黄昏のクレイドリア

0-3

エピソードの総文字数=1,916文字

<ライザー邸、地下室>

あぁ、最高だ……!

まさかぼくに、

アーティファクトが

与えられるなんて!

どれだけ魔術を使っても、

魔力が宝石から溢れてくる……

もっと、練習できる……

自身が炎に巻かれているのにも関わらず、

男は出力を上げ続ける。

不思議なことに、玉の汗こそ

浮かんでいるものの、

火傷などの外傷は見当たらない。


……そうだ、

帰ってきたら、これであの

口うるさい親父を……。

人気のない空間で、赤色の宝石を

見つめながらぶつぶつと

独り言を口にし続ける男の傍らには、

黒く焦げ、横たわった遺体が折り重なっていた。









<ライザー邸までの道中、馬車にて>


朝もやのかかる林の中、

3人を乗せた馬車が

馬と共に霧を

かきわけながら進んでいく。

…………。
…………。

二人の騎士は厳めしい鎧ではなく、

魔術師の目を欺くために、

素朴な普段着に身を包んでいた。

うー、さぶさぶ

カノンはほんのりと

白んだ息をはきながら呟くと、

外套で身をくるめる。


沈黙が破れたことを好機ととったのか、

馬を進めていたレイモンドは口を開いた。

……カノン殿、この度は

私たちにご助力いただき、

感謝申し上げます。

しかし……

本当に、貴女お一人で

作戦を決行するおつもりですか

今朝もそう言ったでしょ。

そのほうが、一番被害が少なくて済むの。

…………。

昨日からずっと

睨みつけてくる騎士さんも、

自分の命は惜しいみたいだしね。

貴様、言わせておけば……!
ユーリ!

隊長! 私はまだ納得いきません。

この女が、かの高尚な

『常勝の女神』など!

理想と違ってごめんなさいねー。

あんたが聞いた噂は

どんなのだったか知らないけど、

その『女神サマ』、髪の長い美人だの、

空も飛ぶだの、好き勝手言われてるだけから。

実際、ユーリが聞いた噂は

女神と見まごう美しい女性が兵を導き、

加護によって敵を薙ぎ払ったという内容だった。


神話のような語りに一抹の疑念を感じながらも、

そんな人間の下で戦い、勝利するのは格別だろうと、

ひそかに胸を躍らせていたのだった。

……、おまけに

口の利き方もなってない

しかし、一たび会ってみれば、

その正体は自身と大して歳の変わらない、

口うるさい娘だったのだ。

落胆という感情以上に、

本物かどうか疑いたくなるのも当然だと、

ユーリは自身に言い聞かせる。

ユーリ。

不安なのはわかるが……

私たちは、私たちの

人事を尽くすだけだ。

……はい。

隊長も隊長だ。

若い女に作戦の全権を任せるなど、

騎士としての矜持はないのだろうか?


とはいえ、自分たちへ

容赦なく放たれた炎に、

成す術もなく撤退したのは確かで、

自身も何か、事態を打開できる作戦を

思いつけるわけでもなかったのだった。

……到着しました。
……ふむ、

レイモンドの言葉の後に、馬車が止まると。

カノンは立ち上がって外を見遣る。

そうして罪人の魔術師が住むであろう

邸宅を一望すると、さっさと馬車から降りて行った。


そして、騎士の二人へ

作戦開始だと合図するようにそれぞれ一瞥すると、

門の前へ歩みを進める。

ごめんください!

ネイト=ライザー卿は

いらっしゃいますか?

…………。

門越しに目の前の邸宅へと声をかける。

暫くすると、開かれた門戸から一人の男が姿を現した。

はいはい、ぼくがネイトですが、

一体何の用事でしょうか?

(……ネイト自ら出迎えだと?

 もう誰も……使用人も洗濯婦も、

 残っていないという事か……?!)

突然の訪問で失礼いたしました。

私はカノン・ルアルディ。しがない旅人です。


この度は、花の町シェズ有数の……

卿の誇る"花園"を見学する許可を戴きたく、

足を運んだ次第でございます。

ほう! 町の花園で満足せずに、

ぼくのガーデンまでご存知とは珍しい。

えぇ! 以前お会いした

吟遊詩人の方が、

花の町シェズへ赴いたのなら、

花を愛するネイト卿のお庭を訪ねると良いと、

その素晴らしさを、歌にして伝えてくださったのです。

おぉ、あの時

足を運んでくれた彼がそんな歌を!

ただの趣味で手入れを

していたガーデンでしたが、

いやはや、嬉しいものですね。

…………。

ネイトは一見、温厚な男性に見える。

玄関先で続く他愛ない会話を、

青年は居心地悪く聞いていた。


……して、後ろの方々も

見学希望の方々ですかな?

御者の方々です。

早く卿のお庭を見たいと無理を言って、

町に着いてからそのまま馬を出してもらったんです。

はっはっは、

そういうことでしたか。

お転婆なお嬢さんだ。

そういう事なら、皆さん

さぞお疲れでしょう。

お茶を飲んで休憩してから、

ガーデンの見学はいかがでしょうか。

よろしいのですか?

ありがとうございます!

なんと……

それでは、卿の

ご厚意に甘えさせていただきます。

あっ、ありがとうございます

予想外の申し出に驚きながらも、

彼の提案を受け、開かれた門から

屋敷へと足を踏み入れていった。

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