変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第20話「忍軍は危険な集団なんだ。ヤツらは未だに戦国時代を生きてるからな」

エピソードの総文字数=5,569文字

 その後、他の世界の話を聞いた。
 【第一世界】は、やはり"剣と魔法のファンタジー世界"で、【第三世界】は、昨日テレビを見て思った通りに自分たちのいるこの世界を指すらしい。
 そして、昨日のテレビで一度も話題に出なかった【第二世界】はアルタソの父の故郷でもある【魔界】なのだそうだ。
 ただし、第二世界(魔界)は既に滅びた世界らしい。
(だから、あまり話題に上らないんだな……)
「まぁ、何はともあれ、まずは市役所ね」
『ああ、一刻も早く市役所に行って相談することをお勧めするんだ』
 異世界の説明が一通り終わると、一人+一匹はまた市役所行きを勧めてきた。
(うーん……市役所かぁ……)
 篤志の感覚としては、市役所にはあまり頼りになる印象がない。
 犯罪が絡んでいるであろう自身の現状を明かして相談を持ち掛けるなら、やはり警察という組織が妥当のように思える。
「本土だと、困ったことがあると警察に相談するのが基本なんだけど……ここでは市役所の方が頼りになるの?」
『Yes,警察は幕府寄りの組織なんだ』
「…………」
 篤志の中で、警察を頼る気が一瞬で失せた。
「そうねぇ……この辺りだと、みんな困ったことがあった時に相談するのは、大抵が市役所か【古清水(こしみず)家】ね」
「? 古清水家?」
『Yes,この町には【羽音神自警団】という組織があってな、そこに属する五つの団体を【五家】と呼んでいるんだ』
 先程、由美子が地面に描いた簡易地図。
 うさぎがそれをクイッと顎で示す。
『幕府を立ち上げてすぐ、当時の殿は島内の四つの名家を【羽音神自警団】に任命したんだ』
「…………」
『同時にその四家には、島の東西南北にそれぞれの領地も与えられた』
 北の領地を与えられたのは【羽音神神社】の神主の一族。
 南の領地を与えられたのは【羽音神道場】の師範の一族。
 西の領地を与えられたのは【羽音神僧院】の住職の一族。
 東の領地を与えられたのは【羽音神忍軍】の頭領の一族。
『四百年が経つ今でも、この島の北区・南区・西区・東区は、それぞれの四家の影響下にあるんだぞ』
「へぇ……」
『四家の連中は自警団に任命されたことを名誉とし、ずっと幕府に付き従って町の治安を守ってきた』
「…………」
『でも、幕府の腐敗によって、一部の四家の心は徐々に幕府から離れていったんだ』
「…………」
『ちゃんと仕事をする四家は民衆から強く支持されていた。そんな四家の心が自分から離れるということは、民衆の心もより一層自分から離れるということ――』
「…………」
『焦った幕府は、自分の腹心の部下を羽音神自警団に追加して「四家」を「五家」にしたんだ。こうして自分の影響力の低下をカバーしようとしたんだぞ』
「うわぁ~……」
(すげー腐りっぷりだな、幕府……)
 何が問題なのかを理解しないまま、場当たり的な処置をする――
 一時的に良い結果は出るものの、長い目で見たらむしろ事態を悪化させる……典型的な悪手である。
『そして、その最後に追加されたヤツの率いる組織が【羽音神警察】なんだ』
「なるほど……」
(つまり、警察には絶対に頼らない方がいいってことだな……)
『西の【羽音神僧院】の住職一族は【古清水家】といってな、幕府寄りでも市議会寄りでもなく、些細な相談事にも真剣に向き合うから市民に人気があるんだ。西区は他の区に比べて住宅が多いんだが、それも古清水家のおかげで暮らしやすいからなんだぞ』
「…………」
(僧院……)
(つまり、寺だよな?)
 確かに、寺院には親切に人の相談に乗ってくれそうなイメージがある。
 羽音神教(カルト宗教)のせいで、宗教全般に対して忌避感を持つ篤志でさえ受け入れられるほどに仏教の心証は高徳である。
(いいかもしれない……)
(オレも一度相談してみようかな?)
『北の【羽音神神社】は五家筆頭と云われているが、バリバリの拝金主義者なんだ。何でもかんでも金を取るからあまり相談を持ち掛けるヤツはいないんだぞ』
「神社なのに拝金主義者なのかよ……」
『ああ、とにかく金の匂いに敏感でな、真っ先に幕府を見限って市長側についたのもこいつらなんだ。今では異世界交易でウハウハなんだぞ』
「北区の【羽音神ビジネスパーク】は市内最大のビジネス街なの。北区にはお金持ちがいっぱい住んでるのよ」
「へぇ……」
 北区に高級住宅街があることは、挨拶回りをしたので知っている。
(ビジネスパークって、たぶんアレだよな……)
(マンハッタンみたいなビル群……)
(ていうか、その神社……)

(話聞いてる限り、ろくなとこじゃなさそうなんだけど……)

(それが市長側ってことは……)

(もしかして、市長側は市長側で結構微妙だったりするんじゃね……???)

『南の【羽音神道場】は今でも殿に忠誠を誓っている筋金入りの幕府派なんだ。だからおまえはあまり南区には近付かない方がいいな』
「…………」
「南区には繁華街があるのよ。遊びに行けないのは残念ね」
『そうだな、本土人なら南区が一番楽しめるだろうにな。南区には港があって、本土文化にかぶれた施設が色々あるんだぞ』
「南区には遊び場が多いの。【羽音神ランド】って遊園地もあるし、水族館も動物園もあるわ」
「へぇ……」
(繁華街には興味あるけど、身の安全が優先だよな……)
(南区には近寄らないようにしよう……)
『でもまぁ、一番ヤバいのは東の【羽音神忍軍】だな』
「? つうか、忍軍って――忍者?」
『Yes,忍者だぞ』
「…………」
(ここにはまだ忍者がいるのか……)
 まぁ、未だに幕府があるくらいだ。
 忍者がいるくらい、今更驚くようなことではない。
『羽音神忍軍は、この羽音神市最大の武装集団なんだ。島の東端にある【忍びの里】には二十五万人を超える忍びが暮らしているというぞ』
「に、二十五万人!?」
(えっ!?)
(確か、昔、伊賀の国にいた忍びが総勢一万とか……それくらいじゃなかったか???)
『とにかく人数が多いから、忍軍内には幕府派も市長派もいるんだが――どちらにしても忍軍は危険な集団なんだ。ヤツらは未だに戦国時代を生きてるからな』
「戦国時代……」
『忍軍も自警団の一員だから、善良な市民や友好界の第一世界人や第四世界人に危害を加えることはないんだ。でも、おまえは本土人だからなぁ……』
「ほ、本土人だとどうなるの!?」
『そうだな、もしゴミのポイ捨てでもしようものなら、その場で殺されるだろうな』
「――!?!? ポイ捨てで!?」
「あー忍軍ならやりかねないわねー」
「――!?」
 さっきの幕府の話もそうだが……
 篤志はこのファンタジック・アイランドにおける本土人の人権の軽さを痛感した。
「…………」
(マジかよ……)
(ヤバすぎだろ、ここ……)
 両親が何かにつけ、日本のことを「人権の守られない国」とこき下ろしていたことを思い出す。
(明らかに、この『聖地』の方が人権が守られてねーよ……)
(たかがポイ捨てで問答無用に殺されるとか……)
「まぁ、悪いことをしなかったら大丈夫よ。さすがの忍軍だって意味もなく殺したりはしないはずだから」
「あ、ああ……」
(『悪いこと』……)
(背乗りは『悪いこと』だよな、間違いなく……)
『何にせよ、早めに市役所に行くんだ』
「そうね、今日の営業はもう終わっちゃってるから――明日ね」
『明日・明後日は土日なんだぞ』
「あ、そっか、じゃあ月曜ね」
「…………」
 どうやら、このファンタジック・アイランドにおいても土日は市役所が休みらしい。
「ねぇ、マサオ、あんた月曜までどうする? 行く場所とかないでしょ? うち来る?」
「えっ?」
「あたしんち、この近くなのよ。とりあえず月曜日までうちで泊まればいいと思うの」
 見るからにお人好しそうな少女だが、本当にバカが付くほどお人好しらしい。
 初対面の人間に対して、まるで警戒する様子が見えない。
「あ、いや、でも、迷惑だし……」
「いいのよ、気にしなくて。友達じゃん?」
「…………」
(おいおい、もう友達かよ……)
(オレら、ついさっき会ったばかりじゃねーか……)
 当たり前のようにさらりとそう言った由美子を見て……
 篤志は由美子の人となりについて思量する。
(すっげー陽キャ……)
(こいつ、きっと学校じゃ人気あるんだろうな……)
 篤志と違って、他人との距離間を理屈でなく感覚で測るタイプだ。
 小難しいことをゴチャゴチャ考えない分、余裕があって、レスポンスが早い。
 往々にして、そういう安定感は人を惹きつけるものだ。
(あと、何がいいって――)
(ヘンな色気がないのがいいんだよな……)
 男からしたら付き合いやすく、女からしたら鼻につかないタイプ。
 容姿的にも程よいレベルで「可愛いからって調子乗り過ぎ」とも「ブスのくせに調子乗り過ぎ」とも言われないくらいの適度な中途半端さがある。
 篤志個人としても、こういう気安い女は遠慮が要らないので好きだ。
「じゃ、そろそろ暗くなってきたし、行きましょ?」
 由美子が勢いよく立ち上がった。
 彼女の中で、篤志が一緒に来ることは既に確定しているらしい。
「あ、いや……」
 篤志は考える。
 もし、このまま彼女たちと一緒に行き、背乗りのことをひた隠しにして、"異世界転移でこっちに飛ばされたフリ"をし通したなら……
 身の安全は確保出来るかもしれない。
(ここでは本土人の人権が軽く扱われてる……)
(でも、同時に学校で「転移者には親切にしましょう」って教えてるんだよな……)
 本土人には冷たいが、転移者には配慮がある――
 このファンタジック・アイランドには、そういう気風があるのかもしれない。
(つうか、「せめてそうであって欲しい」と思うだけなんだけどさ……)
 篤志は、漠然と考えていた。


 背乗りはとても悪いこと――

 だが、それによって与えられる罰は、せいぜい罰金や禁固刑、強制送還止まりだろうと。


 何せ、仮に『タツミ一家』が殺されていたとしても、篤志自身が手を下したわけではない。
 全てが明るみになったとしても罰せられるのは両親であり、未成年である上、ただ巻き込まれただけの自分にはそれほど大きな咎は回ってこないだろうと――どこかで高を括っていた。

(でも、それって平和ボケというか……)

(どこかで深刻に考えないようにって、逃げてただけなんだよな……)

 この地においては、本土人の人権は非常に軽いのだという。
 由美子やうさぎの言うことが本当なら、真面目に命の危険がある。

(そりゃ、もちろん……)

(こいつらが大げさに言っているだけってこともあるかもだけど……)

 でも、実際にここが見知らぬ土地である以上、自分の常識に則るよりは、彼らの言葉を信じて身構えておいた方が賢明だ。

 最悪のケースを想定し、都合の悪いことから逃げずに、これからの身の振り方を真剣に考える必要がある。

(…………)
(オレは――どうすべきだ……?)
 当初の予定通り、必要な情報を得た今、彼女たちとはすっぱり別れるべきだろうか?
 それとも、彼女たちの厚意に乗って、今度こそ完全に両親を見切るべきだろうか?
(…………)
 非常に大きな選択を迫られている。
 簡単には選べない。
(…………)
 素直な気持ちとしては……

 このまま彼女たちを頼り、彼女たちのところに行ってしまいたい。

 両親のどうにもならなさは身に沁みているし、あのタツミ一家の豪邸はいるだけで怖い。
 また、時間にして一時間足らずの談話だったが、特にこの竹沢由美子という少女の人の良さは充分に伝わってきた。

 暇さえあれば人間観察ばかりしている篤志は、自分の人を見る目には少しばかり自信があるのだ。

(この女は、信用していい類の人間だと――思う……)
(それに、うさぎの方は頭が良さそうだし、色々教えてくれそうだ……)
 しかし、そうなると別のことも考えてしまう。
(ただ、このまま一緒に行けば、こいつらに迷惑が掛かっちまうよな……)
 それは本意ではない。

 恩を仇で返すようなことはしたくない。

「? 来ないの?」
 選びきれず……
 はっきり「YES」と言わない篤志に、由美子が不思議そうな目で問い掛けてくる。
「いや、その……オレ、まだちょっとしなきゃいけないことがあって……」
「しなきゃいけないことって?」
「あー……実はオレ、妹と一緒に転移してきたんだ」
「えっ!? そうなの!?」
「目が覚めた場所で妹を待たせてるんだよ。だから、戻らなきゃならないんだ」
「ああ、そうなのね、じゃあ早く迎えに行ってあげなきゃ! あんたが目を覚ました場所ってどこ?」
 由美子はそこまでついてくる気でいるようだ。
 どこまでもお人好しな女である。
「いや、いいんだ、オレが迎えに行くから」
 タツミ一家の豪邸を彼女に見せるわけにはいかない。
「そう? じゃあ、あたしここで待ってるわ」
「いや、それは……」
 彼女たちと完全に縁を切ってしまうのが惜しくて、思い付きで妹のことを言ったわけだが……

 よくよく考えてみればやはり妹は放っておけない。
 頭が悪くてウザいが、教団の教えに染まっていない妹だ。
 元より家を出て見切るつもりだった両親のことはどうでもいいが、妹を見捨てることは出来ない。

「その、いつ戻って来れるかも分からないし……」
 仮に、妹と一緒に彼女たちを頼ると決めたとして――
 タツミ一家の豪邸に妹を迎えに行き、ここに戻ってくるとなるとそれなりに時間が掛かる。
 会館に連れて行かれた妹がまだ戻っていない可能性もあるし、すぐに家を出られるとは限らない。
 また、荷物も最低必要限は持ち出したいし、親をうまく撒けるかどうかも時の運だ。
「そうなの? じゃあ、これ」
 由美子がショートパンツの後ろポケットから財布を取り出し、中から抜き取ったカードを差し出してくる。
「……これは?」
「あたしの名刺よ。電話番号と住所が書いてあるわ」

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