リバイアさんとネフシュたん ~へブル人への手紙を護る者~

レギオン伝習訓練

エピソードの総文字数=4,354文字

「今日は、随伴機動歩兵の扱い方について説明します」
「見かけからして頼もしそうな連中だな。SF映画に出てくるマシンみたいだ。ちょっと頭が丸すぎる感じがするがな」
「彼らは通称レギオンと言います」
「彼らの名前も聖書にちなんでいるのか?」
「新約聖書には、悪霊に取りつかれた人物の名前として出てきますが、そのレギオンにはちなんでいません。レギオンとは古代ローマ帝国の軍隊のことですが、それが名前の由来になっています(ネット調べ)」
「勇ましい由来だな」
「レギオン一体だけで古代ローマ兵千人分以上の戦力があります」
「なるほど、期待できそうだ。それで命令や制御の方法はどうするんだ?」
「レギオンには二種類の方法によって命令と制御が可能です。まず一つ目は、一般的な対人命令のように自然会話形式による制御です。
準人格回路が搭載されており、人間が使う自然言語でやり取りできるだけなく、表情や場の空気を読んだりできます。よって、ある程度訓練すれば人間とコミュニケーションするように振る舞うだけで命令できます」
「つまり、人格や感情をもった優秀な部下のようなものだな」
「おっしゃるとおりです。もう一つは、従来形式によるプログラム命令による制御です」
「ふむ、なるほど。それなら自然会話形式の方はやめておこうと思う」
「なぜですか?」
「酷な命令を出せなくなるからな」
「と言いますのは?」
「戦闘となったら、レギオンのどれかを囮にしたり犠牲にしたりしなければならない状況が出てくるかもしれない。そういう時、情が移ってしまっていたりすると道具として使えなくなってしまうからな」
「とは言え、プログラム形式で指令を出すにはコーディングの専門知識が必要になりますし、実行時にラグが生じます。これでは臨機応変が必要とされる戦闘ミッションでは実用的ではありません」
「そうか……それならやむを得ないな」
「所詮は機械ですから、気になさらないでください」
「お前さんの口からそういう発言があるとはな」
「私もいざというときの覚悟はしています」
 ボーはネフシュの言葉を聞き、むしろ人工知能やAIだとかの方が人間以上に人間らしさを感じた。
 もちろん、それは錯覚のたぐいだろう。だが、ボー自身のこれまでの体験の中で人間が人間らしいことを言ったことがどれだけあっただろうかを考えてみたとき、ボーの中で複雑な思いが巡ったのだった。

「それではご主人様、命令をお願いします」
「よし、全員集合して一列横隊に整列しろ」
ボーは、腹の底から精一杯大声を出して号令をかけた。
こんなに大声を出したのは、小学校の組体操以来だ。
多少気恥ずかしくもあったが、周りには人間は誰もない。気兼ねなどする必要は全くなかった。
 ネフシュが、早朝からすでに起動状態にしていたため、ボーの号令ですぐにレギオンが、カーゴから、わらわらと集合してきた。
 高性能モーターやアクチュエータを複雑に組み合わせて稼働するレギオンは、構造部材の中にワイヤーやチューブが仕込まれているために、その外観からは想像できないほどに静かな駆動音で軽快に動作した。

「これはすごいな。昔ながらのガッチャンガッチャンしたロボットのイメージじゃないな」
「動くたびに音が出るほうが本来不自然ですから」
「確かにな、筋肉や骨が曲がったりする度に音がする猫とか犬は見たことない」
「隠密行動にも使えるくらいの静音性能があります」

「期待できる高性能だが、どれも同じ面構えだから区別がつかないな」
「番号がボディの上部にステンシルされているのでそれで区別してください」
「なるほど、番号が振られているな。時間があったら後でペイントしておくか。中距離からでも視認できるように」

「ではご主人様、この指示書に従って彼らを指導訓練してください」
「基本命令マニュアルその1、分隊隊長を決めること。リーダーってことか」
「そのとおりです」
「よし、君らの中でリーダーを決めてくれ」
「わかりマシタ」

合成音によるいかにもマシンらしいドライで平坦な返答があった。

「ところでネフシュたん。もしかして彼らも何十万種類ものパターンで声色変更できる仕様になってんのか?」
「戦闘用なのでさすがにそこまでの数はありませんが、声色で識別したり、状況に応じて聞き取りやすくするなどの措置として、ある程度の変更設定はできるようになっています」

二人が話していると突然、レギオンからの返答があった。
「では、貴方を指名シマス。我々のリーダーになってクダサイ」
レギオンは全員ボーを指さした。
「おいおい、僕を指名すんなよな。君らの中から決めろって言ってんの」

「そういうことデスカ。それならそうと言ってクダサイ」
「ほんとに大丈夫か、こいつら」
「まだ初段ですから。徐々に理解していきますからご心配なく」

レギオンは集まって何やら相談をはじめた。
「リーダーを決める方法を話しているようですね」
「僕んとこのクラス委員はくじ引きで決めてたが、せめて人間より賢い方法で決めてもらいたいもんだ」
「決まりマシタ」
「おい、早いな」
「製造年月日順デス」
「もっとましな方法ないのかよ」
「デモこれが確実な方法デスシ、そもそもヒトも同じ方法を採用していマスヨ」
「……まあ、確かに年齢順とか年功序列てのはあるがな。じゃあ一番上と下ではどのくらいの差があるんだ」
「2時間くらいデス。同じ生産ラインでしたカラ。ロットとしては皆同じデス」
「お前らなぁ、人工知能らしく、もう少し賢くて合理的な方法で決められないのか」
「例えバ?」
「ミッションデータを比較して一番スコアが高いやつとか被弾率が少ないやつとか、つまり戦うのが上手なやつだよ」
「我々は今回のミッションが初めてナノデ参照履歴データがありマセン」
「く……こいつら全員新兵かよ……なんだか不安になってきたな」
「それなラバ、リーダーの条件を提示してくダサイ。その条件を基に目的関数を再定義シマス」
「リーダーの条件か。いきなり難しい質問をぶつけてきたな」
「ご主人様、彼らはまだ同一個体も同然です。時間はまだあります。とりあえず訓練させてその間に適性をみてご主人様がお決めになったらいかがでしょう」
「ワレワレもその案がよいと思ってイマス」
「だが君らは人工知能搭載型なんだろう?それなら実戦経験豊富な別機種から学習データを転送できないのか?」
「残念ながらそれはできそうでできないノデス」
「どういうことだ。学習結果を人間のようにいちいち教授しなくていいのが人工知能のメリットだったんじゃないのか」
「情報分析のような処理を行う非駆動型人工知能についてはそのとおりデス。しかしワレワレのような多くの機械駆動部品で作られた機動AIは、いくら精密に作られているといっても個体差は必ずアリマス。
そのため、最終的には駆動性能を極限まで高めるため個体特有の行動プログラムに最適化されなければなりマセン。特に戦闘用はそのような仕様になってイマス。
移動や射撃などの基本行動はモジュール化された共通プログラムで動けマスガ、戦闘行動は複雑で、状況が常に変化シマス。
臨機応変に対処するためニハ、ミッションごとの作戦行動についてそれぞれに実地トレーニングが必要デス」

「まるで人間だな」
「そういうことデス。ヒトと同じようにやはり訓練や教育は必要なのデス」
「分かった。では、僕がとりあえず仮リーダーになる。これからの訓練行動を通してそこからリーダーの定義を経験から導き出すんだ。わかったか?」
「了解しマシタ」
「よし今日はとりあえずこれくらいにしよう。バッテリーパックは取り外して、自分でチャージャーにセットしろ」
「バッテリーパックを外したら動けなくなりマスガ」
「外した後は内部予備電池が数分間作動する。その間に各自のメンテナンスドックに入るんだ。ドッグに入ったら起動用ケーブルをつなげてから、シャットダウンしろよ。でないと緊急時に動けなくなるぞ」
「了解しマシタ」
「ふう、こんな基本からいちいち命令しないといけないんだな」
「そういうものです。私も最初はそういう感じでした」
「なんか余計な仕事が増えた気がするな。機械相手といってもコミュニケーションは基本疲れるわ」
「鍛えれば頼もしい相手になりますよ。それに彼らの支援がないとこのミッションは達成不可能です」
「それはそうだがな……」
ボーはギデオンの行進を期待と不安を込めて眺めていた。

早速ボーとレギオンは翌日から更なる基本訓練を開始した。
「今日はコープの訓練を行う」
「こーぷ?」
「オンラインゲームでの用語だがCo-oPと言って、協力プレイのことだ。
「英語のcooperativeの意味デスカ」
「よく知ってるな、その通りだ」
「最初から一つ一つ教えていくのは大変ですね。ご主人様」
「まるで、幕府陸軍の伝習隊みたいなもんだな」
「バクフって?デンシュウタイって何デスカ?」
「知らなきゃ、調べろよ……ってここはネット繋がらないか」
「それってまずいんデスカ?」
「それがだな、食べると意外においしんだ。いいか、もうそれ以上聞くな」

一行は見晴らしのよい平地を選んで、そこへカーゴで移動した。
「全員、降車!」
ボーの号令でレギオンは、一斉に行動準備に入った。
「射撃訓練を行うまえに、まずは基本となる交互躍進の訓練だ。二人一組になり、三組を編成するんだ。そのうち一組は敵役となって、丘の向こうから、仮想弾で射撃しろ。
二組は攻撃をかわしながら、片方が反撃し、片方が前進、これを交互に繰り返し、敵の防御範囲の中に入るんだ。分かったか?」
「分かりマシタ!」

※ ※ ※
「今、どんな感じかしら」
リヴァイアは、いつものオリーブ茶を味わいながらホロビジョンモニタを横目で眺め続けるリヴィアに追加の確認をした。
「レギオン相手にブートキャンプやっているようでつ」
「なかなか仕事に忠実ね。すぐに意欲が減退せずとりあえず試みてみるってところはクリアしている感じかしら」
「継続的意思活動は順調です。バイタルシグナルも今のところは安定していまつ。エンハンサーの効果であると思われまつ」
「まあ、学校の勉強面でもこんな感じで発揮できれば留年しなかったでしょうに」
「留年の原因は能力的なものより、きっと心因的なことでつね
「どこまでやれるかみものだわね。彼は人間にしかできないことを果たして見つけられるかしら」
リバイアは、そのまま振り向いて部室を後にした。どこかへと出かけるように……。

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