もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら

『ツァラさんも歩けば没落にあたる！？』

エピソードの総文字数＝2,794文字

死体を担いで夜通し歩いたツァラトゥストラ。よほど疲れていたのだろう、当然のように朝には目覚めず、起きてきたのは午前も終わろうという時間だった。
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（まったくの余談であるが、この【もしも敬虔な女子高生が〈神は死んだ〉のニーチェ作『ツァラトゥストラ』を読んだなら】＝（もしトラ？）の著者も通常そのような起床時間の生活をしている。そのため、原本の『ツァラトゥストラ』には、なにやらものすごーく寝ていたような描写が半ページにもわたって書かれているのだが、「え？　普通じゃん？」の一言でまったく感銘をうけなかったそうだ。……余談終わり）
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さて、高く上った太陽の光のもと、ツァラトゥストラは、ひらめいた！　とばかりに歓声をあげ飛び起きた。なにやら新たな真理を見つけたようだ。
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「光が俺に射してきた。相棒が必要だ。それも生きた相棒が。──死んだ相棒なんかじゃなく。好きなところへ運べる死体なんかじゃなく。

　必要なのは、生きた相棒だ。そいつは、俺についてくる。──しかも俺の望むところについてくる。──それも、自分の意思で。」
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「なんだか死体さん可哀想ですね……。ここまで連れてこられてもう飽きちゃったの？　ってかんじです」
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「切り替え早いですわねえ。とはいっても、もちろん死体を相棒にするのはちょっとどうかとおもいますけれど……」
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「それにしたってヒドイです。生きた相棒についても、なんだか望んでついていくのが前提になってますよ」
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「でも相棒モノってちょっと萌えません？」
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「あ、わかります！　気が合わなくても、実はお互いの為に行動してたり！」
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「口にはださなくても信頼しあってたり！」
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「口では喧嘩していても助け合ったり！」
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「そうそう！」
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「いいですよねー♪」
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「ですわよねー♡」
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などとまだ見ぬ言葉だけの『相棒』関係に萌えている二人である。
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（僕のツァラ殿（手塚訳）では相棒ではなく『伴侶』と訳されているのだが……、これを教えるとさらに盛り上がりそうだ……。やめておこう……）
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「光が俺に射してきた。群衆なんかにむかってしゃべるな、ツァラトゥストラ。相棒にむかってしゃべるんだ！　ツァラトゥストラよ、羊の群れの羊飼いや犬になるのではない！

　（中略）

　善良で正しい者を見てみるがいい！　連中がもっとも憎んでいるのは、誰だ？　〔モーセの十戒のように〕諸価値を書きつけた石板を砕く者だ。壊す者だ。犯罪者だ。──しかしみんな、創造する者なのだ。

　（中略）

　創造する者が求めているのは、相棒だ。死体ではない。群れでもなければ、信者でもない。いっしょに創造する者をもとめているのだ。新しい価値を新しい石板に刻む者を求めているのだ。」
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「あちゃー、〔モーセの十戒〕でてきちゃいましたよ。それを壊しちゃうのですかー」
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「もちろん怒られるでしょうねえ。犯罪者だって自分でも言ってますし」
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「しかし、それが創造であるということだな。破壊は創造の母か。ツァラトゥストラ、いや、ゾロアスターが言いそうなことだな」
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（注）ツァラトゥストラはゾロアスター教の始祖ゾロアスターのドイツ語読みである。ゾロアスター教は（新たな創造の為にすべてを燃やす）火を崇めるため、拝火教とも言われている。
「新しい価値観の為には古い価値観を壊さなくてはいけない。というわけだ。十戒の石板などは我々の価値観そのものの根本に当たるからな。常識や教義にとらわれていると理解が難しいかもしれないな」
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「『常識の否定無くして進歩はなーい！』ですかあ」
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「なんだねそれは？」
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「成原博士のセリフです。あーる君ですよー」
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「わ、わからん。まあ、この状況にはあっている気がするけれども……」
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「きっと、パンク・ロッカーなんですね。いろいろ壊したいお年頃なんですよ！」
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「パンク・ロックの方々の、あの演奏中にギターとか壊しちゃうのはそういうわけでしたの？」
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「あれはそういうパフォーマンスと思っていたが、ちがうのか？」
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「えーっと……。そっちの方面はよく知らないので、たぶん、そうなんじゃないかと……」
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（ひとみ君の謎知識は本当にオタク方面に偏っているようだなぁ……）
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「ツァラトゥストラが求めているのは、いっしょに創造する者だ。ツァラトゥストラが求めているのは、いっしょに収穫する者であり、いっしょに祝う者なのだ。群れや羊飼いや死体などには用はない！

　お前は最初の相棒だった。達者でな！　この木の空洞にうまく埋葬してやったぞ。狼たちに食われないよう、うまく隠してやったぞ。

　だが、これでお別れだ。時間になった。朝焼けと朝焼けのあいだに、新しい真理が訪ねてきてくれた。」
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「やっぱひっどーい！　死体だからって用済みポイッ！　ってかんじです！」
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「ま、まあ、死体に用があるのも変ですけれどね」
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「新しい真理とやらが訪ねてきてくれてハイになってるようだなあ」
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「訪ねてくるなんて、真理(しんり)を擬人化してませんかー？

　真理(まり)さんじゃないといいんですけど……」
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「面白いが、きっとツァラ殿を訪ねてくる真理(しんり)さんは男性だろうな」
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「あー、なんとなくわかります。ツァラさん、男の人のほうが好きそう……」
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「萌え、ですわね♡」
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（僕の訳では・・・、いや、やめておこう）
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真理(しんり)か、真理(まり)かは定かではないが、死体を木のうろに捨て去ったツァラトゥストラに新たな目標ができた。
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「俺の目標目指して、俺は行く。俺の道を行く。ためらい、ぐずぐずしているやつらなんか、飛び越してやる。俺が歩けば、こうしてやつらは没落するのだ！」
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「ツァラさんも歩けば没落にあたる？」
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「こらこら」
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「とりあえずは歩く目標ができたみたいですわね。前の相棒は埋葬してやるといいつつ死体遺棄しちゃってる気がいたしますけど……」
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「そうなんだよなあ。せめて埋めてやってほしいところなのだが……」
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「そもそも死後の世界は否定しているツァラ殿だったはず。埋葬にはそれほど価値がないのかもしれないな。しかし、それではここまで死体を運んできたのはなんだったのか……」
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「木のうろって、よく鳥さんが巣を作ったりしているところですよねえ。狼よけにはなっても、他の動物さんには迷惑なんじゃないかしら？」
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「巣作りしようと思って覗いて、先客がいたらきっとぎょっとしますわよね」
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「人が入れるほど大きいうろなのだ、そんなところに巣を作るような大きな鳥はいないだろう……」
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「ダチョウさんとか、皇帝ペンギンさんとか……」
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「いやいやいや……。

　舞台はいつの間にサバンナや南極になったのだ？

　もし出てくるにしても鷲や鷹だろう……」

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そういえば、ゾロアスター教の葬儀は鳥葬だったな。なんてことも思い出した栞理だったが、あまり死体にこだわってもと、この話はスルーするのだった。


さて、目標が決まったツァラトゥストラは、これから一体どこへ向かうのか。鷲や鷹は、巣を追われて怒ったりはしないのだろうか……。

★
＜つづく＞

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