超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

原作者無双

エピソードの総文字数=6,728文字

 代休開けの朝の学校。中央廊下。

 文化祭という非日常が過ぎ去り、新たな日常が始まったこの日。

 登校してくる生徒たちへ向けて、召愛は辻立ち演説を行おうとしていた。


 ただっ広い中央廊下の階段前ホールに踏み台を置き、その上へ立ったのだ。


 俺と遊田は聴衆を集めるために、登校してくる生徒たちへ呼びかけをしたよ。

「名座玲、召愛の演説をやるぞ。

 みんな、一回、聞きに来てくれ!」

「召愛がなんか、喋るらしいわよー。

 はぁ、ダル……」

 文化祭の前までなら無視されていた召愛の前には、今や多くの人だかりが出来ようとしている。

 偏見は消え去っていて、文化祭で万単位の来場者を呼び寄せるという奇跡を起こしたスーパースターとしてのイメージが定着してたのだ。

「――」

「召愛さんって、この学校をどうするつもりなのかな?」

「なんか、校則を本来の理想に沿ったものに戻すとか、ビラに書かれてるぜ。

 本来の理想ってなんだろうな?」

「でも、ボランティア部の活動に反対みたいな意見なんでしょ?」
「そこがネックだよなあ。校則は緩くしてもらいたいけど」
 なんて風にガヤガヤと、人が集まってきてる。


 少し離れた場所では、羽里彩派の連中も同じように辻立ち演説をやろうとしてたね。

 向こうは、羽里の取り巻きである、通称【羽里彩派議員】の奴らが、呼び込みや、プラカード持ちをやっている。

「――」
「羽里彩の演説はこちらだよー!


 名座玲派なんかに、この学校を好きにさせちゃいけない。

 誇りある羽里学生なら、現状保守の羽里彩に一票を。


 厳しい校則を守ってるからこそ、他校から尊敬されてるのを忘れるな。校則の緩和なんかの人気取りに惑わされないようにしよう!」

「名座玲派の演説など聴きに行ってはいけません。

 彼女らは、崇高な学校を壊そうとする。破壊者たちです!

 みなさん、どうぞ、こちらへ、羽里彩派の演説へ来てください!」

 彼らも、召愛の人気の上がり方に危機感を覚えたのかも知れない。

 批判の呼びかけが多く聞こえてくる。


【議員】の何人かが、こちらに来た。

 どうやら、召愛の演説を偵察するためらしい。

 召愛をジーっと睨み付けるように見てるよ。

「……」
「……」
 まあ、演説なんて別に減るものでもない。

 聞きたければ、聞かせてやればいいだけだ。

「皆に尋ねたい!」

 それが、召愛の演説の第一声だった。

 踏み台の上から発せられた声は、ガヤガヤがとうるさい廊下にも、良く響いた。


 同時に、羽里も離れた場所で、演説を始めている。

 聴衆の数は、同じくらい。

 五分五分の勝負に、持ち込めていると言うことだ。

「ニーハイソックスによる絶対領域の面積の大小によって

 劣情を抱き、良からぬ行動をした事があるものは手を挙げて欲しい」

 いきなり、そんな事を言い出した。

 だが、誰も手を挙げない。

「では、女子の髪型のうなじの見え方、

 または、他者が身につけている見えもしない下着の色によって、

 同じように、良からぬ行動をしたことがある者は?」

 やはり、誰も手を挙げない。


「遠慮しないでくれ。別に恥ずかしがる必要はない。

 これは校則の派生条項に、ちゃんと書いてある。

 チラリズムがどうとかだ。


 あなた方は絶対領域の面積の大小によって、理性を失う者であると、全員が既にそう見なされているのだから、恥ずかしがることじゃない。


 だから、これがその通りだという者は、手を挙げてくれと言っているだけだ。さあ、どうだ?」

 やはり誰も、手を挙げない。

「では、逆に尋ねたい。

 ニーハイソックスの規制があるせいで、ファッションが気軽に楽しめなくなったという者は手を挙げてくれ」

 今度は、女子の半数以上が手を挙げた。

「続けて尋ねる。髪型の規定によって、不自由を感じる、または、著しい不満がある者は手を挙げてくれ」

 すると、ほぼ全員が手を挙げる形になった。

 男子も、女子もだ。

「わかっただろう。

 まったく無意味な派生条項のせいで、まったく無意味に生徒が苦しんでいる。


 なぜ、ニーハイソックスがいけない?

 なぜ、ポニーテイルがいけない?

 なぜ、水色の縞々パンツがいけない?


 こんな学校が、理想なのか?

 私はそうは思わない。


 ニーハイソックスを穿きたい。

 ポニーテイルにしたい。

 水色の縞々パンツも穿きたい!


 皆だって、同じはずだ。


 なのに、なぜ、こんな派生条項を作った?

 そもそも、派生条項が従うべきとされている基本条項には、こう書いてあるのに。


『基本条項5条。生徒の服飾の自主性は阻害してはならない。皆が好きな格好で毎日を過ごせる事が、当校の理想だからである』と。


 ニーハイソックスの規制は、これに違反しているじゃないか」

 拍手が起きた。

 拍手は次第に伝播していき、聴衆みんなに広がった。


 ――パチパチパチ!


  ――パチパチパチ!

 が、そこで一人の男性教師が通りかかったのだ。

 元気ハツラツな若い数学教師だ。

 男性ホルモンが有り余りすぎてるせいか、顔がいつも脂でテカってる系の、理系のくせに、体育会系に見える人である。


 その教師はしたり顔で言った。

「だがなあ、名座玲。

 基本条項を持ち出すなら、こうも書いてある。


『基本条項26条、重大な事件の発生が予想される案件については、これを防止するため、禁止または中止させるなど、生徒の権利を一部制限することができる』


 ニーハイソックスや髪型や、下着の派生条項は、これが根拠になっているんだぞ。何か事件が起きてからじゃ、遅いだろう?」

「そうだ、そうだ!」
 と、顔がテカってる数学教師に同調して気勢を上げたのは、【議員】たちだ。

「名座玲さん、あなたは、基本条項こそが、全ての校則の基準だと自分で言ったばかりじゃないですか。


 なのに、26条の事も知らずに校則を語っていたのか?」

「ハハハッ。名座玲さんの場合、立候補する前に、もっと基本条項を勉強した方が、よろしいのではないですか?」

 などと【議員】たちはヤジを飛ばして笑ってきた。


 生徒の立場なら、ニーハイや髪型、下着の規制なんか、デメリットしかないのを考えれば、【議員】たちが本当に教師の言ってる事に賛同してるというよりは、召愛をパッシングしたかっただけなのだろう。


 それほど、急激な召愛の人気上昇に焦っているということだ。

 

 にしてもだ……。

 基本条項の原作者相手に、基本条項をもっと勉強しろ、とは片腹痛いが、しょうがない。

 召愛が原作者だと言うことを知ってるのは、俺と羽里くらいのものだろう。


「先生、そして、【議員】の方々。


 26条の事は、良く知っています。

 それには付帯条件が、続けて記されている。


『ただし、中止や禁止をする場合は、客観的かつ明確な根拠を示す事ができる場合に限る』と。


 そこで、みんな、先生と【議員】の方々にお尋ねしてみないか。

 絶対領域の大小や、髪型、

 他人からは見えもしないパンツによって、

 重大な事件が起きる客観的で明確な根拠をだ。


 きっとこの先生と【議員】の方々なら、答えてくださるだろう。

 とても勉強をされているようだし、さあ」

 すると、周りに居た生徒たちが面白がって、教師と【議員】に群がり、一斉に尋ねだしたのだ。

「ねえ、先生。

 あたしらのニーハイ見ると興奮して、襲っちゃったりするの?」

「先生ってポニテ檄萌えなんですか?」
「えっ……。いや、だから、そういう訳では無くてだな。

 あくまで、高校生は清くあらねばらなんというか……」

「え、ポニテって、めっちゃ清楚系じゃないですか?」
「だからって、モロのうなじはいかんだろ、モロのうなじは!」
「うわ、なんかキモっ」
「ねえねえ、【議員】さん。

 いつも、うちらが、どんな下着付けてるか考えてるの?

 水色縞パンだったら、帰り道に痴漢しようとか、

 白だったら、痴漢しないとか、考えてるの?」

「そ、そんなわけないだろう!」
「じゃあ、なんで、規制なんかしなきゃいけないの?」
「決まってるだろう。

 羽里高生たるもの、清くあらねばならんと、先生も仰ってるだろう」

 すると、彼を囲んだ女子全員が笑い出した。
「あはは、何それー」
「めっちゃウケるんですけどー!」
「な、何がおかしいのかね!」
「えー、だって、白だったら清いとか、なんかその発想が、もう、なんかね。あれだよね?」
「わかるわかる。ちょっと、『うわぁ……』ってなる感じでしょ?」
「あはは、そういう事言ったら悪いってー」
「そ、そろそろだな。

 授業の準備があるから、行かねばならんのだが……」

「みんな、そこまでだ。囲ったりしてはいけない。

 性的趣向や、人格を攻撃するのもやめてあげなさい。


 別に先生が、

 ニーハイを見るとついハァハァしてしまって

 ポニテも見ると、ついついハァハァしてしまって、

 さらに白以外のパンツはビッチが穿く物と思ってらっしゃったとしても、

 

 何も悪いことではない。


 囲みを解いて、道を空けてさしあげなさい」

 尻尾を巻いて退散しだした教師と【議員】たち。


 その【議員】の背中へと、召愛は、声をかけた。

「あなた方へ、はっきり言っておく。

 私へ対抗心を燃やすのは、選挙なのだから当然だ。


 だが、私を攻撃するために、生徒たちが損しかしない校則を持ち上げるのは、止めたほうがいい。それは悪意にしかならないし、彩の足をひっぱる結果になってしまう」

「くっ……!」
 議員たちは憎々しげに召愛を睨み付け、去って行ったよ。

 召愛はそれを笑顔で見送ってから――


 再び聴衆へ顔を向けた。

「私はこのように、暴走した校則の呪縛から、皆を解放したい。


 本来のあるべき羽里学園の理想へ向けて、舵を戻したいと思っている。

 それと同時に提示したいのは、ボランティア活動のあり方だ」

 ボランティア部は絶賛存続しており、聴衆の全員も部員だ。


 召愛が部活動に、批判的な意見を持っているのは、炊き出し事件をきっかけに、皆が知るところになっている。


 部活動自体は、相変わらず活発に行われており、テレビ取材などの依頼も多い。そのため、炊き出しの時のようなトラブルも、小さな物ながら、いくつか起きている。

「皆が社会に貢献していることを、私は知っている。

 尊敬しているし、賞賛も送りたい。


 しかし、それに伴って、マスコミが絡むトラブルについては、心を痛めている。だから、問いたい。


 我々、羽里学園の活動を、あのように宣伝するべきなのだろうか?」

 聴衆はお互いそれぞれに顔を見合わせた。

「たぶん、みんなの心の中では、もう答えが出てると思う。

 そうだ。何事にも最低限のルールは必要だ。

 報道自体は悪いことではないが、優先順位を間違えてはいけない。


 助けるべき相手に迷惑を掛けてはいけない。

 これが最優先だ。時には報道を断ることも必要になる。


 でも、そんな事をしたら目立たなくて、モテなくなってしまうじゃないか。ボランティア部をやる意味がなくなってしまう、と心配してる人は居るだろうか。手を挙げて欲しい」

 そんなこと言われて素直に手挙げる奴はいるわけない。

 みんなニヤけて誤魔化してるが、ほぼ全員が出会い目的で入部してるわけだから、ほんとなら、多くの者が手をあげなきゃならんはずだ。


「大丈夫だ。みんな遠慮することはない。

 私たちは高校生だ。彼氏や彼女が欲しいに決まってる。


 私だってそうだ。

 高校を卒業するまでに、彼氏が一人くらい欲しいし、一度くらい――

 ――セックスをしてみたい」

 召愛さん、照れつつも、ぶっちゃけた。


 みんな笑い出したよ。

 大きな笑い声が波になって、廊下中に広がった。


 そして、一人、また一人と、正直に手を挙げる奴が出て来て、最後には多くの奴らが手を挙げた。


 そこで、流れが変わった。

 羽里の演説を聴いていた生徒たちの多くが、廊下に響く爆笑を聞いて、召愛の演説に流れてきたのだ。

「手を挙げてくれた人たち、ありがとう。

 君たちの動機が不純だとか、責めたいわけじゃないんだ。


 だって、高校生が、恋人を捜し求めるのが不純なのか?

 違う、それは、高校生らしい純粋なあり方だ。


 むしろ君たちのように、慈善活動を行い、それを通して仲を深め合い、愛し愛される相手と出会えるなら、理想的な青春とすら呼べる。


 そこで、皆に問いたい。

 君たちが恋人にしたい相手は、次のうち、どちらだろう。


 一人目は、テレビカメラに写っているときだけ慈善活動をして、困ってる人たちの事よりも、自分の出会いにばかり、がっついてる人


 もう一人は、テレビカメラに写らなくても、困った人のことを第一に思って、精一杯努力する人

 そこまで言って、召愛は意味深にニコリと笑った。

「皆の答えは決まり切ってるだろうから、どちらが良いかは挙手を求めない。


 はっきりと言おう。

 私は、そうして、みんなにモテモテになってもらいたい。

 みんなが幸せになれば、今よりも他人を思いやった活動をできると信じている。


 他人を思いやるためには、愛するためには、心の余裕が必要だ。

 君たちみんながリア充になればいい。


 そして、君たちが得た、その愛を、他者に分け与えていけるような、そんな学校にしたい」

 最後に召愛がお辞儀し、踏み台から降りると、周りを囲んでいた生徒たちが、大きな拍手で見送った。


 そこで俺は気づいたよ。

 最初は羽里の側に居た聴衆が、ほぼ全員、召愛の側に来ていた。

 そして、拍手をしていた。


 俺と一緒に、階段で呼び込みをしていた遊田が、大きな溜息を吐いた。

「むかつく奴だけど……恐ろしいわね……」

 生徒たちと握手をしている召愛を見やって、遊田は言ったよ。

「舞台演劇の基礎が、全部できてるわ」

「そういう……もんなのか?」

 たぶん遊田が言いたいのは、人を惹きけるための身振りや、表情、発声のテクニックとか、そういう事だろう。


「ええ、特に発声は完璧ね。

 しかも、演技をしてると自覚してないで、天然でやってるあたり、たちが悪い」

 なんて話してるところで、召愛が来た。

「呼び込み、ありがとう、コッペ、イスカさん」

 召愛は遊田に握手を求めたが、遊田はプイッと、そっぽ向いて――


「べっつにー?」

 まあ、こんな感じだ。

 一昨日はエロDVDで打ち解けてたようにも見えたが、まだまだ、わだかまりは残ってるって事なんだろう。

「よくやったぞ、召愛。羽里の聴衆を、かっさらってたぜ」

「それは彩に悪い事をしたな……」

 切なそうに召愛は呟いた。


 この先、自分と羽里にとってだけは、救いがない事を、理解してしまっているからだ。

 永遠の対立、それだけが待っている。


 だが、召愛はすぐに気を取り直した。

「いや、正々堂々と戦った結果だ。

 胸を張るべきだ。でなければ、彩に申し訳ない」

 俺はその笑顔が、痛々しくて、見ていられる気がしなかった。

 だが、召愛はそれでも、笑おうとするわけだ。


 ならば、俺ができることは――

「それとな、遊田がさっき褒めてたぞ」

 せめて俺も、明るく振る舞ってやること。

 それしか、今の俺には、出来る気がしない……。


 召愛と羽里。

 二人のために、俺にもできることがあれば……。

「ちょ、ちょっとコッペ……!」

 遊田が俺の脇腹を肘で突いてきたよ。

 余計なこと言うな、とだ。

「イスカさんが、私を褒めてくれてたとは、なぜだ」

「舞台で、観客を惹きつけるための基礎が全部できてるってさ。

 すごいぞ、お前、天才子役に褒められたんだ。自慢していい」

「本当か、あはは、ありがとう、イスカさん」

 と、召愛は嬉しそうに、ちょっぴり強引に遊田をハグしちゃったわけだ。

「こ、こら、馴れなれしくしないでよね」

「良いじゃないか。

 イスカさんも、聴衆をいっぱい呼び込んでくれたのは見えていた」

「あ、あれは、だって、形式上は手伝わないとだから。

 べ、別に、あんたのためじゃないからね!」

 などと、天下の往来で、キャッキャうふふとやっている二人を眺めながら、俺は思った。このまま、遊田がデレてくれれば、平和なんだが、とだ。

「よし、召愛、遊田。

 キャッキャうふふの続きは、選挙に勝ったあとだ。

 明日の大討論会に向けて、選挙事務所室で、想定問答をするぞ!」

 俺はガッツポーズして言ったよ。

「おう!」

「はーい……」



 というわけでだ。


 俺たち三人は、選挙事務所室へと、校舎の中を歩いて向かった。


 その途中で、気づいた。

 俺たちの後ろを、【議員】たちが付いて来てることにだ。


 さっき召愛に食って掛かってきて、返り討ちにされた奴らを筆頭にして、ゾロゾロと来ている。

「――」
「――」
「――」
「――」

 すんごい敵意剥き出しの眼差しを向けて来ちゃってるぜ。

 でも、絡んでくる様子はない。


 意図がわからない。

 不気味である。

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