超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

羽里彩は言った。「羽里学園は完璧な学校であり、幸せは生徒として当然の義務です」②

エピソードの総文字数=2,823文字

 三十分後。その寮とやらの前に行ってみた。


 そこはやたらと広い学園敷地の一番端っこ。

 校舎からは雑木林で見えない位置にあるでっかい一軒家のようなもの、だった。


 で。

 近くに大型のヘリコプターが駐機してあり、それが運んで来たのであろう家具や、荷物を、運送業者のお兄さんたちが、運び込んでいる。

「あ、あれは私のクッション」

 召愛が指をさしたそのウサギ型のフワフワなクッションは、あっという間に寮に運び込まれてしまった。


 よく見れば、俺のステレオらしき物も、運ばれていくのが見える。

 もちろん、自宅に置いてあるはずの物だ。

「いったい、何が起こってるんだ」

 作業の邪魔にならないように注意しながら、寮の中へと入ったよ。

 玄関や廊下が広々していて、エレベーターがあること以外は、一般的な二階建ての住居とそう変わらないように見える。


 そしてフローリングの居間に、行ってみたら――居たのだ。

「業者の方、その小型冷蔵庫は二回の給湯室へ運んでください――」

 羽里がいた。

 搬入作業の指示をテキパキと、業者さんたちへ、しているとこだった。

「お、おい羽里。どうなってんだ?」

「どう、とは?」

「決まってるじゃないか。

 私の部屋にあったはずの荷物が、運び込まれてる」

「心配しないで、入寮費用は学園側が負担することになっています。

 あなたたちの保護者にも、事情を説明した上で、承諾を受けてる」

「そうじゃない。俺が言いたいのは、寮ってなんだってことだ」

「意味がわかりません。それは哲学的な質問なのですか?」

「なんで俺たちはここに呼ばれて、俺たちの荷物がここに運び込まれてるのか、その理由が知りたい」

「あなたがさっき、要被重監督者の申請をしたからでしょう」

「待て、寮に入りたいなんて、俺たちは申請した覚えは――」

「あなたたち、まさか……。


 申請書の詳細、ちゃんと読まなかったのでは?」


      ギクッ!


      ギクッ!

「そ、それは、読まないとダメな物だったのだろうか」

「当然でしょう、これを見なさい」

 羽里さん、怖い顔で申請書を広げて見せました。そして、指さしたんです。

 それは。


『要被重監督者は専用の寮へ入寮する

    

 バッチリ書いてあったぁあ!

「待って、待ってくれ。

 規則正しい集団生活とか、俺はノーサンキューだ。

 夜中に大音量でゲームやったりしたいし、風呂や便所も他人に気を遣ったりしたくない」

「……」

 すると羽里さん、別の条項を指さしました。


『入寮費用は学園側が負担する。だが一方的な理由で、中途キャンセルした場合は、それら費用を返済すること』

「ちなみに今回掛かった費用はこの通りです」

 ペラリと、伝票を渡されたが、日常生活じゃお目にかかれない桁の数字が並んでらっしゃる!


 契約書よく読まずに、ヘリ使った引っ越しちゃった費用の返済とか、親に頼めるわけねぇ! 


 諦めろ。受け入れるしかない。


「私はここが気に入った」

 なんつって召愛は居間の大画面テレビを付けたり、キッチンに行って浄水器の水を飲んでみたり、冷蔵庫を開けてみたりと、大はしゃぎ。

「ただでこんな高級ペンションみたいな所に泊まれるなら、最高だと思わないか?」

「ま、まあ……。通学も徒歩三分で、楽ではあるが……」

「じゃあ、これを――」

 と、羽里から渡されたのは寮のパンフレットっぽいものだ。

「留意事項を説明しておきます。

 この寮は、要被重監督者と、その監督者が共同で生活します。

 密着型の指導で、確実に卒業させることを目的としているからです」

(教師と共同生活か……。やっぱ気が進まないな)

「天井を見てください」 

 俺たちは真新しい白い壁紙の天井を見上げたよ。

 照明の他に、お椀を逆さまにしたような機械装置が見える。

「あれは防犯カメラで、共有スペースには全てあると思ってください。

 ない場所は、私室、トイレ、風呂だけです」

(これだ……。

 これだから集団生活なんてのは嫌いだ。窮屈すぎる)

「なお、防犯カメラのない場所、私室、トイレ、風呂には、二名以上が同時に入ると、自動で警報が鳴り、警備員が駆けつけます。


 僚友と共に勉強するなどの場合は、私室ではなく書斎などを利用するように。ここまでで、質問は?」

 召愛が手を挙げた。

「ここに、トランプとプーチンと習近平と、金正恩を呼んでも良いだろうか?」

(お前……まだそれ言ってるのな)

「客を呼ぶ場合には、必ず警備室に連絡してからにしてください。

 登録されてない人間が入れば、警報が鳴ります」

「わかった」

 すげえ、羽里。

 召愛の斜め上質問に、ごく普通に答えやがった。

 召愛と年単位で付き合うと、このくらいのスルースキルが身につくのか……。

「あ、俺からも質問。

 飯はどうりゃいいんだ。自炊か?」

「朝と夜だけ、学食が届けられます。

 ただし休校日は、提携している総菜店に手配をしてあります」

「オーケー。なら、最後の質問だ。

 一緒に住むのは、どんな先生なんだ?」

「何を言ってるのコッペ君。わたしですよ?」

「は?」

「あなたたちの監督者は、目の前にいる職員だと、言いました」

 マジかよ。

「彩……!」

 召愛がたぶん感激のあまりだと思うが、なんか変に裏返った声で呼んだよ。

彩ー……!

 両腕を広げた召愛が、今にも飛びついて、抱きしめちゃいそうなポーズで、羽里へにじり寄り、結局、一気に――。


     ――ギューッ

 と、抱きしめた。
「……」
「……………」
「…………………………」

 羽里は、逃げるそぶりも、抵抗するそぶりもなく、されるがままに、抱きしめられたよ。

 

 その表情はとても複雑そうで、素直に喜びたいけど、それもできない、みたいな感じに見えた。

「私は嬉しい……」

 ほとんど泣き声で召愛は言った。

「わたしも――」

 とだけ言ったけど、その後の言葉は、聞こえなかった。

 そこまでしか言葉を紡げなかったのかも知れない。

 羽里が心を完全に開くには、まだ時間が必要そうだった。

「じゃ、俺は昼寝でもしてくる」

 こいつら二人きりでしか素直に話せない事もいっぱいあるだろうし、邪魔するもんじゃない。


 さっさと居間から退散したよ。

 パンフレットによると私室は二階だ。


 俺が廊下を歩いて、階段上がっていく後ろから、召愛の感極まっちゃった泣き声が聞こえてきてたね。


 これでハッピーエンドなら申し分ないんだが、俺にはそうなるようには思えない。


 二人が側に居られるようになったとしても、対立点は解消されたわけじゃないからだ。むしろ、日常的に接するようになる分、衝突する可能性が増えてしまう。


 もしかしたら、決定的に二人の仲が裂かれてしまう事になるきっかけが、今日のこれで。全ての悲劇の始まりではないか。


 そんなネガティブな事を考えてしまうのは、きっと寝不足のせいだ。

 夕飯あたりまで、ぐっすり眠れば、きっとスッキリするさ。


 そう祈りながら、俺は自分のネームプレートの掛かった個室に入り、ベッドに身を投げ出した。


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