超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

超お人好しに、超無茶ぶりをしてはいけない。本当にそれをやってしまうのだから。②

エピソードの総文字数=6,989文字

 放課後、寮に帰る途中。

 雑木林の道を召愛と並んで歩いてた。

「……」
「……」

 昼休みの後というもの、俺と召愛は口を利いていない。


 どうも声を掛け辛いというか……。


 遊田の、みえみえの嫌がらせくらい、召愛だって軽く流してくれりゃいいのに、というか。


 俺がもしここで、改めて『遊田の言ってる事は嘘だからな』なんて念を押してしまうと、逆に俺が変に意識してると思われちゃいそう、というか……。


 だいたいだ。

 だいたい、なんで俺がこんなに召愛に気を遣わなきゃいけない?


 俺が仮に遊田と秘密のラブラブ行為をしていたとして、何が問題だというのだ。

 召愛とは付き合ってるわけじゃない。浮気には当たらない。

 なのに、なんで俺はこうも……!

「――」

 俺は足下に転がってた木の枝を蹴っ飛ばしたよ。












 寮に帰った後。

 召愛はさっそくシナリオの執筆を始めようとしていた。


 支給されたワープロ用ノートPCを居間のテーブルに持って来て、ウサギ型クッションの上にどっしり構えて座ってだ。


 俺はまあ……お茶くらいは煎れてやるかと、急須を準備してた。

「ところでコッペ」

 突然、召愛が言った。

 俺はドキッとして、思わず緊張。

「――!」

 急須に注いでたお湯がドボドボ零れてしまっていたのに気づくのに、しばらく時間が掛かった。


 これから召愛が遊田のことで何を言い出すにしても、俺はちゃんと謝ろうと心に決めて、召愛の次の言葉を待った。


 いや、待て、なぜ、謝る必要が?

 わからん。

 わからんし、理不尽な気もするが、謝らないといけない気がしてしまったんだ。


 で、召愛は言った。

「シナリオというのは、どのように作れば良いのだろうか」

 ズコー、って、俺はずっこけたよ。

 そっちかよ! というか、三日と豪語しておいて、そこの初歩からかよ!


 まあ、でもあれだ……。そっちの話題の方が、俺としても何倍も救われる。

「あー……。まずはだな。

 何を目的として、作るのかって所から考えればいいんじゃないか」

「というと?」

「どんな部分を、誰に、見せたいかと考えればいい。

 例えば戦争ものなら、戦場という極限状況での人間模様を見せたいとして、それを軍事知識のない人に見せるなら、どういう風に書くべきかが、だいたい決まってくるだろう?

 そういうコンセプトをまず決めたらどうだ」

「ああ、そういうのなら、頭の中では出来てるんだ。

 物語は、最後まで出来あがってる」

 嘘だろ……。

 あのカオス極まるネタの数々から、どんなものも出来上がるわけがない。

 いや……、こいつの異次元生物脳なら、あり得そうで怖い。

「じゃ、じゃあ。とにかく時間が限られてる。

 お前は細かい事は気にせず、普通に作文みたいに書いて構わん。

 俺がシナリオ形式に直してやる。書き方とか調べながらな。分担してやってみよう」

 さっそく私室から自分のノートPCを持って来て、俺は召愛の隣に並べて座ったよ。シナリオの書式についてネットで調べながら、召愛の執筆の進展を待った。


 でも、召愛は難しい顔で――

「うーん……」

 などと唸っては、二三文字打ち込んだと思えば、それを消し、を繰り返すばかりで、書き進められてない。


 いくら頭の中で出来あがってるとは言っても、それを言葉に変換するとなると、また別のスキルが必要になってくるのだろう。


 そうして、5分が過ぎ、15分が過ぎ、30分が過ぎた。

 何かアドバイスでもしてやろうかと思ったが、集中してる時に声を掛けるのは妨害にしかならない。

 焦らせたり、せっついたところで、事態が好転するわけでもない。じっくり、待つしかない。




が。



 結局、気づけば深夜。

 作業はまったく進展していない。このまま徹夜となれば、明日の学校に差し障る。

 居眠りしたら停学。それこそゲームオーバーだ。

「今日はここまでにしておこう」

「う……うーん、無念だ」








 二日目。


 やはり出来ず、昨日と同じ状況が続いてしまった。





 そして、ついに三日目が来た。

 学校が終わってから、最速で寮に帰り、昨日までと同じように、召愛とノートPCを並べて座った。

 正直、俺は諦めてた。

 最初から詰んでいたのだとだ。

 あとはどうすれば、召愛へのダメージを最小限に留められるか、そればかり考えてた。


 せめて、少しくらいは書き進めて、努力はした事を皆に理解して貰えれば、なんて思い、俺は言った。

「別に小説みたいに凝った文章で書く必要ないんだ。

 頭の中にある筋書きを、お前はそのまま文字にするだけでいい」

「そうは言うが、それが難しいんだ。なんせ、私は国語が2だ」

「だったらこうしよう。文章を書くと思うな。

 単純に、映画を見る相手に何を伝えたいか、それだけ考えればいい」

「伝えることを、考える……?」

「お前、そういうの得意中の得意のはずだぞ。俺と出会った時に、商店街で大勢の人へ、説教みたいなことしただろ。


 みんな、お前の話しを真剣に聞いてた。お前に従う義務はなかったのに、お前は言うことを聞かせた。

 あれは凄いことだ。最後にはまあ……斜め上に暴投しちまったが、お前には、圧倒的な何かを伝える力がある。覚えてるか?」

「夢中だったから……あんまり覚えてない。

 あのときは、とにかくコッペを救いたかった。それだけしか考えてなかった」

「それでいいんだよ。

 今、救いを待ってるのはクラスの皆だ。


 お前が書かなければ、企画がポシャる。

 伝えるべき内容は、みんなの願望、妄想、希望の集合体。


 伝えるべき相手は、映画を見るであろう人々。

 そいつらへ向けて、商店街で説教したみたいなつもりでいい。全力で伝えてみろ」

「そんなつもりでやれば……本当に良いのだろうか?」

「ああ。ぶちかましてやれ」

「わかった。やってみる!」

 目がカッと見開かれたよ。

 覚醒というに相応しい表情になった。

 もしバトル漫画だったら、オーラ的なものが全身から沸き上がって、周りの家具を吹き飛ばしていただろう。

「ところで。ロミオはイタリア人だったか?」

「そうだな。ヴェローナという北部の大都市の貴族だ」

「第二次世界大戦で、イタリアが戦場になった年を教えてくれ」

「1943年の7月9日にシシリー島に連合軍が上陸して、こっから本格的なイタリア戦線の始まりだ」

「それと、戦艦大和の大きさはどのくらいなんだ」

「全長263メートル。幅は38.9メートルだ」

「桃太郎が桃に入って、川を流れてきた理由などは、何か設定があったんだろうか?」

「なかったんじゃないか? 

 絵本とかでもその手のは見たことないしな」

「なら、そこは自由でいいんだな。よし、わかった!」

 そして、怒濤、だった。

 猛烈な勢いのキータッチ。


 キーボードを叩く音が途切れなく聞こえるせいで、カチャカチャという断続音ではなく、ダー! っという連続音に聞こえるほど。


 ワープロ画面には、あっという間に文字が埋め尽くされていった。


「できた!」

(早っ!)

 まだ三十秒も経ってないぞ。


 どんなのが出来たんだと思って、読んでみたよ。

 こんなのだった。

 むかしむかし、1943年、第二次世界大戦中の13世紀のイタリア、ヴェローナの街に、ロミオという16歳の少年が住んでいました。


 ある日、ロミオが川沿いの道を歩いていると、上流から大きな桃が流れてくるのが見えました。とても美味しそうに見えたので、それを拾ったのです。


 しかし、そこで、ふと、思いとどまりました。

「僕のような裕福な者がこれを拾うよりも、お腹を空かした貧しい人々に食べて貰ったほうが良いのでは……」

 ロミオは優しく微笑むと、桃をもう一度、川へと流したのでした。

 そうすれば、他の人が見つけるだろうと考えたからです。


 こうして、ロミオは末永く幸せに暮らしましたとさ。








                



   キャッチ&リリース&エンド !!??
 ロミオがなんか良い人過ぎる。

 良い人過ぎて、なんか終わっちゃってるじゃねえか!

「おい。リリースしちゃダメだろ。

 終わっちゃうだろ、開始数行で末永くお幸せエンドになっちゃってる!」

「うん。文句なしのハッピーエンドだ。

 ロミオは正しいことをした。これで、みんな幸せになった。

 ロミオもジュリエットも、死なずに済んだ」

「ジュリエット?

 だ、だいたいそのジュリエットどこいった。

 登場すらしてねえだろ……?」

「ちゃんと登場してる」

「どこだよ。ジュリエットのジの文字すら出てきてないぞ」 

「桃の中だ」

 ズコー! 俺は座布団の上で座りながらずっこけたよ。

「おぃ……。じゃあロミオは、ジュリエットをリリースしちまったって事じゃねえか。一番ロミオがやっちゃダメな事だろそれ。メインヒロイン、他人に拾わせちゃダメだろう? NTR(ネトラレ)モノなのかこれは?」

「仕方ない。

 ロミオは桃の中に何が入ってるか知らなかった。リアリティがある」

「リアリティ語るなら、まずは1943年、第二次世界大戦中の13世紀とかいう超次元設定をどうにかした方が良い気がするぞ……?」

「でも、ロミオとジュリエットの原作のクライマックスでは、ジュリエットが仮死毒を飲んだ事を知らないロミオが自害する。


 ロミオが桃の中身を知らずに、川に流すのは、原作に忠実な悲劇的な喜劇と言えないだろうか。

 きっとシェイクスピアも太鼓判を押してくれる」

「な、なんか正論っぽい事言いやがって……」

「ともかく、ジュリエットと出会わなければ、平和だ。

 誰も死なないし、傷つかない。むしろこの方が良かったのでは?」

「原作全否定じゃねえか。

 謝っとけ、シェイクスピアに土下座しとけ。

 それにだな。他の盛り込むべき要素はどこいった。ゴスロリとかは」

「桃の中のジュリエットが着てる」

「いやいやいや、見えないぞ。

 見えないからなそれ。

 ジュリエットすら画面に出て来てないからな?」

「ちなみにメーカーは、ベイビー・ザ・スターズ・シャインブライトだ」

「見えないからメーカー以前の問題だろうが。

 じゃ、じゃあ、バトルテニスはどうなったんだ」

「桃の中のジュリエットが、ラケットを持ってる」

「なんで、そんな状態で桃の中に詰まってるんだよ……」

「それを言うなら教えてくれ。

 なぜ桃太郎は桃の中に入っていたんだ……?」

「……」
 分かるわけねえ……。

 桃の中に人類が入らなきゃいけない必然性も思いつかないし、ましてやその状態で川から流れてなきゃいけない理由なんざ。

 人類に思いつけるわけがない。

「わ、わかった。そこは。お前に百歩譲ろう」

「ふふふ、実はなぜジュリエットが桃の中に入っていたかの設定はちゃんと考えてある」

「本当なんだろうな。なら、魔法少女要素は?」

「桃の中のジュリエットの正体は魔法少女なんだ」

「その設定、なんも活かされないまま終わってんじゃねえか……。

 なら男の娘要素は?」

「桃の中のジュリエットは実は、男子だ。女装している」

「それじゃ魔法少年じゃねえか……。

 つーか、桃の中の万能すぎだろ。

 なんでも桃の中に詰め込めばいいってもんじゃねえぞ。


 あ……!

 まさか、他の追加要素、全部、桃の中に詰め込んでるとか言うんじゃないだろうな?」

「よくわかったじゃないか。君は天才か」

「どーやって戦艦大和が、桃の中に入るんだよ。四次元ポケットか!」

「これは昔話だぞ。四次元ポケットなんかあるわけがない。

 それに、ちゃんと書いてあるじゃないか、大きな桃だと。





 直径300メートルだ」

「でかっ!」

「驚くのはまだ早い。

 この桃に見える巨大物体は、本当は未来のシスターロレンツァが開発したタイムマシンなんだ。


 ちなみに、設計上の技術的制約により、外側からロミオの指紋認証でしか開くことができない」

「なんだと……、ていうかシスターロレンツァって、もしかしなくても、ロミオとジュリエットに出てくるロレンス修道士の女性化キャラか?」

「そうだ。お題の一つだからな。

 未来から来たジュリエットの目的は、過去に戻って隕石落下の被害を最小限にすること。それともう一つ――」

「――テニスだ」
「………………」

「いやいやいや……。

 隕石に専念しようぜそこは。

 隕石落ちるかどうかって時にテニスやんのか?」

「そもそも、なぜジュリエットが隕石衝突を回避しようとしたのかというと、ある時から彼女が眠る度に、ロミオと体が入れ替わるという不思議現象が起こり、その謎の解明をするためにヴェローナに行ってみると、なんとヴェローナは第二次世界大戦中に隕石が衝突して消滅してることが判明するんだ。そこで――」

「待てまてまて!

 それアレだろお前が推したアニメ映画の丸パクリだろ?」

「うん、私はあれが大好きだ。

 DVDも持ってる。あとで一緒に見よう」

「だからってダメだぞ、マルっと持って来たら。

 やるなら、ちょろっと展開借りる程度にしとけ……。それとちゃんとリスペクトを込めてやっておけ。そのタイムスリップ設定も、ぜんぜん活かされてないじゃないか。原作が泣くぞ」

「そこはコッペ、仕方ないんだ。

 本来は、シスターロレンツァが過去のロミオへメールを送って、桃を開けるように指示する手はずだったんだが。メールサーバーの不具合で送信できなかったんだ」

「じゃあ、ロミオ以外、タイムマシンを開けることが出来ないんだから、ジュリエットはそのままアドリア海まで流れていっちまうだろ……」

「うん。これぞ悲劇だな……。ロミジュリの原作リスペクトだ」

「原作レイプすぎて、喜劇すぎんだろ。

 どんだけつっこみどころ満載なんだよ」

「なら、コッペはどうしろと?

 君はさっきから文句ばかりで、建設的な意見を何も言っていない」

 俺は腕組みして考えたよ。でも、考えるまでもなかった。

「ジュリエットを桃から出してやろう。全ての話しはそれからだ」

「しかしそれでは、ロミオやジュリエットの真心と誠意や愛情が、ありとあらゆる悲劇を起きてしまうことになる……。出会い、恋し、互いを思い合う行動から悲劇が始まるんだから」

「真心や善意や愛情から起こる衝突は、映画で描いて、人に伝える価値がないのか?」

「そうは言うつもりはないが」

「俺はそれこそ、描く価値があると思う。

 例えば、お前と羽里の衝突も、真心と真心、誠意と誠意、愛情と愛情のぶつかり合いだ。


 それは、お互いがより良い道へ進むための、切磋琢磨だと思ってる。

 お前がこの映画で描くべきはそういった物にすればいい。

 映画なら、画面の中で何人死んでも、問題ないしな」

「――!」

 召愛は全てが腑に落ちた。というような顔をしたよ。

 それから、これぞ我が意を得たり、とばかりに大きく頷いた。

「よし、ありがとう、コッペ。

 私が人々へ何を伝えるべきか、ハッキリ見えた」

 再び、怒濤、だった。

 召愛は一心不乱にキーボードを打ち続けた。時折、第二次世界大戦の知識を俺へ訊く以外には、一言も喋らなかった。


 間食もせず、テーブルに置いてやったお茶すら手を付けず、四時間もぶっ続けでそうしていたのだ。


 そして、日がすっかり暮れた頃だ。

「終わった……」

 召愛はマラソンを走りきったかのように、息を切らしていた。

 そりゃそうだ。腕だけとはいえ、四時間動かし続けたら、疲れるに決まってる。

「はぁー、疲れた」

 ノートPCを押しのけるようにして召愛は、テーブルに突っ伏したよ。

「ご苦労さんだ。お茶でも一服したらどうだ」

 なんて俺が声を掛けた時にはもう。


     ――すやぁ

「しょうがない奴だな」

 俺は召愛の書いたのを読み始めたよ。最初に書かれた速攻ハッピーエンドとは、まるで別ものになっていた。


 それは、読み物としてみれば、国語2らしく文章が拙くて、不格好ではあった。

 シーンに臨場感もなければ、人物の立ち回りに迫力も感じられない。

 だけど話しの筋だけに注目してみれば、意外すぎるほどに、読み進められるものだった。


 いや、それでは過小評価かも知れない。素人の学生が作ったわりには、とか、初めての創作の割りには、とか、そういう下駄を履かせずに評価しても独特の魅力があると感じてしまったんだ。

 これを拙い文章ではなく、映像で見てみたい。そう、強く思わせられた。

「良くやったな。あとは俺に任せとけ」

「むにゃぁ」

 とか召愛は寝言で返事してたね。

 んで、テーブルの上に突っ伏してた体のバランスが崩れて、倒れ込んで来た。どすん、と召愛の頭が俺の座った太ももの上に乗っかったよ。


 膝枕ってやつだ。


 こういうのって、それなりのロマンスなシーンになったりするんだろうが、なんてこった。召愛の奴め、盛大にいびきかいて、大口開けて、涎垂らしてやがる……。


 けど、こんだけがんばった後で、起こすのも気の毒だ。近くに置いてあった膝掛けを体にかけてやって、俺は召愛の作品をシナリオに直す作業を始めたよ。




 それは――慣れない作業だったし、だいぶ手間取った。

 それでも、どうにか深夜、24時少し過ぎに終わった。


 あくびがでた。特大のがだ。召愛は相変わらず眠っていて、起きる気配がない。


 風呂入る前に、ちょっとダラッとするか、と思い、テレビを付けて、ボーッと見てたら、いつの間にか自分がまどろんでる事に気づいた。

(あー、こりゃ、今すぐ風呂行かないと、このまま寝ちまうな……)
 なんて考えてた頃には、たぶん、俺は九割くらい眠りに落ちてたんだと思う。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ