超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

自分の義を見られるために人の前で行わないように注意しないと正妻がブチ切れる件 ③

エピソードの総文字数=4,659文字

 帰りたい気分だったね。

 帰って、昼寝でもしちまいたい気分だった。


 だけど、日没までのあと数時間、この避難所となった女子校で凌がなきゃいけない。

 できるだけ何も考えないようにして、ひたすら肉体労働に勤しんだ。

「チョコレートシロップ15リットルぅう!」
「生卵30パックぅう!」
「グラニュー糖20キロぉお!」

 そして、三時近くになってからだ。

 再び、キッチンテント前に行列ができはじめていた。

 おやつの時間ってやつだ。


 けど、空模様が大きく崩れかけていて、雨脚が強まりだしてきていた。

 行列の人らはみんな傘をさして並んでる。


 そんな混雑した中で、異質な雰囲気の集団が校庭に入って来ていた。

 五人程度のグループが、四組ほどだ。

 テレビ局の取材班だった。

 一様にテレビカメラとか、マイクなんかを持ってる。

「なんだよ、ひでえ雨じゃんか。ったく、ついてねえなあ」

 テレビスタッフの中で、なんとなく偉そうな態度で歩いてるおっさんが、そんな事をぼやいてた。

 たぶん、ディレクターとか、そういう立場の人なんであろう。

「あ、ねえ、ちょっと君」

 なんか、いきなり声かけられた。

 また取材かなんかか?

「レインコートとかない?」

「その手の援助品は被災者の方たち分しかないんで、すみません」

「ちっ」

 なんだこいつ……。

 モロに舌打ちしやがったぜ?

「君たち羽里学生でしょ。

 ボランティアじゃないの? 

 うちらにもボランティアしよう?

 本気で言ってるのか?

 だとしたら、救いようのないアホだ。


 被災地に外部から来るなら、必要なものを、全て持参するのが鉄則だ。

 助けに来る側が現地の物資を食いつぶしては本末転倒になる。

(やれやれ……)

 俺は肩だけ竦めて、スルーした。

 すると、おっさん。

「ちっ」

 また舌打ち。

「ったく、何様だよ。

 てめえらのオママゴトを取材しに来てやったのに」

 おっさん、捨て台詞を吐いて、キッチンテントに近づいて行ったよ。

 俺のクラスのだ。


 んで、お菓子を渡すためのカウンターに行って。

「すみませーん。

 生放送の取材、今からするんで、ご協力おねがいしまーす」

 とかダルそうな声で言いながら、避難者たちが並んでるところの最前列に割り込んじまいやがった。

「時間押しちゃってるんで、早く、どいて貰えませんかねえ」

 被災者の人らは、いったい何なのかよく分かってない様子で、一端は言われるままにカウンターから下がったが、腑に落ちないという顔で取材班を見てる。

 雨に打たれる中でだ。


 んで、おっさん、カウンターで菓子を配る作業をしてた女子たちに言った。

「あ、君ら可愛いじゃん。

 じゃ、この子らの絵でいこう。クラス全員ここ並んでね。

 あと、取ろうかそれ、取ってくれる?」

 女子たちは何を言われたのか理解できないみたいで、顔を見合わせてる。

「……?」
「……?」

「マスクと三角巾だよ。そんなんでテレビ映るつもり?」

「え……でも」
「あの、それはちょっと……」

 女子たちは二時間ほど前に召愛に注意されたばかりだ。

 躊躇っているが。

「芸能事務所が、羽里学生に目付けてるの知らない? 

 業界関係者も、こういう映像、見てるからね。

 君らレベルなら、あり得なくもないんじゃない?」

「えー、どうしよー」

「ね、ねー」

 なんて一見、困った風に女子たちは言い合ってるが、ヘラヘラしちゃって、結局、外したね。

 マスクも三角巾も。

 そして、大慌てで手櫛で髪を直したりしちゃってだ。

 キッチン担当の女子全員、十名ほどがカウンターへ並んだ。

「ふふっ」
「えへへ」
「い、いいのかなあ……」
「別に、大丈夫っしょ、これくらい」
「じゃ、こっちの映像、スタジオに回すから、スタンバイね」

 カメラとマイクがカウンターに近寄ったよ。

 並んでた避難者たちの行列は、もちろん雨の中で止められたままだ。

 みんな、これはおかしいと感じ始めてるようで、抗議の声を上げる人も出始めた。

「あの、なんかこれ、おかしくないですか?」
「なんで、テレビの取材を優先するの? 二十分も並んでたのに」

なんだよ!」

 見事な逆ギレ。

「わかんないの?

 あんたらのために来てやってんだよ。

 テレビで映せば、もっと義援金とか来るでしょ。

 ほんと、なんなの、静かにして?」

 おっさんの肩を若いスタッフが叩いたよ。「十秒前です」とか合図してる。

 リポーターがマイクを持ってカウンターの前に立った。

 偶然にもこの前、俺をインタビューした局アナっぽいリポーターだ。

 同じワイドショーの取材班なのだろう。


 そして、おっさんが放送開始までのカウントダウンを数えて、

 ゼロになった時、リポーターは喋りだした。

「はい。

 こちら避難所になっている高校のグラウンドです。

 今日はですね。羽里学園の生徒さんたちが、こちらに炊き出しに来ているということで――」

 そこで、カメラはカウンターの女子たちにフォーカスされた。

 アイドルにでもなったつもりで、スマイルしちゃって、手を振っちゃってます。 


     ニコッ――


     キャピッ――

「は、はわわ……」


     キリッ――

「炊き出しの品というのが、なんと、ですね。

 こちら、高給スイーツなんですよ~。

 とても美味しいと評判で、では、一つ頂いてみましょう!」

 リポーターがウキウキした声を作ってそう言い、カウンターに置いてあったマドレーヌを手に取った。


 でもラップで厳重に包装してあるせいで、なかなか解けずに手間取ってしまい、放送事故っぽい感じになってきてしまった。

なんだよ、、早くしてよ早く」

「――!」

 おっさんのボヤキにレポーターが焦ってしまい、

 強引にラップを引き千切ろうとしたらだ。


 勢い余ってマドレーヌはぶっ飛び、雨で濡れたグラウンドに落下。

「ア……す、すみません。

 もう一個、よろしいでしょうか」

 が、相当に焦ってたようで、カメラ目線のまま震える手をカウンターの上に伸ばしたら、多くの菓子を、弾き飛ばすようにして地面へ落としてしまったのだ。


 行列を作っている避難者に配るはずのものを、何十人分かを台無しにしやがった。

 このせいで、ただでも伸びてる行列が、さらに伸びることになるだろう。

 それに構わず、なおも、リポートを続けようとするわけで。


 俺は自分が握り拳を作ってるのを感じたよ。硬く、硬くだ。

「早くって言ってるだろ、手伝えよ、カウンターに居るノータリンのメスガキども、開けるの手伝えや、何やってんだよ。これだから素人は……!」

 なんてブツブツ言ってるおっさんを、合法的にぶん殴れる手段があったら、迷わずそうしてたと思う。


 だから、俺は息を大きく吸い込み、怒鳴りつけようと――

「――
 が、俺よりも一瞬だけ早く――

「止めないか!」

 召愛、だった。

 空の紙袋を持って帰って来た召愛が、いつの間にか俺のすぐ後ろに居て、テレビ局スタッフへ叫んだのだ。

「今すぐ、それを止めろ!」

 髪を雨に濡らした召愛の目は、キッチンテントの中でアイドル気取りだった女子たちをも、睨み付けている。


 そして、カウンターへ駆け寄り、リポーターに詰めよって召愛は言った。

去れ。ここはあなたのための場所ではない」

「え、あ、あの、ええと……」

 リポーター、完全にテンパって、何も言えない。

 立ちすくんでしまい。動けない。


 召愛、らちがあかないと思ったのか、近くに置いてあったテント用の予備ロープを手に取り、それを鞭のようにして、地面を打ち付け、威嚇。

去れと言っている!」

 リポーター、後ずさった。

 召愛、カメラへ向けて迫っていく。

「いったんスタジオに返して、早く、映像返しちゃって!」

 おっさんはカメラマンの服を引っ張って、下がらせたよ。


 カウンターの前は、再び、空いた。

 召愛はそこで、行列の避難者たちに体を向け、頭を深々と下げた。

「みなさん。騒がせて申し訳なかった。

 ここは、あなた方のための場所だ。

 さあ、存分に、楽しんでいってください。


 それと彼らの過ちを過分に責めずに帰らせてあげるよう、私から頼みます。負うべき責は法によるべきだ。つるし上げなどは、しないでやって欲しい」

 拍手が起こったよ。避難者の人たちから、拍手が巻き起こった。

「よくやった!」
「ありがとうね」
「助かったわあ……」

「……」

 拍手へと、召愛は、微笑むだけして答えた。

 そして紙袋にチラシを補充し、レインコートを着て、立ち去ろうとしたんだ。


 だが、その召愛の背中へ、おっさんが食って掛かった。

「おい、てめえ。何様のつもりなんだ」

「あなた方こそ、何様のつもりなのだ。

 だいたい、このような取材の許可を、取ってあるのか?」

「許可?」

「ふはっ、ははは!」

 おっさん、笑い出したよ。

 おかしくて仕方ないみたいに激しくだ。

「昨日、てめえらの学校側から、うちに頭下げて、頼みに来たんだよ。

 取材してくれってな。

 現地側の許可も取ってあると言っていたぞ?」    

「なんだと……。

 いったい、誰だ、そんな馬鹿な依頼をしたのは」

「理事長だよ。あの生意気なチビスケだ。

 自分たちの活動を、もっと知って貰いたいとだよ。

 善人ぶってるが、ただのアピールしたがりの、ええかっこしいじゃないか。


 てめえら全員、偽善者だ!」

「彩、が……?

 この者たちへ、頼み込んだ……」

 召愛の顔色が変わった。

 一秒ごとに悲観に暮れていくのがわかった。

「…………………」
「…………………………………………」
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………………………」

「何をしてるの召愛!」

 羽里が息を切らして駆け寄ってきた。

 騒ぎを聞きつけたのだろう。


 召愛と羽里、真っ正面から、向き合った。

「……」
「……」

 二人の間には、激しくなってきた雨が打ち付けていた。

 雷鳴が、遠くから、響いてきている。

「彩。一つだけ、答えてくれないか」

「なに?」

「もし、私が生徒会長に成ったとして、このような行事について、意見を聞いて貰えるようになるのだろうか」

「――!」

「彩、教えてくれ。君は監督者だ。

 質問に答える義務がある」

「なにを、あなたは、言い出すの……」

「お願いだ」

「…………」

「………………」

「……………………」

「生徒会長の権限について――


 ――生徒会長は、校則の定める範囲において、学校生活・行事等の運営を統括して行う。また、生徒会長令を発令する事ができ、これは校則と同等の効力を持つ」

 アメリカ大統領みたいなものだ。

 行政の長でありながら、立法権も持つ。

 今回のようなボランティアに、テレビの取材を呼ぶかどうかを決めることも、出来るってことだ。

「ありがとう、彩。

 生徒会長に成れば、新しい校則を作って、現在の校則を刷新したりもできるのだな?」

「そうです。ただし、立法権は同時に、生徒会役員会も有しているから、やりたい放題はできません」

「それだけ聞ければ十分だ。私は――決意した」

「……」

 羽里は歯を噛みしめていた。

 今にも泣き出しそうにも見えたし、すでに泣いているように見えた。

 雨のせいで、わからなかった。 


 召愛はそんな羽里へ背を向け、歩き出したよ。

「召愛!」

 ほとんど泣き声な羽里の絶叫。

「彩、今は私は、人々へ尽くしたい。

 話しは、帰ってからにしよう」

 召愛は、羽里から遠ざかって行こうとしている。

「召愛……!」

 雷鳴はさらに激しくなってきている。

 羽里の声はかき消されてしまった。

 雨は大粒、冷たい風が、吹き抜けていった。

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