【トーク版】二年少女~ギャラクシー・ファンタジア・オンライン~

第10話「ログ」

エピソードの総文字数=5,486文字

 もえにしがみつき大声で泣き続けるケンタを引き剥がすのに5分以上かかった。

 引き剥がされたケンタが鼻水をすすりながら「あっそうだ!」と声を上げ、ゴソゴソと荷物をかき回す。

 取り出されたのは流血でどす黒く変色したもえの普段着ているゴスロリ風の服と、[レアリティ8]二丁拳銃アイアン・メイデンだった。

ドアホウか! そんなボロボロの服!

 シェルニーに頭を小突かれたケンタがドヤ顔で「そこでこれっす!」とHP回復ポーション(大)も取り出す。

 納得したもえはケンタから一揃えを受け取ると、着替えのために岩陰に入って行った。

見ないでくださいね
 岩陰に入る寸前に服を胸に抱えた姿勢でふり返り、頬を赤く染めながら言うもえの姿に、軍隊の回れ右のように一斉に全員が後ろを向き、プルフラスは悶絶した。
……か……可愛い……たまらん……なの
こ……これはあれクマ? 『押すなよ、絶対に押すなよ』的な、ほんとは見て欲しいやつクマ?
ちげぇよっ!

 あつもりたちがお約束の漫才を繰り広げる中、そそくさと着替えを終えたもえがポーションを飲み下す。

 オレンジ色の光が輝き、怪我と一緒に服の破れや汚れも回復したもえは、ぴょんと岩陰から飛び出した。

おまたせです!

 岩陰から現れたいつもの姿のもえに皆が一斉に振り返る中、髪をポニーテールに留めていたヘアゴムをほどくと、頭を振って長い髪をおろす。

 期せずして全員の口から一斉に「おー」と言う歓声が沸き起こった。

なにが『おー』ですか!

 笑いながらも頬を染め、ヘッドドレスを留め直すと、両脇の髪を手の甲で後ろへ跳ね飛ばす。

 プルフラスは前のめりになって見ていたが、鼻息荒くジタバタと悶え始めた。

……もえちゃん……マジ天使……マジ女神……なの
 あつもりと黄飛虎は、なぜか直立不動でもえを見つめ、一生懸命拍手をしていた。
ところで……こいつぁ何だ?

 シェルニーが腕組みをした姿勢で、可愛らしくほっそり尖った顎先をカグツチへとしゃくる。

 回復ポーションを飲んでやっと怪我が治り、一息ついていたカグツチは、キョトンとした目でシェルニーを振り返った。

……どうもその黒装束は[BRITZ](ブリッツ)のギルドメンバーみたいだが、なんでもえちゃんと一緒にいる?

 不穏な空気を感じたもえは、慌ててカグツチの隣に立つ。

 地べたに座り込んでいたカグツチの手を引いて一緒に立たせると、ギルドメンバーに向けて紹介を始めた。

紹介が遅れました。彼の名前はカグツチくんです

 ブリッツのギルマスに騙されて人を殺してしまったこと。

 それを悔やんでもえを助け出そうとしたこと。

 ギルマスに斬られながらも、爆発からもえを救ってくれたこと。

 転移した洞穴からここまで、もえを守って戦ってくれたこと。


 もえはとにかく全てを話した。

……もえちゃんの命を救ってくれたってぇ事か
まぁそういう事になるよね。ありがとう!
……ありが……と……
ボクのもえを助けてくれたクマね
そうすか。もえさんの命の恩人すね! ありがとうっす! これからはまた俺がもえさんを守るっすからもう大丈夫っす!

 口々にカグツチへ礼を言い、ケンタなどは手を伸ばし、固く握手をしていた。


 ケンタが「守るっす!」と言いながらもえをお姫様抱っこを始める。

 抱っこしたままケンタが走り、もえがきゃーきゃーと楽しそうにはしゃぐ姿を黙って見ていたカグツチが、ゆっくりと口を開いた。

……れない
え?

 それに気付いたもえが聞き返す。

 一歩前に進み、長身のケンタを下から見上げるようにして、カグツチはもう一度口を開いた。

あんた達には! もえさんを任せられない

 ケンタを睨むカグツチ。

 一気に全体の空気が張り詰め、険悪な雰囲気が広がる。

なんだぁこのガキ?
どういう事っすか?
 シェルニーが睨みつけ、もえを下ろしたケンタが身体をぶつけるようにして詰め寄る。
(あちゃー、この脳内お花畑、また暴走かよ)
 ケンタとカグツチの間に立ってもえが必死になだめるが、珍しく怒っている様子の黄飛虎も参戦し、事態は全く収拾がつかなくなった。
今回のことは感謝しきれないほど感謝してるけど、キミにそんなことを言われる筋合いはないよ。俺達は今までだってずっともえちゃんを守ってきたんだ。もちろんこれからもね
そうっすよ! 俺らは昨日今日もえさんに会ったばかりのあんたとは違うんすよ!
 追い打ちをかけるように言い立てるケンタ。
もう! ケンカなんてやめてください! まだモンスターのいるエリアなのに……
……キスした
 もえの言葉を遮るようにカグツチが前に出る。
俺はもえさんとキスした! ただ長く一緒にいただけのあんた達とは違うんだよ!
 仲間たちはまた固まり、プルフラスは吐血する。
ゴフゥッ
違います! キスなんかしてません!

 ケンタがカグツチに突っ込んでいったのを皮切りに取っ組み合いのケンカが始まり、もえがあちらこちらをなだめて回りながら、説明を終え、事態が終息するまで1時間以上を要したのだった。


  ◇  ◇  ◇


私は、仲間の和を乱す人が一番嫌いなんです!
あ、はい

 怒っているもえを(かわいいなぁ)と見つめながら、鼻血を垂らして顔中ボコボコに腫らしたカグツチが、正座して返事をする。


 ケンタと黄飛虎も鼻血を垂らしたまま、もえの後ろでカグツチにむかって中指を立てながらニヤニヤしていたが、急にくるりと振り向いたもえに驚き、さっと下品な指を背中に隠すと、動きを止めた。

1対1じゃないケンカをする人は2番目に嫌いです!
あ、はい
あ、はいっす

 ケンタと黄飛虎が声を揃えて言う。

 シェルニーはと言えば最初はケンカに参加しようとしたのだが、カグツチが「俺は女の子は殴らない!」と叫んだのを期に撤退し、つまらなそうに絶賛吐血中のプルフラスをつついていた。

とにかく、今後ケンカする人とは友達をやめます。いいですね?!
 もえの言葉に「え?! 友達やめて恋人に……」と言いかけたカグツチだったが、もえの心底蔑んだような瞳に睨みつけられると「あ、はい」と返事をして正座に戻るのだった。
もえちゃん怖いな
マジパネェっす

 こそこそと話をする黄飛虎とケンタ。

そのギャップがまた可愛いんだけどね

 いつの間にかそこに紛れ込んだカグツチがつぶやくと、3人は一瞬見つめ合い、その後同時に親指を立てた拳をグッとぶつけあった。

 まだわだかまりは残っていたが、彼らは彼らなりに、ある一点で分かり合うことが出来たようだった。


 その様子を見ていたもえが大きなため息をつくと、あつもりがそばによりそい肩を優しく抱きかかえる。

まぁそんなに怒るなクマ。あいつらなりにもえを好きな気持が溢れ出ただけなんだクマ。もえを好きな気持は一緒なんだから、すぐに仲良くなるクマ。ほら、怒ってる顔も魅力的だけど、ボクのもえは笑ってる顔が一番かわいいクマ
クマちゃん……うん大丈夫。分かってます。よし!
 脇を締めて空手の型のようなポーズを取ると、気合を入れなおしたもえはシェルニーの元へ駆け寄り、いじけたシェルニーの背中をポンポンと叩いて、プルフラスの帽子を持ち上げ、顔を近づけて起こす。
さぁシェルちゃんいつまでもいじけてないでください! プルフラスちゃんも起きて! 行きますよ
……人口呼吸……必要……なの
 プルプルと手を伸ばしたプルフラスをと軽くいなして振り返ると、ぱんぱんと犬でも呼ぶように手を鳴らした。
そっちのドアホウ三兄弟も準備して!
あ、はい
あ、はいっす
あ、はい
 思わず返事をしてしまった3人だが、黄飛虎は返事をしてしまったことにかなりの心理的ダメージを受けていた。
(クールでかっこいいイメージだったはずの俺がとうとうケンタレベルに……)
 フラフラとする黄飛虎をケンタとカグツチが両脇から支える。
ううっ……お前ら、いいヤツだな……
もえさんを好きな気持は一緒だろ(ケンカすると友達やめられちゃうしな)
みんなで守ったほうが、もえさんが安全っす!(ケンカすると友達やめられちゃうっす)
 ガッチリと肩を組むドアホウ三兄弟を遠くから眺め、もえは安堵のため息をついた。
ふふっホントだ。みんな仲良くなれたみたい
あいつらは子供だクマ。子供はぶつかり合ってお互いを認め合うものなんだクマ

 あつもりと腕を組んで歩きながら、もえは後ろを振り返り微笑んだ。

 3人組が見つめる中、一緒に振り返ったクマの着ぐるみは背景に「ゴゴゴゴゴ」と言う書き文字を背負い、その無表情な目は千の言葉よりも雄弁に「小僧ども! これが漁夫の利と言うものだクマ!」と語っていた。

……あつもり……恐ろしい子……なの……

 最後尾を歩くプルフラスはそうつぶやき、口の端についた血を袖で拭った。


  ◇  ◇  ◇


 そこから牧場エリアまでは1度はぐれコヨーテにエンカウントしただけで順調に進んだ。

 はぐれコヨーテはケンタが太刀スキル[二十文字斬り]でオーバーキル気味に撃退し、武器を持たないカグツチの前まで歩いてくるとドヤ顔で見下ろす。

カグツチは怪我明けで武器もないんだから休んでるといっすよー

 ぼそっと耳打ちされたその言葉に、カグツチは悔しさを隠しもせず「おつかれ」とケンタの尻をぶん殴るが、余裕のケンタはニヤリと笑うとそのまま「もえさん終わったっす! 行けるっす!」と、もえの元へ走って行くのだった。


  ◇  ◇  ◇


 牧場エリアの中に入り、イベント以外では基本的にモンスターの心配が無い放牧地を更に20分ほど歩く。

 牧舎に到着したのはもう7時を回る頃だったが、キャラバンはまだ休憩しており、ポーションや食料などを補給することが出来た。


 手に入れた温かいスープと、ベーコンをたっぷり挟んだ堅いパンで食事を終えると、シェルニー達は軍馬の購入を手続きを始める。

 その姿を不思議そうに見ていたもえは、そばに居たあつもりのお腹をつんつんとつつき、大きなクマの顔を覗き込んだ。

ねぇねぇクマちゃん。どうして軍馬を買うんですか?
リアルの運営側と連絡を取る手段としてボクが考えたんだクマ

 事情を把握していないもえは、ギルド戦を行うわけでもないのになぜ軍馬を購入するのかわからず、首をかしげる。

 あつもりは、ケンタの手柄を横取りして、さも自分が全て思いついたように、ログによる運営との連絡について説明した。

(……チッ、そんな手があったか……。運営と連絡がとれたからといっても、すぐにどうこう出来るような状況とも思えねぇが、不安だな。……でも反対する理由もないし、ここで渋るのも不自然だしな……)
 もえが悩む間にも手続きは進み、後は購入するのみとなった。
……あっ
 もえは思わず声を上げる。
ん? どうした? もえちゃん
 その声に反応したシェルニーが、書類から顔を上げて振り向いた。
誰かコンシューマハードの人居ましたっけ? 私はPCなのでソフトウェアキーボード設定切ってますよ。設定切ってたらソフトウェアキーボード使えないんじゃないかなーと……
 今更ながらの重要な指摘。


 [もえと不愉快な仲間たち]のメンバーはほぼ廃人なのでPC使いだった。

 ここにきて皆慌て始める。あつもりなどは「ケンタはツメが甘いクマ。やっぱりドアホウだクマ」などと責任転嫁していた。

俺PS-WII(ピーエス・ダブリューツー)使ってるからソフトウェアキーボードだよ

 少し離れた所で屈んだまま、斜め下のアングルでもえを眺めていたカグツチが手を上げる。


 PS-WII(ピーエス・ダブリューツー)とは、2年ほど前に発売されたコンシューマ機で、最高レベルのPCに勝るとも劣らないグラフィック性能・処理速度を売りとして大々的に展開されたのだが、価格の高さとキラーコンテンツ不足でイマイチ数は売れず、最近はエロゲに近い美少女ゲーばかりが売れる不遇なマシンとなっていた。

 今年の春にGFOが移植されてからは少々盛り返して入るものの、マニアックなマシンで有ることに違いはなかった。

お前あんな爆音放熱箱を使ってるクマか!
おめぇ若いくせにマニアックだな!
あー、カグツチはエロゲーマーなんすね
ああ、間違いない。エロゲーマーだね
 散々な言葉を一通り浴びせられた末に、「エロツチ」と言うありがたくないあだ名まで付けられ、カグツチは釈然としないまま軍馬のオーナーになることになった。
ほら、カグツチくん。怒ってないで、おねがい
じゃあ、これが代金な

 カグツチは、もえに励まされてようやくオーナー登録を開始する。

 シェルニーから渡された代金、数十万ジェムが入った重い袋を牧場主に渡すと、カグツチの周囲で軍馬購入の効果音が鳴った。

それでは、これで登録は完了です。お名前をつけてかわいがってやってください
 牧場主の言葉と連動して、空中にソフトウェアキーボード……と言っていいものか、この世界では物理的に存在するキーボードが浮かび上がる。
お、キーボード出た! カッコいいなこれ……。で、何て名前つけるの?
あー、確か30文字だったよな?
ちょっとまって……うん、MAX30
 空中に有るキーボードを[あああああ……]と打ち込んで文字数を数えたカグツチが答えた。
救助を願う言葉と、現状を伝える内容が必要だクマ
 あつもりの言葉に、全員があれこれ指を折りながら考えた末、やっとカグツチの軍馬の名前が決定した。
[軍馬]助けて!GFO世界に居る!メニュー表示不能!ログアウト不能!
カッコ悪い名前の馬だなぁ
 カグツチのボヤキにひとしきり笑った後、メンバー全員に次々と所有者を移動させ大量にログを残すと、軍馬を率いた一行は、満足して帰路についたのだった。

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