超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

人の罪を赦すなら、あなたの罪も赦されループに入ります。③

エピソードの総文字数=3,472文字

 んで。

 教室に戻ってから、俺が一人でトイレに行った帰りだ。


 廊下に遊田が立ってたよ。


   ジー……

 っと、俺を観察してるみたいな顔つきでだ。

 俺は目だけ合わせて、すれ違おうとした。


 けどだ。

「ちょっと、顔貸しなさいよ」

 これが昭和の漫画とかに出てくるような番長に言われたら、びびったりするんだろうが、女子から言われるなら、例え相手がろくでもない事をしでかした奴であろうと、なんとなくワクワクしてしまうのが、オスの悲しい性分という奴だ。


 ましてやその相手が、他の男子いわく――

『遊田って小学生まで子役やってたらしいぜ。

 ほら、月曜の夜九時からやってた少女格闘家のドラマあったじゃん。正竜伝説だったか、それ主役やってたのあいつだよ』

 というような、いかにも元芸能人然とした雰囲気で、華のある顔立ちの女子とくれば、半分ハーメルンの笛吹き状態に陥って、付いて行ってしまうのは仕方ない。

 

 これにクレームがあるなら、製造責任者に電凸してもらうしかない。


 そして、辿り着いたのは階段の最上階、屋上へ出るための扉の前だ。

 昼休みまでは施錠されてるから、朝なら、絶対に人が来ない場所だ。

「いったい何のつもりよ。さっきのあれ」

 まあ、その話しだろうとは思ってた。

「俺じゃなくて、召愛に訊けよ」

「あんた、召愛の側近でしょうが」

「そんな悪の秘密組織の幹部みたいに言われてもだな」

「悪の秘密組織みたいなもんじゃないの。

 あいつが何を企んで、あんな事したのか、教えなさいよ」

「そりゃ決まってるだろ。

 召愛はお前を助けようとしたんだ。遊田」

「――?」
 遊田はまるで理解できないという風に、首を振った。

「そんなはずないじゃない。

 あたしは、あいつを貶めようとした明確な敵でしょうが!」

「たぶんだが、あいつはこう言うぞ。『敵だからどうした』と」

「そんな事する奴なんて……いるわけ」

「小学校の頃とか、朝礼で言われなかったか。

『自分がされたら嬉しいと思うことを、他人にしましょう』と。


 召愛の行動原理はそれだ。

 つーか、それしか考えてない単細胞生物だ。

 校長先生が小学生相手に綺麗事で言うような事を、そのまま実行する。


 その場でもっとも困ってる人の立場になって、自分がされたら嬉しいと思うことを、その相手に全自動的にしちまうんだよ」

「何よそれ……キモ」

 俺は笑うしかなかった。

「まったくだ。俺も同感だよ。

 客観的に見れば、あいつは、とてつもなくキモい」

「……?」
 遊田は意外そうな顔で俺を見たよ。

 たぶん、召愛の側近であるはずの俺が、召愛を貶してると思ったんだろう

「たぶん、遊田、お前は俺を誤解してる。

 俺はお前と同じ側の人間だ。


 召愛の行動は理念としては理解できるし、すごいとも思うが、ガチで実践したら、気味が悪いにもほどがある。そう考えてしまうダメなタイプの人間だ」

「じゃあ、なんでいつも一緒に居るのよ。

 やっぱ、あんた、あいつにヤラせてもらって……」

「エロ漫画の読み過ぎだ。

 発想が脂ぎったおっさんだぞ、遊田」

「誰が脂ぎったおっさんよ!」

  

  ――ガスッ!

 

   っとね、脛を蹴っ飛ばされたぜ……

「痛って! 

 お前なあ、キックはやめとけ、ほんとに退学になっちまうぞ」

「女子に向かって、おっさん臭いとか言う方が、よっぽど暴力でしょうが」

「とりあえずだ。俺がなんで、召愛と一緒に居るかと言われたら、成り行きとしか言いようがない。


 助けられたんだ。遊田と同じだよ。

 だから、お前の戸惑いも良く分かる。

 俺の場合はこうだった――

 ――召愛と出会った日、商店街であったことの一部始終を話したよ。

 そしたら、遊田はドン引きすると同時に、感心してるようにも見えた。

 召愛の行動はそういうリアクションを呼んでしまう。


 素直に感心だけできりゃ良いのだが、あいつの行動は善人としてのレベルが度を越しすぎてて、気味の悪さを感じさせてしまう。

「だから、まあ。召愛は遊田を助けたいと思ったから助けただけだと、俺は断言しとく」

「そんなの……信じろっていうの?」

「むしろ、その他の仮説があったら聞かせてくれ」

「……」

 あるわけない。

 狂気的とも言えるのが召愛の行動であって、合理的な理由など考えつくわけが無い。

「感謝なんか……絶対しないからね」

 ぷいっと顔を背けて遊田は言ったよ。

「ああ、それで構わんと思うぞ。

 あいつも感謝されるためにやってるわけでもない。


 究極の自己満足をやってるだけだ。

 用は済んだみたいだし、俺は行くからな」

 階段を下りていったよ。


 そうしてたらだ。

 なんか上から物凄い勢いで遊田が駆け下りてくる足音が聞こえてだな。


 踊り場まで来た時に、いきなり、ギュムッと俺の襟が後ろから掴まれた。

「遊田ェ……。

 なにすんだ?

 つーか、喉が……喉がぁあ!」

「用はまだ済んでないわ」

「どんな用だ?」

「あんたが、あたしを巻き込んだんでしょうが。

 勝手に召愛を手伝ってる事にして!」

「ああ言うしかなかったろ」

「あたしも、ほんとに手伝わないと理事長に怪しまれちゃうってことよ。虚偽の証言だとバレたら、退学なのよ、退学」

「虚偽だとは、最初からバレてる。

 証拠がなくて処分できないだけだ。

 

 今後もし羽里から何かあっても、俺と召愛で口裏合わせておくから、遊田は気にしなくていい」

「それで、あたしの身に万が一がないって保証は?」

「あるわけないだろ」

「呆れた……。

 あんたたちが、自爆で退学になるのは勝手だけど、巻き込まれるのは、まっぴら御免よ。何でも良いから、あたしにも手伝わせなさい」

「本気か……?」

「背に腹は代えられない。

 召愛なんか大嫌いだけど、やるしかないでしょうが」

「まあ、なあ……」

「ほら、さっさと何すればいいか、言いなさいよ。あんた側近でしょ」

 いきなり言われてもな……。

 ポスター貼りは昨日のうちに終わったし、あとはビラ配布と辻立ち演説の触れ込みくらいだが、そのビラと辻立ち演説が完スルーされちまってる現状では、行き詰まっちまってる。

「それなんだが、遊田……。

 ぶっちゃけお手上げ状態なんだ。召愛は完全に無視されてる」

 すると遊田は愉快そうに笑い出したよ。

「あはは、なにそれ。バッカみたい。

 召愛が立候補すれば、そうなるに決まってんじゃない」

「まったくの同感だ。

 だが、遊田が手伝うってなら、この状況を、どうにかする所から、始めにゃならん、違うか?」

「で、コッペには何か手があるわけ?」

「それをむしろ、アンチ召愛の急先鋒であるお前に訊きたい。

 どうやったら、召愛のイメージを変えられる?


 お前が生活相談室で言ってたような『独善的で、協調性の欠片もなくて、ええ格好しいで、他人を踏みつけても何も思わないサイコパス』こういうイメージをだ」

「絶望的じゃない?」

「それはわかってる」

「例えば、今さら裏サイトとかで、召愛を擁護するような書き込みしたって、『本人乙』で終わりよ」

「必要以上に擁護したり、実態以上に良く見せる必要はない。

 さっき遊田が見たような、ありのままのあいつを、みんなが垣間見る機会があれば、イメージが変わるはずだ」

「それこそ無理でしょ。

 召愛は、理事長やコッペと以外、つるんでない。


 人間関係ゼロだもの。

 そうなれば、ネットでの噂話があいつの評価の全てになり続ける」

「なら、召愛が他人とつるむ機会を作れば、活路が開けるってことか」

「コッペの言うように、あいつが本当に聖人君子であればそうなるでしょうね。

 あるいは、ただ単にボロを披露して、メッキが剥がれるだけかも知れないわよ?」

「そうなら、お前にとっては復讐が果たせて万々歳じゃないか」

「あらそうね」

 遊田はニッコリ笑いやがったよ。ほんとに嬉しそうにだ。

 良い性格してやがる。


 ここんところ、俺も召愛や羽里みたいな良い子ちゃんとしか、会話してなかったせいで、素直にゲスなリアクションしてくれる奴を見ると、安心しちまうぜ。

 これぞ人間だってな。

「でも、普通に考えてナンセンスよ。

 誰もあいつを遊びに誘ったりするわけないし、あいつからの誘いを受けるわけもない」

「だったら、学校の行事とかで、一緒にやらざるをえないような事があれば――」

 そこで俺と遊田は同時に、階段の踊り場の掲示板に目をやったよ。


 あった。

 ばっちり、あった。

 こんなのがだ。

『前期文化祭のお知らせ。

 5月17日より、準備活動が解禁されます。

 ホームルームで出し物を決めるため、各生徒は予め、企画を考えておきましょう』

「これ、じゃないのコッペ?」

「ああ、これ、だな」

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