変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第17話「あんたのせいで、あたしきっとみんなにバカだって思われたわ!」

エピソードの総文字数=4,788文字

 この羽音神島では、他の離島よろしく本州のことを『本土』と呼ぶ――らしい。
 つまり『本土人』という呼称は、篤志の出身地が『本土』であると見破られたからこそ出てきたものだ。
(な、なんでバレた……?)
 一体、何が悪かったのだろうか?

 差し当たっての心当たりはないが……
 自分が上手くこのファンタジック・アイランドの住人に擬態出来ていた気もしないので「そりゃバレるわな」と思わなくもない。
『Hey,本土人。オレの鼻は誤魔化せないんだ。おまえ、弁当と一緒にsaladを買っただろう? そいつをよこすんだ』
「…………」
 サラダなら確かに買った。
 コンビニ弁当中心の不健康な食生活なので、せめてなるべくサラダをつけて野菜を摂るようにしているのだ。
「えっ、ほんどじん? もしかしてマサオって本土人なの!?」
「あ、いや! その……」
 由美子が目を丸くするが、篤志はそれに何と答えていいかわからない。
(まずい、どうする……?)
(適当なことを言って誤魔化すか……?)
(それとも、いっそのこと本当のことを言ってしまうか……?)
 迷っているうちに、うさぎが饒舌に語り始めた。
『Yes,こいつは本土人なんだぞ。見てみろよ、全身を本土brandでカッチリ固めてるんだ』
「全身を本土ブランドで? うーん……確かに靴はMIKEだけど……あっ! このジャケット『chambion』だ!」
「……!」
 伸びてきた由美子の手が、無遠慮にジャケットの前をぺらりと捲る。
「ああっ! 下のシャツは『Goose Dude』ね! あたしこれ大好きなの! 可愛いわよね!」
「あ、ああ、そう……」
 サングラスを掛けたファンキーなガチョウのキャラクターは、確かにこの見るからに根明っぽい女の好みに合うだろう。
「ジーンズも本土ブランド? 『Levi'se』? それとも『Lye』かしら???」
 一生懸命後ろに背を逸らし、ロゴの入ったジーンズのパッチを覗き込もうとする由美子。
「……Lyeだよ」
 観念して教えてやった。
「そんで、ボクサーパンツは『DIEZEL』ね!」
「!?」
 ジーンズのパッチさえ見えない座位で、何故かその下に履いている下着のブランドを言い当てられた。
(あれっ?)
(ズレて、ゴムの部分見えてるのか???)
 慌てて自分の腰回りを確かめる。
 しかし別に"腰パン状態"になっているわけでもない。
(???)
 不思議に思うが……
 由美子が喋り始めたことで追及は中断された。
「でも、確かに全身本土ブランドだけどさ、それだけで本土人って決めつけるのはどうかと思うわ。ただの"本土ブランドマニア"かもしれないじゃん?」
(本土ブランドマニア……)
(なんかすげー嫌な響きだな……)
 というか、そもそもどれも『本土』のブランドではなく『外国』のブランドのような気がするが……
 まぁ、今そこに突っ込んでも仕方ないし、篤志は黙って一人と一匹の会話に耳を傾ける。
『そうだな。本土のfashion brandは人気だし、fanも多いんだ。でも、いくらなんでもソレ(・・)はないんだぞ』
「? ソレ?」
『そこに置いてあるvideo cameraさ。本土の家電makerのlogoが入ってるだろ?』
 結局、ここまで一度も使う機会のなかったビデオカメラ。
 ベンチの上のそれに、由美子が視線を向ける。
「ビデオカメラ? これ? えーっと……『J-Victer』?」
『いくら本土brandが好きでも、ポンコツを好んで使うヤツはそうそういないんだぞ』
「へぇ~」
 由美子が納得した様子でうんうん頷いている。
「…………」
(なるほど、確かにそうかもな……)
 思い出すのは、昨日見たテレビ通販で紹介されていたファン●ル・ビデオカメラ――
 あれだけの機能を持つビデオカメラがたったの149万9,800円ぽっちで売られていた。
(ここの電化製品、めっちゃ性能良さそうだったもんな……)
 今のビデオカメラに愛着があるので、素直に認めるのは少し悔しいが……
 あのファン●ル・ビデオカメラが当たり前の彼らにしてみれば、"Made in Japan"を『ポンコツ』呼ばわりするのも然りだろう。
『後は態度だな。こいつ、Cockatriceの唐揚げって聞いてビビったんだ。それで確信したんだぞ。こいつは本土人だってな』
「はぁっ? なんでコカトリスの唐揚げにビビると本土人ってことになるの???」
『本土人はCockatriceを食わないんだぞ』
「えっ、マジで!? なんで食べないの!? 超美味しいのに!」
 心底不思議そうな顔をする由美子を見て……篤志は諦めた。
「いねーんだよ。コカトリスが」
「えっ、なんでいないの!?」
「そんなん知るかよ。いねーもんはいねーの」
 投げやりに言って、大きな溜め息を吐いて肩を竦める。
『本土には羽音神の力が届かないんだ。だから本土には魔物がいないんだぞ』
「へぇ、そうなんだ~」
「――!?」
(羽音神!?)
 一人+一匹の会話に出て来た『羽音神』という単語に、篤志はピクリと反応する。
 バカな両親が心身を捧げているアレのことに違いない。
 しかし、篤志がそこに切り込む前にうさぎが口を開いた。
『ところで、どうして本土人がここにいるんだい?』
「――!」
 ついにきた。
 篤志の中の"訊かれたくない質問ランキング"――ぶっちぎり第一位の質問である。
「…………」
(くっ、何て答えればいいんだ……?)
 焦る篤志に、うさぎは軽い調子で言う。
『まぁ、本土人がここにいる理由なんて三つしかないんだけどな。①密航、②亡命、③異世界転移――さぁ、おまえはどれだい?』
 提示された選択肢を精査し、篤志は一瞬で回答を決めた。
「い、異世界転移ってヤツだと思う、たぶん……」
 ラノベ界のお約束・異世界転移――
 現実には有り得ないこれが、よりにもよってこの中で一番マシだった。
(ひどい三択だ……)
 しかも実際の境遇が①&②だというのがよりひどい。
「ええっ!? あんた転移してきたの!?」
 由美子がギョッとした顔をする。
 それを見て、篤志は自分の選んだ選択肢が間違っていたことに気付く。
(ああ、やっぱダメか……)
(そりゃそうだよな、異世界転移とか無理ありすぎだろ……)
「あたしの知り合いにもいるわ、本土からの転移者! これで二人目ね♪」
「――!?」
(いるのかよ、転移者!?)
 さすがはファンタジック・アイランド。
 何でもありである。
「うちの隣に住んでるお姉さんなんだけどさ、元々は本土に住んでたんだって。でも、塾の帰り道でいきなり目の前が真っ白になって、ふわぁっと浮き上がる感じがして――気が付いた時には第一世界にいたんだって」
「そ、そっかー……」
 そのお姉さんとやらには会ってみたい気がするが……
 それはそうとして、これからのことである。
 転移者であると言ってしまったからには、それっぽい設定に基づいた振る舞いをしなければならない。
(えっと、まず……)
(≪オレは夜、普通に自宅で寝ていた≫――)
(≪けど、目を覚ましたらいきなりここにいた≫――)
(よし、そういうことにしよう……)
 というか、そこまでならまんまその通りだとも言える。
 原因が人知を超えた力か、カルト教団(両親)の力技かの違いである。
(それが≪昨日のこと≫で――)
(≪外に出たのは今日が初めて≫だってことにするか……)
 基本的には"何も知らないフリ"をして、現地人から情報を聞き出していく。
 挨拶回りで知ったこと、テレビ視聴で知ったこと――これらも全て初見ぶって、とにかく無知をアピールしていこう。
 そんな方針を決め、篤志は早速話を切り出していく。
「その、昨日のことなんだけど……オレ、目が覚めたらいきなりここにいてさ。今までに住んでた町と色々違うみたいなんだけど……ここってどこ? なんて国なの?」
「ここはアメリカよ。アメリカ合衆国」
「…………」
「…………」
「ハァッ!?」
 全く想定していない回答に、篤志はポカーンとする。
(ア、アメリカ!?)
 八割方『日本』という答えが来ると思っていた。
 そうでない場合、テレビで言っていた『ウネニア王国』だとか、全く知らない国の名前が来ると思っていた。
「ここはね、アメリカ合衆国・日本州・京都府・羽音神市よ」
「?????」
 由美子の言うことが理解出来ずに困惑する篤志。
 それを見て、茶色いうさぎがプフゥ~と鼻息を吐いた。
『Sorry,オレのせいなんだ。この前こいつに「日本はAmericaの52番目の州なんだ」ってjokeを言ったんだがな、こいつはバカだからそれを鵜呑みにしたんだぞ』
「…………」
「!? うええぇっ!? あれ冗談だったの!?」
 驚く由美子を見て、うさぎがやれやれと言うように頭を振る。
『バカなんだ!』
(バカだ!)
 篤志もこっそり胸の内でうさぎに追従する。
「ええっ!? ちょっと待って!? じゃあ、羽音神市って本当はどこの国にあんの!?」
『日本なんだ』
「ええっ、ちょっ、マジ!? あたし、色んな人に話したんだけど! 『知ってた? あたしたちって日本人じゃなくてアメリカ人なんだって!』って!」
『Oh,no! なんて恥ずかしいヤツなんだ!』
「ああもう、ちょっと! どうしてくれんのよ!? あんたのせいで、あたしきっとみんなにバカだって思われたわ!」
『バカなのは事実なんだ。何の問題もないんだぞ』
「なんですってぇー!?」
「www」
 がっくりと肩を落とす由美子を見て、篤志は堪えきれずに噴き出す。
『いいか? よく聞けバカ。ここは日本、日本国だぞ』
「ぐぬぬ……あたしだってね、あんたが余計なことを言う前はそうだと思ってたわよ!」
『騙される方が悪いんだ。そうだろ? なぁ、本土人』
「ああ、『日本はアメリカのポチ』ってブラックジョークは鉄板だからな」
『Oh,Good! 「アメポチ」か、なんて良い響きなんだ! おまえはなかなかよく解ってるんだぞ!』
「そりゃどーもw」
『オレのmommyはな、Americanなんだ』
「へえ」
(ふぅん、道理で……)
(英語の発音が綺麗なんだよな、このうさぎ……)
 うさぎのアメリカ贔屓に納得したところで、
『そしてdaddyは魔界に棲んでいた魔界兎なんだぞ』
「――!?」
(ま、魔界!?)
(魔界もあるのかよ!)
 ファンタジック・アイランドならではのオチにまた翻弄される篤志だった。
『それで、本土人は本土のどこから来たんだい?』
「京都の……舞鶴市ってとこから来たんだけど……」
『Oh,舞鶴か。府内だな』
「? 府内?」
『一応、ここも京都府だからな。日本国・京都府・羽音神市なんだぞ』
「きょ、京都!?」
 そう言えば、さっき由美子がわけのわからないことを言ってる時に『京都府』とか口にしていた気もする。
 どうやらこの羽音神島――羽音神市は、京都府に属しているらしい。
 未知の土地だと思って真っ青になっていたのに、まさかの府内である。
「ねぇ、その『京都府』ってなに? 前にお母さんがうちの正式な住所にはそれが付くって言ってたけど、それにどういう意味があるの?」
 由美子の家の住所は、京都府羽音神市中央区西町3丁目17番地14号――
 しかし、由美子には冒頭の『京都府』に何の意味があるのかわからないのだという。
『日本国ではな、行政を円滑に行うために自国領を47に区分けしているんだ。「京都府」もそのうちの一つでな――』
 うさぎが由美子に『都道府県』とは何たるかを説明している。
 うんうんと素直に頷き、時折「へぇ~」と声を上げつつ説明に耳を傾ける由美子の隣で……篤志は渋い表情で首を傾げる。
「…………」
 基本的には"何も知らないフリ"をして、現地人から情報を聞き出していく。
 とにかく無知をアピールしていこう、という篤志の戦略だが……
(オレよりむしろ、この現地人女の方が無知じゃね???)

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