議な力で病気を治すなんてすごい人なんだな」
「おい、今から話をするってよ!みんな聞いてこうぜ!」

それが妙な評判を呼び、みんなどうやら俺の事を神から力を授かった
不思議な人間と信じ込んでいるようだった。


「…えー、神はこう言っておられます。私だけを信じなさいと」

集まった聴衆を前に、俺は出来るだけ立派そうに見えるように話す。

「信じなければ、どうなるか。これは昔から数々の言い伝えがあります」

「例えば、生贄を行う異教が人々に広まったために国が滅んだりとか」

前と違って、聴衆は俺の話に真剣に耳を傾けている。

「これは、言い伝えだけではなく現実にも起こる事なのです」
「おおー、本当に?」
「未来が見えるというアンタが言うなら、そうなのかもな」

以前とあまり変わらない内容の話なのに、聴衆の熱の入り方が違う。
ちょっと有名人になると、こうも反応が違うのか…。

「なので、未来がどうなるかは皆様一人ひとりの行動にかかっています」

「どうかその事を忘れず、正しき信仰をされますように…」

話し方もちょっと変えた。
半端な知識で話すよりは、自分で話しやすいように。

「ああ、そうだよな」
「未来のために、俺たち一人ひとりがみんな大切って事か…」
「いやー、目が覚めたよ。いい話だった」

聴衆から拍手が巻き起こった。
いい感触だ。

「また、ぜひ話を聞かせてくれよ!」
「ああ、俺の知り合いも連れて来るから頼むよ!」
「ええ、皆さんどうか宜しくお願いします」

人が人を呼んで、どんどん俺の話を聞きにくる人も増えていく。
この調子でいけば、信者を1万人集めるのもそう難しい事ではなさそうだ。

「イエス様、素晴らしいお話でした!」
「ああ、みんな熱心に話を聞いてくれたよな?」
「さっすがイエスさん、救いの御子!」
「イエスさま、よかったよ!」
「…悪くなかった…」
「イエス先生のお話ですもの、当然でしょう」
「いや、まあまあ…」

「さーて、次の町に行くか」
「はい!」
「よーし、次はもっと人集めちゃうぞー」
「お、オレだって負けないからなアンデレ!」
「ヨハネもがんばるー!」
「…あたしも頑張ろうっと…」
「お供させて頂きます、イエス先生」

色んな出来事が重なり、俺の布教活動はこんな感じで順調だった。
そして、その日の夕方…。





「あそこか…」

その日の夕方。布教活動を終えた後俺は一人とある町の外れにある
打ち捨てられた、元は何の神を祀っていたのかもわからない
古い石造りの神殿へと向かっていた。
一週間前、あのモレクの司祭がここで儀式が行われると言っていた場所だ。

モレク教が行う生贄の儀式といっても、
前に聞いた話じゃそんなに大げさなものではないようだ。
麦をひと束とか、鳥を一羽とか。
まぁ、それもちょっと可愛そうだけど…。


「皆様、ようこそおいで下さいました」

神殿の前で、あのモレクの司祭が人々をにこやかに出迎えている。
結構それなりの人数が集まっているようだった。

「どうも、今日は」
「おお、あなたは救いの御子イエスさん!まさかおいで頂けるとは」

両手を広げ、歓迎の意を示すモレクの司祭。

「色々と噂は伝わってますよ。何でも水をワインに変えたとか」
「え、まあその、そんな大したものじゃないって言うか…」
「またまた。どうやら、あなたは神から祝福を受けているようですな」

本来ならライバル同士、敵対関係であってもおかしくないのに。
この男はどうやらこの時代の多くの人達と同じく、
神秘的な神なら何でも信仰の対象と考えているようだった。

「あなただって。病気を治したりしてるんでしょ?」
「いえいえ、たまたま願いが通じただけですよ。私にあなたのような力は…」

考え方が柔らかく、理性的な男のようだった。
いいぞ。これは話がしやすいかも…。

「では、我々の儀式がそろそろ始まります。どうぞこちらへ…」
「え、ええ」

俺は、モレクの司祭の案内で石造りの神殿の中へと足を踏み入れた。

俺は儀式を見学させてもらったあと、
話し合って出来るなら生贄の儀式はやめてもらおうと考えていた。

生贄の儀式が広く行われるのが未来の暗黒に変わる原因なら、
それさえやめてもらえれば。
そうすれば俺がこんなに無理してキリスト教を広めようとしなくっても
大丈夫になるかも知れない。
そうなればお互い共存して、ヤハウェを信じるかモレクを信じるかは
その人次第という事で、あとは争う事なく未来も平和に…。


「えー、本日は皆様よくお集まり下さいました」

炊かれたお香の匂いが立ち込める神殿の中で、
モレクの司祭が一段高くなった所から信者たちに話しかける。
信者たちは男女とも全員頭巾をかぶり、顔を布で覆っていた。
布には曲がったツノが2本生えたような赤い丸が描かれている。
この教団のシンボルマークなんだろう。
俺は見学という事で一人だけ素顔で、何だかちょっと場違いな気がした。

「モレクの神も、どうやら喜んでおられるようです」

男はそう言って、後ろにある大きなモレクの神像を振り返った。
人の頭に牛のツノの生えた、大きな上半身だけの青銅の像。
神像というよりは、何だか悪魔の像みたいだ。

どうやら中が空洞になっているらしく、中でマキが燃やされているようだ。
パチパチという音と共に、時おり目や口の穴の部分から火がのぞく。
胸の部分が扉のようになっており、たぶんそこから生贄を捧げるんだろう…。

「それでは。モレクの神に捧げ物をされたい方は?」

シャーン、シャーン…と、シンバルをこするような音がどこからか響く。
それから、ドン、ドン…とゆっくりしたリズムの太鼓の音も。
それに合わせるかのように、信者の中から何人かが前に進み出た。
みんな手に麦の束を持っている。

「いい心がけです。きっと、モレクの神も喜ぶでしょう」

そう言ってモレクの司祭は、鉤爪のついた棒を使って神像の胸の扉を開けた。
その瞬間、ゴウッという音が聞こえる。像の中の炎は、相当に強いようだった。

「麦が、たくさん収穫できますように…」
「足にできた腫物が、治りますように…」
「いいですね。捧げ物こそモレクの力の元です」

信者が願い事を言い、麦の束が投げ込まれるたびに
シャーン、シャーンとシンバルの音がし、ドン、ドンと太鼓の音が響く。
信者はそれに合わせ体をゆすり、モレクを称える言葉を唱えている。

「…それでは、もっと大きな捧げ物をされたい方は?」

司祭の呼びかけに応じ、また数人の信者が前へと進み出る。
みな、手には紐で縛られた生きた鳥を持っている。
鳥はみんな、不安そうでキョロキョロと落ち着かない様子だ。
や、やっぱりちょっと可哀想だ…。

「大変結構です。それでは、どうぞモレクの神に捧げて下さい」
「はい。では、嫌なあいつに何か不幸がありますように…」
「借金が、減りますように…」
「モレクの力が増していっているようです。皆さん良い行いをされました」

願い事と共に、信者が一人ひとり像の中の炎に生きた鳥を投げ込む。
逃げ出そうとして中で暴れてるらしく、カツンカツンという音が聞こえる。
しかしますます大きくなっていくシンバルと太鼓の音、
それに信者がモレクを称える声にそれはかき消されてしまった。

ふぅ、これがモレクの生贄の儀式か。
確かにちょっと残酷かも。
話し合って麦を捧げるぐらいにしてもらって、鳥を捧げるのはやめてもらって…。
そんな事を考えていた時、モレクの司祭がこんな事を言い出した。

「…では、さらに大きな捧げ物のある方は?」

さらに、大きな捧げ物…?
どういう事だ?
捧げ物って、麦とか鳥とかその程度って話じゃ…。

「はい」

信者の中から、一人が声を上げた。
信者は一旦外に出て戻ってくると、
その腕には、生まれてまだ間もない子ヤギが抱かれていた。
子ヤギは不安を感じているようで、
キョロキョロしながらメェェ、メェェとか細い声で鳴いている。

まさか…?
あの子ヤギを、生きたまま炎の中に?

「大変良い行いです。モレクの神もさぞ喜ぶでしょう」

モレクの司祭はにこやかに子ヤギを抱えた信者を迎える。
麦や鳥を生贄に捧げるのとはわけが違う、あんなに心細そうに鳴く子ヤギを…。
信者達は、可哀想だとは思わないのか?

「実り、富、復讐、快楽…。モレクは全てを適えてくれます」

シンバルと太鼓が辺りに響く。そんな中、
信者は司祭にうながされ、ゆっくりと子ヤギを頭上に掲げた。
メェェェ…と子ヤギの声が辺りに響き、そして…。

「偉大なる神、モレクを称えよ!」

モレクの司祭がそう言った瞬間、大きなシンバルと太鼓の音が鳴り響き
信者達は大きな声で口々にモレクを称え出した。
その人達の迫力に圧倒され、止めようか迷っていた俺は何も出来なかった。

「この者に、モレクの祝福があらん事を!」

騒々しいシンバルと太鼓。子ヤギを抱えた信者に向かい絶叫する周りの皆。
きっと、みんな誰が誰だか何となくわかるんだろう。
たぶんあの男はモレクにいい捧げ物をしたという事で尊敬を得、
みんなからこっそり便宜を図ってもらったり、その他にも色々と…。

「それでは…」

鉤爪のついた棒で、モレクの像の胸の扉を開ける司祭。
その瞬間ゴウッと音がし、内部で真っ赤な炎が燃え盛っているのが見えた。
俺にはそれが地獄の入り口のように見えた。

信者が、子ヤギを両手で頭上に掲げゆっくりとそこに近づいていく。
子ヤギは怖がり嫌がって、メェェ、メェェと必死に母親に助けを求めるような
声を絞り上げさかんに手足をバタつかせている。

「おおモレク!」
「モレク!モレーク!」

その様子を見て、信者達はますます興奮し、
まるで一種の集団ヒステリー状態に陥ったようだった。
そんな狂気の集団に囲まれ、俺は恐しくて仕方なかった。

「…モレクよ」

子ヤギを頭上に掲げた信者は、
燃え盛るモレク像の中の炎の前で足を止めた。
そして…。

「我に、大いなる財産を授けよーっ!」

ギャァァァァァ…
まるで人間の赤ちゃんのような絶叫が辺りに響き渡った。
扉が閉じられ、その声がこもる。
モレク像の目や口から、それが生きているかのように炎が噴き出す。
俺は耐えられずに、目を閉じてその場にうずくまった。

ガンガンガン!と子ヤギが中で暴れ蹄が青銅を叩く音かする。
シンバルと太鼓が激しく打ち鳴らされ、
信者たちは激しく興奮し皆モレクの名を絶叫している。
自分で着ている服を破っているらしい音もする。
そうして、騒ぎがやや落ち着いた頃…。

「大変素晴らしい捧げ物でした。この方に感謝を」

モレクの司祭がそう言うと、シンバルと太鼓が打ち鳴らされ、
信者達は一斉にモレクを称え子ヤギを捧げた男に向かって絶叫した。

…この儀式は、この時代の一種のストレス発散なんだ。
作物の出来や病気、自分の力ではどうしようもない事の多い時代。
そういう不安やストレスを、テレビやネットのないこの世界では
こうやって激しく毒々しい刺激で発散してるんだ。

理屈でなく、感情的なもの…。
これは皆を説得してやめさせるのは難しいかも知れない。
けど、こんな野蛮で残酷な儀式、このままにしておいたら…。

…どこからか、赤ちゃんの泣き声がする。
こんな儀式に赤ちゃんを連れて参加するなんて、どんな母親なんだ…?


「…さて。本日は、最高の捧げ物をされる方がいらっしゃいます」

その時、モレクの司祭がそう言った。
最高の、捧げもの…?
まだあるのか?一体、何をモレクに捧げる積もりだ?

「それでは、こちらへ」

神殿の奥まった所から、
オギャアオギャア、と赤ちゃんの泣き声が近づいてくる。
ま、まさか…?

「この方です。この方が、わが子をモレクに捧げる決心をされました」
「…」

ドォォー…という、周りの信者の一斉の怒号。
そして胸に激しく泣く赤ちゃんを抱いた、女の信者。
俺は、一瞬気が遠くなった。

わが子…?
聞き間違いじゃないよな?
あの人は、自分の子を激しく燃え盛る炎の中に投げ込もうってのか?

狂ってる。
正気じゃない。
ここにいる連中は、狂った信仰によって人の心を捻じ曲げられ、
母親が自らの子供を炎に投げ込むような行為を
最高の行いと心の底から思ってるんだ。

「きっとモレクの神も大いに喜び、我らに恵みがもたらされるでしょう」
「…」
「皆様、この方に心よりの感謝を」
「くっ…!」

騒々しく太鼓とシンバルが響く中
俺は熱狂し叫びまわる信者達を苦労してかき分け
赤ちゃんを抱いた女の人の元に向かおうとあがいた。

あんな事、させちゃいけない。
あの母親を、人の心を持たない獣にさせちゃいけない!

「おお偉大なるモレクよ!我らの捧げ物を受け取り恵みを与えたまえ!」
「…」

モレクの司祭が、神像の胸の扉を開ける。
真っ赤な炎が、そこから噴き出しそうなくらい燃え盛っている。
女の信者は、わが子を両手で頭上に掲げると、ゆっくりとそこに近づいていく。
その顔を覆う布の隙間から、歪んだ笑みが唇に浮かんでいるのが見えた。
周りの熱狂と興奮で、どうやら一種のトランス状態になっているらしい。

「…モレクの神よ」

女の信者は神像の中の燃え盛る炎の前に立つと、赤ちゃんを高く掲げた。
壊れんばかりのシンバルと太鼓の音。
周りの信者達は、もはや人の言葉ではない絶叫を力の限りわめきつつ
狂ったように暴れている。

「我に、大いなる…」
「やめろーっ!」

間一髪、間に合った。
俺はその女の人から赤ちゃんを奪い取ると、
守るようにして抱きしめた。

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