超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

義のため迫害された人たちは幸いである。動画コメントは彼らの味方になるのだから。

エピソードの総文字数=4,198文字

 5月9日。


 今日、生徒会長選挙の立候補の届け出が、昼休み中に解禁される。


 朝。

 俺と召愛は、二人だけで寮から登校した。

 羽里は選挙の準備のために、早めに出勤した。


 俺たちは一ヶ月間みっちりと、羽里から密着指導されたおかげで、二人だけでもうっかり校則違反をおかすリスクが、ほぼ無くなっているのだ。


 そして。

 昇降口まで来た時に、違和感に気づいた。

 他の生徒たちからの視線の違和感だ。

 特に女子たちから召愛に向けられる目に、明らかに敵意が含まれている。 

「……」
「……」
「……」
「……」
「ふん……」

 いったい、何があった?


 いや、考えるまでもない。

 たぶん昨日の召愛の、炊き出し会場での大立ち回り騒動だ。

 あれはワイドショーで生放送されていた。

 そのせいで、何かしらの悪い反響を呼んでしまっているのではないか。


 俺はそう考えて、トイレに行く振りをして、召愛から離れ、廊下の曲がり角で、スマホで検索した。『名座玲召愛』とだ。


 すると……とんでもない数の検索結果がヒットした。

 動画投稿サイトにもワイドショーの生放送を録画した動画が、いくつもある。


 そこに寄せられたコメントのほぼ全てが、召愛を賞賛するもので、ヒロインの扱いになってしまっていた。

 

 羽里学園と無関係の第三者から見れば、『悪徳テレビ局をやっつける正義の美人女子高生』的なイメージなんだろう。


 しかし……。

 その逆に、三角巾などを外したりして、悪役にされてしまった羽里学園の女子たちにとって、召愛は――

(いや、けど、なんで、名前がネットにバレてんだ?)

 あの場で召愛の名前はクラスメイト以外に知られてないはず。


 なのに、なんでだ? 

 

 ――と思って、検索結果を良く見たらだ。

 大手の匿名掲示板にスレッドが建てられてた。


 そこには、召愛の名前をはじめとして、出席番号などの個人情報が晒されていた。

 そこには、召愛に対する罵詈雑言が殴り書かれており、画像もいっぱい張られていた。


 ほとんどが校内で撮られた物で、明らかに羽里学生の仕業だ。

 召愛と俺が首を紐で繋いだ画像まであった。

 クラスメイトまで、荷担してるってことだ……。


 スレッドは、こんな有様だった。

 2 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:06:59

    >>1

   この個人情報、本物なん?

 勝手に上げたらやばくね?

3 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:07:07

    ていうか名前なんだよこれwww

    召愛とかキラキラすぎて草不可避

    絶対これ、作っただろ

4:名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:07:09

    写真もいろいろおかしい

  ガイジなのこいつ?

    首に紐繋いでる男は何?


5 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:08:12

    >>4

    こいつはガチでおかしい奴だよ

    学校でも有名人で滅茶苦茶浮いてる

    男は弟子()とか呼ばれてる

    召愛がヤラせて取り巻きにしたらしい

    こいつも偽善者で、現地の女子高生へ不正に炊き出し品を持ってってた

    鼻の下をめっちゃ伸ばしながら

    

    >>3

    名簿の画像もアップされてるだろ

    よく見ろ本物だ

6 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:07:46

    >>5

    お前>>1だろ

    学校関係者なの?

7 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:08:22

    >>6

    むしろ学校のみんな怒ってる

    召愛はマスゴミ叩いて正義ぶってるくせに、マスゴミ使って自分だけ一番目立ってる

    三角巾外した子とか、言われてそうしただけなのに、悪者にされてる

    それをダシにして、あいつだけヒロイン扱い

8 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:09:00

    >>7

    僻み乙

 9 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:09:18

    ワロタ 羽里学園とか中身は真っ黒のドロドロじゃねえかっwwww

    いいぞ、もっと肉染み合え

    ていうか誰か弟子(笑)に突っ込んでやれ

10 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:10:36

    お前ら、この学校の裏サイト行ってみろ

    もっと面白いもの見れるぞ 

    祭りやってる

 11 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:11:01

         学校裏サイトとか都市伝説だろ

12 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:11:45

    >>11

    ぐぐれかす

 13 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:12:16

    羽里学園 裏サイト でぐぐっても出てこないんだが

14:名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:013:06

     >>13

    情弱すぎで草

    頭使えよ幼卒

15 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:14:11

    裏サイトやべえ面白いwwww

    高坊が無限ループで煽り合ってて地獄絵図っwwwww

    みんなでウォッチしようぜ

16 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:15:32

    見てきた

    羽里学生とかマスゴミでは英雄扱いされてるけど、普通にクズの巣窟じゃん

17 :名無し君がお送りしてます :2017/05/08(月) 19:16:28

    >>17

    クズの巣窟ってより、もはや魔界だろこれ

 ――とまあ、酷い有様だ……。

「なるほど」

 すぐ後ろで召愛の声がしたよ。

 びっくりした。俺のスマホの画面を覗き込んでやがった。

「こういう事だったか……」

「おい、召愛。あんま気にするなよ。ただの逆恨みだ。

 ヒロインになっちまったから、妬んでる奴が――」

 そこまで言って、俺は召愛の人差し指で、唇を押さえられてしまった。

「私がやるべき事は、これをした者たちを責めることではない。

 彼らの心を救うことだ」

「救うって、お前な……。この魔界の住人たちをか?」

「私は、むしろ奮い立っている。

 生徒会長になり、この学校を救わねばならない。

 その日まで共に戦おう、コッペ」

「俺は選挙は手伝わないって、言っただろ……。

 立候補に反対してるの忘れてないか」

「そう、だったな。

 では、君はいつもどおり、私の側に居てくれれば、それでいい」

「それはともかくとして――」

 廊下で行き交うほぼ全ての生徒たちが、俺たちへ、ネガティブなニュアンスが含まれた視線を投げかけてくる。


 中には、あからさまに俺たちを見ながらゴニョゴニョとやってたり、指をさして雑言を曰う奴までいる。

「単なる、逆恨みだとは分かってても、居心地が良いもんじゃないな」

「コッペ。胸を張って教室へ行こう。

 私たちは誰に恥じる事もしていない」

 お前はそうだろうな。

 だが、俺はただの、鼻の下伸ばしながら、不正にお菓子を女子高生へ配った偽善者だぞ。


 どこに胸を張れる要素がある。

 で。

 俺たちが教室に入った途端だ。

 クラスメイトたちの冷たい視線が一斉に出迎えてくれた。

「……」
「……」
「……」
「……」

 俺は気にしない振りをして、自分の席へ歩いたよ。

 畜生。

 俺をそんな目で見るんじゃない。


 男子ども、お前らだって、俺と同じことをしてたろ。

 女子ども、アイドルになったつもりでスマイルしちゃいながら、手振ってた痛々しい姿を俺は忘れてないぞ。


 ああ、クソ。なんたるドロドロ。

 これじゃ、クズ同士が責め合ってる――まさに魔界じゃないか。

 なあ、召愛。教えてくれよ。こんな下等生物どもを、どうやって救うってんだ?

「みんな、おはよう!」

 いきなりだった。

 召愛はすんげえ大声で挨拶した。クラス中が呆気にとられたよ。


 んで、召愛は、睨み気味にしてた女子の前に立った。

「――?」

 この女子は、昨日まさに三角巾を外していたところを、召愛に注意された者の一人だ。

 しかも、召愛がロープを振り回してた時に、運悪く、一番目立つ所に立って居たせいで、カメラに映りまくり、悪い意味で世間に顔が広く知られてしまった奴だ。

 

 言ってみれば、〝晒し犯〟の有力容疑者の一人と言ってもいい。

「おはよう。遊田イスカさん」

 パーフェクトな微笑みでそう言った。

 その微笑みは、人工的に作られた物ではなく、ごく自然に笑顔になっていると感じさせるような物だった。


 そんな風に屈託なく挨拶されてしまえば、どうなる。

「お……おは、よ、う」

 召愛はそれに対してニッコリ笑って答え、次のクラスメイトの前へ行き、また名前を呼んで、挨拶した。

 そうして一人ひとり、余さず挨拶し倒した。


 中には挨拶を返してこない奴もいたし、茶化したり、馬鹿にするような態度を取る奴もいたが、概ねでまっとうな朝の挨拶が成立してしまった。


 召愛VSクラスメイトの、当てつけ合戦第一ラウンドは、召愛の完勝だ。

 悠々と自分の席へ凱旋してくる召愛。

 俺は苦笑いでそれを出迎えた。

「お前やっぱすごいな。

 一発で圧倒しちまった。お前の勝ちだよ」

「圧倒? 勝ち? なんのことだ。

 みんな気持ちよく挨拶してくれた」

 キョトンとして召愛は訊き返してくるわけだ。

 こいつ……まさか、さっきの挨拶。あてつけじゃなく、素でやってたのか……?


 いや、冷静になれ俺。まさかも、何もないだろ。

 こいつは、召愛さん野郎だぞ。


 素以外でやるわけがない。

 きっと、クラスの皆へ、自分は誰も責めないし、怨んでいないと教えたかっただけなのだと思う。


 なのに、なんで俺は当てつけだなんて、感じちまったんだ?

「なに、あの当てつけ、余裕ぶっちゃってさ」

 そうか、と俺は自覚したよ。


(俺はあいつらと同じなんだな……)

【みなさん、おはようございます】

 校内放送だった。羽里の声だ。

【本日、12時15分より、

 初代生徒会長選挙の、立候補の受付が開始されます。

 希望する生徒は、この時間以降に理事長室まで、届け出に来てください】

 いよいよ、始まる。

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