超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

ヨハネ福音書 8章3節~11節

エピソードの総文字数=5,215文字

     学校の保健室という名のほぼ病院、その個室。
 そこで、遊田は一時間ほどしてから目を覚ました。

 起き上がるや、俺と召愛を見やり、不思議そうに病室を見回した。

「あれ……、なんであたし、こんなとこに」

「そりゃ、お前、天井反射シュートで自爆したからだ。

 いやあ、腹の底から笑わせてもらったぞ」

 俺はちょっぴり意地悪く言ってやった。

 ウェイトトレーニングをたっぷりさせてくれたお礼だ。

 明日は筋肉痛で確定だしな。


 それに……だな。

 遊田も、気を失う寸前の〝あのアンラッキースケベ〟までは覚えてるだろうし、笑い飛ばしてギャグにしておかないと、気まずいと思ったんだ。

「うっ……。思い出したわ」

 やっぱり覚えてたらしい。

 遊田は唇を手で押さえて、俺から目を逸らした。


 そうだ。そのリアクションで良い。

 お互い無かったことにしよう。


 俺だって、お前相手にああいうのは超不本意だぞ。

 召愛に言ったりするなよ。絶対だ。絶対だぞ。

 わかったな、絶対に言うなよ!

「安心しろ、イスカさん。検査は異常なしだそうだ。

 ただの脳震とう、つまり、セルフでノックアウトしただけみたいだ」

「ふははは!」
 セルフでノックアウトという間抜けなフレーズが個人的にツボってしまった。

「ちょっとコッペ。けが人を笑うなんて最低よ」

「まあまあ、コッペはイスカさんを負ぶって、ここまで運んで来たんだ。凄く心配そうに、私にも連絡してきた。

 本当は深く思いやってるのを、理解してやってくれ」

「こ、コッペが……あたしを、助けてくれた?」
「ああ、そうだぞ。

 感謝しろよ。体育館からここまで何百メートルあるかわからん」

「あっそう」
 これだよ……。

 まあ、どうせ、こいつ相手に、感謝の言葉なんざ期待はしてなかったがな。


 でも、だった。

「こ、コッペ……」
 目を合わさずに、妙にしおらしい声で、俺を呼んできたんだが。
「な、なんだ?」
「だから、その……」
「あ、ありがと……」

 おい。


 おいおいおい……。


 なんだよこりゃ。


 遊田にあるまじき素直さじゃねえか。

 やべえ、不覚にも、ちょっと可愛いと思ってしまった。

「お、お前なぁ……」

 俺の声はちょっとうわずってた。

 な、何を遊田ごときに照れてるんだ。俺は。

「おい、おいおい。

 頭打って変になっちまったんじゃないか。

 もう一回検査して貰っとけ」

 なんて照れ隠しで言ったら――

「……!」

 遊田にじっとりした目で睨まれてしまったよ。

 そん時だ。


               【ピンポーン!】


 病室のチャイムが鳴った。

 誰か面会に来たらしい。

 遊田の両親あたりか?




 と身構えてたら、それよりも、もっと最悪なのがドアを開けて、入って来た。




「――」
「――」
「――」
「――」

         【議員】たちだ。

           20人全員が勢揃いして、やってきた。


 そうだった……。

 遊田を助けることで必死になってて、

 こいつらの事が頭の外に吹っ飛んでたが、

 俺、ふつーに退学にされちまうんじゃ……!?

「ここは病室だ。何の用だろうか?」

 召愛が訊きながら、開かれたドアの前へ立ち塞がるようにしたよ。


 するとリーダー格らしい【議員】の男がこう答えた。

校則違反者の呼び出しに来た」

「私たちは違反などしていな――」

 と、召愛が言い切る前に、【議員】はタブレットPCの画面を見せた。

 まさに、〝あの瞬間〟の画像が表示されていた。


 その画像とは『遊田が仰向けで寝転んでいて、薄く目を開けている。その顔へ、俺は目を閉じて唇を合わせ、キスをしていて。さらには胸を掴んでカートの中へも手が入ってる』という物だ。


 よくもまあ、倒れた瞬間を狙って、こんだけ上手く撮ったもんだ。

 まるで俺と遊田が、『体育倉庫の中でだなんて、いや~ん』な事をしてるように見えるじゃねえか。

「――!?!?」

「おい、召愛、これはな――」

 俺が事情を説明しようとしたが、それを遮って【議員】が言った。

「再度、言うぞ。我々は、校則違反者の呼び出しに来た」

 と、俺を指さした。

「基本条項7条。浮気の禁止。

 恋人同士であると双方で認識している相手がいる場合。

 その信頼を裏切るような行為をする事を禁じる。


 これは、即退学の重罪だ。

 それと名座玲さん、あなたにも、してもらう事がある」

「……」

 召愛の手が震えている。

 拳が……硬く握りしめられている。

 

 今の召愛に、

『私とコッペは付き合ってるわけじゃない。これは浮気には当たらない』


 などと冷静に切りかすだけの、精神的な余裕があるだろうか……? 

「名座玲さん。派生条項810条ですよ。


 浮気行為の放任の禁止

 恋愛交際をしていると一般的に他者から見なされている者は、交際相手の浮気を放任せずに、告発しなければならない。違反した場合は、退学とする」

 男女交際をしていると一般的に他者から見なされている者。

 本人たちの意思に関係なく、他者から見なされるだけでオーケーってことだ。

 なら、俺と召愛は該当してしまう。


 となれば……。

 召愛がもし、ここで『私とコッペは別に付き合ってるわけじゃない』などと言い出してしまえば、俺の浮気容疑は無くなって助かるが、召愛は浮気の放任と見なされ、退学になってしまうってことだ。


 その逆に、『コッペを告発する』と言えば、

 召愛は助かるが、俺はめでたくゲームオーバー。


 この外道な選択を、召愛にやらせようってのか、こいつら……。


 召愛なら、俺を助けるために、自分の退学を選ぶと思って、こいつら、こんなことしてるんじゃないだろうな。


 いや、そうだ。

 目的は最初から召愛の排除。


 せめて、遊田が、

『あれが浮気でもなんでもない。単なる事故だ』と証言してくれれば……。


 なんて期待は、するだけ無駄だろう。

 召愛を追い込むチャンスを、あいつが見逃すわけがない。

「ちょっと、あんたたち!」

 遊田。ベッドの上で立ち上がり、【議員】たちを指をさして怒鳴った。


「あれのどこが、浮気なのよ。

 少女漫画で良くあるラッキーエロ展開でしょうが!」

 嘘だろ。

 お前、ほんとに……遊田なのか?


 俺はそんな事を思ってしまったよ。

 遊田の顔を、マジマジと見詰めてしまってた。

 遊田は、真剣な目だった。

 俺の言ってほしい台詞を、全て言ってくれた。

「しかし、遊田さん。

 本人たちがどう証言しようが、証拠としての信憑性は、

 物証であるこちらの画像が優越される。

 抗弁しようが、意味がないから止めるように」

「画像だって、あたしたちが、やってるよう見える瞬間だけを切り取ったインチキじゃない!」

「では、その瞬間だけを切り取ったと証明できる、物的な証拠を提出してください」

「そ、そんなの、あるわけないでしょうが!」

「ならば、黙ってるように、時間の無駄だ」

「こんなつまんない事で、コッペを退学になんかしたら、

 あんたら一生許さないからね!」

 遊田の悔し紛れの啖呵も、【議員】のリーダーにはどこ吹く風だ。

 彼は召愛へ鋭い視線を向けた。

「さあ、名座玲さん、どうするのです。

 コッペさんを告発し、あなたは保身を図ってもいい。


 もちろん、告発せずに、自らこの学校から退場しても、万々歳だ。

 ほら、早く選んだらどうだ」

 どうするんだ、召愛?

 どう決断する?

「……」

 召愛は無言だった。


 立ち尽くしたまま、何を思ったのか、ふとスマホを取り出したよ。

 そして、何やらいじり始めた。


 メールを打ってるとか、そういう雰囲気でもない。

 顔を俯かせ、画面を凝視して、ひらすらに指先だけを動かしている。

「何をしてる!」

 苛立ったリーダー【議員】が詰め寄った。


 しかし、召愛は無視。代わりに俺へこう言った。

「コッペ、君の体重は何キロだ?」

「ご、59キロ、だけど……?」

 いきなりすぎて、普通に答えちゃったが、いったいなんだ?

「無視するなと言っている!」

「誤魔化せるつもりなの?」
「早く、答えろ!」
「やれやれ、結局は、バカな一般生徒を口先八丁で騙すだけの小物だったんじゃないか」
「そのようだな。追い詰められれば、この通り。

 ただ黙秘を決め込んで誤魔化しているだけの、でくの坊だ」

 そこで召愛はやっとスマホをいじるのを止めた。

【議員】たちへ顔を上げ、言った。

「基本条項610条。


『助け合いの義務。

 弱者には、手を差し伸べること。

 また、けが人や急病人を見かけたら、可能な限りの協力をすること。

 十分な余裕があるにも関わらずこれを怠った場合、退学とする』


 そこで諸君らに問う。

 なぜ、コッペが助けを求めたとき、諸君らは協力しなかったのか。

 不愉快極まる写真を撮る余裕がありながらだ」


    ――!!


   ――!!


     ――!!


      ――!!

  


     一気に、だった。【議員】たちの顔が青ざめた


「だ、だが、そんな証拠はない。

 救護を怠ったという証拠がなければ、ただの言いがかりだぞ!」

「体育倉庫に防犯カメラがないのは、

 私も以前、ある事情で、そこを使おうとしたから、確認している。


 だが、体育館にはある


 その時刻に、諸君らが、倉庫の入り口付近から撮影している様子が映っているだろう。

 さらには、一人でイスカさんを負ぶって歩くコッペの姿も確認できるはずだ。


 もう少しだけ、諸君らが冷静だったら、こんな凡ミスはしなかったのだろうが、よっぽど、私を退学に追い込めるチャンスを掴んだ事が、嬉しかったのか?


 なんにせよ――


 諸君らは詰んでいるようだが?」

「……」
「……」
「……」
「……」
 狼狽え始めた【議員】たち。

 みんな顔を見合わせ、召愛へ怯えた目を向けている。

「ちなみに、諸君らの質問に答えておこう。


 私は、別にコッペと付き合ってるわけじゃない。

 だから、彼を浮気で告発するのは筋違いだ。


 しかし、これだと、『浮気の放任』になってしまうのだったか?」

「そ、そうだ……。

 お前たちは、ど、どう見ても、付き合ってるじゃないか」

「ならば、私を彩にでも告発してくれ。

 取り調べに素直に応じ、洗いざらい事の顛末を供述する。


 もちろん、その過程で諸君らのしたことも、余さず話すことになってしまうだろう」


           勝負あり、だった。
「え、だって、おい、それは、いや……。違う、こんなの……!」
「わ、私は、そいつに撮影しろって言われたから、しただけで。

 嫌……こんな事で、退学なんて嫌!」

「な、何を言ってるんだ。お前だって、やる気満々だっただろう!」
「ボクは悪くない。これを計画したのは、全部そいつだから。

 本当だ。嘘じゃない。だから、ゆるして!」

「終わりだ……。ははは、退学とか、どーすんだよ……?」


 そこで、召愛は止めの一言を放った。


私と刺し違えてまで、貫くべき正義がある者だけ、ここへ残り、私を彩の所へ連行するがいい

 そして、召愛はもう、【議員】たちの事など、どうでもいい、とばかりに、再びスマホをいじり始めた。

「もういや……こんなの……やってらんない!」
 最初の一人が逃げ出した。
「ぼ、ボクも、卒業は、したいからさ……!」
 二人目が逃げ出した。
「……………」
 三人目は無言で逃げ出した。


 するとだった。

 堰を切ったように、 

 他の【議員】たちも、次々と逃げ去っていったよ。


 最後に残ったのはリーダーの男。

「あいつら……。あいつらぁあ!

 くそっ、くそっ、くそぉお!」

 などと、何度も罵倒を吐き、現実を認められないとばかりに、首を激しく振ってから、意気消沈した様子で去って行った。



「おーい。さっきの画像は消しといた方がいいと思うぞー。

 お前ら自身の首を絞める証拠になっちまうだろうしな」

 その後も、召愛はスマホを熱心にいじってたんだ。

「な、なあ、召愛」

「なんだ、コッペ?


 ん。


 おや、彼らはどうしたんだ。誰も残ってないのか?」

「見ての通りよ。

 正義だなんだって大声で言ってる奴らほど、あんなもんよね」

「そうか、少し残念ではあるな。

 彩はあのような者たちに囲まれていたら、さぞ孤独だろう」

「あー、ところで、召愛。ずっとスマホで何やってたんだ」

「ああ、これか?

 ちょっと調べ物をしていただけだ」

「なんの調べ物だよ?」

 すると、召愛はとてもニコニコしながら、こう答えた。


「体重59キロの男性に、

 どんな毒物一日何グラム与えるとどのような症状がでるかを、ググってた。


 すぐ死なさず、ただの体調不良と勘違いさせて、長期間を苦しめるには、どの毒物を選べば良いか、知りたかったんだ。


 それと平行して、『男性が好きなお弁当のおかずランキング』というレシピをダウンロードしてただけだ。


 コッペは気にしなくて良い。


 君が誰とキスをしようが、私には関係の無い話しだし――

 別に、謝ったりもしなくていいぞ?」


「――す、すみませんでしたー!!!」


    俺は理不尽な気がしつつもフライング空中三回転土下座した。












「ダサ……」

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