超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

羽里彩は言った。「入学初日に退学処分とか、余裕でありますが何か?」

エピソードの総文字数=4,536文字

 運命の時は予想通りにやってきた。

 ホームルームが終わり、帰り支度を始めたところ、校内放送で呼び出されたのだ。



  俺と召愛は生活指導室へ行ったよ。

 で、ちょっくら驚いた。

 生活指導室というと、俺の出身の公立中学校なんかだと、貧相なプレハブ小屋だったが、ここはそうじゃない。立派な鉄筋の建物が作られていた。


 この学校が、世界有数の超大企業、羽里商事グループの相続税対策として設立された、と聞いたことがあったが、実際そんなところなんだろう。

 学費が驚くほど安い割りに、無駄に設備に金が掛かってる。それに釣られて、この学校に入ったわけだが。


 いざ生活指導室の中に入ると、理事長にして、暫定生徒会長の羽里彩(はり さい)が、でかいソファーにチョコンと乗っかってるように鎮座ましましていた。

「どうぞ、二人とも座ってください」

 ところで。

『初めまして、こんにちは。しね!』という無慈悲な慣用句がこの世にはある。

 出会って1秒で、相手の存在を全否定したりする意味合いなのだが、平和な日本では、普通そういった状況にはお目にかかれない、のだが――。

「この度は、羽里学園へのご入学、おめでとうございます。

 そして、あなたの処分は


                    

                     退学

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………!!!!????」
『はじめまして、こんにちは、退学!
「え……?」
「あなたは退学です」
 すごく普通の笑顔で言われたぜ。

 どうやら、ここでは、『こんにちは、しね!』が、すごく普通の事らしい。

「うそ……だろ? だって、入学初日だぜ?」
「違反を犯せば、相応の報いを受ける。それだけのことです」
「彩! あまりに横暴だ。なぜ、こんなにも重い処分になる!?」
「ちなみに、召愛。あなたは半年間の停学です」
「半年? それでは留年してしまうじゃないか。

 この学校では……行事に一度出なかっただけで、留年させるのか?」

「校則では、そう決まっています。

 合理的な理由がなく行事に欠席した違反は、半年間の停学。

 校外での悪質な危険行為は、半年間の停学。


 なお、停学が合計で1年以上となると、自動的に退学となる。

 以上によって、コッペ君は退学。召愛は停学半年となります」

「俺たちが遅刻したのは、道に迷った不可抗力だ!」
「では、故意にサボったわけではなく、道に迷っただけであると証明できる証拠は?」
「コッペ。おかしな事を言うな。私は、絶対に道に迷ったりしない人間だ。そうだ、彩、君なら、良く知っているだろう?」
「うそ吐くんじゃねえ。お前、そうやって自信満々でグーグルマップ片手に、逆走してたじゃねえか!」
「ち、違う。あれはフェイントをかけただけだ!」
「…………………………」
 羽里がなんかこう、頭痛そうに、こめかみを押さえだしちゃったぜ。
「昔を思い出しました……。

 それはもう、召愛の方向音痴で、酷い目にあわされた……」

「そういや……お前ら、昔は親友だったんだな……。

 羽里も被害者、だったのか……?」

「はい。中学生のころ、二人でディズニーランドに行こうと誘われて、前日から楽しみにしてたのですが、当日なぜか、九州の『スペースワールド』に到着した時には、さすがに殺意を覚えました。移動だけで、休日が潰れましたから」
「だ、だってあれは、ディズニーランドの、『スペースマウンテン』と、『スペースランド』が似てたから悪いのであって、私は、間違ったわけではない!」
「いやいや、その言い訳、かなり無理あるからな……」
「と、ともかく……故意に欠席したわけではない、というのは、よく分かりました」
「それとだが、コッペは商店街での事は、強く反省している。

『悪質』とまでは言えない。処分が重すぎるのではないか?」

「校則では、『その場で土下座』しなければ、強い反省を示しているとは解釈されずに、悪質であると見なされます。

 あなたも言ったでしょう。小学生の時に、わたしがあなたに激突して赦されたのは、強い反省をしたからだと。それと同じことです」

「ペロペロのことか?」
「そ、そうです。ペロペロのことです……!」
「だが、君がペロペロした時には、群衆に追い詰められてるわけではなかった。コッペの状況を思い出せ、あのような切迫状況で、適切な謝罪ができるわけがない」
「――!!」
「だから、こうしてはどうだろうか。あらためて、コッペにペロペロするチャンスを与えよう。そして、彼が心からペロペロできたら、せめて、悪質ではなかったと認めてやってくれ」
「確かに……その通りです。それがフェアでしょう」
「決まったな。よし、では、コッペ。

 彩をペロペロするんだ。心からだぞ」

「えっ」
「えっ」
「いや、待て、おかしいだろ。

 校則では土下座じゃなかったのか、土下座じゃ!」

「土下座など、心からじゃなくとも、簡単にできる。

 だが、ペロペロはどうだ? 心からじゃなければ、できない!」

 あからさまに、おかしいけど、ちくしょう、説得力はあるから困る。

 ほんとにこの詭弁力は、いったいどこから来るのか!

「た、確かに……その通りです。

 土下座より、ペロペロの方がずっと強く反省を示していると言える」

 いやいや、そこ納得すんなよな?

 この羽里って奴も、しっかりしてそうに見えて、真面目すぎて針が振り切れてるというか、限度を知らんというか、頭が硬すぎるというか。妙に召愛と息が合ってるというか、元親友ってのが、なんとなく、納得できてしまったぜ。

「わかりました。では、コッペ君にぶつかられたのは、執事ですが、彼は職務として私を守ってのこと。

 なれば、主人であるわたしが代表して、謝罪を受けるべきでしょう。


 さあ、わたしをペロペロしてください」

「………………。

 え、えーとだな……。なんつーか、その、い、いいのか?」

「どうしたのです。やはり、反省していないのですか?」
「わ、わかったよ。

 やりゃあいいんだろ、やりゃあ、いいぞ、やってやる!」

 んで、俺が羽里に至近距離まで近づいてだ。

 頬っぺたを、ペロペロしちゃおうと、顔を接近させようとしたら――

「あ、あの……ちょっと」
 急に羽里が怖じ気づいたみたいになってだな。
「これは、すごく、恥ずかしいことをしてる気がするのですが……。

 だって、その……男性が、こんなに近くに……いるわけで。

 恥ずかしいのは……気のせいでしょうか?」

「ペロペロして、反省するのは人として正しい行為だ。

 むしろ、ペロペロせず、反省しないことが人として恥ずかしい」

「そ、そうですよね。恥ずかしいのは気のせいでした。

 さあ、やってください」

 このお馬鹿さんどもめ……。

 と、俺は、呆れながらも、羽里の頬に顔を近づけて、すんげえ、ドッキドッキしてます。


 おいおい、女の子という生物にこんなに顔を近づけたの……人生初だぜ?

 やっべ、なんか、すんげえ良い匂いする!

 いいのか、ほんとに、これ犯罪じゃないよな?

「は、早く、ひと思いにしてください。

 なんか、その、鼻息が……鼻息が、くすぐったいので!」

 で。

 やっちゃいました。

 ぺろっと、舌の先っぽで、つつくみたいに。

「ひゃうっ!

 あの、これ、すごく、くすぐったいのですが!」

「まだだ。それでは、ペロペロではなく、ペロッ、にしかならない!」


     ――ペロペロペロ!

「んひゅぅ!」
「も、もういいです!

 わかりました。わかりましたから!」

「よし、彩も、わかってくれたようだな」
「は、はい。コッペ君は強く反省しているようです。

『悪質』とは見なせません」

(ああ……なんか、すんごい得したような気もするが、すんげえアホな事やっちまった気がするぜ。だが……執事の爺さんを舐めずに済んで良かった)
「そうなると、入学式欠席も故意ではなく、危険行為も悪質性がない、となりますので。これを加罰規定に照らし合わせると、

 コッペ君はやはり退学処分、ただし――

執行猶予三年、となります」
「え、えーと、執行猶予が三年ってことは、卒業までの三年間で、何か一つでも軽い校則違反をしたら、すぐさま執行猶予が消えて、即退学……ってことじゃねえのか、そりゃ?」
「はい。かすり傷でも死亡。と、覚えておけば良いかと」
「って、それ、あんまペロペロする前と変わってねえじゃねえか!」
「これが校則ですので、仕方ありません」
「仕方なくなどない!

 その校則自体があまりにも馬鹿げている。だいたい、行事に出席しないと停学半年というのは、どんな主旨でそうなっているんだ?」

「重要な行事への参加を促すことが目的です」

「では、さらに問うぞ。半年間、学校に来られなかったら、生徒は、いくつの行事に出席できなくなる。本末転倒ではないか!」

「この場は、校則の在り方を議論する場ではありません。

 もし、校則の議論を望むならば、生徒会長にでも立候補してください。近々、受付を始めますので」

「だが!」
「召愛、あなたの処分は、故意ではない行事不参加による、

 停学半年、執行猶予三年です。以上、解散してください」

 羽里は立ち上がり、部屋を出て行こうとした。
「待つんだ彩! こんな、理不尽なほど厳しい校則の学校が、ほんとうに君が作りたかった学校なのか?」
「そうです。
 一切の悪が許容されえず、正しい者が不義に怯えることなく暮らせ、全ての者が校則のもとに公正公平に扱われる。


 そのような楽園が、この羽里学園です」

「彩、『こんにちは、しね!』が当たり前な、これが楽園だと?」
「あなたとは意見が合わないようで残念です。では――」
「ま、待ってくれ」
「これ以上、校則の話しはしません」
「違う」
「では、なに?」
「このあと、一緒に、帰らないか。ひさびさ、に」
「――!!」
「………………」

「ごめんなさい。本家の会合に呼び出されています……」

「そ、そうか。彩は、とても忙しいものな」
「最後に、一応確認ですが……。

 あなたたちは、明日から校則を一つでも破れば、即退学と即留年になるわけですが、この学校の校則が、いくつあるかご存じですか?」

「いいや」
「さあな?」
「では、ここに校則全書を、置いておきますので、参考までに少し読んでから帰ってください。ちなみに一般的な高校の11倍程度の数だそうです」
 羽里は本棚から、六法全書ばりに分厚い本を取り出してだな。

 テーブルの上に置いて、それから部屋を出て行った。


 校則全書とやらを、俺と召愛は、恐るおそる、めくってみたぜ。

 んで、絶望した。

 適当に後半のページめくってみたら、普通に、第1095条とか書いてあるんだが……。

 つまり、少なくとも、千以上、校則あるんだが……。

「11倍……」
「これ……一つでも掠ったら、即アウト……?」
「………………」
「な、なあ、召愛。気のせいじゃなければだが。

 俺たち、詰んだんじゃね……?」

 あまりの絶望のせいで、思わずヘラヘラ笑いながら言ってしまったが、

 たぶん、笑い事じゃなかった。

「と、とにかく、中身をちょっと読んでみよう。

 数が多いだけで、スカスカな校則かも知れない!」

 なんて俺たちは、淡い期待で読み始めたのだが――

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