リバイアさんとネフシュたん ~へブル人への手紙を護る者~

アメニティグッズはやっぱりゲーム

エピソードの総文字数=4,392文字

 夕闇がせまり、辺りは一気に暗くなる。当然ながら古代の時代には人工灯の類は皆無である。太陽が沈めば、漆黒だけが周囲を覆いつくすだけである。
 トラクターカーゴの中の照明も必要最低限のものだけに制限される。魔物への暴露を避けるためだ。
 夜になれば、一応任務からの開放時間ということになっている。もちろん、夜に戦闘が始まる場合もあるが、とりあえず現時点では陽が沈めば、フリータイムだ。
 トラクターカーゴの中に戻ったボーとネフシュたんは、いつものようにお互いの標準戦闘服を脱いで、私服姿になった。
 ボーは、着の身着のままで転送されてきたために、学生服以外の私服の持ち合わせがなかった。そのため、今日は備え付けの部屋着を身に着けることにした。その部屋着はシンプルな上下灰色のスウェットだ。

「まるで、自分の部屋にいるようだな」

 何の変哲のない安売り店のような部屋着は、かつての生活を少しだけ思い起こさせた。すると、キッチンの奥からネフシュの明るい声が聞こえてきた。

「ご主人様、夕食の準備をいたしますが、何かご希望はありますか?希望といっても規定の戦闘糧食をアレンジするだけですけども」
「そうだな、シチューは少しバターを加えてコクを出してくれ。あと僕はシチューにはご飯をかけない派だ。よろしくな」
「かしこまりました」

 ネフシュの方はというと、髪留めを解いて本来の髪型に戻していた。そして薄紫色のTシャツに腕まくりした紺色のパーカー、下は赤色のプリーツミニスカート、黒のニーハイソックスという出で立ちに、薄緑色のストライプ模様のエプロンをつけていた。
 その後ろ姿だけならば、オタサー女子が普通に日々の食事を健気に用意しているようにしか見えない。
 ボーの分だけを用意すればよいので、夕食の準備はすぐに整えられた。

「なかなかいい味を出してるじゃないか、ネフシュたん。人間だったらいい奥さんになれるな。まあ今時はこういう言い方はあまり誉め言葉にはならないかもしれないけど」
「ありがとうございます。ご主人様にそう言っていただけると嬉しく思います。お食事をご一緒できないのが残念です」
「まあ、胃や腸がないから仕方ないよな。むしろ僕だけ楽しんで申し訳ないよ」
「いいえ、ご主人様。美味しそうに食べていただけるだけで私も満腹です」

 戦闘糧食をアレンジしたネフシュの夕食を食べ終えて満腹になったボーは、簡易ベッドに着座しながら、しばしの時間くつろいだ。

「少しづつここの生活にも慣れてはきたが、せめてゲームがあればなあ。自前の携帯ゲームは部室に昼飯と一緒に置いて来てしまったし、リバイアさんに転送してくれって言っても絶対してくれないだろうし」

ボーは、ダメもとでネフシュに尋ねてみた。

「ところで、ネフシュたん。ゲームみたいなアメニティグッズはないのか?」
「ゲーム、ですか?」
「そうだ。アニメもたった三本しかないし、聖書は僕にとってはまだ楽しんで読めるような書物じゃない。贅沢かもしれないが、余暇を過ごすのには少し物足りないんだ」
「最新ゲームではありませんが、いくつかご用意できますよ」

 意外な答えにボーは起き上がって更に大きく声を上げた。

「な、なに、ゲームがある、だと? 期待していいんだな?
僕が言ってるゲームってのは、いわゆるテレビゲームな、もっと言うならビデオゲームのことだ。コンピュータで動くやつだぞ。オセロとかトランプとか億万長者ゲームとかのことじゃないからな」
「わかっておりますとも。ご主人様のお好きなナウシカのゲームもありますよ」
「な、なんとナウシカのゲーム?」
「ご主人様お得意のシューティングゲームです」
「しゅ、シューティング……ナウシカの世界観で?そんなものがあったのか!まだこの世には知らないことが多いな」
「私の眼球部分が投影装置を兼ねております。今から壁面にプロジェクションいたしますので少々お待ちください」
「眼から光が出るって、まるで鉄腕アトムのサーチライトみたいだな」

 食事の片づけを終えてエプロンを外したネフシュは、片手で髪の毛をかき分けながら後頭部にあるノッチを切り替えた。
 すると、ネフシュの眼球が光り輝き、ローカルメモリから呼び出されたゲームが狭いトラクターカーゴの室内一杯に映し出された。次の瞬間、画面中央に堂々とNAUSICAAの文字が現れた。
「おお、確かにナウシカのゲームだ!……ってあれ?」

 興奮したのも束の間、ボーは今まで見たことのない違和感をこのゲームに感じざるを得なかった。

「はたから見るとすごい絵面だが、まあこれはこれでいい。他に誰もいないしな。
でもって、なんでプロジェクションしたスクリーンの輪郭がハート形なのかは、つっこまないでおくとしてもだ、このゲーム、すんごいドット荒いんだけど……もしかして拡大表示してない?」
「いえ、これで通常表示です。今ご主人様が動かしているのがガンシップです」
「こ、これガンシップなのね……今画面を通り過ぎてった溶けかけた雪だるまみたいなのは?」
「多分、巨神兵の残骸だと思います。背景なので気にしなくて結構です」
「むっちゃ、気になるんだけど……で、この一瞬空に見えたシミみたいなのは?」
「土鬼の浮砲台です」
「え、てことはこのゲーム、映画版ではなくて漫画版を原作としている?」
「その通りです。ご主人様」
「マニアックなのはいいが……目を細めても、ナウシカどころか登場ゲームキャラの何が何だか全然分からないんだが……これはどうにかならんの?」
「どうにもなりません。8ビット機時代のゲームですから」
「は、8ビット……」
「ご主人様は、32ビットとか64ビットって用語をお聞きになったことがありますか?」
「パソコンのOSのバージョンとか、ゲーム機器の性能レビューなんかでよく見るな」
「8ビットとは2を8乗できることだとだいたい理解してください」
「もと理数科だったから、そこはなんとなくわかるぞ」
「2の8乗は、2×2×2×2×2×2×2×2=256です」
「そうだな」
「8ビットコンピュータは、一度に256の処理をこなせると思ってください」
「ほう」
「ご主人様のお持ちの携帯ゲームは64ビットCPUです」
「ふむ」
「計算して下さい」
「無理だ。途方もない数になる」
「答えは、18,446,744,073,709,551,616です」
「8ビット機ゲームの世界がなんとなくおわかりでしょうか」
「圧倒的だな……技術の進歩とはすごいものだ。で、そもそもこのゲームは一体いつのなんてゲームなんだ」
「1984年に徳間書店からMSXという当時の8ビットパソコン用に発売された『忘れじのナウシカゲーム』というタイトルです」
「わ、忘れじの……いい、忘れていいぞ、こんなゲーム。忘却の彼方へたたき送ってしまえ」
「そんな、ご主人様ひどいです。当時の開発スタッフの気持ちをお考えください。彼らがどういう想いを込めてこの絵を一ドット一ドットずつ描いていったのか……」
「ジブリのスタッフはこのゲーム制作に関わっていないだろ、いや間違えた。トップクラフトだったな」
「限られたメモリ制約の中、どんな想いで、一行一行プログラムしていったのか……ご主人様はMSXのスペックをご存じないのです!」
「そらそうだろ、34年前なんてまだ両親すら出会ってないわ!」
「いいから答えてください!MSXのメモリ容量を!ご主人様の感ピュータは100ビットおありなんでしょう?」
「わかった、わかった、答えるから落ち着いてくれ。そうだな、初代のPSPが32MBくらいだから、1MBくらいかな?」
「16KBです!このゲームは当時、定価5,800円のROMカートリッジで発売されましたが、原稿用紙20枚分あるかないかの情報量に、このナウシカの世界が詰まっているのです!」
「そ、それはある意味すごいな。でもMSXのスペック知るの、そんなに大事?」
「ちなみにこのゲーム、某店では買取価格41,000円ですから」
「えっ⁉」

「ご主人様がこのゲームをお気に召さないのはよくわかりました。でも次は失望させません。期待してください」
「分かったから、こっち向いて話さないでくれ。眩しすぎるわ」
「次のゲームはこれです。コナンのゲームです」
「犯人とか見つけるのか?」
「そっちのコナンではありません」
「そっち以外のあっちのコナンとかあるのか」
「未来少年コナンのコナンです」
「……なんだそりゃ」
「ジブリアニメがお好きなご主人様ならすでにご存じかと思っておりました。あの宮崎駿が若かりし頃に監督したNHK初のアニメ番組作品です」
「すまない、昔のアニメはガンダムとか999くらいしか知らないんだ」
「コナン自体は1978年の作品ですが、ゲームはナウシカよりは新しいのでご心配なく」「なるほど、宮崎アニメ再評価のノリで作られたっぽいんだな」
「横スクアクションゲーです」
「お、僕の得意分野だ。でいつのゲームなんだ?」
「1992年です」
「それでも26年前かよ!なんでネフシュたんは最新式のAIなのに搭載しているゲームはレゲーばっかりなんだよ!」
「多分、故きを温ねて新しきを知る、という意図ではないでしょうか。特にシューティングゲームは古典に学ぶところが多いジャンルですから。まずはオリジンを楽しんでいただきたいという設計者の熱い想いでしょう」
「だったら、学んだ結果の新しきもちゃんと入れとけよ!」
「ほら!イベント部分のアニメが結構綺麗ですし、キャラの動きも大塚康生ぽいタイミングを真似ている感じがして趣があるでしょう」
「ネフシュたんの解説がいまいちよく分からんが……まあ意外に楽しめるものだな」
「でしょう?」
「ところで、2プレイヤーモードにしたら、ネフシュたんも一緒にプレイできるのか?」
「もちろんです」
「それなら、協力プレイで楽しめるゲームをチョイスしてくれないか?」
「任天堂のテニスゲームなどはいかがでしょうか?」
「レゲーでも大歓迎だ。やはり世界のファミコン!人類の遺産だわ」
「ファミリーコンピュータではありません。カラーテレビゲーム15というものです」
「まあ、何でもいいさ。同じ任天堂のテレビゲームなんだろ?」
「はい、名前の通り15種類のゲームがプレイできますのでテニス以外もプレイできます」
「それは楽しみだ。だが、相手は人間なんだから少しは手加減してくれよ」
「もちろんですとも」
「だから前向いて話してくれって」

こうして二人は夜な夜なレゲーに興じ続けた。そして、今日も静かに古代パレスチナの夜が更けていった。

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