ままならぬ日々

完成度が低い小説

エピソードの総文字数=1,088文字

あなたの小説は完成度が低い
 先生はそうおっしゃった。金賞をとった私の小説に対する評価がそれだった。
(金賞に値すると評価を下した審査員は、他ならぬ先生なのに……)
まあ、意味がないとは言いませんが
(先生が言う「意味がないとは言わない」とは、「無意味だという意味がある」という意味なのだろうか)
……丁寧なご批評、ありがとうございました

 丁重に礼を述べ、先生の自宅を後にした。


 その足で田畑さん宅のビニールハウスまで行った。一匹の子ヤギが繋がれている。

ほら。完成度は低いけど、意味はある小説よ
 原稿を与えると、子ヤギはあっという間に平らげた。しかし完成度の低さが災いし、子ヤギの体は歪に歪んでしまった。
(大変なことをしてしまった。……推敲をしなければ)
 子ヤギを続け様に平手打ちする。打擲するたびに、子ヤギの体は徐々に平べったくなっていき、最終的には原稿用紙の束と化した。書かれている文字を読んでみると、
(先生から金賞をもらい、「完成度が低い」と評された私の小説だ)
 原稿を胸に抱えて先生の自宅に引き返し、読んでもらった。
金賞に値するが、完成度が低いね

 私は堪らなく恥ずかしくなり、挨拶の言葉も口にせずに先生の自宅を去った。


 帰り道をとぼとぼと歩いていると、道が続いているはずの場所が川になっていて、小型の木船が川面に浮かんでいる。

……乗ってみよう
 乗り込むと、木船はひとりでに進み始めた。人間がゆっくりと歩く程度の速度だ。
(右に曲がれ)
木船は右に曲がる。
(止まれ)
木船は停止する。
(時空を超えて、別の川へ)
 周囲の景色は一変し、木船は先程までとは違う川を進んでいる。
(なるほど。この木船は、私の意のままに操ることができるのね。この木船なら――)
あれは私小説だね
 いきなり川岸にいた人が声をかけてきた。嬉しさと照れくささ、両方が込み上げた。さらに水上を進むと、
あれは私小説だね

 再び川岸にいた人が声をかけてきた。同じ声、同じ外見だったが、さっきの人とは別人らしい。照れくさかったが嬉しかった。さらに水上を進んだ。


 時々「あれは私小説だね」と声をかけてくれる人に出会い、嬉しくも照れくさくもある気持ちになりながら川をひた進んでいると、やがて砂浜に辿り着いた。

(別の川に瞬間移動しようかな?)

 迷ったが、着岸し、砂浜に降り立つ。やけに巨大で立体的な砂の城が作ってあったので、裏口から城内に足を踏み入れると、そこは私の自室だった。

 部屋の中央に見知らぬ卓袱台が置かれている。その上には何枚もの白紙の原稿用紙が用意されている。

(……なるほど。だから私は、木船を意のままに操ることができたのね)

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