超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

人の罪を赦すなら、あなたの罪も赦されループに入ります。②

エピソードの総文字数=2,716文字

 ところがだった。


 その放課後だった。

 寮に帰ったあとから、召愛に奇妙な電話が掛かってくるようになった。

 それは例えば。

【今夜19時から会えませんか。

 好きなご飯付きで、22時までで3万で。

 あ、もちろんタクシー代はこっちで出します】

やら。

《専属契約、週3で、お散歩は時給制で

 月、80万で良ければお願いします》

 などと、いずれ中年男性で、名乗りもせずに、いきなりそんな事を言ってきたという。

「いったいなんだろう。わかるかコッペ?」

 俺はわかってしまった。

(そりゃ援交の申し出だろう……)

 たぶんだが、盗まれたポスターが最悪の使われ方をしている。

 例えば、あのポスターに、援助交際相手を募集する旨と、電話番号を書き込んで町中に貼り付けておく、とかだ。


 我ながら下卑た発想だが、嫌がらせをする側としては、これ以上に面白いポスターの使い方もないだろう。

 

 生徒会長候補が援助交際相手を募集してたらどうだ?

 しかも話題の羽里高生で、炊き出し騒動の時にテレビに登場した召愛その人とくれば、ろくでもないおっさんたちにとっては、これほど、そそるものも無いだろうしな。


 度を超した悪行だ。


 普通に召愛が売春事案の重要参考人になっちまいかねない。

 こればっかりは、我慢してればそれで済むという問題じゃなくなる。

 俺は召愛を説得して羽里へ相談させたよ。



 そして、日没後、羽里から連絡が来た。

 学校の警備職員に駅前を捜索させたところ、やはり俺が懸念した通りのポスターをいくつか発見し、剥がしてきたそうだ。









「これはもはや、個人間トラブルを超えた問題となりました」

 貼られてたポスターを持って、俺たちの寮へ報告に来た羽里は、玄関先でそう言ったよ。

「被害者本人への加害のみならず、地域社会へ悪影響を与える行為は、見過ごすわけにはいきません。今朝の防犯カメラデータから、ポスターを窃盗した生徒を既に、割り出しています。


 明日、その生徒が犯行を認め次第、退学処分とします」









 翌朝。


 いつもの登校時間よりも、ずっと早い時間に、俺たちは羽里から電話で呼び出された。

 生活相談室に行ったよ。

 俺もポスターを盗まれた時に現場に居た人間だから、一緒にだ。


 そこには、羽里ともう一人、クラスメイトの女子が待ってた。

「……」

 おそらく……犯人として連れて来られたのであろう、本人だ。

 そいつの顔を見た瞬間、俺は動機を理解してしまった。


 炊き出し事件の時に、三角巾とマスクを外して、カウンターに居た一人で、運悪く一番目立つ所に立ってしまっていた奴だ。


 そのせいで、事件直後の動画サイトのコメントなどでは、クラスの誰よりも悪役として罵詈雑言を浴びせられることになってしまった。


 逆恨みと言ってしまえば、それまでだが、気持ちだけなら、わからんでもない。

 名前は確か……遊田イスカ。

「遊田さんのロッカーを任意で点検したところ、このような物が出て来ました」

 会議机の上に紙袋と、その中身であったらしい、召愛の選挙ポスターが置かれていた。

「知っての通り、この学校のロッカーは、使用者当人にしか開けられません。それが何を意味するのか、言うまでもないでしょう」

「なるほど。それで、イスカさんは、なんと言っているのだろうか?」

「彼女は黙秘を続けています」

「ふん……!」

 遊田は召愛を睨み付けてたよ。

「では私たちは、何のために、ここに呼び出されたのだろうか?」

「このポスターが、あなたの物であると確認してください。

 遊田さんの窃盗が確定します」

「もう一つ聞きたい。

 私のポスターに援助交際を募集する旨を書き込んで、街に貼り付けた事に関しては、どうなる?」

「このポスターを持っていたのが、遊田さん以外に居ない事が確認できれば、街に張った犯人も遊田さんであると、確定することになります」

「全て把握した」

「では、召愛、問います。

 このポスターはあなたの物ですか?」

「その通りだ」

「では、これは遊田さんによる窃盗案件という事になります。

 被害届けをだしてください」

「窃盗? なんの事だか、わからない。

 そのポスターは、私がイスカさんに、預けたものだ」

「――!」

「な……」

 羽里は呆気にとられて、絶句したよ。

 でもそれ以上に驚いていたのは、遊田の方だ。


 さっきまで召愛を険しい目で睨んでいたのに、今は何が起こったのかまったく把握できていなそうに、目を白黒させてしまってる。

「……」

(まったく、こいつはなぁ……)

 まあ、召愛さん野郎なら、こんな事を言い出すだろうとは思ってた。


「何を馬鹿な。

 預けたって、いったい何のためにと言うのですか!」

「そりゃ、決まってんだろ羽里。

 俺たちの選挙陣営が、あまりに貧弱だから、飛び入りでポスター貼りを手伝ってくれる事になったんだ。そうだよな、召愛」

「コッペの言うとおりだ」

「そうだよな、遊田?」

「へ……?」

 あまりの事に、遊田はまったく反応できない様子。

 でも、すぐに気を取り直して。

「そ、そうよ。

 名座玲召愛は、独善的で、協調性の欠片もなくて、ええ格好しいで、他人を踏みつけても何も思わないサイコパスで、みんなから嫌われまくってるから、お情けで、あたしが助けて上げようとしてあげたのよ!」

 その調子だ。

 まったく遊田よ。とんでもない事をやらかしてくれたもんだが、召愛本人がこれじゃあ、俺からの怨み節を、お前にぶつける意味もない。


 恩を着せるつもりもないが、ここは上手く切り抜けてくれ。

 やれやれな事に、それが被害者本人の望みらしいからな。


「で、でも、そう言い張るなら、なぜポスターを悪用したのですか!」

「あー、すまん。それなんだけどな。

 俺が学校の外で印刷した時に、コピー機に何枚か置き忘れてきちまったみたいなんだ。たぶん、それを悪ガキにでも拾われたんだろう」

 もちろん嘘だが、ポスターを持ってる可能性があるのが、遊田だけじゃなくなれば、誰が悪用したかは証明できなくなる。

「そういう事なんだ、彩。

 私たちのために、骨を折ってくれたのは感謝する。

 だが、これで収めてはくれないだろうか」

「召愛、あなた、何をされたか……わかっているの?」

「誰でもパンを食べながら、誰かに激突するし、されることもある。

 そういう事だと理解している。

 そして、重ねて言うが彩。私を気遣ってくれて、ありがとう」

「念のために言っておきますが。

 生活指導の場において、虚偽証言があった場合、停学半年が加重される事になります。召愛、コッペ君は、当然、退学となります。


 本当に、これらの証言を撤回しなくても良いのですね?」

「撤回はしない」

(やれやれだな)

 俺も肩を竦めて、頷くしかなかった。

「……ふん!」

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