変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第18話「羽音神というのは、この地に伝わる民話に出てくる魔物のことなんだ」

エピソードの総文字数=5,384文字

『まぁ、そういうわけでな、この羽音神市は京都府なんだが――』
 由美子に都道府県についてレクチャーした後、うさぎは篤志の方につぶらな黒目を向ける。
『でも、同じ府内であっても、ここから舞鶴市に戻るのは簡単じゃないんだ』
「えっ!?」
 ドキッとして、篤志はうさぎの顔をじっと見つめる。

 ぷにっとした頬肉が美味そうだ。

『この羽音神市はな、羽音神島という離島なんだ。本土を経由してこの島にやって来たmommyの話では、本土の舞鶴港からこの羽音神島まではferryで二時間くらいかかるらしいな』
「…………」
 ここが離島だというのは知っている。
 物心つく前から、篤志はずっと両親にそう聞かされていた。
『そして、そのferryに乗るのはかなり難しいんだ。日本政府は羽音神島に対して渡航制限を設けているから、なかなか乗船許可が下りないんだぞ』
「えっ、渡航制限!? 政府が!?」
『Yes,日本政府はこの羽音神島を昔から極度に恐れていてな、人や物の行き来を厳しく制限しているんだ』
「…………」
 篤志は両親がいつも言っていたことを思い出す。
『政府は本土国民に対してもこの羽音神島の情報をひた隠しにしてるんだ。だから本土人でこの羽音神島のことを知っているヤツはほとんどいないんだぞ』
「…………」
 両親はずっと「羽音神島は悪徳なる政府の手によって、その存在を隠された聖なる島だ」と主張していた。
 しかし、地図上で島の存在が確認出来ないこともあって、篤志はそれを「両親の妄想である」と一蹴していた。
(マジか……?)
(もしかして、マジだったのか……?)
 相手がうさぎとはいえ、現地に住む住民が言うことなのだから、一定の信頼性はあるのではないか。
 もしかしたら、本当にこのファンタジック・アイランドは政府の手によって存在を隠されている島なのかもしれない。
 そう考えて、篤志はごくりと喉を鳴らす。
『本土の一般人でこの羽音神島のことを知っているのは、一部のoccult maniaだけなんだぞ』
「…………」
(その『一部のオカルトマニア』にうちの両親が含まれている件……)
「ねぇ、どうして日本政府は羽音神島に意地悪するの? 渡航制限がなかったら、本土ブランドのスニーカーだってもっと買いやすくなるんじゃないの?」
『向こうとしては、意地悪をしてるつもりはないと思うぞ。ただ、オレたちが怖くて関わり合いたくないだけなんだ。「触らぬ神に祟りなし」って本土の諺は知ってるかい?』
「その諺なら知ってるけど……えーでも、なんであたしたちを怖がるの?」
『さっきも言ったが、この羽音神島の外には羽音神の魔力が届かないんだ。だから本土でも、Americaを含めた外国でも、魔法や異能力は全く使えないんだぞ』
「えっ、全く? でも本土のアニメとか見てたら、わりとみんな色んな術使ってたりしない??? ドラゴンキューブとか、美幼女戦士とか……」
『animationとrealをごっちゃにするなよ。これだからバカは困るんだw』
「ムッ、なによ!」
「…………」
 二次元と三次元を一緒にするな――
 うさぎの言っていることはよく理解出来るし、同意なのだが……
(おまえが言うなよ……)
 魔界兎の血を引くうさぎに対して、どうしても突っ込まずにはいられない篤志だった。
『現実の本土人は魔法や異能力が使えないし、オレたちと対等に戦えることはまずないんだ。だから「争い」という展開に発展するのを避けるために、連中は一生懸命オレたちとの接点を減らそうとしてるんだぞ』
「うーん……じゃあ、つまりこう? 本土人にとってあたしたちは【スライム】みたいなものなのね?」
『Yes,その通りなんだ』
 最後の例え話は意味不明だったが……
 話題が一段落したのを見計らい、篤志はここぞとばかりに質問をぶっ込んでいく。
「羽音神って何?」
『羽音神というのは、この地に伝わる民話に出てくる魔物のことなんだ』
「…………」
(!? 魔物かよ!)
(神じゃねーじゃん!)
「この羽音神島の地下深くにはね、羽音神っていう魔物が棲んでるそうなのよ」
「え、えっと……それはどういう魔物なの?」
『とんでもない魔力を持っているらしいんだ。羽音神はただ存在しているだけで膨大な魔力を撒き散らかしていてな、この羽音神島で魔法や異能力が使えるのはその魔力のおかげだと言われているんだぞ』
 この羽音神島では、確かに魔法だとか意味不明な能力だとかが横行している。
 その原因が羽音神であるというのなら、羽音神が『神』と崇められるのも無理のないことだ。
 この島が『聖地』と呼ばれることに正当性がある。
「えっと……オレ、その羽音神って見てみたいな」
「残念ながら、羽音神を実際に見た人はいないみたいなのよ」
『Yes,所詮はお伽噺に出てくる化け物だからな』
「化け物て……『神』じゃねーのかよ」
 思わず本音で突っ込みを入れてしまったが、すぐにハッとして言い加える。
「ああ、いや、だってさ、わざわざ『神』ってついてるんだから、羽音神って神様なんだろ?」
「うーん、まぁ、そういやそうねぇ」
『羽音神を祀ってる神社はあるが、熱心に羽音神信仰をしてるヤツは大抵カルトだな。キモいから嫌われてるんだぞ』
「へ、へぇ……」
(うちの両親は、聖地の住民から見てもカルトでキモいんだな……)
 そう考えてゲンナリしたところで、現地人女(由美子)が心底どうでもよさそうに言った。
「まぁ、羽音神のことなんかどうでもいいじゃない。そんなことより、あんたこれからどうするの?」
 狂信者(自分の両親)が人生を賭けているものを、聖地の住民が「どうでもいい」扱いしているという現実に悲哀を覚えつつも――
 篤志は『異世界転移者』という自分の設定を念頭に置き、話題転換に乗る。
「ああ、そう、そうなんだよな……これからどうしようと思ってさ。とりあえず腹が減ったから弁当買って、それ食ってから考えようかなって……」
「あっ、そういやそうだったわね! あたしたちのことは気にしないでお弁当食べてちょうだい!」
 篤志が弁当を食べようとしていたことを思い出したようで、由美子が「さぁさぁ」と食事を勧めてくる。
 焼肉弁当の方に視線を落として「じゃあ、お言葉に甘えて」と言ったところで、篤志は「ん?」と眉を顰める。

 商店街の肉屋で買ったこの焼肉弁当……
 商店街を出て、この公園まで来て、ベンチを探すのに少々手間取って、ようやく食べ始めようと思ったところで――うさぎと由美子がやって来た。
 その後、結構長く話をしたような気がするのだが……
 何故か、焼肉から未だに湯気が立っている。
「…………」
「? 早く食べなさいよ。フレイムミノタウロスの肉はなかなか冷めないけど、あんまり時間が経つとさすがに冷めちゃうわよ?」
「――!?」
(フ、フレイムミノタウロス!?)
 どうやら唐揚げのみならず、焼肉弁当の方もとんでも食材だったらしい。
『minotaurを食うのは初めてかい? 本土人』
「そ、そりゃあまぁ……」
「ええっ!? 本土ってコカトリスだけじゃなく、ミノタウロスまでいないの!?」
 うさぎが由美子に軽蔑の目を向け『いないに決まってるだろ、バカ』と毒づいた後、篤志の方に目をやる。
『オレは草食だから食ったことはないが、minotaurは美味いらしいんだ。毒はないから食ってみろよ、本土人』
「そうよ、美味しいわよ、食べてみて♪」
「あ、ああ……」
 篤志はわりとチャレンジャーな方である。
 『カップ焼きそば・ガトーショコラ味』、『ポテトチップス・いちじく味』、『コーラ・キムチ味』、『アイスキャンデー・ボンゴレ味』――
 その他にも数々のネタ商品をこれまでに試し、自分のアフィブログに感想を載せてきた。
(ここの連中は普通に食ってるんだ……)
 この島は食のレベルが高い。
 パン屋のパンも、コンビニで買ったコーラやお菓子も、全部美味しかった。
(だから大丈夫……) 
 自分に言い聞かせながら……
 一切れの肉で白飯を包んで、箸で口の中に放り込む。
「……――っ!?」
(う、美味い!!)
 まだ熱の残るミノタウロスの肉は思った以上にジューシーで柔らかかった。
 意外にふんわりした食感なのに、旨味だけは圧倒的な力強さをもって、篤志の中の心理障壁を易々と打ち砕いてくる。
 二口目を口に運ぶ時には、未知なる食材に対する恐怖や嫌悪――抵抗感はすっかり消え失せていた。
「おおーっ、一気に食べたわねー」
 コメントの一つも挟むことなく、気が付けば一気に全てを平らげていた。
 心なしか、この町に来てからこういうことが多い。
(やっぱここ、食い物のレベル高ぇよ……)
 改めてそう思い、さっき由美子に渡してやったコカトリスの唐揚げの方に視線をやる。
 パックの中に残る唐揚げはたった一つになっていた。
「…………」
 確か全部で八つくらい入っていて、篤志は由美子に「半分食っていいからな」と言った。
 篤志の非難の目に気付いたのか、由美子が慌てる。
「ご、ごめんなさい! その、おなかが空いてたからつい……」
『嘘なんだ! こいつは家で晩飯を食った後なんだぞ!』
「…………」
 篤志のジト目に由美子が「ううっ……」と唸って目を伏せる。
 まぁ、元々コカトリスと聞いた時点で食欲を失っていたのも事実なので、許してやることにする。
 唐揚げの残り一つだけは間違いなく自分の口に入れておくべく、由美子からパックを取り返した。
「……んっ、美味ッ!」
 こちらはさすがに少々冷めていたが、それでも美味い。
 カラッと揚がった衣と、ぷりんぷりんとした弾力ある肉――
 歯を通した途端、ジュワリとたっぷりの肉汁が口の中に染み出してくる。
(こんなジューシーな唐揚げ初めてだよ……)
(美味いんだな、魔物肉って……)
 一つ、ファンタジック・アイランドに適応した篤志だった。
 満足して「ふはぁ~」と息を吐き、ペットボトルのお茶に口をつける。
 このお茶まで美味しいのが素晴らしい。
『Hey,本土人』
「ん?」
『さっきも言ったが、おまえsaladを持ってるだろ? よこせよ!』
「…………」
 篤志はビニール袋の中を見る。
 弁当と唐揚げを平らげて、残っているのは単品のコロッケとパックサラダのみ。
(このパックサラダも美味いんだろうな、きっと……)
(うさぎにやるのは惜しいよな……)
 そう考えたところで、うさぎがまるで心を読んだように言った。
『saladをくれたら、この町のことについて色々教えてやるんだ。どうだい?』
「…………」
 情報料ということらしい。
 とにかく情報が欲しい今、百五十円のサラダ一つで話が聞けるというのは正直なところありがたい。
 せっかくなのでサラダも味わってみたかったが、ここは諦めることにする。
「あっ、あたしも! そのコロッケをくれたら、この町のことについて色々教えてあげるわ!」
「…………」
 篤志は少し考え……由美子の方を見て口を開いた。
「いや、うさぎは色々知ってそうだし、役に立つ情報を提供してくれそうだけどさ、おまえは何となくあまり良い情報を教えてくれなさそうな気がする」
「――!? ええっ、なんで!?」
「いや、なんか、バカっぽそうというか……」
 一瞬オブラートに包もうかとも思ったが……結局、素直に言ってしまった。
「そんなことないわ! あたしはバカじゃないし――
『バカなんだ』
 うさぎが突っ込み、由美子がうさぎを蹴飛ばそうとする。
 うさぎはそれを易々と避け、由美子は何事もなかったように篤志に言葉を続けた。
「それにね、あたしは学校の道徳の時間に習ったのよ。『異世界転移者に出会ったらどんな手助けをしてあげたらいいか』――絶対に役に立つわ!」
「そんなの習うのかよ……」
(どんだけ多いんだよ、転移者……)
 ドン引きしつつも、篤志はビニール袋からサラダを取り出し、蓋を開けてうさぎの目の前に置いてやる。
『Oh,Yeah!』
 うさぎがカップに顔を突っ込むのを見た後、今度はコロッケの包みを由美子に渡してやる。
「ほれ」
「! くれるの!?」
「その代わり、役に立つこと教えろよ?」
「任せてちょうだい!」
 そう言って由美子は胸を叩く。
 そしてコロッケの包みを解いた後、篤志の口元にスッと寄せてきた。
 「一口食べてごらん」ということなのだろう。
(えっ!? いや、それって……)
 これで自分が齧れば、由美子は篤志の齧りかけのコロッケを食べることになってしまう。
 この少女は、今しがた出会ったばかりの人間の食べかけを口にすることに抵抗はないのだろうか。
(まぁ、あんまりそういうこと気にしそうなタイプに見えないよな……)
(床に落ちたものでも平気で食いそうな女に見える……)
 そう考えて、遠慮せずに食べておくことにした。
 サクサクの衣にガリッと大きく歯を立てる。
「っ、美味ッ!」
「えへへ、まだちょっと温かいでしょ? 挽肉がフレイムミノタウロスなのよ」
 そう言って、やはり微塵も気にした様子なく由美子もコロッケにかぶりつく。
 幸せそうに味わう由美子の姿を見て「やっぱり譲るんじゃなかったかな」と少し後悔したが、また明日にでも買いに行けばいいだけかと思い直す。
「学校の先生が言ってたわ。転移者に会ったらね、まずは市役所に行くことを勧めろって」
「? 市役所?」
「ええ、市役所よ。羽音神市役所」

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