超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

羽里彩は言った。「生徒よ、幸福ですか?」

エピソードの総文字数=3,816文字

【コッペ分隊戦闘記録、壱】


 7時5分。


 我、昇降口へ突入す。

 教室へ辿り着くまでの間だけでも、46個の校則弾幕が襲来するも、これらを悉く回避せしめた。

 損害無し。しかしながら、その多くにおいて、紙一重であった事に、厳重な留意を要す。


 一例として、下駄箱に靴を収めるべき、向き、角度が、ミリ単位で定められていること等が挙げられる。


 他にも、必ず下駄箱には鍵を掛けねばならず、上履きに履き替える前には、流水で手を三十秒間清めた後に、アルコール消毒および、消臭剤の塗布を、決められた箇所へ行わなければならない。


 また、廊下等にてすれ違う教師等に対しては、挨拶を行うのは当然の事項とし、声量は60デシベルから、50デシベル。


 図書室の50メートル以内では、40デシベルまでとされ、その際の挨拶距離は5メートル以内、1メートル以上と定められている等、僅かな油断が即時に被弾に繋がりかねない。


 なお、召愛二等兵が、昼食の約束のせいで浮かれていたため――

「うわっ」


             ――ズルッ

 ――と、廊下で転倒しそうになった。


 我れの援護により、事なきを得たものの、我れの寿命が10年縮む損害が生ず。


 もし、ずっこけてスカートがめくれたりすれば、校則違反にならなくとも、公然わいせつ罪で逮捕である。

 なんせ、穿いてないのだ。


【コッペ分隊戦闘記録、弐】



 7時15分。


 教室に到着。

 全隊、着席す。


 448個の校則が適応されうる可能性のある超高密度弾幕地帯が、教室、である事が、計算によって明らかとなる。


 これら全てを回避しきること、通常戦術では著しく困難と判断、我は特殊戦術にて、対応することを決定す。


 その特殊戦術を、ナナ号戦術=『何もしなければ、何も違反しようがない』と銘々。


 当戦術により、朝のホームルームが始まるまでの約1時間45分を、不動の姿勢にて耐えきるも、臀部が甚大な痛みを被る。


 クッション等の新兵器の投入をすべきとの結論に達す。


 この間、召愛二等兵は、間断なく今日の昼食の事を話していた。

 どれほど嬉しかったのか、想像が付かない。


 なお、浮かれすぎて、うっかり椅子からずり落ち――

「あっ」


             ――ズルッ

 ――と、転びそうになるも、我れの援護により、事なきを得た。

 しかし、我れの寿命が10年縮む損害が再び生ず。

 これで計20年である。

【コッペ分隊戦闘記録、参】



 8時30分。


 強敵襲来せり。

 朝のホームルームを目前にするも、昨晩の睡眠不足と、1時間以上も不動の姿勢を保っていた事を原因として、隊へ猛烈な睡魔が襲来す。


 時折、意識が途切れ、机に倒れ伏すたびに、召愛二等兵と、互いを揺り起こすことを繰り返す。


 二人同時に昏睡してしまえば、そのままホームルームへ突入となり、居眠り違反でいっかんの終わりであった。


 そこで。

 我が隊は互いの首を紐で結ぶという過酷なる技術的手段によってこれを回避した。


 我が倒れ伏せば、後ろから引っ張られる事によって、首が絞まり、嫌でも起きることになり、召愛二等兵が倒れ伏せば、その感触で我が起こすことができる。


 幸いにして、生徒同士の首を紐で繋ぐことを禁止する条項は存在しないため、これによって処罰等の心配は必要なきものと見られる。


 しかしながら、その見た目は異様であり、同級生たちは当初、ギャグか何かと考えていたようであるが、我が隊が真剣にこれを実施している事を知るや、その視線はある種の畏怖に満ちたものとなり、

 

 我が隊へ声を掛ける者、これ皆無となった。



 なお、召愛二等兵は半分昏睡しながら夢を見ていた模様であり、しばしば寝言を口にした。


 それは常に今日の昼食の事についてであった――。

「彩ぃ、ほら、あーんするんだ。私が食べさせてやるからなぁ……」

 ――などとである。

 そして、当隊員が眠りに落ち、机に倒れ伏す度に、椅子からもずり落ちて転倒しそうになり――。


「むにゃぁ……」


             ――ズルッ!

 ――我れの援護で事なきを得る。

 その度に我れの寿命が10年縮む損害が生ず。

 ここまでの合計で50年である。余命が心配になりつつある。

【コッペ分隊戦闘記録、四】



 9時。


 隊内士気が崩壊しつつあり。

 辛うじてホームルールを乗り切ったものの、睡魔および緊張感との戦いのため、隊の精神面への損耗が甚大であり、我が隊の継戦能力は、尽きかけている。


 しかし、これからが授業の開始であり、さらに熾烈なる戦いが予想される。

 しかも、その責め苦が午後まで続く事が必然となっている今、我が隊は意気消沈しており、もはや立ち向かう気力がない。


 そもそもにして、このような戦いは無謀だったのではないか。


 昨日、厳しい罰を言い渡された時点で、戦略的な敗北は決しており、いかなる努力をしても、戦局を打開することなど不可能ではないか。


 そのような敗北主義的な悲観論が、幾度も頭をよぎる。


 なお、恒例の召愛二等兵の椅子からずり落ちからの転倒を防ぐために、当隊員は自ら志願して、椅子に体を縛り付け、腕を机にガムテープで固定するという非人道的戦術を行おうとした――。

「よせ、召愛。

 自分をガムテープでグルグル巻きにするなんて、馬鹿なことはやめろ!」

「やらせてくれ、コッペ……!

 今日の昼食までは、絶対に公然わいせつ罪で捕まるわけにはいかないんだ!」

 ――と涙ながらに訴えたため、説得を断念。


 これから始まる一時限目の授業は古文である。眠気を誘う能力に関しては最精鋭と評価すべき強敵となる。

【コッペ分隊戦闘記録、五】



 10時。


 一時限目の記憶なし。

 気づいた時には、既に授業が終了していた模様。

 ノートに判読不能の謎の文言が書き連ねられていた事を見るに、我はほぼ意識無き状態にて交戦していたと推測さる。


 授業中、首の紐が引かれること無きを不審に思い、召愛二等兵の席を見たところ、絶句を禁じ得ず。


 召愛二等兵においては、両目の瞼をテープで開いたまま固定し、白目を剥き、涎をブラウスに垂らし、寝息を立て、その姿勢のまま微動だにせず。あまりの惨たらしき姿、正視に耐えなきこと筆舌に難し。



           すやぁ――

 しかしながら、

 当戦術にて授業を切り抜けた実績を鑑みるに、校則上は居眠りしていると判定されなき事、判明せしめた功績は極めて大なり。


 事ここ至っては、この非人道的特別作戦の他では、いかなる戦果をも為しえずは明確と判断す。


 我、召愛二等兵の机の上へ、次の授業の教科書およびノートを広げ置き、しかる後、自らの瞼をガムテープで開いたままにし、体を椅子と机に固定、スマートフォンのアラームを授業の終了時刻に設定す。


 これより一時間の睡眠を取らんと試みる。

【コッペ分隊戦闘記録、六】



 11時。


 我、秘密裏の睡眠に成功す。

 体と瞼を固定する非人道的特別作戦が功を奏し、合法的居眠りに成功し、隊内士気が大幅に改善さる。


 我と共に、アラームで目覚めた召愛二等兵は、次の授業さえ乗り切れば昼食ということもあり、極めて意気軒昂。

 トイレへ行こうと立ち上がろうとするも、体を固定していたのを忘れており――。

「しまった!」


             グラッ――


 ――と、ずっこけそうになり、例によって我の寿命が10年縮む。

 つーか俺の寿命あと何年残ってるんだ?

 なんかもう、計算したくないぜ……。


 さらに召愛二等兵は固定を強くしすぎたせいで、

 その解除作業に難航し――

「漏れてしまう、漏れてしまうぅ……!」

 ――と訴える様は地獄の様相であった。


 我もついでに用と足しておくべきとの判断のもと、共にトイレへ向かうが、ここまでまた校則である。


 小便にすらその所作が詳細に決められているが、校則全書の前半に記載されていたものの、我に読み込む時間的猶予はなし。


 非常手段として、男子トイレの外から召愛二等兵に、大声で指示をさせる――

「標的までの距離、15センチまで近づけ。

 俯角マイナス30度に固定。よし、放て!」

 ――といった具合であった。


 その後、予鈴の30秒前に教室へ帰還を果たす。


 我は授業の前にシャープペンシルへ芯を込めようとするも――。

「危ない!」

 召愛二等兵が叫んだ。

 あたかも敵弾から、我を庇うかのように、飛びかかってきて、床へ押し倒す。

 彼女は我の手からシャープペンシルを取り上げていた。

「間一髪だったな、コッペ軍曹。

 派生条項87条、予鈴前の休み時間中に、勉学やその準備行為、および、委員活動は禁止されている。

 一部例外を除いては、休む以外の事をしてはいけない決まりだ」

「助かったぜ相棒。今日の戦いが無事に終わったら、帰りに一杯奢る」

「水くさいぞ、戦友じゃないか」

 本日で何度目か分からない硬い握手を交わした。

 教室中の同級生から生暖かい視線が送られてきていたが、もはや気にしていられるものではない。


 彼らだってこの厳しい校則には、辟易してるだろうが、俺たちみたいに執行猶予中の身で、留年リーチや、退学リーチになってる奴らはまだ居ない。

 ここまで必死になることを、理解できなくても無理はない。


「さあ、召愛。昼食まで残り一時間。これを耐えれば――」

「うん。やっとだ。ここまで、これた……」

 感極まり、彼女は涙をこぼしそうになってしまった。

 これまでの艱難辛苦を思い起こしてしまっていたのだろう。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ