超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

あなたがたは、行動によって彼らを、ただの変人か超変人かに見わけるのである。

エピソードの総文字数=3,674文字

 マラソンは得意じゃない。大嫌いだ。

 それは彼女も、同じだったようで、五百メートルも走らないうちに、ペースが落ち始めてきた。


 入り組んだ裏道を通ってるせいで、距離が余計に長くなってる気がする。

 これなら、表通りを歩いた方が良かったんじゃないのか?

「な、なあ、ほんとに、裏道走った方が早く着くのか?」

 心配になってきて、前を走る彼女に訊いたよ。

 一応、俺も近隣の地元民ではあるが、ここらまったく来ない地域だから、こう入り組んだ裏道をクネクネ進まれると、どこへ向かってるのかすら、よく分からない。

「私は自信がある。こっちが近道だぞ」

 親指をグッと立てて、彼女は断言した。

 だが……だった。


 それから、トロトロしたペースで15分ほど走っても、いっこうに学校に辿り着かない。


 駅から歩いても15分で着くはずなのにだ。

「おい、やっぱおかしいぞ」

「うーん……。

 どこかで間違えたかも知れない。一休みしよう……」

 俺たち二人は、もう走れない、とばかりに、ぜぇぜぇ息をしながら、道ばたの壁に寄りかかったね。

 桜並木のある小さな川沿いの住宅街。綺麗な場所だった。


 四月とはいえ、こんだけ走ると汗がダラダラ。

 二人揃って、胸元のボタンを一つ開けたよ。


 彼女のブラウスが汗で透けてて、そこに桜の花びらが張り付いたりしてて、ちょっぴりドキッとしちゃったのは内緒だ。


 んで、都合悪く、目の前に飲み物の自動販売機が置いてあったりしたんだ。

 それを見た彼女の喉が、ごくりと生唾を飲んでた。

 そりゃ、喉渇くよな。


 そして、彼女が、俺へ意味深な要求の視線を投げかけてくるわけで――。

(じー……


 冷た~い、スポーツドリンクが飲みたい)

 こんな心の声が聞こえて来そうな感じでだな……。


 騒動に巻き込んだのは俺が原因、それはわかってるが。

 キオスクから、コスパの良いコッペパンを選ばざるを得ない16歳少年のお財布事情を、察して欲しいというかだな……。

「ジュースを飲ませて欲しい。つめた~い、やつを」

「ん、んー……」

「大丈夫。もし、私が何者かを君が知っていたら、むしろ、奢らせてくれと頼みこむはずだ」
「な、なんだよ。お前、実は……、有名なモデルとか、アイドルだったりするのか?」
「君からは、そんな風に見えるのか?」
 桜が舞い散る川辺を背景に、小首を傾げる彼女の姿は――たった2分間とはいえ、一目惚れした相手ではある――中身の変人さはともかく、俺には、魅力的に見えてしまってるはずだ。
「……!」
 つい、照れくさくなって、目を逸らしてしまった。
「ほら、お前、商店街で、すんげえ堂々と演説してたろ。

 ああいうの、普通は素で出来るもんじゃない。

 だから、芸能系やってるのかなと、思いついただけだよ」

「あれは、やらなければならない事をしたまでだ。芸ではない」
 こういう台詞、どう言っても白々しくなりそうなもんだが。

 こいつは、自然に言ってのけるもんで、変なカリスマオーラが出ちゃってて困る。

「ま、お前が何者でも、恩人だって事は理解してるつもりだよ」
 スポーツ飲料を一本だけ買って、彼女に手渡した。
「で、結局、お前、何者だっていうんだ?」
 彼女はなんと答えるべきか、考えてる風の顔で、グビグビ美味そうに飲んでた。

 で、半分ほど飲んだとこで、俺が自分の分を買わない事に気づいたみたいで、飲むのを止めた。

 ペットボトル、俺に差し出してきた。

「済まなかった。これは君のものだ」

 ありがたく受け取った。

 でも、飲もうとする直前で気づいてしまった。

 これは間接キスというものじゃないのか、と。

「どうした?」
「な、なんでもない……」

 俺は誤魔化すみたいに、一気飲みしちゃったね。

 馬鹿か俺は、乙女でもあるまいし。


「そ、それはそうとだ……!」

 大事なこと忘れてた。入学式に遅刻しそうだという現実をだ。

 俺は速攻、グーグルマップを開いたよ。

 彼女も隣から覗き込んできた。でもね、俺は絶望した……。


 なんかね。ほぼ反対方向に走ってきてたんじゃないのか、これ……。

 こいつ自信あるとか言ってなかったか?

 学校までの所要時間は――うわ、入学式、確定で間に合わないぞ……。


 俺は、ガクッてその場にしゃがみ込んじゃったね。

「お、お前な。自信あるって言うから……!」
「悪かった。その……一生に一度の入学式を、私のせいで。反省、してる。ごめんなさい」
 彼女は素直に、しゅんと反省しちゃいました。

 悪気があったわけじゃない。責めるのもフェアじゃないだろう。

「いや、まあ……。ぶっちゃけ、俺も式とかさ、めんどくさく感じるタイプっていうか。入学式サボれて、むしろこれはこれでいいか、みたいな……さ。だから気にするな」
「さあ、そろそろ行こうか、コッペパン少年」
「おう!

 ――ていうか待て、なんだよ、コッペパン少年って」

「君がコッペパンを好きそうだからだ。

 略して、君をコッペと呼ぶことにする」

「なんだよそりゃ……勝手な奴だな」
「こっちだ。付いてくるんだ」

 彼女はグーグルマップ片手に歩き出した。

 さすがにもう、走る体力が残ってないようだ。俺もだ。

 というかだな。こいつ、またぞろ自信満々で付いてこい、とか言ってるが――

「待て、そっちは逆方向だ」
「そうか、ならこっちだな!」
 彼女はくるっと振り向いて、また笑顔で別の方向へ進み出したが――
「そっちも違うぞ」
「た、ただのフェイントだ。本当はこっちに行こうと思ってたんだ」
 またまた彼女は進路を変えたが、例によって間違っている。

 手元に地図があるのに、どうやったら、間違うことができる?

「お前……」

 どうやら。

 道案内をさせちゃいけない方向音痴という奴に、道案内をさせてしまってたようだ。

 呆れて、つっこむ気力もなかったし、俺は黙って彼女の腕を握って、引っ張ったよ。

「こっちだ、こっち。〝俺に〟付いてこい」
「むー……」
 小さな川沿いの桜並木を二人で歩き出した。

 桜の木はどれも立派で、枝が長く伸びて垂れ下がり、水面に届きそうなものが、いくつもある。

 川面にもピンクの花びらが一面に浮かんでいて、それが春の風で、ふわふわ揺れたりする様は、幻想的な風景、と言っても良い。

「さっきの彩のことだけど」
「うん?」
「悪く思わないでやってくれ」

 唐突だった。

「なんでだ。お前、あいつと、仲悪そうだったじゃん」

 彼女はどう答えるべきか、考えるみたいに沈黙した。

 それから、遠慮がちな声で、言った。

「親友、だったんだ」
だった、か。
「喧嘩別れでもしたのか……?」

「彩は、ほら、ああいう家系だろう?」

「超絶お嬢様って意味か……?」

「そうだ。だから、中学生の時に、家督の相続で事情があって、彩は本家へ養子にだされ転校した。離ればなれになってしまったんだ。


 何度か、訪ねて行ったり、連絡を取ろうとしたのだけど、その――私のような者は、彩の友人として不適切であるからと、羽里家の人から、きっぱり友人付き合いを断られてしまって」

「そりゃ……、寂しかったろうな」

「寂しかった。私の唯一の友人だったから」

 唯一……?

 そうか、こいつ小学生の頃から、変人だったようだし、あり得る話しだ。

「じゃあ、お前たち、別に仲が悪かったってわけでもないのか」

「私は……そのつもりだった。実は、この学校に入ったのも――」

――と彼女は自分の制服を指さした。
「――理事長である彩から招かれてだ。さっきも二年ぶりの再会だったし。私は嬉しかったのだけど……。意見が対立してしまった」

「あー、つまり……。

 俺のせいで、喧嘩みたいなことさせちゃったのか。ごめんな……」

「君のせいではない。私がやるべき事をやっただけだ。


 そうだ。私が何者かという話しが、途中になってしまっていたな」

「ああ」

 何者もなにも、かなり変わった女子高生以外の何者でもないのだろうが。

「私の正体はというとだな――」

 ぶっちゃけ、おかしな事を言い出したら、また軽く流せばいいかと思ってた。

「――秘密にしておこうと思う」
「な、なんでだよ?」
「君は、先ほど、私をアイドルなどと言ったけど。もし、私がそう名乗ったとして、歌ったり、踊ったりできなかったら、信じるのか?」
「そりゃあ、信じないだろうな」

「そういう事だ。

 何者なのかは、どう名乗るかではなく、何をするかで決まる。

 だから、私が何者なのかは、私が何をするかによって、君が答えを出すべきものだ。


 それが、相手を真に理解するということでもある。

 訊くが、今の時点で、君は、私を何者だと思っている?」

「変人」
「むっ……」
「すまん、間違えた。訂正する」
「ほっ……」
「変人では、あまりにお前を過小評価してた。そうだよな?」
「そうだそうだ。で、君から見て、私は何者なんだ?」
「大変人」
「……」

彼女はじっとりした目で俺を睨み付け、そっから一足飛びで――。

「トゥ!」

チョップをね、スカーン! とね、俺のね、脳天にね、食らわせたよ。


「痛ってーな!」
「君はあまりに無礼すぎる。そういう態度を取るならば、よろしい――もうじき、君は私のなんたるかを知る事になる」

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